大日本帝国から日本国へ   作:紫雷電

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第十七話 纏弌華のとある一日①

1939年11月8日

エルと一緒に暮らすようになってから4ヶ月は経つでしょうか。エルのスキンシップ?が段々とエスカレートしてきています。最初は一緒のベッドで寝るだけだったのですが最近は私が入浴中に一緒に入るとか言い出してそのまま二人で入ることが多いです。浴槽が大きいため狭くなることは無いので別に良いのですが……。これが世間一般的に普通なのでしょうか?

 

 

11月9日

今日はエルと一緒に散歩に行く予定です。私は朝早く起きて朝食と昼食の両方を作っていました。エルは眠りが深く、朝が弱い人なので少しの振動や刺激では起きませんし私が起こさないと絶対に起きてきません。私は二人分の朝食をテーブルに置いてエルを起こしに行きました。

 

「エル、起きてください朝ですよ」

「ん……もうちょっと……」

「朝早くから行くって言ったのは貴女なんですよ。ほら、朝食も冷めてしまいますから」

 

私は窓を開けてエルの被っていた布団をおもいっきり引き剥しました。しかしエルは残ったタオルケットに隠れて一向に起きようとはしません。

 

「まったく、どうすれば起きてくれるんですか?」

 

エルは暫しの沈黙の後意味不明なことを呟きました。

 

「弌華のキスが欲しいなぁ。それくれたら起きてもいいよ」

 

キス……。あの魚の?鱚をする?意味が分かりませんね。それとも私の知らない言語でしょうか。それに起きてもいいよって……一緒に行きたいと言ったのは貴女じゃないですか……。しかし、キスなるものをしないと起きないのですから仕方ありませんね。

 

「分かりました。そのキスなるものをして差し上げましょう。したら絶対に起きてくださいね。しかし私はキスなるものがどういうものか知らないのでどうするか教えてください」

 

私がそう言うとエルはタオルケットから顔を出して素っ頓狂な顔をして私の方を見つめました。

 

「キス知らないの?」

「はい、でも魚の鱚は知ってますよ。あれは天ぷらにしたら美味しいですよ。後刺身も良いですね。それでキスって具体的にどうすればいいんですか?」

「ええと……キスっていうのは、その……唇と唇を……」

「はい、唇と唇をどうするんですか?」

「だから……その……あうっ……」

 

要領を得ない言葉を紡いだあとエルは自分の手で顔を覆い隠してしまいました。エルの顔はさっきまで白かったのに今ではトマトのように真っ赤になっていました。

 

「それで、唇と唇をどうするんですか?」

 

私がそう言いながらベッドの端っこに行ったエルに近付くとエルは変な声を上げてリビングの方へ行ってしまいました。なにはともあれ起きてくれて助かりました。朝食は少し冷めてしまいましたが美味しかったです。

 

 

歩き始めて4時間、時刻はもう午前11時になっていました。

 

「弌華、もうすぐだよ」

 

エルは一歩進む度に足早になっていきました。速く行きたいだろうに何故か私の右手を絶対に離そうとはしません。そのため私はエルに引っ張られる格好になっていました。私だって走ってあげたいですが左手に持つ籠の中の昼食を崩すわけにはいきません。

20分くらいそんな感じで坂を上ると急に開けた場所に出ました。

一面草原になっていて草が風に揺られて発せられる特有の音が心地よいです。

 

「ここが一緒に来たかった所ですか?」

「そうだよ。いい見晴らしでしょ?」

 

胸を張るエル。元々あった胸がさらに強調されています。余程ここがお気に入りなのでしょう。

 

「ここはね私が子供の時に見つけた秘密の場所なんだよ!」

「とてもいい見晴らしですね。こんなところ知ってるなんてエルは凄いですね」

 

頭を撫でるとエルは満足そうに顔をほころばせました。確かに普通の人は通らなそうな道を幾つか通りました。いつもエルが着ている服ならぼろぼろに破けていたでしょう。

 

「さて、お昼にしましょう」

 

私たちはレジャーシートを広げてそこに座りました。今日の昼食はサンドイッチです。飽きないように様々なジャンルの違う具にしました。

 

「ここはパパとよく遊んだところでもあるんだよ」

 

横を見るとエルは美味しそうに口一杯にサンドイッチを詰め込んでいました。気に入ってくれたようでよかったです。エルの父親、つまりアルベルト少将ですか。あの人と始めて会ったときは驚きました。

アルベルト少将と始めて出会ったのはポーランド侵攻の少し前に遡ります。

 

 

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