第十九話 フランス攻略作戦
玄界島帝機軍本部
23時、殆どの部屋の明かりが消えてるなか執務室がある場所から明かりが放たれていた。そこには楓伽と嘉章の二人だけがいた。扉には鍵が掛けられて窓はカーテンが掛けられている。
「司令、こんな夜中にどのようなご用向きで?」
「これから話すことは一切他言無用だよ。もし外部に漏れたら私たちの首が飛ぶからね」
嘉章は楓伽の有無を言わさない視線に気圧されて頷いた。
「……分かりました。一切他言いたしません」
「まずはこの書類に目を通して」
嘉章は渡された書類の束を一枚ずつ丁寧に咀嚼しながら捲っていく。
「―――成る程、ついに見当が付いたわけですね」
「そういうこと。帝国工業と帝機軍の動かせる最大限人員を使って来年までに必ず稼働できるようにするよ。明日、私含めて出発するから用意しておいてね」
「了解しました」
1940年5月9日ドイツ総統官邸
「さて、君たちには明日から始まる作戦に参加してもらうわけだが……君たちにはC軍集団と行動を共にしてもらいたい」
史実でのC軍集団は1939年8月26日にフランクフルトの第2軍集団から編成された第二次世界大戦のドイツ国防軍の軍集団のことである。当初はドイツの西方戦線の全軍を指揮していたが、ポーランド侵攻後は司令の範囲がフランス侵攻軍の南半分に削減され、1940年6月のマジノ線の正面からの攻撃を指揮した。フランス侵攻の後期にはドイツに戻され、1941年4月20日に東プロシアに展開された。1941年6月21日、北方軍集団に改名された。
1943年11月26日にルットバッフェの南方総司令部のスタッフから手を引き分割することで再編され、南西戦線とイタリア戦線に投入された。1945年5月2日、C軍集団は降伏した。
「ということは我々はマジノ要塞を攻略すれば良いわけですね?」
「B軍集団とA軍集団の動向を隠すためだから別に攻略する必要は無い。出来るのならばしても構わないがね」
「了解しました。必ずや任務を完遂してみせます」
「うむ、頼んだぞ」
三人は敬礼をして官邸執務室を後にした。三人が向かった駐車場には既に迎えの車が来ていた。
「ところで技術者の方々はどうしてます?」
「あいつらはドイツ人技術者と結託して謎の兵器を開発してたぞ。何でも浪漫兵器って銘打ってたな。どこの国も技術者は変態というわけだ」
忠一郎はやれやれといった感じでため息をついた。三人は迎えの車に乗り込んでU-1基地へ向かった。
1940年5月10日午前4時
この日、マジノ要塞は火の海に囲まれていた。C軍集団およびヴェーアヴォルフの軍勢が到着する前にドイツ軍がこの日のために開発した数々の列車砲を用いて遠距離から先制攻撃を仕掛けていた。
80センチという規格外の大きと7.1tという超重量を誇る砲弾は時速720㎞で目標めがけて飛翔し、マジノ要塞のコンクリート壁をいとも容易く破壊した。火山の噴火にも近い轟音が聞こえる度に要塞とその周辺には一つずつクレーターが増えていった。
「なるほど、奴らが必死こいてトンテンカンテンしてた物の正体はこれだったわけだ」
双眼鏡に映し出される光景に忠一郎はただ驚いていた。
「我々が着く頃に敵はまだ存在してるでしょうか?」
「見た限り表面を吹き飛ばしただけだから獲物に困ることはないと思うぞ。それにもう少しでこの砲撃も止む」
忠一郎の言った通り懐中時計の針が4時10分を指した途端に先程までの轟音はぴったりと止まった。
「よし、ここからは俺達の出番だ。総員、気ぃ引き締めろよ!」
その頃、ゲルト・フォン・ルントシュテット陸軍元帥率いるA軍集団はアルデンヌの森を突破中であった。彼らは所々でフランス軍と遭遇したもののごく小規模であったため、大した遅れも損害もなく順調に進んでいた。
「彼らの陽動が上手くいっていると良いがな……」
彼は腕時計を見た。針は午前6時30分を示していた。何も不測の事態が起きなければ既にC軍集団が戦闘に入っていると予想される時間帯だった。
「右前方、敵戦車発見。数1!」
「火力を集中せよ。一気に突破する!」
報告の通り進軍するA軍集団にルノーR35が迫ってきていた。隊列を組んでいたⅢ号戦車の主砲が目の前の敵に照準を合わせる。そして合図と共に眼前の敵めがけて一斉にL-M:60口径5 cm KwK 39が火を吹いた。言うまでもなくルノーR35は装甲を散らして動きを止めた。
敵の沈黙を確認したA軍集団は厳かに進軍を続けた。
マジノ要塞の周辺は空も陸も敵味方が入り乱れる激戦区となっていた。あちこちから砲弾が飛んできて味方の攻撃に倒れる者も少なくはなかった。その激戦区の最前線でヴェーアヴォルフは戦っていた。
ヴェーアヴォルフが使用しているME140は旋回性能に優れた戦闘機だ。空では優秀なパイロットがその性能を遺憾なく発揮し、D.520を屠っていった。そして戦闘機に護衛されたJu87が腹部に懸架した爆弾を投下していく。
「空も頑張ってくれてますね」
弌華はひとしきり周囲の敵兵を倒して空を見上げた。空は朝なのにも拘わらず戦闘機の塗装色によって黒みを帯びた水色だった。
「では姉上、要塞内に入るとしましょう」
「ん、分かった」
弌華と狂璃は空になった拳銃を捨て、腰に下げた軍刀を抜いて穴の空いた要塞に侵入した。
「吉田隊長、あの二人が侵入に成功したとのことです」
「よし、俺達も進むぞ。砲撃は止めるなよ」
E-40ジークティーガのエンジンが唸り声を強めて穴の空いた防衛網を突破し始めた。彼らの操るジークティーガは防御力と機動性の両立を主軸に開発が進められた。今、その圧倒的な防御力を持ってあらゆるものを弾き飛ばし、巨体に見合わぬ速度で近づくものを吹き飛ばして進んでいった。