1940年5月10日から始まったドイツ軍によるフランス侵攻は約一月の攻防の末、フランスの降伏とBEFの壊滅という結末により幕を閉じた。もっとも、アフリカの植民地に駐留するフランス軍は政府の意向を無視して徹底抗戦を唱っている。
イギリス首相ウィンストン・チャーチルは、フランス海軍の艦隊がドイツの手に下り、イギリスのシーレーンを脅かす存在になることを危惧した。そのためイギリス海軍はフランス艦隊がドイツに渡らないように、自軍の指揮下に入れるか、無力化するために作戦行動を起こした。
しかし、その作戦はドイツ海軍の奮闘により阻止された。イギリス海軍はたいした戦果を得られず、さらにイギリス海軍は大打撃を被りフランスとの関係が悪化した。
このイギリスの行動によってフランスはイギリスに対し報復攻撃を行おうとしたがドイツがイギリスと講話しようとしていたため実際に砲火が交わることはなかった。
この戦果をもってドイツ首脳部はイギリスとの終戦協定に乗り出した。アメリカの本格的な軍事支援が得られなかったイギリスは単独でドイツとの戦争継続は難しく、講話へと動き出した。
1940年7月4日、ドイツとイギリスの政府首脳がパリで会し終戦協定が締結された。
1940年7月7日
ドイツ首都ベルリンでは戦勝パレードが行われていた。音楽隊が行進曲を盛大に奏でながら一糸乱れぬ動きで先頭をきり、歩兵師団を筆頭に今次大戦において大きな役割を果たした機甲師団が続く。
空は空軍によるデモンストレーションが行われ、虹が描かれていた。
「お、あれがロンメル将軍か。なかなかに格好いい顔してるじゃないか。あれは若い娘にもてそうだな」
双眼鏡からは戦車から上半身を出しているロンメルが大衆に向かって笑顔で手を振っているのが見えた。
「我が軍の戦車とは大違いだ。あれじゃあ我々のは豆鉄砲かなんかだな……」
「技術力の差だな。だから俺たちがここに来たんだ。技術を根こそぎ盗む……それを達成して初めて我々は国に貢献することになる」
「……まぁそんな堅苦しいことは置いといて今は勝利を喜ぼうや」
1940年9月27日
Wehrwolfの隊員全てにU-1基地に集結するよう命令が下っていた。彼らは講堂に集まり呼び出した張本人を待った。イギリスと講話してから約二ヶ月、彼らはなぜ集められたのか理由が分からなかった。
暫くして講堂の扉が開いた。彼らに命令した張本人が到着した。
「ハイル・ヒトラー」
全員立ち上がりナチス式敬礼をとり、代表して忠一郎が敬意を述べた。ヒトラーは右手で制し着席を促す。全員が座ったところでヒトラーは話し始めた。
「今までよくやってくれた。ひとまずは私の目標を達成できた、ありがとう。いきなりで悪いが君たちにはイタリアの支援に行ってもらいたい」
「イタリアの支援……ですか?」
ヒトラーは首を小さく縦に振った。イタリアは先の戦いで疲弊したイギリスを見て、アフリカにあるイギリス領を奪おうと画策していた。イタリア軍は既に主力部隊をアフリカ大陸に輸送中で、イギリスとの戦争勃発は時間の問題だった。
「私としてもアフリカのイギリス領は目障りだったからな。彼らがやってくれるなら助かる」
「了解しました。同盟国のため一生懸命に頑張ります」
「うむ、よろしく頼んだぞ。では、私はこれから大事な会議があるので失礼するよ」
同日、日本の新聞は日獨伊三国同盟が締結されたことで一面が飾られていた。同盟締結と同時に日本はドイツに許可をとりインドシナに進駐した。この二つの出来事は日英米関係に決定的な亀裂を生じさせた。それは新たな戦いの狼煙でもあった
沖田楓伽は海軍軍令部に出向いていた。
「失礼します。沖田楓伽です」
「入りたまえ」
楓伽は扉を押した。部屋の中には軍令部長の永野修身がいた。
「忙しい時に呼び出してすまんな」
「いえ、本日はどのようなご用件で?」
「聡明な君に是非とも聞いてみたいことが有ってな。つい先ほど日本、ドイツ、イタリアの間で同盟が締結したのは知っているかな?」
「はい。街ではその話でいっぱいでした」
「現在、日本は岐路に立たされていると私は思っている」
「……岐路ですか?」
永野は首を縦に振った。
「君も知っているかもしれないが帝国の戦略は大別して南進論、北進論、西進論の三つに分かれている」
南進論とは日本が東南アジアなど南方に経済的,政治的,武力的進出を行うべきだという論で,朝鮮,満州方面に発展しようとする北進論と対立した。南進論の萌芽はすでに 1890年代からみられたが,明治・大正期の南進論は経済進出の側面に重点がおかれ,関心は軍事的側面に重点がおかれていた北進論よりは少なかったといえる。1940年にいたりヨーロッパ戦線でドイツが圧倒的勝利を収めると,石油,アルミニウム,ゴムなどを求めて,軍部では南進の主張が強まった。
北進論とは明治以降の日本による朝鮮,満州,シベリアなど大陸北方への進出論。日清戦争,日露戦争,日韓併合,シベリア出兵,満州事変などはその具体的現れであった。南進論が元来南方への経済的発展を目指したのに対し,北進論には武力による勢力拡大の傾向が強く,ロシアとの対抗を主眼とした。とりわけロシア革命以後は,共産主義が国体を脅かすとして陸軍を中心に対ソ主戦論が唱えられた。一方海軍はアメリカ,イギリスなどを仮想敵国に南進論を主張し,両者が対立していた。ノモンハンでの勝利、モンゴルを降伏させたことにより海軍内でも北進論を唱える者が増え始めた。陸軍では依然として北進論者が多い。
西進論とはドイツがイギリスと講話を結んでから唱え始められた論で、インド・東南アジアへ独立支援をしつつ、アジア全体から欧米の勢力を排除して中東・アフリカへと勢力を伸ばす内容だ。最終的にアジア全体の経済圏を確立することを目的としている。
「私はこのどれかの道を選ぶことによって日本がさらなる繁栄を享受する、もしくは破滅すると思う。君がこの三つのなかで一番勝機が高いと思うのはどれかな?」
楓伽はしばし時間をおいて口を開いた。
「……私は西進論が一番勝率が高いと思います。イギリスが弱体化したした今、アジアを一斉解放する絶好の機会と考えます。当然英米を刺激することになりますが東南アジアに武力侵攻してアメリカと全面戦争するよりはよっぽどマシでしょう」
「なるほど、君が私と同じ考えで良かった。海軍内でも意見が割れていてな、味方が少しでも多いと助かるよ」
「微力ながらお力添えは惜しまない所存です」
――――――――――――――――――――――――――
1940年10月4日
アメリカ合衆国ホワイトハウス
ホワイトハウスの大統領執務室にある大きいテレビは日獨伊三国同盟が締結されたことと日本がフランス領インドシナに進駐したことが映されていた
それを第32代アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルト、コーデル・ハル国務長官、ジョン・ナンス・ガーナー副大統領の三人が見ていた。
「大統領、日本は我々の要求を無視しましたね」
「日本の大使を呼び出せ。我々の要求を再度伝えろ」
1940年10月6日
アメリカのインドシナから撤兵する旨の要求に対して日本はフランスを占領中のドイツ政府に許可を取っているので合法的であると説明し、これを拒否した。アメリカは日本に侵略の野心有りとしてイギリス・オランダを巻き込み経済制裁を開始した。
1940年10月19日
大本営会議において今後の方針が話し合われた。現在日本は中国との戦争中である。当面は中国打倒に総力を挙げることで一致した。問題はその次である。
陸軍としてはソ連に侵攻し、今後のために目の上のたんこぶのソ連を撃破したい。一方海軍は圧力を掛けてくるアメリカとの決戦に備えるべき。と、会議は白熱していた。ただ、双方とも米英(特にアメリカ)の軍事的、経済的圧力に敏感で、だからこそ互いに譲れないものがあった。次第に陸軍は海軍の海軍は陸軍の悪口を言い合うようになっていた。
「双方とも落ち着け!陛下の御前であるぞ!」
双方の言い争いを黙って聞いていた陸軍元帥の畑俊六が声を荒げた。その気迫に一瞬にして場が静まった。
「私から提案がある。良いだろうか?」
海軍軍令部長の永野修身が手を上げた。
「私はソ連、アメリカ両国と戦争をするのは得策ではないと思う。一つに国力の差がある。アメリカは言わなくても分かると思うがソ連も広大な領土を活かして日々軍事力を強めていっている」
「だからこそ、差が開ききらないうちに手を打とうと言っているのだ!」
「では聞こう。三年掛けても中国を破れない君達陸軍が開戦即座にソ連を倒せるのか?彼らが中国みたいに遅滞戦術を使おうものなら一年二年で戦力差はひっくり返るぞ」
永野の反論に先程怒鳴った陸軍軍人は言葉を詰まらせた。
「永野さんの指摘はもっともだ。しかし、このままでは戦う以外に打開策が無くなるのもまた事実。永野さんは何か考えがおありで?」
「今の我々が求めているのは石油や鉱山資源であることは周知の事実だ。私は英米と直接砲火を交えないためには現地の人々による独立戦争の開始が最適だと思う」
「つまり現地人を日本で訓練させて武装蜂起させる。独立達成後は各国と経済協力を結ぶということですな?」
永野は静かに頷いた。
その後非公式ではあるが各植民地の独立運動家を極秘裏に日本に集め、会議を重ねて以下のことが決定された。
・現地人は南部インドシナで一旦集結し、日本本土への輸送は海軍が行う。
・現地人訓練は台湾、沖縄本島にて陸軍主導で行う。
・武装蜂起に使用される装備は日本の痕跡を徹底的に排除したものを使用する。
・万が一米英と戦争状態に陥ったとき日本軍と共に現地解放に協力する。米英と戦争中は各国は出来る限り日本に協力する。
・独立達成後は各国の主権を尊重する。
1940年10月22日 満州
「進捗はどうだい?」
「おおよそ六割ですね。どうやら地盤が思ったより固くて掘削に苦労しているんですよ」
「なるべく急ぎでお願いね。速くしないと取り返しのつかないことになるかもしれないから」
「了解です」