大日本帝国から日本国へ   作:紫雷電

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第六話 日蒙戦争②

シベリア鉄道に長年勤めている運転手のミハイルは昨日の夜からいやな予感がしていた。明日の出勤はしない方が良いと心の何処かで警鐘がなっていたが、生真面目な彼には休むという選択肢は無く、いつも通りの時間に起床し、朝食を食べて愛する妻と子供と抱擁を交わしてから職場へ向かった。

 

「お早うございますミハイルさん!今日もお早いですね」

 

職場に付くと整備士のセルゲイに声をかけられた。セルゲイは最近入ってきた新入りだが、明るい性格も相まってすぐに皆と打ち解けた。

 

「おう!お前も朝早く頑張るじゃねぇか」

 

ミハイルは彼に負けず劣らずの声量で返した。

 

「はい!今日は初めてこれに乗りますからね、つい楽しくなっちゃって」

 

セルゲイはコンコンと磨いていた先頭車両を叩きながら言った。

 

「整備しっかり頼んだぞ。なんか昨日から変な予感がするんだ」

 

ミハイルが急に真剣になったのでセルゲイも真剣な表情で「分かりました」と言って二人は一旦自分の仕事をするため別れた。

 

 

シベリア鉄道沿線上空

『α1からΔへ、敵哨戒機を発見。撃墜する』

『了解。早急に片を付けてね』

 

九九式戦闘機から放たれた7.7mm機関銃が火を吹く同時に目の前の敵機がパッと炎を出して、数秒後爆散した。

 

「もうそろそろ橋を通る頃だと思うんだけどな……あっ、来た!!」

 

トンネルから姿を出したのは武器弾薬を目一杯積んだ鉄道だった。

 

『α1リーダーから攻撃隊へ、目標が姿を表した。作戦を開始せよ』

『こちらα2、了解した』

 

その無線が流れると同時に九九式爆撃機のエンジンが唸りを上げ急降下を始めた。

 

 

 

ミハイルは運転している内に昨日からのいやな予感をすっかり忘れていた。今走っているのは自国の領土内。つまり、敵などいるはずがないのだ。

 

「ん?落石か……」

 

異常に気づいたミハイルはすぐに鉄道のスピードを落とした。ミハイルの目に写ったのは線路があるはずのところに沢山の岩の塊が積み重なっている光景だった。

 

「参ったな……」

 

ミハイルは後頭部を掻いて無線機を手にした。

 

「どうかしましたか?」

「ん?あぁ、目の前が岩で塞がれててな。このままでは動けないから付近の基地に応援を呼ぼうと思ってるんだ」

「そうでしたか……それは大変ですね。でも応援なんて呼ぶ必要無いですよ」

「それはどういう――――」

 

次に発せられる言葉は1発の銃声によって紡がれることはなかった。振り向こうとしたミハイルの脳天には穴が開いていて赤い液体を放出する間欠泉が出来上がっていた。

 

「なるほど、このPPSh-41は意外と使いやすいですね」

 

そう言いながら弌華は胸ポケットに入れていた通信機を取り出し一定の周波数に合わせた。

 

『大尉、纏です。こちらは終わりました、そっちはどうですか?』

『今終わったよ。でも1人取り逃しちゃった……。若いキレイな男の子だったんだけど惜しいことしたなぁ……』

『逃がした事については心配しなくてもいいですよ。今頃姉上が始末してるでしょうから』

 

 

 

僕は今、今までに無いほどの速さで走っている。さっき昼を食べてたらいきなり1人の人が窓をぶち破って入ってきて、中に居た軍人さん達を瞬く間に殺していった。その時に1人の軍人さんに庇ってもらって何とかここまで逃げきれたけど……

 

「ハァ……ハァ……一体なんなのさ……」

 

僕は呼吸を整えながら何度も後ろを振り向いて追っ手が来ていないことを確認してから一旦走るのを止めた。かれこれ10分は走っている。流石にここまで来たら道を知らないなら追っては来ないと思う。

 

「確か……近くに軍事施設が有ったような……そこに行こう」

 

しかし、セルゲイの足は前に動くことはなかった。代わりに心臓があるはずの位置から細腕が生えている。

 

「あれ……?ここって……腕―――」

 

セルゲイはそのまま地面に倒れて2度と起き上がることはなかった。

 

『弌華、終わった』

『分かりました。急ぎ帰ってきてください』

『………』

『どうしました?』

『道分からない』

『走りながら木に目印を付けといてくださいと前に言いましたよね?』

『ん……忘れてた』

『まぁ、いいです。そこから動かないでくださいね。絶対ですよ』

『ん。分かった、動かない』

 

その後無事狂璃は見つかった。少年――セルゲイの死体は近くの太い木の下に埋められた。

 

 

 

先程、一方的な戦闘が行われた列車付近には数十台もの輸送車が来ていた。兵士達は中に積まれている物資を奪うため既に行動を開始していた。

 

「おぉ……これはまた派手に殺ってるな」

 

輸送車団を率いてきた忠一郎は車中の見事な死体の山に口を大きく開けて驚嘆していた。

 

「首だけを見事に切っている……こりゃ即死だな。流石は東洋のジャックと言われただけあるな」

「私は女よ。呼ぶならジャックじゃなくてジルって呼んで欲しいかなぁ」

 

彼女――伊織癒乃が死刑判決を受けた理由は、アジアを拠点に無差別に人を殺したからだ。その被害件数は500人以上に及んだ。しかし、つい最近まで一切尻尾を出さなかった。アジア各国の警察組織は逮捕することを半ば諦め掻けていたという。

被害者は美少年・美少女に限定され、日本に帰ってきたときたまたま目についた沖田楓伽に狙いを定めたものの返り討ちにされ今に至る。

 

「そんで、弌華とあののんびり屋は?」

「もうすぐ帰ってくると思うけど、遅いわね……あ、来たよ」

 

癒乃が指を指す方向には寝ている狂璃を脇に抱えた弌華が崖を飛び越えていた。

 

「遅くなりました。姉上が走ってる間に寝てしまいまして……」

「そんなことだろうと思ったよ。まだ掛かるから先に車に入って――」

「え!?寝てるの!?なら抱いても起きないよね!?大丈夫だよね!?」

 

忠一郎の言葉を遮り、癒乃がいつもの病気を発病した。まだ弌華がなんとも言ってないのにその両手からひったくり既に頬ずりなんかを始めている。

「アァ――やっぱりこの触り心地は最高ね……楓ちゃんは胸無いうえに全身鍛えてるから……ぷにぷにしてないのよね」

「本人にそんなこと言ったらお前殺されるぞ?」

 

忠一郎が微妙にひきつった顔で言う。

 

「知ってるわよ。私も会った当初そんなこと言って半殺しにされたもの」

 

2人の会話から司令のことを怒らしてはならないと決心した弌華であった。それから弌華達も搬出を手伝って列車に火を着け、数分後にはその場を全速力で後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは。コロナが変異してるそうですね。聞いたところによるとワクチンが聞かないだとか……。皆さん気を付けてくださいね。

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