大日本帝国陸軍第三突撃大隊はケルレン川とオノン川に挟まれたオルン要塞を目指していた。ここを攻略する事によって、ウランバートルへの道のりがスムーズに進み早期決着をつけることが出来る。
大隊の隊長御堂信靖(みどうのぶやす)は敵の攻勢がノモンハンを出てから一度も無いことに疑問を抱いていた。
「隊長、斥候に出していた兵が帰還しました」
「すぐに此処に連れてきてくれ」
「了解しました」
数分後信靖の元に斥候を終えた兵がやって来た。
「それじゃあ報告を聞こうか」
「は。付近に敵影は確認できませんでした。しかし、我々の進軍方向とは逆の方向にタイヤの跡が残っていました 。少なくとも10km以上は続いていると思われます」
信靖は報告の内容を聞いて思考を巡らせた。
(敵がいないことは良いことだがここは敵の支配領域のはずだ……。味方が先に敵を攻撃したことも考えられるがそのような作戦は聞いていない。考えられるとすれば極秘部隊による作戦か……?確か陸軍にそんな部隊が有ったな……)
「分かった。付近に敵影が無いなら我々にとっては好都合だ進軍しよう。しかし、敵の罠という可能性もあるから警戒は怠るな。十五分後にもう一度行ってもらう。今度は範囲を拡大するぞ」
「了解しました」
ノルン要塞の最高指揮官は苛立ちが募っていた。原因はどうやったか分からないがシベリア鉄道が何者かによる襲撃を何回も受け、物資の輸送が滞っていたことにある。初めの襲撃が有ってから警備を増強したものの、その尽くが返り討ちにされ、さらに運んでいたものが軒並み奪われたので今はシベリア鉄道による輸送は行われていない。車で首都から輸送することもしたが野盗に襲われ、被害が出ているので十分な補給は出来てるとは言えなかった。
「まだ補給は届かんのか?」
「申し訳ありません……なにぶん鉄道を使っての輸送が出来ないので滞っておりまして……」
「そんなことは分かっている。しかし、新たな補充が来ない今、日本軍に攻め入られでもしたら簡単に落とされるぞ。ここが首都防衛の要であることは蒙昧な将校や政治家共も分かっているはずだが……」
彼はそもそも日本軍と戦争を始めることに否定派の人間だった。前線を知らない奴らはソ連の援助を取り付けたことで日本に勝てると強気になっていたが戦争はそんなに甘くないことを彼は知っていた。
(ソ連から援助が得られなければ我が国は一日もたたないうちに制圧されるだろう。その頼みの援助もシベリア輸送の度重なる失敗によってソ連側がだんだん渋り始めているらしい。その気になったらソ連は我々を見捨てることもできるというのになぜそれを奴らは分からないのだ……?」
「司令のお考えは私も良く分かります。私も同じ考えですから。しかし、私たちには守るべき家族がいます。退くわけにはいきませんよ」
どうやら心の声が口に出ていたらしい。横にいた側近の兵は司令長官に対してそんなことを言った。
「すまん。少し弱気になっていた。やれるだけやるのが我々軍人の使命だもんな」
「いえ、お気になさらず。私達も同じ思いですから」
「失礼します!!緊急報告です!!」
司令室のドアをぶち破る勢いで一人の兵士がやって来た。全速力で走ってきたのか息が上がっている。
「先程、日本軍と思われる大部隊が此方に侵攻していると報告がありました!後五分程で一次防衛線に接触します!」
「成る程……補給は届かんかったか。第三機甲大隊に出動命令を出せ!絶対に抜かせるなよ」
砲撃はほぼ同時に行われた。一方は大量の火砲による面攻撃でもう一方は正確な照準によって一台づつ確実に撃破していった。九九式戦車は突撃陣形を展開してどんどん防衛網を食い破っていき、その合間を縫ってオートバイによる機動部隊が敵の歩兵を蹂躙していく。
一方、空でも熾烈な戦闘が繰り広げられていた。陸軍の主力戦闘機の九七式戦闘機はモンゴル軍のソ連から譲渡されたI-153戦闘機の直上から機銃を雨のように浴びせて次々と撃墜していった。残った機体も九七式に狙いを定めるが高い運動性能によって避けられ、九七式の高い格闘性能によって反撃され撃墜されていった。
「司令、大変残念な報告です……。既に我が方は第二防衛線まで侵攻を許しました。部隊も敗走を続けてるらしくここまで来るのにそう時間は掛かりません……」
「連絡が取れる部隊を司令部に周辺に終結させろ。少しでも首都の守りを固めるまでの時間を稼ぐのだ」
「了解しました!」
その後優秀な司令官の元果敢に戦ったモンゴル軍はその殆どが戦死したものの見事日本軍の侵攻を遅らせることに成功した。この戦闘での日本軍の損害は決して少ないとは言えなかった。
「良いのか?あの部隊章確か信靖の部隊のだったぞ」
「え、そうだったの!?気づかなかった……。でも今の私は簡単に人前に出れないからなぁ」
「お前は海軍所属となってるから大丈夫だろ。まぁ、海軍所属のお前がこんなとこにいるのはおかしいがな」
「まぁ、いいよ。またそのうち会えるだろうし」
「戦闘、終わりましたか?」
双眼鏡で戦闘があった場所からそう遠くない草原で事の一部始終を見ていた楓伽と忠一郎の元に民族服を纏った弌華が後ろから問いかけた。
「ああ。どうやら相手さん相当頭の良い指揮官だったな」
忠一郎は感心したかのように言う。
「よし。終わったことだしもう暫く私たちは野盗ごっこを続けるかな」
民族服を着た三人は草むらの奥へと消えていった。