やはり俺がIS学園にいるのは間違っている。 作:Parfait
俺は今、目の前の女教師が淡々とある作文を朗読しているのを聞いていた。
その内容は知っているのに知らない文章、小説家が自らが生み出した文章が、手元を離れて新たな世界を構築していくように。といったかっこいい話ではなく、ただ自分が深夜テンションで書き上げた訳の分からない文章だった。
「あ、あの……何か問題でも……」
女教師はふぅとため息を吐くと、当然の結論としてこちらを睨みつけてくる。
いやいや入学式終わったらいきなり呼び出された俺の方が溜息を吐き……怖っ、こっちに向けてくる目力が既に人を殺せそうなレベルなんだけど。何、この人心読めちゃうの?エスパーなの?
「なあ比企谷、私が入学にあたって出した宿題は何だったか言ってみろ」
「……はぁ、『ISの歩んできた道』というテーマのレポートでしたが」
「じゃあ何で結論がリア充爆発しろになるんだ」
「いや女尊男卑の世の中、男子は大体同じ様なことを思っ」
顔のコンマ数センチというところを空が切る。言い終わる間も無く顔の横に振り下ろされる出席簿。
なんかもう幻の刃がみえるまである。人間の出せる速度じゃねえよ、あれ。
「このレポートは明日迄に書き直してこい」
「いやそれは」
「これは決定事項だ、分かったらさっさと教室に向かえ」
「ひ、ひゃい」
あまりの怖さに思いっきり舌を噛んだ。比喩とかじゃなくマジで。迷わず回れ右して職員室を退出すると、どっと冷や汗が出てきた。
や、やべぇ。なんか後ろに鬼神が見えたんだけど、あれ本当に俺と同じ人間なの?絶対人に化けた魔神とかだよね?
恐怖に震えながら、急いで職員室を後にする。
いくつかの階段を経ながら似たような景色の廊下を歩いていると、女子特有の黄色い声が聞こえてきた。声のする方に目線を向けると、恐らく自分の教室であろう1年1組のプレートが目に入る。もう帰りたい。
気づかれないようにそっと後ろのドアを開け、空いた席に着席する。ミッションコンプリート、俺のステルス性能に隙はなかった。
あ、ただのぼっちですね分かります。
日頃培ったぼっちスキルとして完全に空気と同化していることを内心誇りに思っていると、教室前方の扉が開けられる。
「み、皆さん、こんにちは、副担任の山田真耶です」
小動物のような動きで壇上まで上がり、たどたどしく自己紹介をすると、彼女は緊張で少し引き攣った笑顔を見せた。
小柄な体躯に肩口ほどのショートカット。童顔の上に乗っかった不相応に大きい眼鏡と、副担任という挨拶がなければ同級生と勘違いしてしまいそうだ。一部分を覗いて。
というかおっぱ、ゴホン、母性の象徴が唯一全体に不釣り合いなほど強烈に個性を主張しまくってる。自然と視線はそこに吸い寄せられる。質量が大きくなるほど引力が大きくなるって本当なんだな、やっぱニュートンって凄いわ。
いや落ち着け八幡、あんなもの所詮脂肪の塊。俺の理性を総動員すればなんでもない。おっぱいごときが俺に勝とうなどおっぱいがいっぱい。あれ?理性負けてね?
しかしぶっちゃけこの教室ではどこ向こうがさして変わりはない。なぜなら俺ともう一人の男子以外全員女子だからだ。何なら学園全体そうなんだが。
……どこのエロゲだよ、これ。今時もうこの設定売れないぞ。
だが唯一の救いがクラスの視線はもう一人の男子、織何とかに向かっていたことだ。てか名前なんだっけ、まあいいや。
その織何とか、織口?の方を向くと例のおっぱい、もとい山田先生に促され、自己紹介を始めていた。
「えー……えっと、織班一夏です。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。それにしてもイケメンだな、こいつ。周りの女子たちがキラキラした目で次の言葉を待っている。
「以上です」
ガタッ、とクラスのみんながずっこけた。どんだけ期待してたの?いやいやあんなもんでしょ、自己紹介って。そもそも自己紹介なんて誰も聞いてないよ、ソースは俺。
頑張って友達作ろうと詳しく説明したのに、誰も俺の名前覚えてなかったし。
さも自分を知ってると思って話し掛けたときの誰こいつみたいな顔が忘れられない。いや、クラスメイトだよ?何なら隣の席だよ?
独りで勝手に悲しくなっていると、スパンッ!と小気味好い音がなる。音の鳴った方に目を向けると、さっきの魔神が織班の頭に出席簿を振り下ろしていた。
「げぇっ、関羽!」
「誰が三国志の英雄だ」
また頭を叩かれる。多分脳細胞が億単位で死んでるよ、あれ。というかそもそも織班のボケがよくわからないのだが、何故に三国志。
「諸君、私がこのクラスの担任の織班千冬だ。お前ら新人を一年で最低限使い物になるように育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、そして理解しろ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
ぼ、暴君だっ、暴君がいる!てかこの人が俺の担任なの?
「キャ――――――本物の千冬様よ!」
「私お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「私お姉さまのためなら死ねます!」
一気に色めき立つクラスメイトたち。えっ、この子達ドMなの?お姉さまの為なら死ねちゃうの? 俺このクラスで一年過ごさなきゃいけないのか……。いやまあいいんだけどね、既にまたぼっちな未来見えてるからね、クラスメイトとかあんまり関係ないね。
「……毎年よくもこうバカばかり集められるもなだな。それとも何か、私のクラスにだけ集中させてるのか」
そう言うと織班教諭は溜息を吐き、
「もうHRの時間もあとわずかだな。おい比企谷、最後にお前が自己紹介しろ」
いきなり俺を指名してきた。クラス全員が俺の方へ視線を向けてくる。
「えっ、いつからいたの?」とか 「なんか凄い目が死んでない?」とか聞こえてくるんだが気のせいだよね? というか隣の子とか驚き過ぎて椅子から転げ落ちてた、どんだけ気づかれて無いんだよ、俺。
やばい、ぼっちにはこの視線の嵐は辛い。なんかもう吐きそう。いやでも人間は第一印象である程度の人間関係が決まるという。頑張るんだ八幡、栄光の高校生活を掴み取れ!
「ひ、比企谷八幡でひゅ、よ、よろしくお願いしましゅ」
静まりかえる教室。灰色の学園生活しか見えなかった。