アサルトリリィPARABELLUM   作:苗陽さんガチ恋勢

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男嫌い


11 カラスウリ ──Trichosanthes Cucumeroides── 遠藤亜羅椰の愉悦、その一

 

 

 

「サブスキルを、自由に変化させるレアスキル?」

 

 

 予想外の言葉に、俺は思わずオウム返しをしてしまう。

 特型ラージ級の襲撃から、約二週間後。

 理事長室にて、義父上と真島さんから聞かされたのは、俺の保有するスキルの話だった。

 

 

「まだそうと決まった訳ではないが、現状を考える限り、そうではないかと踏んでおる」

「いや、でも、そんなレアスキル、聞いたことが……」

「うむ。故に、これは君だけしか持ち得ない、ユニークスキルという事になる」

 

 

 ユニークスキル。

 世界に数多存在するリリィの中でも、両手で数えられるくらいにしか発現していない、特異なスキルの総称……と、噂程度に聞いた事がある。

 あいにく、その名称やスキルの効果までは知らないし、眉唾ものだと思っていたのだが、まさかそれが自分の事になるとは、考えてもみなかった。

 ……いや、正直に言うと、「こんなスキルがあったらなー」と妄想はした事はあったけど、現実になるなんて。

 

 

「どんな姿にも形を変えるスキル……。仮にですけど、万華鏡──カレイドスコープと名付けました。お洒落でしょ?」

「サブスキルは元来、複数を覚醒する事もある。余程の事がない限り、露見する事はなかろうが、念の為、保有しているのはサブスキルのみ、という事にしておくように」

「了解しました」

 

 

 ソファに腰掛けたままではあるが、執務机の義父上と、その隣に立つ真島さんに対し、防衛軍式の座礼で応じる。

 着ているのが義父上のお古である和装なので、ちょっとチグハグかも知れない。

 これも噂程度の知識だが、今の所、サブスキルを最大で七つ同時保有したリリィが居るんだとか。

 それだけあれば、下手なレアスキル持ちよりも凄まじい活躍が出来そうだ。

 俺が活躍できるかは、別問題として。

 

 これで話は終わり……かと思ったが、続けて義父上は、申し訳なさそうに口を開く。

 

 

「合わせて、残念な知らせもあっての。君の市街への外出許可が出るのは、先のヒュージ誘引を鑑み、当分延期になってしまった。すまない」

「あ……。仕方ないですよ、頭を上げてください。訓練とかもしたいですし、自分なら大丈夫ですから」

「もし気晴らしがしたいなら、ぜひ工廠科に来て下さい、おじ様。開発中のCHARMとか、実験中のあれやこれやで、退屈しませんよ!」

「ははは、考えておくよ……」

 

 

 相も変わらず、生き生きとした笑顔の真島さんに、俺は苦笑いを返すしかなかった。

 訓練外の余暇をどう過ごすにしても、彼女のラボに行くのは、退屈で死にそうな時だけにしよう。

 でないと、変な義肢を着けられそうな気がする。ドリルとかサイコガンとかロケットパンチとか。

 

 今度こそ話は終わり、理事長室を後にした俺は、一人で学院内をそぞろ歩いていた。

 週末なので人影は少なく、うろついていても問題ないのだ。

 仮に女生徒と出くわそうとも、理事長代行の義息としての認識が定着しつつあるようで、普通に「御機嫌よう」と挨拶を交わす事も多い。

 なんか優越感。対不審者への先制挨拶ではないと思いたい。

 

 それはさて置き……。

 

 

「義父上にはああ言ったものの、暇潰しに散歩するのも、そろそろ飽きてきてるんだよなぁ……」

 

 

 問題なのは、半ば軟禁状態に近い現状で、どう息抜きをするか、である。

 G.E.H.E.N.A.から狙われている可能性がある以上、外出は危険を増やすだけ。

 学院で大人しくしているのが一番だけれど、同じ場所で、同じ生活をいつまでも続けていると、一気に老け込むに違いない。

 川添や白井さんとのお茶会、梅ちゃん(いつの間にか脳外でもこう呼んでいた)との戦闘訓練、真島さんとのマッドな義肢調整。

 退屈という訳ではないのだが、そろそろ新しい刺激というか、日常にちょっとした変化が欲しいところだ。

 

 と、そんな事を考えていたら、まだ例に挙げていない、もう一つの日常イベントが発生した。

 

 

「お」

「あ」

 

 

 不意に、ポニーテールの小動物っぽい少女──安藤鶴紗が現れたのだ。

 無言のまま数秒が経ち、どちらからともなく、同じ方向へ歩き出す。

 建物内を出て、向かう先にあったのは、自販機である。

 そして、同じように無言で貨幣を投入し、よく冷えた缶コーヒーを二つ買って、片方を手渡した。

 

 

「どうも」

「ブラックで平気だったか?」

「大丈夫」

 

 

 二人揃って近くのベンチに腰掛け、コーヒーを一口。後味のスッキリした苦味を楽しむ。

 ただそれだけの、なんて事ない一時だが、妙に気分が落ち着くのは何故だろう。

 まだまだ夏真っ盛り。

 学院内は涼しくて快適だったけど、表に出るとやっぱり暑い。日陰なだけマシなんだろうけど。

 

 

「なんか、いつもより冴えない顔してるね」

「そうか? というか、いつもよりってなんだよ」

「事実だし」

「……友達、出来ないぞ。そんな言い方してると」

「要らない。上辺だけの付き合いなんて、面倒なだけ」

「なるほど。でも、こうしてお茶するのは良いわけだ」

「………………お、お茶じゃなくて、コーヒーだから」

「屁理屈屋め」

「揚げ足取り」

 

 

 安藤はそっぽを向くけれど、逃げようとはしない。

 なんだかんだ言いながら、彼女も受け入れてくれてるんだろう、この時間を。

 

 

「お? おーい、おっちゃーん、鶴紗ー!」

 

 

 と、そこへまた、新しい声が届く。

 この呼び方から分かる通り、駆け寄ってくるのは夏の似合う快活少女、梅ちゃんである。

 失礼な表現かも知れないが、妙に犬っぽさを感じてしまう今日この頃だ。

 

 

「最近よく一緒に居るな、二人とも。仲が良くてなによりだ!」

「それは……どうなのかな……?」

「普通です、普通。吉村先輩こそ、最近よくおじさんと一緒に居ますよね」

「偶然だ、偶然。ところで、梅でいいって言ってるのに、いつまで苗字で呼ぶんだ?」

「さぁ」

 

 

 仲良くしたがっている飼い犬と、そっけない野良猫。

 例えるならこんな感じ、だな。

 梅ちゃんの面倒見の良さは、俺との訓練でもよく分かっているし、そうしたくなるのも理解できる。

 知り合ってみると放っておけないというか、無性に構いたくなるのだ、安藤は。

 

 そんな風に思っていたら、ふと視界の端で小さな影が動いた。

 ぴょん、と立った三角の耳。丸くて大きい二つの眼。暑さにダレてしまっている尻尾。

 それは、つい先ほど安藤に例えた動物。

 

 

「あ、猫だ」

「えっ」

「おお、ホントだな。ほらほら、こっちおいでー」

 

 

 安藤の体がグイッとこちらを向き、猫の所在を血眼になって探し始めた。

 一方、梅ちゃんは自然体で猫の近くへしゃがみ込む。

 猫の方も人に慣れているようで、可愛らしく擦り寄っている。抱っこされるのも嫌がらず、そのまま梅ちゃんに抱かれて日陰に避難してきた。流石の動物でも、この暑さは堪えるらしい。

 

 猫を抱っこした女の子。鉄板のほっこり光景だ。

 が、微笑ましいはずの光景を見たはずの安藤の眼は、何故だが親の仇でも見るような、凶悪な目付きになっており……。

 

 

「……っ……」

「ど、どうした、安藤?」

「う……う……っ……」

「う?」

「……羨ましい。あの子、まだ触らせてくれた事ない……」

 

 

 思わず脱力した。

 猫好きなのは知ってたけど、羨ましさで無意識に睨む程かよ……。ちょっと怖いくらいだぞ、その目付き。

 

 

「触りたいのか? ならこっち来い、ほら。にゃんこだゾ〜」

「………………」

 

 

 ところが、梅ちゃんは安藤のレーザー眼光を意に介さず、むしろ猫の手を使って手招きしている。

 一歩進んで半歩戻り、三歩進んで二歩戻り……と、徐々に徐々に、安藤は梅ちゃんの元へ。

 最後の一歩は梅ちゃんの方から近づき、済し崩し的に猫と二人の戯れが始まった。

 

 

(あの二人、相性良いのかもな)

 

 

 猫に釣られてではあるが、安藤が俺以外の誰かと一緒に居るのは、実に珍しい事なのだ。

 誰とでも距離を置こうとし、近づけない安藤。

 誰にでも真っ直ぐな笑顔を向け、歩み寄る梅ちゃん。

 この二人がシュッツエンゲルになったとしたら、バランスが取れて丁度良いんじゃ?

 といっても、梅ちゃん中三だし、安藤も中二。どんなに早くとも、二人が高校生になる二年後になってしまうが。

 その頃にはどんな関係になっているか、ちょっと楽しみで────悪寒。

 

 

「お、じ、さ、ま! 何してるのぉ、こんなとこで?」

「どぉお!?」

 

 

 急に左腕が重くなった……と同時に、“むにゅうん”という柔らかさを感じ、変な声が出た。

 驚きつつ確かめてみれば、小悪魔チックな笑顔を浮かべる少女が、腕にしなだれ掛かっている。

 くそ、感知できたのに避けられなかった!

 

 

「ま、またお前か、遠藤!」

「はぁい、亜羅椰ですよぉー。鶴紗と梅様も、御機嫌よう」

 

 

 猫撫で声、とはこういう声を言うのだろう。

 百合ヶ丘女学院始まって以来の、性的な意味での問題児──遠藤亜羅椰が発したのは、心のくすぐり方を完璧に熟知した、甘えた声だ。

 男ならほぼ全員、時には女も虜にするであろうが、しかし、猫好きであるはずの安藤は、遠藤の姿を見るや否や、警戒心を露わにした。

 

 

「どうした、鶴紗? なんで梅の後ろに隠れるんだ?」

「ゔ~……!」

 

 

 それこそ、猫の出すような唸り声を上げて、遠藤を睨みつける。

 今度こそ間違いなく、敵意の込もった目線だ。

 良くも悪くも他人に興味が薄い彼女が、ここまで拒否反応を示すという事は、既に一悶着あった証左だと思われる。

 

 

「おい。安藤に何をしたんだ……?」

「嫌だわ、まるで人を変質者みたいに。ちょっとお風呂で、スキンシップを図ろうとしただけよ」

「何がスキンシップだ、このっ……もういい!」

「あ、おい、鶴紗っ?」

 

 

 本当に毛嫌いしているのか、安藤は後ろ髪を引かれるような素振りを見せつつも、足早にこの場を離れる。

 それが心配になったのか、梅ちゃんはこちらに「ごめん、またな」と言い残し、猫と一緒に追いかけていった。

 取り残されたのは、俺と遠藤の、二人だけ。

 

 

「逃げられちゃった。保護者もついてるんじゃ、手は出せそうにないわねぇ」

 

 

 残念、と最後に付け足す遠藤だが、本気ではなさそうに感じた。

 もし本気なら、保護者が居ようが関係なく押し倒す。

 それが噂に聞く遠藤の悪癖であり、俺自身が覚えている…………嫌悪感の根っこだ。

 

 

「何が目的なんだ」

「どういう意味ですか?」

「なんで、俺に近付こうとするんだ、と聞いている」

 

 

 やや強引に彼女を振り払い、率直に尋ねる。

 遠藤亜羅椰はレズビアンであり、自分自身と女性にしか興味がない。

 宗旨替えでもしたのでない限りは、俺のようなおっさんと、話すらしたがらないはず。

 

 

「なんでも何も、私はおじ様と仲良くなりたいだけですよ」

「嘘だ」

 

 

 完璧な微笑みを前に、俺は断言した。

 断言せざるを得ない、理由があった。

 

 

「君の眼は、俺を見てない」

 

 

 それは、遠藤の眼差しだ。

 俺を見ているようで、その後ろにある“何か”を見ている眼。

 自分の欲望を満たすためなら、平気で誰かを利用し、反省を露にも見せない。

 

 そういった振る舞いが、“アイツ”を思い出させる。

 俺をG.E.H.E.N.A.に売ろうとした、“アイツ”を。

 

 姿形も、性別も、全く違うはずの二人だが、笑い方だけがよく似ていて、どうにもダブって見えてしまう。

 だから、信じられない。

 特型ヒュージから命を救ってくれた恩人なのに、どうしても、嫌悪感が先に来てしまう。

 あの時に覚えた些細な違和感が、こんな悪感情に繋がってしまうなんて、思いも寄らなかった。

 

 

(……我ながら女々しいな。いつまで引きずってるんだよ)

 

 

 甲州撤退戦から、もう数ヶ月が経つ。

 だけれど、友人に売られたという事実は、決して消えない。

 その消えない事実を、遠藤という存在が嫌でも思い出させる。

 

 いわゆる良い子ではないが、彼女が“アイツ”程の悪人だとも思わない。

 自分の性癖に正直で、目的のために手段を選びそうにないだけ。

 一部の生徒から蛇蝎のように嫌われているそうだし、一方で友人は多く、信奉者も少なからず存在するらしい。

 単なる裏切り者である“アイツ”と、遠藤を同一視してはいけない。

 そう頭で理解していても、心は納得してくれなかった。

 仕方なく俺は、硬質な態度で彼女との対話に臨むしかないのだ。

 

 指摘を受け、遠藤は眼を丸くする。

 が、次の瞬間には悪魔っ子(小悪魔でなく)のような、左右非対称の笑みで返した。

 

 

「意外と鋭いんだぁ……。ま、御察しの通り、本当の目的は別にあるんだけど」

「……安藤か?」

「当たらずとも遠からず、かしら。逃げられると、無性に追いかけたくなるタイプなの、私」

「ああ、そうかい」

「おじ様の側に居れば、あの子と会う機会は増えるじゃない? 実際、今日は会えた訳だし」

「かも知れんが、俺の側に遠藤がウロついてると知ったら、近寄らなくなるだろうな、きっと」

「あら。それじゃあ、おじ様と仲良くする理由も無くなっちゃったわぁ」

「そうか。なら、もう行くよ」

 

 

 はぐらかされている。

 真面目に答えるつもりがないなら、話なんて、しても無駄だ。

 俺もこの場を離れようと、隣を通り過ぎようとする。

 ……しかし、遠藤に前を塞がれた。

 

 

「なんだ?」

「言ったでしょう。逃げられると追いかけたくなるタイプだ、って」

 

 

 にっこり。

 見た目だけは本当に可愛らしい仕草でもって、今度は彼女が尋ねる。

 

 

「おじ様こそ、私を通して誰を見てるの? 昔の恋人、とか?」

 

 

 心臓が大きく跳ねた。

 バレていた。

 俺自身も、彼女を通して、過去の出来事を見ていた事が。

 

 考えてみれば、当たり前か。

 俺ですら感じ取れた感覚だ。年頃の女の子なら、もっと容易く見抜けるに決まっている。

 

 

「“アイツ”が恋人とか、冗談じゃない。……どうして分かった」

「女の子は、そういうのに敏感なの。随分と引きずってるみたいだし、酷い別れ方でもした?」

「……裏切られただけさ。色んな意味でな」

「え……?」

 

 

 自嘲を浮かべ、吐き捨てる様に言ったその時、初めて遠藤の表情が揺らいだ気がした。

 ……なんだろう。妙な勘違いしてる?

 あ、“アイツ”が男だって言ってない。

 このままだと、俺と“アイツ”が「アーッ!」な関係にされてしまう!? 早急に誤解を解かなくてはっ!

 

 

「おじ様」

 

 

 ──と、焦って口を開こうとした所に、またまた別の声が割り込む。

 少し低めの、落ち着いて涼やかなそれは、耳に慣れ親しんだ声……白井さんのものだった。

 

 

「白井さん? どうしてこ──」

「まぁ、夢結様! この前の迎撃当番以来ですね、御機嫌よう!」

 

 

 こに? と続けたかった俺を差し置いて、テンション鰻登りな遠藤が、白井さんへと微笑む。

 純粋さと下心と肉欲を、全部ごちゃ混ぜにして煮詰めた後の上澄み液みたいな、綺麗なんだか汚いんだかよく分からない、とにかくギラついた肉食系の笑顔である。

 変わり身が激しくて、むしろ感心するわ。

 おかげで本当の目的も分かった。こいつ、白井さんのこと狙ってやがる……!

 

 

「おじ様、大丈夫ですか」

「え。大丈夫って、何が?」

「辛い事を耐えているような……。そんな表情に見えたので」

 

 

 密かに得心していた俺を、白井さんは、心配そうに見つめている。

 ……そんなに難しい顔をしていただろうか。

 ただでさえ、特型ヒュージ襲撃の際には、無用な心配を掛けてしまった。だというのに、こうしてまた心配させて。

 申し訳なさが、自嘲を苦笑いへと置き換えさせた。

 

 

「大丈夫だよ。ちょっと彼女と立ち話していたら、嫌な過去を思い出しただけだから」

「……なるほど」

 

 

 わずかな空白。

 白井さんは一つ頷くと、無視されて挙動不審になっている遠藤へ向き直った。

 

 

「あ、あのぉ……夢結、様……?」

「貴方が、遠藤亜羅椰さんね。お噂は伺っているわ」

「そ、そうですか。良くない噂でなければいいんですけど……」

 

 

 一歩、白井さんが踏み出す。

 遠藤が一歩、後ずさる。

 白井さんの眼は、冷たかった。

 夏の暑さを忘れさせる程に、冷たく、鋭い。

 

 

「貴方がどんな性癖を持っていて、どんな風に振舞おうとも、個人の自由だと思うわ。制限するような権利は、誰にもない」

「えっと、ゆ、夢結さ──」

「でも」

 

 

 一歩、また一歩と遠藤は追いやられ、ついには壁際に追い詰められる。

 少しだけ身長差があるせいか、自然と、白井さんは遠藤を見下ろす形に。

 

 

「それにおじ様(だれか)を巻き込んだり、心を土足で踏み荒らすような真似をするのなら。……相応の報いを覚悟しておく事ね」

 

 

 忠告……いや、警告、だろうか。

 ヒュージですらたじろぎそうな威圧感に、遠藤は真っ青な顔でコクコク頷き、やっと白井さんが一歩引く。

 途端、遠藤は壁伝いにへたり込むのだが、白井さんは見えていないかの様に振る舞う。

 

 

「行きましょう、おじ様」

「あ。はいっ」

 

 

 一も二もなく、悠然と歩く白井さんの後に続いた。

 拒否? 出来るわけがない。だって怖いし。

 ルナトラ発動中の白井さんは物騒で怖いらしいが、今の白井さんも別の意味で怖い。マジで。

 

 ややあって、白井さんは足湯のある東屋で歩を止める。

 時期が時期だけに、今は温泉ではなく冷水で満たされており、素足で涼を取る生徒の姿もチラホラと見えた。

 

 

「……し、白井さん……?」

「──しよう……」

 

 

 おっかなびっくり問いかけると、返されたのは消え入るような声。

 首を傾げていたら、次に白井さんは勢いよく振り返り…………今にも泣き出しそうな顔で、オロオロし始めるのだった。

 

 

「どうしましょう、おじ様……。私、あんな風に言うつもりじゃなかったのに……っ」

「へ?」

「栄誉あるリリィとして、節度ある行動をするべきだって、上級生として純粋に話をするだけのつもりだったのに、あんな、脅すような言い方……!」

「お、落ち着いて白井さん。そんなに気にしなくても……」

「でも、何か理由があって、ああいう言動をしているんだとしたら、私、事情も聞こうとせずに、酷い事をっ」

「いや、大丈夫っ、大丈夫だからっ、ね?」

 

 

 どうにか宥めようとするものの、白井さんは一向に落ち着いてくれない。

 そうこうしている内に、東屋の生徒達がこちらを見てザワつき始め……。

 ヤバいっ、これじゃまるで、俺が白井さんを泣かせてるみたいじゃないか!?

 どどど、どうしよう、早くなんとかしないと!

 か、川添っ、川添はどこだー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよ、あの眼……」

 

 

 夢結達が立ち去って数分後。

 ようやく自分を取り戻した亜羅椰は、体を震わせながら呟いた。

 この汗ばむ陽気に震えているのは、確実に、夢結のせいだった。

 

 身も心も凍りつかせるような、熱を感じさせない眼差し。

 一切の反論を許さない、絶対的な威圧感。

 しかし、亜羅椰が震えているのは、それに恐怖を覚えたからではない。

 亜羅椰はむしろ……。

 

 

(ゾクゾクしたわぁ……! こんなの、初めてかもぉ……!)

 

 

 喜んでいた。否、悦んでいた。

 可愛いものと綺麗なものが大好きで、更には意地悪するのも、意地悪されるのも大好きな亜羅椰にとって、美少女に嫌われるのは、一種の御褒美でもある。

 それにしても、今まで嫌悪感を示されたり、明確に拒絶されたりはあったが、あんな風にただただ冷たく、静かに宣言されたのは、生まれて初めてだった。

 

 あの視線。

 冷たく見下ろされる感覚。

 ピンと伸びた、去っていく背中。

 何もかもが、ドンピシャだった。

 特型ヒュージ襲撃の時、気絶した“彼”を心配し、涙を流す横顔にムラッとしたのは、間違っていなかったのだ。

 

 

「うふふふふ……。私、決めました夢結様……! 絶対に、貴方とお近付きになってみせるわ……! その為には、是が非でもおじ様に張り付かなくちゃ!」

 

 

 決意も新たに、ガバッと立ち上がる亜羅椰。

 どこまでも自分に正直な少女は、どこまでも真っ直ぐに、自分の道をひた走る。

 その先に、美少女だらけの桃源郷を夢見て。

 遠藤亜羅椰の明日はどっちだ。

 

 







 最近、炊飯器を見ると無意識におにぎり握っちゃう系のアイドルリリィが可愛くて、最推しが変わってしまいそうです。はよ続き読ませぇや!(ストーリーがバグで読めない)
 というわけで、恒例の言い訳という名の解説。
 ユニークスキルという呼び名は、原作にはたぶん無い物だと思われます。
 理事長代行のお姉さんである祇恵良女史が「アマツカミ」というレアスキルを保有しているらしいですが、これがユニークスキルに該当するとお考え下さい。
 また、主人公のユニークスキルに関しては、あくまで百由様の推測に基づく情報ですので、今後また変わっていく可能性があります。
 そして、サブタイからも分かる通り、亜羅椰ちゃんの出番はまだ続きます。ガチ百合さんの活躍(?)にご期待下さい。
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