アサルトリリィPARABELLUM   作:苗陽さんガチ恋勢

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清純


12 カガリビバナ ──Cyclamen── 遠藤亜羅椰の愉悦、その二

 

 

「ねぇねぇねぇ、あの噂聞いた?」

 

 

 昼時。

 幾人もの生徒でごった返す、百合ヶ丘女学院、中等部校舎のラウンジに、一際元気の良い少女が駆け込んでくる。

 文字通り、馬の尻尾のようにポニーテールを揺らしながら、彼女は友人達の居るテーブルへと向かう。

 話しかけられた二人……ベリーショートの眼鏡少女は溜め息をつき、ゆるふわロングの少女は、おっとりとした笑顔を返す。

 

 

「榮倉さん。いつも言っているけど、その言い方だと、仮に聞いていたとしても、どの噂か分からないでしょ。主語は明確に」

「ごめん馬場ちゃん。で、噂なんだけど、ほら、遠藤さんと“おじ様”の! 設楽ちゃんはどう?」

「あー、あれですかー。はいー、聞きましたよー」

 

 

 片手チョップでの謝罪の後、榮倉と呼ばれた少女が席に着く。

 彼女と馬場、設楽は三人一緒に居ることが多く、将来的には、リリィの戦闘単位であるレギオンを組もうと誓い合っていた。

 ようは仲良し三人組であり、それ故の遠慮の無さをもって、三人は噂話に花を咲かせる。

 

 

「いやぁ、ビックリだよねぇ。あれだけ女の子を取っ替え引っ替えしてた遠藤さんが、今度は例の“おじ様”に鞍替えだもんね?」

「ですねー。どういった心境の変化なんでしょー?」

「……噂の真偽はともかく、最近、女生徒からの被害の声が少ないのは、事実みたいよ」

「ほっほぅ、馬場ちゃんの調べなら確実だねぇ」

「すごーい」

「それほどでも」

 

 

 褒めそやされ、馬場の眼鏡がキラリと光った。

 表情こそ変わっていないが、実際にはとても喜んでいるのを、残る二人は分かっている。

 

 

「しかし問題なのは、そのおじ様と遠藤さんが、本当に………………か、関係を持って、いたとしたら、よ。普通に犯罪じゃない」

「溜めたねぇ」

「初心ですもんねー」

「うるさいわね! でも、実際そうでしょ。

 白井様と川添様のシュッツエンゲルに、吉村様、工廠科の真島様、後は、ワタシ達と同じ学年の安藤さん?

 これだけの美少女が周りにいるのよ、いつ間違いが起きたって不思議じゃないわ。理事長代行は何を考えているのかしら」

「間違いってぇ?」

「具体的にはー?」

「貴方達ぃ……っ」

『ごめんなさぁーい』

 

 

 息の合ったイジリに、今度は別の意味で眼鏡が光る。

 即座に謝罪し、勝手に水に流した(つもりの)榮倉と設楽もまた、違う意味で腕を組み、はたまた頷いていた。

 

 

「でもさぁ、これで遠藤さんが大人しくなってくれるなら、私としては有り難いかなぁ。なんだかんだ、私も揉まれた事あるし」

「わたしもですー。思わず、変な声出ちゃいましたー」

「え? 二人とも、なの? ……ワタシ、ないんだけど」

「……あぁ……」

「……そっかー」

「……なんで視線が下に向くの!? ま、まだ成長期なんだからっ! これからよこれから!」

 

 

 二対の視線を胸部に感じ、馬場が真っ赤な顔で身をよじる。

 確かに、榮倉と設楽とは、パッドでも、寄せて上げても埋め切れない差がある。

 が、まだ十三歳なのだ。これから先、急成長して追い越さないとも言い切れない。

 母・祖母・曽祖母と、慎ましやかな家系に生まれてしまった彼女は、そうやって必死に自分を誤魔化した。

 

 

「あ! 二人とも見て見て! あれ!」

「今度は何……? ……あ」

「噂をすればー」

 

 

 そんな時、榮倉がふと窓の外を指差す。

 釣られて馬場達が視線を向ければ、そこには渦中の二人が並んで歩いていた。

 訓練服の男性と、見るからに大人びた体つきの、中等部の制服の少女。

 女学院の敷地内である事も手伝い、非常に目立っていた。

 

 

「何を話してるのかしら……。持っているのは、CHARMコンテナ?」

「あっ、おじ様の腕に抱きついた! あれ絶対に当たってる! いや当ててるよぉ!」

「だいたーん!」

「どこかに向かっているようだけど……戦闘訓練、くらいしか思いつかないわね」

「うーん? なんかおじ様、すんごい顰めっ面してない? 迷惑がってるのかなぁ」

「あれは顔に出てないだけでー、普通に堪能してると思いますよー?」

「やっぱそうだよねぇ。男の人って、おっぱい大好きだっていうもんねぇ」

「ねー」

「………真面目に考えてるワタシがおかしいの? ねえ、ワタシ変?」

「そんな事ないよぉ。ねぇー」

「ねー」

「…………だ・か・ら! なんで胸を見ながら言うのよっ!?」

「きゃー!」

「逃げろー」

 

 

 度重なる狼藉に、馬場の怒りが激発する。

 堪らず走り出す榮倉と設楽。

 だが、本気で怒っていない事も、本気で逃げていない事も、互いに理解している。

 賑やかで、ありふれた日常の一幕であったが、その場を離れてしまったせいで、窓の外を行く二人を、後ろから追う人影があった事に、三人はついぞ気付かなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと優しさを見せ始めた陽光の下、黙々と歩くこと十数分。

 百合ヶ丘女学院が管理する土地の端っこも端っこ、野山の中に現れた広大な窪地で、遠藤は足を止めた。

 

 

「この辺りが良いかしらね」

 

 

 周辺を確認し、彼女は呟く。

 おそらくは、かつて大規模な戦闘が行われた場所なのだろう。

 自然が作り出した美しい窪地などではなく、マギの炸裂によって醜く抉られ、結果として出来たような印象を受ける。

 

 

「本当にやるのか? こんな場所で」

「何よ。人目につきたくないって言ったのはおじ様じゃない? ここなら遠慮なく、いくらでも出来るでしょ」

 

 

 やけに色気を感じる口調で彼女は言うが、その実、色気とはかけ離れた事を、俺達はやろうとしていた。

 二人してCHARMコンテナを持って来ている事からも分かる通り……戦闘訓練である。

 

 

「おじ様の中には、間違いなくフェイズトランセンデンスのサブスキルである、Awakeningが存在しているわ。

 仮に暴発した場合、周辺への被害は甚大になるでしょうから、こういう辺鄙な場所での訓練が一番なの。誰かを傷つけてからでは遅いもの」

 

 

 コンテナを開け、先行量産型らしいCHARM──アステリオンを構える遠藤。

 中等部の生徒にして、先行量産型を与えられているのは、彼女がS級のレアスキル、フェイズトランセンデンスを保有しているからだ。

 ここで言うS級とは、フェイズトランセンデンス自体がS級なのではなく、遠藤の保有しているフェイズトランセンデンスがS級、という意味である。

 聞くところによると、百合ヶ丘の歴史でも過去最高の使い手、だとか。

 

 

「そもそも、Awakeningを保有しているという根拠は?」

「女の、か・ん。でも安心して。外したこと無いから」

「……覚醒を手伝う理由は?」

「おじ様の覚えが良くなれば、それが自然と夢結様に伝わって、お近付きになるチャンスが増えるじゃない!」

「一人で訓練して目覚めた、って言い張るとは思わないのか」

「あら。おじ様はそんな恩知らずなの?」

「………………」

 

 

 全て計算尽く、という事か。

 遠藤の手の上というのは腹立たしいが、願ってもないチャンスである事も確か。

 S級のレアスキルの使い手なんて、世界中を探しても片手を超えるかどうか、という存在だ。

 そんな人物に手解きを受けようと思っても、普通は機会すら与えられない。

 

 あの日、安藤に誓った約束もある。

 本気で強くなりたいのなら、しのごの言っていられない。

 

 

「使えるようになるかは、自分でも分からないが、よろしく頼む」

「はぁい。頼まれたわ」

 

 

 俺が頭を下げると、遠藤は気安く手を振って答える。

 ……なぁんか、軽いんだよなぁ。

 言っちゃ悪いが、こういう軽薄な言動が、遠藤の大きなマイナスになっていると思う。

 もっと真摯に……せめて真面目に受け答えしてくれれば、波風も立たないだろうに。

 

 

「で、具体的に、どんな訓練をするんだ」

「ん〜……。まずは、私のフェイズトランセンデンスを見てもらおうかしら。目で見て分かるほどに、マギの流れが変わるはずだから、よぉく私を見ていて」

「分かった」

 

 

 遠藤は自信たっぷりに、たゆん、と胸を張る。

 白いワンピースの胸元は、サイズが微妙に合っていないのか、今にもはち切れんばかりに張り詰めていた。

 ………………ふう。

 落ち着け我が息子よ。あれは単なる脂肪の固まり。どんなに幸せな感触だったとしても、触れてはいけない代物なんだ。だからステイ!

 

 

「いっくわよぉ……!」

 

 

 必死こいて表情筋を殺している俺を横目に、数歩ほど前へ進み、アステリオンにマギを通す遠藤。

 目で見て分かる……という言葉の通り、その体からは濃厚なマギの気配が漏れ出していた。

 凄まじい。

 一言で表すなら、これに尽きる。

 

 フェイズトランセンデンスとは、一時的に体内のマギを増大させ、湯水の如く使い放題にするレアスキル。

 反動が大きいし、一度に出力可能なマギの量はCHARMに依存するものの、短時間ながら無敵に近い状態を作り上げられる。

 途方もない量のマギを練り上げ、遠藤が射撃形態のアステリオンを通じ、地面に向けて──放つ。

 

 轟音。

 

 ミサイルでも着弾したような衝撃が、周辺の木々をしならせた。

 

 

「……絶景だな」

 

 

 二重の意味で、俺は感嘆する。

 土埃すら吹き飛ばされてしまい、残されたのは、真新しいクレーターだ。

 未だに揺れる木の軋む音が、大地の上げる苦痛の声にも聞こえる。

 

 そして、同じように揺らめく遠藤のワンピースの中身も、丸見えだった。

 赤いレース生地の、大人の女性でも人を選ぶデザインである。

 ……どうしよう。

 見てろって言われたから、思わずガン見して脳内HDDに保存しちゃったんだけど、本当に良かったんだろうか。

 

 いや、遠藤の事だ、これも俺を動揺させる作戦かも知れない。

 これだけ無防備に男の眼に晒したんだから、見せパンである可能性も捨て切れないし。

 

 

「どぉ? これがフェイズトランセンデンスよ! ま、普通は使った後、マギの枯渇──ディプリーションが起きて、活動不可能になるんだけど」

「S級の使い手なら、ほぼデメリット無しで使えるんだよな。その位は話に聞いてる」

「仰る通り。マギの枯渇状態に関しては、おじ様も経験済みでしょ? あの状態で戦場に取り残されたりしたら、普通に死ぬわ。今後そうならないためにも、訓練は必要ってわけ」

 

 

 理解した? とでも言いたげに、遠藤は得意満面の笑顔を浮かべる。

 もし今、「スカート捲れてモロ見えでしたよ」と言ったらどうなるだろう。

 ショーツ(もしくは見せパン)の色に負けないくらい、顔を真っ赤にする?

 それとも、ここぞとばかりに「おじ様のエッチー!」とイジリ倒される?

 どっちにしても困るのは俺だし、ここは見なかった事にしよう。

 後で思い出すかも知んないけども、とにかく今はスルーしよう。

 

 

「なぁ遠藤? 確かにマギの変化は感じ取れたけど、自分で使えるようにするには……」

「それはもちろん、むやみやたらにマギを消耗するのよ」

「は?」

 

 

 具体的な案を尋ねてみると、返されたのは、なんとも漠然とした答え。

 唖然とする俺に、彼女はCHARMをフリップ──ジャグリングのように軽々と扱いながら続ける。

 

 

「分かり易く言ってあげる。ようは、運動中の呼吸と疲労なの。

 フェイズトランセンデンスを使っている間は、呼吸をしないまま、疲労感もなく、運動し続けられる。

 だから、無理やりにでも体とマギを消耗させて、無意識の欲求を高めれば、Awakeningを発動させられる可能性が出てくるわ。

 ま、この方法が有効なのは、スキルの芽がある場合のみ、だけどねぇ?」

「つまり、死ぬほど疲れろ、と」

「そういうこと」

「帰っていいか?」

「だぁめ」

 

 

 途端に面倒臭さが出てしまい、思わず脚が来た道を戻ろうとしたが、アステリオンで退路を断たれた。

 そりゃまぁ、訓練な訳だし、相手が遠藤だ。余計に疲れる覚悟はしてたけど、こう明言されてしまうと気が滅入る……。

 そんな俺の気持ちを珍しく察したらしい遠藤は、わざとらしい媚びた笑顔で、上目遣いに見つめてきた。

 

 

「ほらほら、模擬戦でもなんでも付き合ってあげるから。わたしぃ、おじ様のカッコイイところ、見たいなぁ?」

「悪いがそういうのは逆効果だ。……ったく、白井さんと仲良くなりたいからって、よくやるよ。あれだけブッとい釘を刺されたってのに」

「当たり前よ。あの程度で諦めるようなら、私は私をやってないわ」

 

 

 効果が無いと見るや、あざとさを投げ捨て、そう言ってのける。

 背筋を伸ばすその立ち姿を、不覚にも……綺麗だと思ってしまった。

 

 それなりに生きてきたからこそ分かる、自分を貫く、という行いの難しさ。

 それを知らぬ、若さ故の、眩しさ。

 

 気取られたくないと思った俺は、空を見上げ、太陽の光で眼を焼いて誤魔化す。

 

 

「その、どこまでも自分を貫こうとする姿勢だけは、ホントに尊敬するよ」

「それはどうも。けど、ごめんなさい? 男の人には興味ないの」

「安心しろ。俺も遠藤とだけはゴメンだ。お金貰ってもヤダ。後を引きそうだし」

「あ゛んですってぇ!?」

 

 

 そこからはもう、売り言葉に買い言葉。

 喧々諤々とCHARMをぶつけ合い、済し崩し的に模擬戦は開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CHARMと言葉で切り結ぶ二人を、豆粒ほどの大きさに見る、遠方の森の中。

 一人の少女が、望遠機能のあるデジタルカメラ片手に、事の行く末を見守っていた。

 

 

「………………」

 

 

 いや、固く結ばれた唇をして、見守るのではなく、監視しているというのが正しい表現か。

 周囲に他の人影はなく、それでも身を隠すようにしている事から、後ろめたい目的があるのは明白だ。

 

 

「……もし、妙な動きがあったら。その時は……」

 

 

 幼さを残す呟き声は、もちろん、誰に聞かれるはずもない。

 それでも少女は身を潜め、注意深く監視を続ける。

 監視している人物達の片割れに、存在を気取られているとも知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり、誰かに見られてる)

 

 

 遠慮なしに振り抜かれるアステリオンを捌きつつ、俺は首筋がむず痒くなるような、不可解な感覚を覚えていた。

 より正確に言うなら、学院の建物を出てからずっと、この奇妙なむず痒さがあった。

 それが視線であると気付いたのは、模擬戦の中、遠藤がこちらに向ける視線にも、同じような物を覚えたからなのだが、一体誰が……?

 一応、この訓練も届け出してあるし、護衛のリリィが来ているのかも知れない。

 

 

(にしても、こんなに感覚が鋭敏になるなんて、またカレイドスコープを無意識に発動してるのか? 気をつけなければ……)

 

 

 ユニークスキル(仮)の制御は、今のところインビジブルワンしか安定していない。

 意識して発動できるのも同じで、目下、発動可能なスキルを増やす事を優先している。だから遠藤の申し出を受けた。

 彼女が言った暴走・暴発の危険性も、間違いなく孕んでいる訳だが、それを確認するにも先ずは、他のスキルを使えるようにならねばならない訳で……。悩ましい問題だ。

 

 ちなみに、義肢の開発は今のところ順調で、少し前から装着用ハーネスの改良が始まっている。

 最初の頃はゴテゴテして蒸れまくっていたハーネスも、今では肌着感覚で身に付けられるほど、軽量・薄型化に成功していた。真島さんマジ天才。

 埋め込み型の接合機も実用段階に入っているそうなので、今年の内には手術が可能になるかも知れない、とのこと。

 受けるか受けないかはおじ様に任せます……と、真島さんは言ってくれた。受けたくもあるし、怖くもある。こちらもまた悩ましい。

 

 

「ちょっとぉ。さっきから別のこと考えてるんじゃない?」

「お、よく分かるな」

「女の子は、そういうのにも敏感なのよ。どうせ他の女の事でしょう」

「さぁな。当たらずとも遠からず、だ」

「何よそれ、こないだの仕返し?」

「そんなつもりは……」

 

 

 考え込んでいると、肩で息をする遠藤が、不機嫌そうな顔で垂れる汗を拭い言った。

 そろそろ晩夏とはいえ、まだ運動すれば汗がダラダラと出てくる。

 そして遠藤だが、訓練着ではなく薄手の夏用制服を着ているため、汗で肌に張り付いて、とても見た目が素晴らし──もとい、嬉しい──でもなく、際どい事になっている。

 ダサいからって制服を着て、汗で濡れ透け。もうコレ絶対にワザとだ。でなきゃ気付いて隠したりなんだりするはず。

 その歳で痴女ってヤバいだろ……。

 

 

「というか、おじ様スタミナあり過ぎよ。ぜんぜん疲れてなさそうなんだけど……」

「いや、疲れてはいるぞ? 疲れていても動けるように、訓練させられたんだ。昔取った杵柄だよ」

「ふぅん……。ま、いいわ。嫌でも興味を持たせてあげるから」

 

 

 にやり。

 遠藤は自信ありげに長い髪をかき上げ、空いた手でスカートの端を摘まむ。

 

 

「私、今ね……どんなのを穿いてると思う?」

「え? 穿いてるって、何を」

「言わせる気なのぉ? ……下着よ、し・た・ぎ」

「真っ赤なレースの見せパンだろ」

「えっ」

「あっ」

 

 

 やべっ、つい正直に答えちまった!? ガン見してたのバレた、セクハラで訴えられる!!

 ……と、戦々恐々する俺だったが、何故か遠藤の顔は驚愕に満ちていて。

 

 

「な、なな、なん、で……」

「いや、なんでも何も、さっき、フェイズトランセンデンスを使った時にスカートが……え? あれって、もしかして見せパンじゃなかったのか!?」

「……っ、よ、用意してたのに、穿き忘れちゃってた……っていうか全身透けてるじゃないのよぉ!?」

 

 

 スカートの前と胸元を押さえ、真っ赤な顔で俯く遠藤。

 前者だった、前者だったよ答え! 意外とうっかり者だなこいつ!

 あれか? 周りに女子ばかりだったから、見られても良いと油断してたとか?

 普通に恥ずかしがられると、こっちが悪い事したみたいじゃないか……。

 

 

「ごめん……。なんか、ごめん……」

「ぁ、謝らないで! ふんっ、べ、別に見られて困る物じゃないし!」

「困ってないで照れてるもんな」

「照ーれーてーなーいー! えーえー、良かったわねぇー、女子中学生の生下着を拝めてー!」

「良かった……? どっちかっていうと、こっちも反応に困るから遠慮したいんだけど」

「即座に拒否するんじゃないわよっ、このバカぁ!!」

「うお危ねぇ!」

 

 

 ノーモーションでアステリオンが迫り、俺は慌ててアガートラームを間に挟む。

 なんとか防御には成功したが、その瞬間、ぶつかり合うCHARMから、眩い光球が発生する。

 

 

「なんだっ!?」

「これは、マギスフィア?」

 

 

 マギスフィアとは、端的に言えば凝縮されたマギだ。

 様々な要因で発生し、いずれの場合も共通するのは、炸裂すれば大きな破壊力をもたらすこと。

 そんなマギスフィアが何故か、俺のアガートラームに引っ付いて離れない。

 

 

「ちょ、おいっ! どうすりゃいいんだコレぇ!?」

「え、ええっと、射撃するみたいな感じで、とにかく遠くへブン投げて! なんだか不安定そうだし、爆発するかも!」

「うぉおぉおぉマジかぁああっ!? そ、そいやぁ!!」

 

 

 言われた通り、適当な方向へアガートラームを振り抜く。

 割とすんなりマギスフィアは飛んで行き、遠くの雑木林の中へ。

 カッ──と閃光が発せられ、間もなく爆音が轟いた。

 

 しばらくすると、遠藤が作ったクレーターよりも、更に大きなクレーターが視界に入った。

 頭上から、爆風で巻き上げられた土や、砕けた木の破片も降って来る。

 あの破壊力が、俺の手の中にあったのか……。

 今更ながら、手が震えた。

 

 

「……じゅ、寿命が縮んだ……」

「同感だわ………………? あら?」

「なんだ、どうした」

 

 

 へたり込んでクレーターを眺めていたら、同じようにヘタっていた遠藤が、急に立ち上がった。

 目を細め、険しい表情を浮かべている。

 

 

「……マズいわ! 着弾地点付近で美少女が倒れてる!」

「え? お前なに言ってんの? この距離で見えるわけないだろ、観測系のレアスキル持ちでもないんだから」

「ホントだってば! 私の美少女センサーにビンビン来てるわ、ホラ行くわよ!」

「えぇぇ……なんかドッと疲れが来てるんだけど……」

「おじ様がブン投げたんでしょっ、偶然でも責任は持ちなさい!」

「へぇーい……」

 

 

 急に元気一杯となった遠藤に腕を取られ、仕方なく立ち上がる。

 目測で数百mは離れてるはずだが、彼女は確信しているらしい。なんだよ美少女センサーって。そんなもん俺が欲しいわ。

 なんて思いながら、疲れた体に鞭打ち、大跳躍で現場に急ぐ。

 すると、クレーターの端っこで、根元から倒れてしまった木にもたれる、一人の少女の姿があった。

 

 

「嘘だろ、本当に倒れてる!?」

「だから言ってるでしょ、もう! って、神琳じゃないの」

「知り合いなのか?」

「同じクラスなのよ。しっかり、ねぇ!」

 

 

 気を失っている、中等部の制服を着た少女──シェンリンさんの肩を揺らしながら、遠藤は声を掛け続ける。

 有り体に言えば、美少女だった。

 白井さんにも負けない、長く艶やかな髪。

 隣に居る遠藤も(見た目だけは)美少女なのだが、それが霞んでしまうくらいの造形美。

 成長すれば、百人が百人、彼女を美しいと褒め称えるのは間違いないと、そう言い切れる。

 

 そんな少女が、俺の投げ捨てたマギスフィアの爆発に巻き込まれ、気絶した。

 しかも、瑕疵一つなかったであろう玉の肌に、その顔に、破片か何かで出来たと思われる、一筋の傷が見えた。

 女の子の顔に、傷をつけてしまった。

 血の気が引くのを自覚する。

 ……ところが遠藤は、全くもって自分のペースを崩さず。

 

 

「意識がない……。仕方ないわ、気を失っている隙に、ここは私が人工呼吸を!」

「隙にって言ったか今? させるかアホ、普通に呼吸しとるっつーの! お前もういいから離れろっ」

「じゃあ触るだけ、いえ見るだけだから! なんならおじ様も混ぜてあげ……やっぱ今の無し。とにかく私が運ぶわ! そこどきなさい!」

(んんんあああああっ、コイツ引っ叩きたいいいいい!)

 

 

 思いっきり歯を食い縛り、出そうになった言葉を噛み殺す。

 落ち着け。脳のシワの隅々まで性欲に支配されたバカは放っておくんだ。今は、シェンリンさんに適切な治療を受けさせる事が優先だ!

 手をワキワキさせるバカ(二度目)からシェンリンさんを守るため、俺は気を失ったままの彼女を横抱きに、大跳躍を開始する。

 背後に迫るバカ(三度目)の「待ちなさぁーい!」という怒号のおかげか、到着は思った以上に早まりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 すっかり日も暮れ、薄闇に落ちつつある、百合ヶ丘女学院の併設病院にて。

 看護師さんから許可を得た俺と遠藤は、シェンリンさんが一時入院した病室を訪れていた。

 少し緊張しながらドアをノックすると──

 

 

「どうぞ」

 

 

 柔らかく、同時に涼やかな声が返される。

 失礼します……と断りを入れて入室すれば、ベッドで上体を起こす、美しい少女が微笑んでいた。

 その頬には、細長い医療用テープが貼られており、痛々しい。

 

 

「体の具合いはどうだい? 郭神琳さん」

「ご心配には及びません。ただ気を失っただけですから」

「頬の傷は……」

「処置が早かったので、痕も残らないそうです」

「そうか、良かった……」

 

 

 その言葉を聞き、ようやく肩の荷が下りた気分だった。

 偶発的な事故とはいえ、女の子の顔に傷をつけては、申し訳が立たない。

 俺はベッド脇に立ち、距離を保って、深々と頭を下げる。

 

 

「この度は、本当に申し訳ない事をしました。すみませんでした」

「えっ。あ、頭を上げてください。わたくしがあんな所に居た事が、原因でもありますし……」

 

 

 大の男が頭を下げているからか、郭さんの困惑が声で分かる。

 ひとまず謝罪は済み、許しも得た? ので一安心……と行きたかったけれど、遠藤は空気を読もうとしなかった。

 

 

「それよそれ。ねぇ、神琳。貴方どうして、あんな所に居たのかしらぁ? “こんな物”を持って」

「う……」

 

 

 預かっていた“それ”──衝撃で壊れてしまったデジカメを突きつけられ、郭さんは口籠る。

 俺も気になってはいたし、彼女の方から話してくれないかなぁ、と淡い期待を寄せていた所にこれである。

 面の皮が厚い。ある意味、羨ましくもある。

 やがて、沈黙に耐えかねたらしい郭さんが、おずおずと口を開いた。

 

 

「……噂の真偽を、確かめようとしていたんです」

「噂? どんな噂だい?」

「遠藤さんと、“貴方”が、その……。人目を忍んで、“何か”しているのではないか、と……」

 

 

 俺と遠藤が、何かしてる?

 郭さんの顔が若干、赤くなっている事から察するに、如何わしい噂なのだろう。

 うぅむ……。最近、遠藤のせいで注目されているとは思ってたが、そこまで行ってたか……。

 世に名高いリリィが集うお嬢様学院といえども、年若い少女達。ゴシップにワーキャーするのが楽しいのかも知れない。

 噂される方としては堪ったもんじゃないけど。遠藤とはちょっとなぁ。

 

 

「もしそれが真実であったなら、証拠を確保して、理事長代行に直訴するつもりでした」

「そ、そうだったのか……」

「ですので、どうか気を遣わないで下さい。こうなったのも、自業自得なんです」

 

 

 自業自得。

 郭さんは自嘲めいた笑みを浮かべるが、俺自身、頭の中は煩悩に塗れているので、正直笑えない。

 百合ヶ丘女学院にとって、俺は異物だ。事情があるから許されているだけで、本来なら排除されるべき存在。

 郭さんの行動は決して過剰反応ではなく、彼女達自身の身を守るための、自衛行動に過ぎない。

 疑われていたのは少しショックだが、仕方ない事だろう。良い機会だと思って、生活態度を改めねば。

 

 

「最近、妙に女の子からの熱い視線を感じてたけど、そういう事だったのねぇ。残念だわぁ」

「お前は本当にブレないな。郭さんの心配も分かるけど、まぁ、遠藤はこういう奴だし、滅多な事は起きないよ、きっと」

「そうそう。私がおじ様と一緒に居るのは、おじ様に付随してるモノが目的だしぃ?」

「付随しているモノ……? ………………っ!?」

 

 

 なんの気無しに遠藤の言い放った言葉が、何故だか郭さんを赤面させる。

 あ〜……。これは、ちょっと勘違いしてそうだな。

 遠藤の目的は白井さんだけど、あの言い方では、男の股間に宙ぶらりんしているモノと間違えてしまう。

 早め早めが肝心と、俺は訂正するため郭さんに声を掛け……ようとしたのだが、にんまりと笑う遠藤に先を越される。

 

 

「あらあらぁ〜、ねぇ神琳〜、顔が赤いみたいだけど、どうかしたのぉ〜?」

「な、なんの事でしょう? 遠藤さんの気のせいでは」

「うふふ。もしかしてぇ、“アレ”の事だとでも思ったぁ? 意外とぉ……」

「ち、ちが、違います! わたくしはそんな、ふしだらな想像なんて!」

「あらあらあらあらぁ〜、神琳の中の“アレ”って、“ふしだら”な事なんだぁ〜。しおらしい顔してても、やっぱり興味津々なのねぇ〜」

 

 

 うっわぁ……。ヒドい……。

 まるで死にかけの獲物を前にした肉食獣が如く、遠藤が郭さんを弄ぶ。

 ただでさえ色白な肌は、もう完熟トマトみたくなっている。

 これはこれで可愛い反応だけど、流石に可哀想だった。

 

 

(おい、止めてやれよ! なんでそんなに絡むんだっ)

(べぇっつにぃ? 日頃から生活態度を注意されて面倒だったとか、女の子に声を掛けようとしたら邪魔されたとか、そんな事はないわよぉ?)

(……なぁ遠藤。世間はそれを逆恨みって言うんだぞ。知ってるか)

(うっさい!)

 

 

 潜めた声で遠藤を注意するも、全く効果無し。よっぽど相性が悪いらしい。

 見るからに折り目正しく、礼儀正しい郭さん。

 自由奔放な、わがままボディ(死語)の遠藤。

 対極に位置すると言っても良いだろう。

 

 

「──はと言えば……」

 

 

 ふと、地の底から響くような低音が、神琳さんの方から発せられた。

 顔は真っ赤なまま、しかしクワッと眼を見開き……。これぞ怒髪天を衝く、といった表情だ。

 怖っ。

 

 

「もとはと言えば、遠藤さん! 貴方のその言動こそが原因なんです!」

「は? 何よ急に」

「いつもいつも、可愛らしい女の子を見かける度に手を出して、興味がなくなったらあっさり放り出して、悲しませて。

 学院の風紀を乱すだけに留まらず、真面目な生徒を小馬鹿にまでして! 誰もが貴方の性癖を許容できる訳ではありません!」

「……ちっ。鬱陶しいわね……。そんなんだから、顔は良いのに友達の一人も居ないのよ、堅っ苦しい」

「なん、ですって……」

「ボッチの仕切り屋ほど、見苦しいものはなくってよぉ?」

「ちょ、おい、二人とも? あの、えっと、病院内だし、声を抑えて……」

『黙っててちょうだい(下さい)』

「はい」

 

 

 物理的に火花が散りそうな二人に挟まれ、俺は心臓バックバクである。

 まだ中学生だってのに、女同士の争いとはこんなにも恐ろしいのか。

 帰りたい。超帰りたい。帰っていいですか? ダメですかそうですか。

 

 

「遠藤亜羅椰さん」

「何、郭神琳」

「貴方に、決闘を申し込みます」

「……上等じゃない。受けて立つわ」

 

 

 凄んだ割に、もう俺の事なんか眼中にないらしく、厳しい眼差しと不敵な笑みという、正反対の表情で睨み合う。

 小さいはずのその背中に、何故だろう。ハブとマングース……違った、龍と虎の幻影が見えた気がした。

 一体どうなるんだ、これ……?

 

 






 前置きなしの言い訳タイム!
 例によってCHARMのロールアウト時期が不明なので、ラッキースケベ担当・亜羅椰ちゃんのアステリオンは先行量産型という事にしてあります(美鈴様のブリューナグと同じ扱い)。

 そして、アニメでは全く絡みの無かった亜羅椰ちゃんと神琳ちゃんですが、絶対に相性悪いと思うんです。
 本作では中等部のクラスメイトで、中学生らしい生意気さと、中学生らしい正義感がぶつかり合っています。バッチバチです。もうちょっと成長すれば、互いにスルーする事も出来たでしょうけど。
 実は神琳ちゃんの現CHARMも先行量産型アステリオンで、同じCHARMを持つ、正反対の二人として描きます。媽祖聖札を使い始めるのはまだ先という設定。
 あと、友達は普通に居ます。居ますが、美少女過ぎて数が少ないのは事実なので、亜羅椰ちゃんの一言は地味にクリティカルでした。

 冒頭の三人組? 覚え辛かったら少女A・B・Cで大丈夫です。
 また出るかも知れませんし、出ないかも知れません。

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