アサルトリリィPARABELLUM   作:苗陽さんガチ恋勢

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お祭り騒ぎ


17 オランダセリ ──Parsley── 戦技競技会、中等部編(高等部編はありません)

 

 

 戦技競技会。

 百合ヶ丘女学院で開催される、リリィとしての技量を競い合う場であり、普段は交流のないリリィ達が刃を交えられる、学びの場である。

 日頃の研鑽を披露するため。ライバルに力を示すため。気になるあの子にアピールするため。

 様々な想いを胸に、少女達はCHARMを振るうのだ。

 

 が、しかし。

 

 

『皆様、お待たせ致しました! 只今より、百合ヶ丘女学院、中等部戦技競技会メインイベント……。無差別級コスプレ選手権を開催いたしまぁーす!』

 

 

 この場に限って言えば、そんな事は全く関係なかったりした。

 マイク越しの真島さんの声が響くここは、改装した(デコったとも言う)地下訓練場である。

 場合によっては世間にプロフィールも公開されるリリィだが、まだ幼い中等部の生徒達を“妙な連中”から守るため、人目につきにくい会場が用意されるのだとか。

 そのせいでアングラっぽい雰囲気がより強まってしまったと思うのは、果たして俺だけだろうか。

 

 そして俺は、会場中央に位置する舞台のド真ん中に、真島さん、川添、俺の順で立っている。

 ああ、照明がやたら眩しい……。

 

 

(なぁ川添。百合ヶ丘女学院って、けっこう緩い校風だよな)

(まぁ、ね。明確な校則も無いし、個人の裁量に寄る部分も多い。だからこそ、こういう場では悪ノリするんじゃないかな)

(悪ノリね……。義父上の代役、断れば良かったかな……)

(そんな事を言って、本当は中学生の艶姿が目当てだったんだろう? 夢結を邪な目で見たりしたら、ただじゃ置かないからね)

(そっくりそのままお返しするよ)

(何を言うのさ。薫の代役とはいえ、僕だって生徒会役員なんだ。そんな事をするはずないじゃないか)

 

 

 高等部の生徒が中等部の生徒を、中等部の生徒が高等部の生徒を応援できるように、競技会は二度、日程をずらして催される。

 普段なら義父上が監督役として立ち会うようなのだが、今回に限って外せない用事が入ったとかで、代役を打診された。

 曰く、「男の目が無いと、羽目を外しすぎる生徒が出てしまうからのう」とのこと。遠藤という心当たりがあるだけに、断れなかった。

 

 ごめんなさい嘘つきました。本当は心で小躍りしながら引き受けましたとも。

 女子校のお祭り騒ぎに混ざれるんだ。喜んで何が悪い。

 実際、コスプレ選手権の前座(じゃないけど)である、フィールドアスレチックや模擬戦なども、とても良い目の保養になりました。絶対領域って最高ですよね。

 

 そんでもって、川添は生徒会からのお目付役として競技会を監督するというのだが、絶対に嘘だ。白井さんを間近で見たいがため、立候補したに違いない。

 まだ会った事のない林薫さん──アールヴへイムの主将を務めるリリィ──の、困った顔が目に浮かぶ。

 そう。実はこのコスプレ選手権には、白井さんも出場するのだ。こういう催し物には興味なさそうな印象を持っていたのだが、まぁ、細かい事は気にしないでおこう。

 だって見たいし。白井さんのコスプレ姿。

 この気持ちだけは、川添と通じ合っている自信がある。あるからなんだ、と言われればそこまでだけども。

 

 

『今回は特別審査員として、二人のゲストをお呼びしています。まずはこの方! 今や院内で知らぬ生徒は居ない、理事長代行の義息、高松昴陽(こうよう)さんです! 通称“おじ様”ですねー』

「ご、ご機嫌よう」

『理事長代行の代役として、男性目線での審査をして頂きます。よろしくお願いしまーす!』

「どうぞよろしく……」

 

 

 そうこうしている内に、挨拶の段階に入っていたらしく、不慣れながらに頭を下げる。

 女子生徒の視線が一気に集まり、嫌が応にも緊張したけれど、「おじ様ー!」という黄色い声援で迎えられた。意外だ。

 認知されてるんだなぁ、と感慨深く思ったのも束の間……。

 

 

『次はこの方! 甲州撤退戦から連戦連勝、作戦行動中は一度も負け無しのレギオン・アールヴへイムの屋台骨、川添美鈴様です!』

「ご機嫌よう」

『美鈴様には、私達、中等部生徒の先達リリィ、そして女性としての観点で審査して頂きます。よろしくお願いしまーす!』

「先輩として、厳しく採点させてもらうよ。よろしく」

 

 

 俺の時以上の、津波のような声援が川添に浴びせられた。

 美鈴様ー! だの、素敵ー! だの、もうとにかく凄まじい。

 明らかに負けている。時折、視線だけで川添がドヤってくるのがまた悔しい。

 

 

『お二方に加え、会場の皆様の投票により、出場者に得点が入ります。

 おじ様と美鈴様が各10点、会場投票点が計30点の、最高50点満点での評価を、予選を勝ち抜いた一年生から三年生が、入り乱れて争います!

 果たして、最も可愛らしく、そして美しく着飾ったリリィは誰なのか! 司会進行は私、工廠科の真島百由でお送り致しまーす! どうぞよろしくー!』

「真島さんって、本当に多芸だよね……」

『あははー、どうもどうもー』

 

 

 愛想を振りまく真島さんに促され、俺と川添は審査員席へ向かう。

 観客席に背を向け、舞台が体の正面に来る形だ。ゴールデンブザーは無いっぽい。

 その代わり、1~10のキーを持つパネルボタンが置かれていて、これを使って点数をつけるようだ。マイクスタンドも無駄に本格的だった。

 

 

『それでは早速参りましょう! エントリーNo.1、元気で明るく若々しい! 保有レアスキルはヘリオスフィアの二年生、榮倉一歩(はじめ)さんでーす!』

「どもどもどもー、よろしくでーす! みんな見てるー?」

 

 

 真島さんが声を上げると、ファンファーレを伴い、ポニーテールの女の子が舞台袖から現れた。

 ピンク色が主色の魔法少女っぽい衣装を着て、CHARMも持っている。

 友人が見ているのだろう、観客席に向けて手を振っていた。うん、可愛い。

 

 

『榮倉さんの衣装は、チャーミーリリィですね。どうして出場したんですか?』

「実は、一回でいいからこういう服を着てみたくて……。ただそれだけです! いい記念にもなるかなーって!」

『なるほどー。気軽に参加した榮倉さんですが、予選を勝ち抜いたという事実は侮れません。という訳で、アピールタイムの準備をお願いします!』

「はーい!」

「……アピールタイム?」

「察するに、コスプレした状態で一芸を披露したりする事で、得点に繋げるんじゃないかな」

『美鈴様、ご説明ありがとうございまーす!』

 

 

 要するに、よくある美少女コンテストと同じような形式、という事だろう。

 真島さんが司会だし、どんな奇天烈なギミックがあるのかと心配だったけど、これなら大丈夫そうだ。

 ちなみにチャーミーリリィとは、リリィを題材にした魔法少女アニメであり、コアなファンが国内外に多いらしい。防衛軍時代の隊員仲間にも、食費を削ってまでグッズを買い漁る奴が居た。

 懐かしいなぁ。休みの日に無理やり見せられたっけ……。

 

 

「一番、榮倉唯! チャーミーリリィ、第3期の主題歌を歌います!」

 

 

 言うが早いか、榮倉さんという子はCHARMを構えてポージング。

 ポップな前奏の終わりと同時に、歌を交えて踊り始めた。

 軽やかなステップ。CHARMを華麗にフリップしつつ、歌声は決して乱れない。

 物怖じしないパフォーマンスが、相当の練習量を窺わせた。

 

 それだけでなく、曲の盛り上がりに合わせてCHARMが起動。榮倉さんは周囲に美しいマギの光を帯びる。

 あれは多分、ヘリオスフィアのマギ光帯バリアだろう。

 ミドル級以下のヒュージの攻撃なら、ほぼ防ぎきるだけの強度を持つそれを、演出の一環として使っている。

 美しさも然る事ながら、レアスキルの熟練度も見せつけられる、一挙両得のパフォーマンスである。

 

 コスプレ選手権なんていうから、正直、色物の集まりになるかと思っていたのだが、良い意味で予想を裏切られた。

 榮倉さん自身、世が世ならアイドルとして売り出せるほど容姿も整っているし、素直に見ていて楽しい。

 と、見惚れている間に曲は終わり、榮倉さんがペコリと一礼。会場には自然と拍手が溢れた。

 

 

『榮倉さん、見事にトップバッターを勤め上げてくれましたねー。手応えのほどは?』

「あ、はい。けっこう上手く出来たんじゃないかなーって思います! ……思うんですけど。思ってもらえるかなぁ……? い、今になって、緊張してきちゃいましたぁ……!」

『大丈夫大丈夫、自信持って! 皆様、お手元の投票ボタンをお願いしま〜す!』

 

 

 打って変わって弱気な榮倉さんを励ましながら、真島さんが投票を呼びかけた。

 歌も踊りも上手だったし、何より可愛かったし、個人的には高得点をあげたい。

 という訳で、俺は《ピコン》と8点のボタンを押す。

 

 

『それでは、集計結果の発表です! おじ様が8点、美鈴様7点、会場票24点の、計39点! 最初からかなりの高得点ですねー!』

「え、ホントに? やた、やったやったー!」

 

 

 効果音と共に、バックスクリーンに得点が表示されると、榮倉さんは飛び跳ねて喜んだ。

 観客席からも歓声が上がり、みんなの心をガッチリ掴んだ事が伝わってくる。

 いやぁ、いいもん見せてもらいました。

 

 

『ここで、審査員からのコメントを頂きましょう。おじ様、お願いします!』

「えっ、こ、コメント!? そう、だね……。正統派ながら、質の高いパフォーマンスと歌声で、完成度も高かったと思います。見ていて元気を貰えるような可愛らしさでした」

『なるほどー。美鈴様はいかがでしょう?』

「ダンスのキレが素晴らしかったね。CHARMフリップに淀みが無く、普段からよく鍛えているのが伺えたよ。レアスキルでのライトアップも意表を突かれたし、今後も期待できそうだ」

『美鈴様からお墨付きが出ました! 会場のコメントも、「可愛い!」や「頑張った!」で溢れてますね~。皆様、榮倉さんに拍手をー!』

「えへへ……。ありがとうございましたぁー!」

 

 

 暖かい拍手に見送られ、榮倉さんは舞台袖へと退場していった。

 こうして、順調な滑り出しを見せたコスプレ選手権は、次々に新しい少女達の登場で進んでいく。

 二番手から四番手は一年生と三年生の出番となり、忍者コスでユーバーザインからの多重○分身もどき、巫女コスでスキルは使わず超早口祝詞、シスターコスで何故か一人コント、カウガールで天の秤目を使ったCHARMの早撃ちなど、個人技が光るパフォーマンスが繰り広げられた。

 コントが意外と本格的だったのが驚きだ。「悔い改めなさい!」が耳から離れないんですが。彼女はどこへ行こうとしているのだろう。

 

 ともあれ、コスプレ選手権はまだ始まったばかりである。

 用意されていたペットボトルの水で喉を潤しつつ、俺は次の出場者を待つ。

 

 

『さてさて。会場も温まってきた所で、次に行ってましょう! エントリーNo.5、猫とニャンコとCATが大好き! 保有レアスキルはファンタズムの二年生、安藤鶴紗さんでーす!』

「……どうも……」

 

 

 ごふっ。

 

 予想外の人物が舞台に上がり、思わずむせた。

 眼を疑ってしまったが、そこに居るのは確かに安藤だった。

 服装こそ中等部の制服だけれど、そのおかげで猫耳と猫尻尾が強調されている。

 

 

「あ、あああ安藤!? な、なんでコスプレ選手権なんかに……」

「……猫缶三ヶ月分に、釣られた……。出るだけでくれるって言われたから……。OKした自分を殴りたい……」

 

 

 恥ずかしいのか、モジモジしているのがやたら可愛い。

 もともと可愛い女の子が猫耳をつけると、どうしてそれだけで可愛さが倍増するんだろう。不思議だ。

 にしても、猫缶三ヶ月分って……。本当に普段は猫中心生活なんだな……。

 

 

『えー、聞く前から出場理由も明らかになりましたし、アピールタイムに行っちゃいましょう! 安藤さん、どうぞー!』

「う……」

 

 

 真島さんがパフォーマンスを促すも、身を縮こめて更にモジモジする安藤。

 戦闘中ならいざ知らず、こういった場面では人見知りしてしまうのだろう。白い肌が真っ赤に染まっている。こう、無性に頭を撫でくり回したい衝動に駆られる。

 無言のまま、かなり時間が経過したが、やっと意を決したようで、彼女はゆっくりと両手を顔の横まで上げ……。

 

 

「……に、にゃあ……」

 

 

 ──と、鳴いた。

 静寂が広がる。

 一秒毎に顔の赤みは増し、口元がわななき、目尻に小さな涙まで浮かんで。

 

 

《ピコン:9》

『おおっと! おじ様が早くも9点をつけました!』

「はっ。て、手が勝手に……!」

「これだから男は……」《ピコン:8》

『と言いつつ美鈴様も8点を! これはどうした事だー!?』

「……恥らう乙女は、愛らしいものだよね」

 

 

 知らない内に点を付けていたが、なんかもう、これで良い気がする。

 それを皮切りに、観客席から「純粋に可愛い」「あんな顔するんだぁ」「シンプルイズベスト」などという囁き声も聞こえてくる。

 良かったな、安藤。君の猫ぢからが認められたぞ!

 後で絶対に思い出したくない黒歴史になるだろうけど!

 

 

「か、帰る。もう帰るっ!」

『あ、ちょ、安藤さん? ……行っちゃった。えっと、これは辞退、いや棄権って扱いですかね?

 ……あー。誠に残念ながら、安藤さんはリタイアです。会場にも悶えてる方々が見えますので、いい線行ったと思うんですが……』

 

 

 ところが、当の本人は恥ずかしさの限界が来たらしく、涙目のまま走り去った。

 もう少し眺めていたかったのに、残念だ……。

 まぁ、どうせ誰かが写真に収めてるだろうし、終わったらデータをコピーさせて貰おう。十年後とかに見せたら悶え苦しむかも知れない。

 

 

『気をとり直して、次に参りましょう! 続きまして、エントリーNo.6、一字違いで大違い! 説明不要の問題児、保有レアスキルはフェイズトランセンデンスの二年生、遠藤亜羅椰さんです!』

 

 

 続いて登場したのは、コスプレのド定番、メイド服を着た遠藤だった。確かに苗字が一字違うだけで大違いだわ。

 メイド服はクラシックなタイプではなく、ミニスカートで胸元が大きく開いた、エロゲに出てきそうな感じである。

 それを見事に着こなしちゃっているんだから性質が悪い。

 

 

「皆様、ご機嫌よう。でも、問題児ってヒドくありません?」

「いや事実だろうに……」

「おじ様には言ってないわよ! ふん!」

 

 

 ボソッと呟いただけなのに、遠藤が過剰に反応してくる。地獄耳め。

 最近、妙に当たりが強い気するな。反抗期か?

 

 

『えー、遠藤さんは何故この大会に?』

「それはもちろん、私の魅力をアピールするためです。最近、色んな意味で飢えてて……。あ、恋人募集中でぇ~す! 投票してくれた方には、漏れなく私の連絡先と生写真を差し上げまぁ〜す!」

「一気に不健全な大会になった気がするね……」

「婚活パーティーのがまだ健全だな……」

 

 

 思いっきり前屈みになって、谷間を強調しつつ投げキッス。

 ……エロい。座っていなかったら危険だったかも知れないので、本当に自重して欲しい。

 その肉食さ加減が男に向けられていたら、一体どれだけの被害者が出ただろうか。まぁ、きっとその被害者達は、みんな幸せなんだろうけど。

 

 

『まーまー、後も詰まっていますんで、ここはササッとアピールタイムに行きましょう! 遠藤さん、自信のほどは?』

「当然、勝ちに行きます。これをぉ……ご覧あれぇ!」

 

 

 真島さんのスムーズな進行に対し、遠藤はアシスタントの生徒に運ばれて来た物……二台のキャンバスらしき物体に掛けられた布を取り払った。

 予想通り、布に隠されていたのはキャンバスで、それぞれに描かれていたのは…………俺と、川添?

 

 

「私が描いた、おじ様と美鈴様の油絵です。事前に情報を仕入れていたので、じっくり描かせて頂きました」

『これは意外な展開! 皆さん、色んな意味で危ないアピールを覚悟していたでしょうが、堅実的な芸術作品で来ました!』

「ふふん。意外性の女、と呼んでくださって構いませんよぉ?」

「おおお……」

「なかなかの腕前だね」

 

 

 得意げに胸を張る遠藤。

 零れんばかりの大質量が弾むけれど、その引力を無視させるほど、遠藤の油絵は素晴らしい出来栄えだった。

 写真でも見て描いた感じの、正面からの人物画で、構図に面白味は無いが、その分、描き手の技量がそのまま反映されている。

 ここまで上手いと、なんだか美化されている気もしてくるから変な感じだ。

 確かに、一芸と評して申し分ない。……のだが、遠藤のアピールタイムは終わっていないようで。

 

 

「とはいえ、事前作成の絵だけで済ますのもツマラナイですし、この場での三分スケッチにも挑戦させて頂きます。おじ様、美鈴様。お手伝いくださいます?」

「手伝い……。モデル、という事かな。僕は構わないけれど」

「まぁ、モデルくらいなら」

『ではお二方、ステージへお願い致しまーす!』

 

 

 どこからともなく、遠藤がスケッチブックを取り出し、手には鉛筆を構える。

 鉛筆画か。この短時間で油絵は無理だろうから、必然的にそうなるのだろう。

 俺は川添の後に続いて舞台の上へ上がり、別のアシスタントさんが持って来たらしい小道具の中で指示を待つ。

 

 

「う~ん……。おじ様は椅子に座って、体をちょっと斜めに。手は膝に置いてください。美鈴様は隣にお立ち頂いて、椅子の背もたれに手を置く感じで……はいそこ! そのままでお願いします!」

 

 

 もちろんモデルの経験なんて皆無なので、俺はおっかなびっくり体勢を微調整するのだが、川添は慣れた様子で、単なる立ち姿も堂に入っている。

 立っているだけで絵になるような、顔面偏差値高めの方々が羨ましい。とりあえず落ち着かなくては……。

 

 

「百由様、準備できましたわ」

『りょーかーい。それでは、三分スケッチ……スタート!』

「……おじ様! 動かないで!」

「は、はいっ」

 

 

 心の準備もそこそこに、遠藤は凄まじいスピードで鉛筆を動かし始めた。

 こちらを見つめる視線は、普段の軽いノリからは想像すらできないような、ひたむきな真剣さが見て取れる。

 思わず、胸の鼓動が早くなってしまう。こんな形で遠藤の新しい一面を見せられるとは、思いも寄らなかった。嬉しい誤算、だろうか?

 

 

『3……2……1……終了ー! 瞬く間に三分が経過してしまいました!

 果たしてどのようなスケッチが完成したのでしょうか?

 拡大カメラを用意してますので、ステージ奥のスクリーンにご注目くださーい!』

 

 

 カウントダウンに合わせて、鉛筆を置く遠藤。

 一つ、大きく肩で息をすると、体で隠すようにスケッチブックを持ち、カメラが置かれているという台へ。

 やや勿体ぶりつつ、ゆっくりとカメラの前に置かれたそのスケッチに、俺は息を飲んだ。

 

 

(……これは)

 

 

 どこか緊張した面持ちの俺と、それを見下ろしながら、微かに口角を上げる川添が、そこに居た。

 観客席から、感嘆とした驚きの声も聞こえてくる。

 細かい部分は敢えて省き、感情や表情に重きを置いた筆遣いが、素人目にもよく分かった。

 こんな才能まで持ってたのか、遠藤は……。

 

 

『……はっ、お、思わず見入ってしまいました。素晴らしいスケッチですね、遠藤さん!』

「もっと時間があれば、ディテールを凝ったり出来るんですけど……。まぁ、こんなものでしょう。鉛筆画は本分じゃありませんし」

「本分じゃないのにこの出来とは、恐れ入るね。お見事だよ」

 

 

 川添の拍手が呼び水になり、会場全体から大きな拍手が湧く。

 遠藤の鼻がピノキオみたいに高く長ーくなっていくのが見えるけれど、それも無理からぬ事か。

 今回ばかりは、素直に褒める他に無い。俺も、すっかり気に入ってしまった。

 

 

「おじ様はいかがですかぁ? ぜひ感想を頂きたいんですけど」

「……欲しい」

「え?」

「このスケッチ、良かったら貰えないかな。部屋に飾りたい」

「そ、れは、構いませんけど……。そんなに、気に入ったの……?」

「ああ。遠藤、凄いな。見直した」

「………………ま、まぁ? 私にかかればこのくらい簡単だから、言ってもらえれば何枚でも描いてあげるわ!」

 

 

 おーっほっほっほ! という高笑いはしないまでも、遠藤は踏ん反り返り、得意満面の笑みで言う。

 調子に乗っちゃって、全く。

 こんな風に喜ぶ姿は、年相応の女の子にも見えて、ちょっと安心する。

 ま、必要以上に上げた分、直ぐに下げるんですが。

 

 

『健全なアピールタイムが終了したところで、いよいよ集計結果の発表です! おじ様が6点、美鈴様5点、会場票9点の、計20点! 結果はふるわず、断トツの最下位ー!』

「えええっ!? なんでよぉ!」

 

 

 よっぽど驚いたのか、あんぐりと大口を開けて叫ぶ遠藤。

 あれだけ好感触を得ていながらの最下位だ、仕方ない。

 

 

「絵の腕前は凄かったんだけど、コスプレと関係性が見つけられないのが、ちょっと……」

「右に同じく。絵は素晴らしかったし、衣装自体も似合っているけれど、どうにもチグハグな印象が否めないね」

『会場の皆さんも、似たような理由で投票しなかった方が多かったようです。

 数少ない投票されたコメントも、「凄いけど連絡先はいらない」「ちょっと描いてほしいけど生写真は勘弁」「体だけの関係ならいいわ」などが寄せられました。

 最後の人は生徒会に通報しときますねー』

「うぐぐぐ……。納得いかなぁーい! せめて、せめて最後の人の名前だけでもぉー!」

『はーい遠藤さんありがとうございましたー。郭さん(係の人)、お願いしまーす』

「かしこまりました。遠藤さん、行きますよ」

「ぐえっ、ちょ、チョーカーを引っ張んないで……っていうか、なんでまたアンタなのよぉ!?」

「知りません。セット扱いされて迷惑なのはわたくしです」

 

 

 ジタバタと暴れる遠藤の首根っこを掴み、笑顔で怒る郭さんが、生暖かい拍手に送られて颯爽と舞台を去った。

 もしかして、このためだけに待機してたとかか?

 ……お疲れ様です。後で何か差し入れさせて頂きます。

 

 

『さてさて。なんだかオチがついちゃった感もありますが、まだまだ大会は続きます。次の方、行ってみまーっしょう!』

 

 

 気を取り直した真島さんが、変なポーズをつけて司会進行に戻る。

 しかし、遠藤のキャラが濃過ぎたせいか、その後の出場者は印象が薄くなってしまった。酷い巻き込み事故があったもんである。

 それを打ち破る強者が現れたのは、コスプレ選手権も終盤。

 残る出場者を二名とした頃合だった。

 

 

『長らくお付き合い頂いたこの大会も、残すところ後二名となりました! 次はこの方! エントリーNo.12、逃げ足の速さは天下一品! 保有レアスキルは縮地の三年生、吉村・Thi・梅さんでーす!』

「ううう……。逃げきれなかった……」

「ほら、行くよ梅!」

「観念なさい!」

 

 

 疲労困憊した様子の天野さんと番匠谷さんに、両腕を抱えられてステージへ上げさせられたのは、フード付きのコートで衣装を隠す梅ちゃん? だった。

 声は間違いなく梅ちゃんなのだが、すっぽりコートに隠れてしまっている。

 実を言うと、どんな衣装を着ているのかは既に知っているので、全く問題なかったりするんだけど。

 天野さん達とのお茶会で見せられた時も思ったが、“アレ”を着ている梅ちゃんは、絶対に可愛いはずだ。

 

 

『実はもっと前に登場予定だった吉村さんですが、今の今まで学院中を逃げ回っており、御友人の尽力でやっとの登場となりましたー。往生際が悪いですねー』

「……なぁ、今からでも辞退できないか? わたしが着飾ったって可愛くないし、誰も喜ばないだろ? な?」

「梅、自分の事そんな風に言っちゃダメだよ。少なくとも、私と依奈は喜ぶんだから」

「そうそう! バッチリ似合ってるから、自信持って!」

「……本音は?」

「恥ずかしがる梅を見てみたいかなぁと」

「物置の肥やしを有効活用したくて」

「うぐぐ……逃げたのは確かに悪かったけど、けどさぁ……」

 

 

 抵抗虚しく、梅ちゃんは押し出されるようにして舞台の中央へ。

 やっぱり、“あの衣装”を着るのは恥ずかしいんだろう。スポーティーな印象の梅ちゃんからは、随分とかけ離れてるし。だがそれが良いのだ。

 あー早く見たいなー。まだかなー。

 

 

『それでは、お披露目と参りましょう! 天野天葉・番匠谷依奈プロデュースの……』

「甘ロリ!」

「梅ちゃんよ!」

 

 

 祈りが通じたらしく、二人の手によって梅ちゃんのコートが剥ぎ取られる。

 露わになったのは、フリルとリボンがてんこ盛りの、白とピンクの布地で織られた、ロリータファッションな梅ちゃんだった。

 いつも頭の上で結んでいる髪も下ろしていて、これまたフリルをガン積みなカチューシャで飾っている。

 浅黒い肌と甘ロリファッション。白と黒のコントラストが、何物にも代え難い愛らしさを演出する。

 普段は元気一杯な梅ちゃんが、恥ずかしげに俯き加減なのもポイントが高い。

 恥ずかしがったり、照れたりしている女の子っていうのは、どうしてこうも男心をくすぐるのか。摩訶不思議である。

 

 

「ううううううう、恥ずかしい死にたい逃げたい……っ」

「言っておくけど、逃げたら罰ゲーム追加だからね」

「犬耳と猫耳と兎耳とパンダ耳、どれがいい?」

「に、逃げない、逃げないからっ。これ以上は勘弁だぁ!」

 

 

 情け容赦のない天野P、番匠谷Pの追撃に、梅ちゃんの泣きが入った。

 褐色甘ロリ少女にケモ耳か……。若干、属性過多な気もするが、アリっちゃアリだろう。

 猫耳つけたら、安藤が飛ぶような勢いで戻って来そうだ。

 

 

《ピコン:9》《ピコン:9》《ピコン:9》

『あのー、おじ様? そんなに連打しても点数は変わりませんよ?』

「あ。いや、違うんだ真島さん。手が止まらなくて」

『どうやら、気に入って頂けたようで……。しかし、まだアピールタイムが待っていますから。おじ様、これどうぞ』

「え? ……眼鏡?」

 

 

 勝手にボタンを押しまくる右腕の義肢と格闘していたら、何故だかゴツい眼鏡を渡された。

 俺、視力は悪くないんだけど……?

 

 

『小型カメラとマイクが搭載されてますので、おじ様の見聞きした物が、スクリーンに投影される仕組みです。掛けた状態でステージに上がってくださいませー』

「はあ……。分かったよ」

 

 

 どうやら、アピール内容は打ち合わせ済みっぽい。いや当たり前か。

 言われるがまま舞台に上がり、俺はとりあえず、天野Pと番匠谷Pに向けてビシッと親指を立てる。

 すると、一仕事終えた後のような清々しい微笑みと共に、サムズアップがビシッと返された。うん、いい仕事したよ、君達。

 が、まだ最後の仕上げが残っている。天野Pはスカートのポケットから、何やらメモの切れ端を取り出して梅ちゃんに渡す。

 

 

「じゃあ、梅。おじ様に向かって、この台詞を言うのよ」

「台詞って………………っ!? な、おい天葉、これは流石に酷いゾ! 依奈、なんとか言ってくれ!」

「ごめんねー。実は私もソラに弱みを握られてるのー。どんな弱みかは考えてないから言えないけどー、助けるのは無理なのよー。だから頑張れー」

「嘘つくならせめて隠す努力しろっ! くうう……分かった! やれば良いんだろ、やれば!」

 

 

 ヤケクソ気味に大見栄を切った梅ちゃんは、服に似合わない足取りで、ズカズカと俺の前に立った。

 な、なんだ? どういう台詞なんだろう?

 

 

「すぅ……はぁ……すぅ……」

 

 

 何度も深呼吸を繰り返し、けれど落ち着かないらしく、手をソワソワと遊ばせている。

 キッとこちらを睨んだと思えば、すぐさま顔を逸らしてしまい、一目で分かるほど頬も染まっていた。

 なんだろう、この緊張感……。まるで、告白でもされる直前みたいな……。

 というかだ。俺が見てるこの光景、丸っとスクリーンに映ってるんだよな? ある意味こっちも羞恥プレイなんですが?

 

 

「だ……だ、だ、だだ、い……だい……」

 

 

 ようやく覚悟を決めたのか、梅ちゃんは吃りながら口を開く。

 だい、だい……。橙? え、柑橘類?

 なんてスッとぼけた連想をしたのも束の間、頬を上気させ、潤んだ瞳を上目遣いに、梅ちゃんは──

 

 

「だいすき」

 

 

 か細い声で、そう呟いた。

 俺は死んだ。

 

 

「ごはあっ」

『これは強烈うぅぅ! 甘ロリ梅ちゃんのダイレクトアタックに、おじ様も一撃でノックアウトだー!』

「うぁああああああっ!? 痒い痒い痒い全身が痒いぃぃぃっ!! こんなのわたしじゃなああああいっ!」

 

 

 思わず口元を押さえ、舞台の上で崩れ落ちる俺。

 本当に、一撃で心臓を持ってかれたわ……。一瞬マジで止まった気がする。

 梅ちゃん自身は身悶えしつつ地団駄してるが、それより観客席のどよめきが凄い。

 アールヴへイムに所属してる有名人だから、普段の姿を知っている人も多いのだろう。

 要するに、ギャップ萌えだ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った。いや、たぶん一回死んだ」《ピコン:10》

「大袈裟な……と言いたいところだけど、あれの直撃を受けたら、無理もないだろうね。僕でも厳しかったかも知れない……。

 まさか、こんな秘密兵器を用意しているだなんて。天葉君も依奈君も、なかなかのプロデュースだった。素晴らしい」《ピコン:9》

『会場からのコメントでは、「新世界が見えた」「ゴスロリじゃなくて甘ロリなのが良い」「おじ様そこ代わって」などの意見が寄せられましたー。得点も堂々の26点! 合計は45点で、トップに躍り出ました! さっすがまいまい!』

「もう好きにしてくれ……」

 

 

 ほうほうのていで審査員席に戻り点を付けると、合計点で梅ちゃんがトップになっていた。納得のいく結果だ。

 ぐんにょりしてる本人は、ツヤツヤした笑顔の天野Pと、鼻にティッシュ詰めた番匠谷Pに連れられて帰って行く。興奮しちゃったんだろうな、番匠谷P。分かるよ。分かるとも。

 

 一回死ぬハメにはなったが、どうにか強者の攻撃も乗り越え、いよいよ大トリの出番。

 待ちに待った、白井さんの出番である。

 

 

『さぁさぁ、終盤にして大番狂わせが起きたところで、真打の登場です! 中等部でも一~二を争う戦闘力と可憐さを併せ持つ、あの《ピコン:10》《ピコン:10》《ピコン:10》ちょ、美鈴様フライング! まだ紹介文も終わってませんから!』

「おっと失礼、手が滑ってしまった。申し訳ない」

 

 

 嘘つけ。目が血走ってるぞ川添。鼻息も荒いし、少しは取り繕え。

 白井さんのために満点を残してたのも分かってんだからな。

 

 

『えー、仕切り直しまして……。保有レアスキルはルナティックトランサーの三年生、あの“狂乱の天使”が、本物の天使となって登場です! 私、工廠科は真島百由プロデュースのぉ……白井夢結さんですっ!』

 

 

 本物の天使、という部分で首を傾げるが、疑問はすぐに氷解した。

 何故ならば、天井の梁から人影が……白い大きな翼を広げた影が、ゆっくりと舞台に降り立ったからである。当然、白井さんだ。

 白井さんなのだが、やはりコスプレしている。しかも、可愛い系ではなく格好良い系。

 ダインスレイフを持ち、長い黒髪をポニーテールに結った彼女は、いつもの中等部の制服の上から、スタイリッシュな金属の鎧を身につけていたのだ。

 

 

『彼女が身に纏っているのは、私が開発した新型バトルクロスです。今まで重い・ダサい・マギ消費がキツいと散々に言われ、使う人なんてほとんど居ませんでしたが、だったらカッコよくしちゃえば良いじゃない! の精神で、一から練り直しました!』

 

 

 真島さんがそう叫ぶのに合わせ、白井さんが舞台上でダインスレイフを振るう。

 いつものキビキビした動きではなく、翼を広げ、跳躍を多めにした、魅せるための演武。

 それがコスプレ衣装と相まって、幻想的とも思える美しさを醸し出していた。

 

 

『ご覧下さい、この軽やかな動き! そしてスタイリッシュなデザイン! マギの消費量も、旧型に比べかなり抑えられています!

 残念ながら値段は据え置きですが、これを使えば貴方も戦場の華と咲き誇れること間違いなし!

 ご要望の際には、工廠科窓口から真島百由までご連絡をー。あ、デザイン協賛はそうさく倶楽部の方々でーす』

 

 

 ……が、真島さんの営業トークのせいで、ゆっくり浸れないのが残念である。

 それに、なんて言えば良いんだろう……。

 翼のせいで一気にファンタジーさが増して、姫騎士感が出てしまっているような。

 万が一、オーク型のヒュージでも現れたりしたら、即座に“くっ殺”しそうだった。

 

 

「………………」《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピ《ピコン:10》

「川添。無言で超速連打するのは止めようか。ミシミシいってるから。真島さんも、言いたい事は色々あるけど……とりあえず、あの翼って? 普通にバサバサ動いてるけど」

『あー、あれはオプション装備でして、落下制御の効果は付与してますけど、実用品じゃないんです。

 一応、おじ様の義肢の技術を流用してるので、考えただけで自由自在に動かす事は可能です。もちろん受注はしてますよー』

「無駄にハイテクね。でも欲しいかも……。あれがあればコスプレの幅が広がる……」

「依奈、ストップ。百由の術中に嵌っちゃダメだから」

 

 

 舞台袖から顔を覗かせる番匠谷Pの肩を、天野Pがガシッと掴んで止めていた。それで正解だと思う。

 リリィの戦闘用装備の値段は、とにかく高いのだ。

 CHARM一機で最低でも億、高級なCHARMならそれが二桁まで行くし、バトルクロスやキャバリアも同様で、だったらあの翼も数千万円は下らないはず。

 ヒュージとの戦闘で幾ら報奨金を貰っていても、破産は必至と思われた。

 まぁ、バトルクロスだったら、使用申請を出せばガーデンがある程度は用意してくれるかも知れない。

 

 

「にしても、百由君。どうしてバトルクロスのプレゼンみたいな真似を? 流石に司会という立場を悪用し過ぎだと感じてしまうんだけれど」

『………………お金が、無いんです』

「えっ」

 

 

 川添の問いかけには、耳を疑うような答えが返された。

 お金が無い? やたらめったら発明して、かなりの数の特許を持ってるはずの真島さんが?

 一体なにがあったんだ……と心配していたら。

 

 

『麻嶺と一緒に開発してたら、湯水のようにアイディアが湧き出て、だけど試作する予算が下りなかったんですよぉ、ドリル型CHARMとか実用性が無いって!

 でも、それで諦めろだなんて殺生じゃないですか! だからパテント料で費用を捻出しようとしてるんです!

 という訳で、どうか皆様、真島百由プロデュースの新型バトルクロスに、いえ、新型バトルクロスを着た白井夢結さんに、清き一票をぉおおっ!』

 

 

 至極真っ当な理由で断られただけだった。ドリルって、まぁ強そうではあるけどさ……。

 観客席からも、職権乱用だー、依怙贔屓ー、平等に応援しろ司会者ー、でも夢結様カッコイイー! などの声が上がっている。

 白井さんが登場してから一切喋らないのも、きっと仕方なく付き合わされただけなんだろう。

 

 

「と、とにかく採点に移ろうか。このままだと、白井さんが晒し者になったままだし」《ピコン:9》

「……どうして満点じゃないのかな。夢結に欠点があるとでも?」《ピコ《ピコ《ピコ《ピコ《ピコ《ピコ《ピコ《ピコ《ピコン:10》

「睨むな。そして連打もするなってば……。悪いけど、梅ちゃんのダイレクトアタックの後じゃ、何が来ても霞むよ………………ん?」

 

 

 私欲に塗れた真島さんに代わって進行を試みるが、どうしてだか、白井さんが舞台を降りて近づいて来た。

 眼鏡を外すのを忘れていたので、どアップの白井さんがスクリーンに映し出されている。

 

 

「……ぉ、おじ様」

「は、はい」

 

 

 見下ろしてくる白井さんの表情には、悲壮な決意……のような物が見えた。

 髪型と衣装が違うせいでそう感じるのだろうが、何かしようとしているのは間違いない。

 彼女は静かに呼吸を整え、胸元で拳を固く握り締め、そして──

 

 

「わ……私じゃ、駄目、なんですか……?」

 

 

 悲しげな瞳で、そう問いかけた。

 俺はもう一度死んだ。

 

 

「どうしろって言うんだ……。こんなの、満点以外にどうしろと言うんだ……っ!」《ピコン:10》《ピコン:10》《ピコン:10》《ピコン:10》《ピコン:10》

「それで良いのさ。正直さは美徳の一つだよ」

 

 

 息も絶え絶えに10点を連打する俺を、川添が偉そうに褒めてきた。

 一応言っておくが、川添の採点ボタンは既に壊れてしまったようだ。

 秒速32連打くらいしてるのに、まるで反応してない。どんだけやねん。

 余談だが、観客席からの声は以下の通りである。

 おじ様ばっかりズルい。私もそんなこと言われたい。言い値で買うから録画データを寄越せ。

 まぁそうなるよね……。俺も欲しいです。

 

 

『よっし、これで20点は確保! あとは会場票が26点以上なら夢結がトップ、この結果を踏まえれば、量産化の申請も通る可能性が…………あれ? 25点?』

 

 

 これで白井さんの優勝確定! ……かと思いきや、梅ちゃんの得点を越えるには一点足りなかった。

 会場もザワつき始め、空気が混沌とし始める……。

 

 

『まいまいも45点、夢結も45点。という事は、同点優勝!? う、嘘でしょー!? こんだけテコ入れしたのにぃー!?』

「だから反感を買っちゃったんでしょ。とにかく、やったね梅!」

「ワタシ達のプロデュースぢからの勝ちよ! いや引き分けだけどさ!」

「ワーイウレシイナーアハハー」

「……ほっ……」

 

 

 白井さんは明らかに安心した様子で、胸を撫で下ろしている。やっぱり嫌々だったみたいだ。

 一方、喜ぶ天野P達に押し出されるように再登場した梅ちゃんの眼は、死んだ魚みたいに濁っていた。

 それを皮切りにして、この結果に不満を持った出場者達が、舞台上へ雪崩れ込む。

 

 

「こんな結果、納得いかないわぁ! 談合よ談合!」

「そうだそうだー! 頑張ってトップバッター務めたのに、なんか納得いかないよー!」

「もう終わったんでしょ。猫缶三ヶ月分は?」

 

 

 遠藤、榮倉さん、安藤。

 ついでに、忍者と巫女さんとシスターとカウガール、その他大勢のコスプレ女子が騒ぎ立て、もはや収拾がつきそうにない。

 俺はと言えば、とうに場を収める事を諦め、可愛らしい女の子達の乱痴気騒ぎを眺めていたのだった。

 もうどうにでもなれー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “それ”は、白く長い髪の、一糸纏わぬ少女の姿をしていた。

 “それ”は、お祭り騒ぎに興じる皆へと混じり、琥珀色の瞳を見開いている。

 だが、周囲は空白が生じていた。

 異様なほどの存在感を放っているのに、誰一人として気に掛けていない。

 そうする事が、当然であるかのように。

 存在そのものを、認識していないかのように。

 

 

「………………」

 

 

 

 ひどく矛盾した状況でも、“それ”は微動だにせず、ただただ、見つめている。

 視線の先には、澄まし顔の美鈴と、苦笑いの“彼”が居る。

 

 

「………………」

 

 

 誰にも存在を認められなくとも、“それ”はひたすら、見つめ続ける。

 その光景を、目に焼き付けるようにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まに───、───いで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「僕が夢結に対して取り乱し過ぎているだって? いいや、“君はそんな風には感じなかった。僕はいつでもどこでも、品行方正で理性的さ”。いいね……?」


 ……という力技の印象操作が、あったとか無かったとか。
 アニメ本編でカットされたコスプレ云々を、ガッツリ描きました。ええ、趣味に走りましたとも。反省はしますが後悔はしません。
 一柳隊の隊服もゴスロリっぽいけど梅ちゃん普通に着てる? この経験が活きて吹っ切れたんじゃないですかね? アレよりはマシだ的に。

 と言いつつ、原作世界ではこんな光景あり得ないんですけど……。
 美鈴様は死んでるし、そんな状態で夢結ちゃんがコスプレ部門に出るはずないし、そんな彼女を置いて、梅ちゃんや天葉様も出ないでしょうし……。可能性があるのは依奈ちゃんだけでしょうか。

 あからさまな伏線に関しては、近々明らかになるとだけ。
 余談ですが、鞘がドリル型のユニークCHARM「カラドボルグ」は、二年後には存在しているようで。ぶっちゃけこれも伏線です。
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