アサルトリリィPARABELLUM   作:苗陽さんガチ恋勢

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真実
貴方を信じられない


22 ウシノシタクサ ──Anchusa── 旧友、その四

 

 

 夢を見ていた。

 白く、どこもかしこも曖昧な世界を、体を持たず、精神だけで漂っている。

 そんな感覚を覚えた。

 

 

「お久しぶりです、■■さん」

 

 

 不意に、声が聞こえる。

 その方向へと意識を向ければ、見知らぬ少女が立っていた。

 彼女もまた白い。

 長い髪の色。肌。軍服のような服装。全てが白い。

 だというのに、この白い世界に埋没しないのは、何故だろう。

 顔立ちも分からない。まるで仮面でも被っているように、白く塗り潰されている。

 だというのに少女だと分かるのは、声が若々しいからだ。

 

 

「……あら、■■ちゃん。本当に久しぶりね。直接会うのは……五年、いいえ、八年ぶりかしら」

「九年ですよ。あの戦いから、もう九年経ちました」

「そっか……。もうそんなに経つのかぁ……。道理で、私も歳を取る訳だ。最近、腰が痛いし目も疲れやすくって」

 

 

 白い少女に対するのは、同じく白い女性。

 少女ではなく女性であると感じたのは、本人の言もあるが、その声に年嵩と疲れを聞き取れるから。

 白衣を着ているらしい。声に聞き覚えがある、気がする。

 

 

「■■さん。お話をしたい気持ちはワタシも同じですけど……例の件、引き受けて下さるんですよね?」

「……本気、なの? いくら皆の仇を討つためといっても、こんなのは……」

 

 

 白衣の女性は、少女を引きとめようとしているらしかった。

 二度と戻れない道へ進もうとしている彼女を、どうにかして助けようと。

 

 

「そうですね……。ワタシだって正直、一度くらいは恋愛とかしてみたかったですし、叶うなら、普通の女の子みたいに、好きな人と結ばれて、子供を産んで……そんな風に生きてみたかったです」

「だったら、今からでも……!」

「いいえ。これはただの未練です。……あの日、皆を守れなかった時点で、もう、ワタシに幸せな未来なんて、ありませんから」

 

 

 けれど、少女は小さく肩をすくめるだけ。

 既に自分の死に場所を決めている。そんな様子だった。

 

 

「あの子達が生きていたら、きっと、貴方がそんな風に生きる事を望まなかったはずよ」

「だと思います」

「それでも……?」

「はい」

「貴方も、私を置いていくのね……。■■■■みたいに……」

「……ごめんなさい」

 

 

 俯く女性。

 少女は謝るが、選択を変える事はしない。

 言いようのない寂寥感が広がる。

 

 

「施術の準備は出来てるわ。明日の正午には始められるでしょう」

「では、その時間に。こちらの準備も済んでますから」

「……分かった」

 

 

 結局、受け入れた女性が日時を指定し、話を終えた少女は立ち去ろうとする。

 その背中に向けて、女性の最後の言葉が投げられ……。

 

 

「私もあの日、死んでいれば良かった。今日ほど強く、こう思った事はないわ」

「……同感です」

 

 

 振り返らずに答える少女の声は、隠し切れない後悔の念に溢れていた。

 二人の距離はどんどん離れて行き、いつしか、少女の背中だけを追っている。

 ただただ、彼女は歩き続けている。

 時の流れをも忘れたかのように。

 ところが、不意に少女は振り返り、無貌の顔でこちらを見る。

 

 

 ──見えないはずの視線が、重なった。

 

 

「……っ!?」

 

 

 体が勝手に飛び起きた。

 無意識のままCHARMを構えれば、ガサガサ、と草木の揺れる音がして、同時に動物か何かの鳴き声も。

 

 

「……ここを根城にしてたやつ、か?」

 

 

 大きく溜め息をつき、状況を確認する。

 現在時刻は17:00少し前。オットーさん達と別れてから、丸一日ほどが経過した。

 活動拠点から離れ、指定されたポイントまでは歩いて数時間、マギを使った跳躍移動で十数分というくらいの山中で、浅い自然の洞窟に身を隠し、一晩を過ごしたのだ。

 まぁ、実際に眠り始めたのは一夜明けて、登った太陽がまた沈み始めてからだが。

 

 

(なんだろう。変な夢を見てた気がする。でも……思い出せない)

 

 

 久方ぶりの野宿で、体は強張っていた。

 洞窟の中、体温を奪われないよう薄い毛布を敷き、ほんのり温かいCHARMを抱え、遮熱シートを羽織って眠るのでは、確かに夢見は悪いに決まっている。

 しかし、なんだろう。大切な事だったような気もするし、忘れて正解だったような気もする。

 なんとも言い難い据わりの悪さが、まだ寝呆けている頭にこびり付く。

 

 

「……準備、するか」

 

 

 18:00には、目標地点に到達していなければ。

 腹六分目程度に食事をして、トイレを済ませて、最後に義肢の点検をしてから移動となると、そろそろ行動を始めないとマズい。

 食事と水分補給、軽い柔軟をし、義肢の出力制限を戦闘用レベルまで引き上げてから、俺は移動を開始した。

 戦闘に耐えうる義肢を装着して来て、本当に良かった。

 

 どうせ近くに行けば捕捉されるのだし、奇襲する意味もないので、自然回復が間に合う程度の跳躍移動を繰り返す。

 それなりに起伏があるため、時折、常緑樹の上へ飛び出してしまうのだが、落ちる寸前の紅い太陽が照らす森は、意外なほど美しく、同時に不気味だった。

 

 

(もうすぐ、目標地点……)

 

 

 程なく、GPSが指定のポイントに近付いている事を示した。

 念のため、付近の一番高い木の上から、双眼鏡で様子を伺うと、山肌にぽっかりと開けた広場が見える。

 何台もの大型車両と投光器が設置されており、人員も配備。準備万端、といった感じだ。

 

 

(まぁ、待ち構えてるに決まってるよな……。それでも行くしかない)

 

 

 罠だと分かっていても、必要だから飛び込む。

 映画ならば在り来たりなシチュエーションだけれど、いざ自分でやるとなると、やはり落ち着かない。不安が湧き出る。

 でも。それでも。

 あの二人の前で啖呵を切った手前、「やっぱ止めた」なんて無理だし、したくもない。

 頬を叩いて気合いを入れ直し、木を降りた俺は、あえて歩いて出て行く事にした。

 意味があるかも分からないが、時間稼ぎの一環だ。

 

 木々の間を抜け、広場の均された土を踏みしめると、配備された警備兵らしき連中が、一斉にこちらへ銃口を向けた。

 バイザー付きヘルメットの開いた口元から、ヘラヘラと笑うニヤけ顔が覗く。

 思い思いの場所を狙っているようだが、今にも引き金を弾きたくてウズウズしているのが伝わってくる。

 

 

(銃をオモチャとしか思ってない連中か。最悪だな)

 

 

 潜入した時から感じていた事だが、この研究施設に携わる人員は、総じて程度が低い。

 おそらくは好き好んで他者を害し、そのせいでドロップアウトしたような連中を、二束三文で雇っているのだろう。

 せめてもの救いは、こいつらを誤射しても、きっと胸は痛まない事か。その程度には、俺の心も摺れている。

 

 

「さぁ、お望み通りに来てやったぞ! 次は何を御所望だ!」

 

 

 広場のほぼ中央に立ち、どこからか見ているであろう、“主催者”に向けて叫ぶ。

 すると、中継アンテナらしい物を積んだ大型車両から、スピーカーのスイッチが入った時のような、耳障りなノイズが発せられる。

 次いで、機械越しにヒビ割れた、女性の声も。

 

 

『そのまま、車に乗って下さい』

 

 

 その声を合図に、兵士達が銃を突きつけてくる。

 どうせ戦闘データとかを取りたいんだろうし、このままって事はないと思ってたけど、厄介だな……。

 けど、嘆いていても仕方ないし、かといって、言われるがままに従うのも宜しくない。

 ここは時間稼ぎの定番行動として、人質の安全確認をする。

 

 

「その前に、お前らが誘拐した子は無事なんだろうな。必死こいて戦って、でも既に死んでました、なんてゴメンだぞ」

『生きています。まだ処置もしていません』

「信じられない。確認させろ。無理なら帰る。それで死ぬなら、仕方ない。命を懸けて助ける義理も無いからな」

 

 

 大袈裟に肩をすくめ、嫌味ったらしい顔で、思ってもない事を言う。

 もちろん、本当に殺されたりしたら困る。でなきゃ来ないんだし。

 相手もそれを分かっているはずだから、全く意味のない虚勢なのだが……。

 

 

『いいでしょう』

 

 

 意外にも、すんなりと要求が通ってしまった。

 兵士の一人が軍用タブレット端末を見せてくる。

 どこか、真っ白な部屋でデッドに横たわる少女──北河原 伊紀さんの姿が映されていた。

 意識は…………無いようだ。

 

 

「録画じゃない証拠は」

『ありません。が、これ以上、時間稼ぎに付き合うつもりもありません』

「ちっ……」

 

 

 釘を刺され、思わず舌打ちしてしまう。

 わざわざ口に出すという事は、増援が来る事を折り込み済みらしい。

 もしくは、決して増援が来ないという事を確信しているか。

 出来れば前者であってほしいが、最悪の場合、あの映像は本当に録画で、本人は既に死んでいるという可能性も、決して低くない。

 

 こういう時、防衛軍の訓練では、最悪の上にもう一つ悪い要素を付け加えて、その状態からどう行動すべきかを判断するよう、口酸っぱく言われてきたが……。

 知らず俺が考え込んでいると、背後の兵士に銃口で小突かれた。

 

 

「さっさとCHARMを渡して乗りやがれ。怪我したくないだろう、オッサンよ」

 

 

 馬鹿にした口調。

 抵抗できないと思われている。

 油断してくれる分には良いが、CHARMを奪われるのは問題だし、無用なストレスも掛けられるだろう。

 なので、突きつけられた銃身を右手で掴み、握り潰す。

 

 

「なっ」

「そのまま乗れ、という指示だった。CHARMは渡さない」

「テメェ……!」

 

 

 驚いた顔を見るに、俺の情報は全く貰っていなかったようだ。

 今度は全員が銃口を向けてくるも、無視して輸送車輌らしき車へ。

 開けっ放しの後部ドアをくぐり、さっさと座席に腰を下せば、ややあって乱暴にドアが閉められ、走り始める。

 

 

(これからどうしたもんかね……)

 

 

 運良く北河原さんを助けられたとしても、江戸川達をどう救出するかが問題だ。

 なんらかの薬物投与がされているのは確実だし、それが毒物、並びにそれに対する解毒剤だった場合、百合ヶ丘に帰投するまでの間に毒物が効果を発揮する可能性がある。

 麻薬や覚せい剤である可能性は低いだろう。先日の江戸川の受け答えはハッキリしていた。

 

 ……しまった、別れる前にオットーさんに活動不活性薬を頼んでおけば、注射して仮死状態化して時間を稼げたのに。

 いや、この情報は彼女も持っているはずだから、抜け目なく用意してくれるはず。……救援に来てくれるならの話だが。

 大見得を切っておいて、結局、助けてもらえる事に期待してるのか、俺は。全く情けない。

 

 しばらく、ガタガタと激しい揺れが続く。

 運転席が見える小窓(軽トラのあれ)から様子を伺うと、遠方に例の研究施設が見えた。

 呼び出しておいて、行き着く先はあの場所なのか……。

 まぁ、データ収集には最適なんだろうし、理に叶ってはいるが。

 

 

(状況にもよるだろうけど、やる事は基本的に変わらない。江戸川と協力して北河原さんを助け出し、ついでにあの少年を連れて脱出する。これだけだ)

 

 

 これだけ、と言ってもそれが難しい。

 江戸川との協力だって、追加で首輪爆弾とか着けられてたら無理だ。

 逆に、江戸川が自由に動けるのなら、難易度は一気に下がるだろう。

 確認した限り、あの研究施設にマギ保有者は江戸川達しか居ない。並の兵士程度なら蹴散らせる。

 気になるのは、俺を呼び出した奴……。江戸川が言った、防衛軍時代に関わった女研究者だが……。

 

 

「着いたぞ。さっさと降りろ!」

 

 

 考え込んでいるうちに、輸送車輌は研究施設の敷地内に入っていた。

 降ろされたのは、スロープ状になった地下への搬入口、だろうか?

 地下に行くのは、やはり宜しくない。救援部隊に居場所を示しづらくなってしまう。

 が、ここは従う他にない。

 

 背中に殺意を感じつつ歩を進めると、数分で重厚な隔離壁に辿り着いた。

 ゴゴゴゴ……と重々しく開いた先には、百合ヶ丘の地下訓練施設と似た場所。

 無数の監視カメラが設置され、天井には証明と音響装置。壁面上部にも、なんらかのデータを表示するのだろう、大型のディスプレイが幾つも張り巡らされている。

 そして、その中央に立つ、二人の人物が握るのは、赤黒い異形のCHARM──ナラナリ。

 

 

『ようこそ。アガートラームの主人。早速ですが、彼等と戦って下さい』

 

 

 恐らく、天井に備え付けられているのだろうスピーカーから、指令が降ってくる。

 顔を拝めるかと思ったが、そうはいかないらしい。

 戦えと言われて素直に戦うのも癪なので、とりあえず話を長引かせようと声を返した。

 

 

「従うのは構わないが、ご褒美はあるのか? それによってやる気も変わるんだが」

『では、情報で先払いしましょうか。

 “貴方”のご友人に注射していたのは、単なる栄養剤です。毒物でも、麻薬でもありません。

 デヴァイサーには良いコンディションでいて貰わねばなりませんから』

 

 

 問いかけへの返答に対し、俺よりも二人の人物の方が動揺した。

 明らかに「え? うそ、え?」な感じでスピーカーと腕を見返している。少し間の抜けた空気が漂っていた。

 もし本当なら吉報なのだが……。

 

 

「……それを信じろと?」

『信じる以外、“貴方”に選択肢はないと思いますが。お喋りはもう十分でしょう。……やれ』

 

 

 声の質が変わり、わずかな間を置いて、二つの刃が同時に襲いかかって来る。

 どうにかアガートラームで打ち払い、距離を取ろうとするのだが、意外と速くて逃げ切れない。

 しかも、キッチリと連携してるから始末に負えない。片方は江戸川だよなぁ!? 手加減してるかぁ!?

 

 

「くそ、いきなりかよ……っ!」

 

 

 もう無理に戦う必要なんて……いや、あの言葉が嘘だったらという可能性が消えない限り、この二人には戦う以外の選択肢が無いのか。

 逃げ回っても埒が明かないなら、足を止めてガッツリ殴り合うしかないだろう。

 俺は覚悟を決め、左脚を前へ。アガートラームを地面と水平に、前へ剣先を向ける形で構える。

 白井さん直伝の迎撃体勢だ。といっても、半分も真似できてないのだが。

 

 右からの薙ぎを、掬い上げるようにして打ち上げる。

 その隙に左から放たれる突きは、斜めに打ち下ろす。

 体勢を崩した左の男に、アガートラームの腹を叩きつける。CHARMで防御されるけれど、強引に右の男の方へ吹き飛ばした。

 ぶつかってたたらを踏む二人だったが、すぐにまたCHARMを構え直して、こちらへ向けて……。

 

 

(右の方は足捌きに覚えがある。江戸川だ。という事は、左が例の上級国民君か)

 

 

 雑に見当をつけ、再び斬り結ぶ。

 何度か打ち合って分かったが、やはり江戸川は手加減してくれているようだ。狙いに致命傷となる部位が含まれていない。

 時折、凄まじい速度で攻撃を避けられるのは、もしかしてインビジブルワンを使っているからだろうか。

 対して、上級国民君の狙いは急所に絞られていて、むしろ分かりやすかった。

 こちらはスキルらしいスキルを使ってこないのだが、攻撃に殺気が乗っているので、油断できない。

 傍目からは必死の攻防に見えるよう、かすり傷程度は受けるが、しかし、相手の攻撃傾向が分かっていれば、対処は可能だ。

 

 

(このまま千日手で時間を稼ぐ? いや、手抜きがバレればあの子(北河原)が危険に晒される可能性がある。どうすれば……)

 

 

 目まぐるしく立ち位置を入れ替える中、俺は思考を巡らせ続けていた。

 このまま戦い続けていても、北河原さんを救助できる可能性は低い。

 しかし、スピーカー越しの声を信じるなら、江戸川を縛る枷は無いも同然。

 仮に百合ヶ丘から部隊が派遣され、警備に隙が生じれば、土地勘のある江戸川をサポートして救助に向かえるが────悪寒。

 

 

「ぅおっと!?」

 

 

 首筋を狙った一撃を、辛うじて防ぐ。

 あの少年に、思考の隙を突かれた。今のは間違いなく、殺すつもりの……“どうしても殺したいという念の込もった”一撃だった。

 先程から殺気は感じていたが、何故だ? 江戸川と違って洗脳でもされている?

 不審に思い、鍔迫り合いをしながら少年の様子を伺うと。

 

 

「ゔ、ゔうぅ……あ゛あ゛ぁア゛ア゛あァあっ!」

「なっ……うぐっ!?」

 

 

 黒い瘴気。

 それが少年の体を包んだ途端、俺は吹き飛ばされた。

 受け身を取る猶予もなく、壁に叩きつけられてしまう。

 強化コンクリートと思われる壁面が、ミシリ、とヒビ割れる。

 

 

(っ、これは、ルナティックトランサーの……いや、狂乱の闘、か? とんでもないな、ったく……)

 

 

 衝撃で呼吸も出来ず、頭の中だけでボヤく。

 以前、スキル制御の参考になればと閲覧した資料に、ルナティックトランサーを使用した白井さんの戦闘映像があった。

 彼女ほどの迫力は感じられないが、確実に同系列だと、体で理解させられた。

 壁からズリ落ち、激しく咳き込みながら体勢を整えようとしていると、少年は、覚束ない足取りでこちらへ向かっていた。

 

 

「お前の、せいだ……」

「……な、ゴホ、何? 何を……」

「お前が、俺を、助けなければ……。あのまま、死なせてくれてたら……。こんなに、苦しまなかった……。実験台にされる、事も……。家族に、売られる事も無かったのに……!」

 

 

 ヘルメットが脱ぎ捨てられる。

 露わになったのは、憎しみに歪んだ表情。

 あの日、友人の死に涙していた人物とは、まるで別人のように見えた。

 

 胸が、痛む。

 この痛みは、“内側”からくる痛み、だろうか。

 

 

「お前のせいだ……! お前に助けられたせいで、俺はぁああっ!」

 

 

 太刀筋も、構えも、全くデタラメな大振り。

 しかしながら、強化/狂化された身体能力から放たれる猛攻は、回避するのがやっとだった。

 

 地響き。

 コンクリートが抉られ、粉塵が舞う。

 それを掻き分けて俺を狙う少年の瞳は、赤く、仄暗く揺らめいて。

 

 

(ヤバい、当たったら防御結界ごと斬られる!)

 

 

 そこからは防戦一方。

 インビジブルワンを惜しみなく使って逃げるも、簡単に追いつかれてしまう。

 どれほどのマギを注ぎ込んでいるのか、想像すらしたくない。あんな戦い方をしていたら、命にも関わる。

 江戸川も見ていられないのか、ヘルメットを外して少年に叫ぶ。

 

 

「やめろバカたれ! そんな戦い方じゃ、施設にも被害が──」

「うるサいッ! オ前も死ネぇえエエ!」

「ぬぉ!? ちょいおまっ」

 

 

 すると、攻撃目標が江戸川へと切り替わった。

 まさしく狂乱。バーサーク状態故の無差別攻撃だ。

 おかげでこちらは一息つけるけれど、同時に腹立たしさが湧く。

 

 俺が少年を助けなければ、彼はこんな苦境には立たされなかった。それは事実だろう。

 あの時死んでいれば、少なくとも、辛い思いはしなかったのかも知れない。

 だが、それとは別に、この苦境を作り出した元凶が居る。

 人間を素材にCHARMを作り、彼等に使わせている、諸悪の根源が。

 

 

「何が目的だ……? なんの為にこんな事をさせるっ? お前は、誰だっ!?」

 

 

 知らず、俺は怒りを込めて、監視カメラを睨んでいた。

 すると、それを待っていたかのように、一つのディスプレイの電源が入る。

 映し出されたのは、白衣を着る女性。

 

 

『奪われた者、ですよ。貴方と同じように』

 

 

 暗く澱んだ瞳の、長い茶髪を持つその人物には、見覚えがあった。

 江戸川に言われた通り、防衛軍時代にアガートラームの解析を担当していた、女性研究員だ。縁が出来るのが嫌で名前も聞かなかった。

 異常なほどアガートラームに執着し、余さずデータを取ろうとして前線まで赴いた挙句、最後には救助した俺達のチームに「もっと戦闘して欲しかったんですが」と言い放ったクソ女──もとい、傲慢な女だった。

 いつの間にか姿を見なくなったので、防衛軍も愛想を尽かして放り出したのかと思っていたが、こんな形で再会するとは。

 

 

「やっぱり、アンタだったのか……。どうして今になって顔を出した? 悪役らしく、自分の所業を語りたくなったか?」

『ええ、その通り。知って欲しい。いいや、貴方は知らなければならない。貴方こそが全ての元凶なのだから』

「なんだと?」

 

 

 俺が、元凶?

 まるで考えている事を読まれたかのような返答に、思わず眉を寄せる。

 どういう意味だ……と問い返すより早く、“彼女”は一人語りを始めた。

 

 

『私は……。私も、ヒュージに全てを奪われた。

 家族、友人、恋人、家、故郷、産んであげられなかった、あの子……。

 形として残っている物は、何一つ存在しない。まぁ、ありふれた話ですね』

 

 

 淡々とした口調からは、俺を騙そうとする印象を受けなかった。

 普通なら同情に値する過去なのだろうが、かと言ってその所業は許されるものではない。

 しかし……。

 

 

『私はヒュージを憎み、マギを宿せない体に産まれた自分を恨み、しかし諦め切れず、CHARM研究者として防衛軍で働いていた』

「その挙句が、G.E.H.E.N.A.に協力して人体実験か。人間を使って武器開発かっ!」

『はい。外道と呼んでくれて構いません。どうせ、人の身ではヒュージに勝てないのですから。人間くらい辞めないと』

 

 

 事も無げに言ってのける“彼女”は、確実に狂っていた。

 人として、肝心な部分が壊れている。壊れてしまった。

 ヒュージのせいで。

 

 

『私が防衛軍の研究室で腐心したのは、普通の人間でも扱えるCHARMの開発でした。

 より多くの人間が戦えるようになれば、戦況は良くなるだろう、と。

 あわよくば、私自身がCHARMを握り、家族の仇を討てれば、と。実に、浅はかでした』

 

 

 狂っているけれど……。いや、狂っているからこそ、“彼女”はその発想を実現しようとしたのだろう。

 より多くの人間を死地に追いやり、自分と同じ境遇の人間を、無数に生み出すとしても。

 だが確かに、誰にでも扱えるCHARMなんていう代物があれば、少なくとも今まで異常に一般市民の被害は少なくなるかも知れない。

 アガートラームだって、そういう考えを基に作られて────

 

 

『どんなに知恵を絞ろうとも、頭を捻ろうとも、研究は上手く行きませんでした。そんな時ですよ。貴方が、“出所不明”のCHARMを発見したのは』

「……は? いや、何を言ってるんだ? アガートラームは、防衛軍が開発したんじゃ……」

『いいえ。そのCHARMは全く、誰も存在を知り得なかった、未知の技術の塊でしたよ。……それをみすみす、対面などという物のために、秘して腐らせるだなんて……! 私の解析した情報を、見ようともせず……っ!』

 

 

 予想外の情報に、混乱させられた。

 アガートラームは、防衛軍の作り出したCHARMじゃない?

 嘘を教えられていた?

 何故、そんな事をする必要が。

 

 

「ちょっと、しっかりしてくんないすか!? 一人だと手に余るんだよねこの若者、元気過ぎてっ!」

「す、すまんっ」

 

 

 江戸川の怒号に意識を引き戻され、慌てて加勢するのだが、それでも“彼女”の独白は続く。

 耳の奥で、ごうごうと音がする。

 心臓が鼓動を早め、手の平に嫌な汗が止まらない。

 

 予感があった。

 ここから先を聞けば、きっと後戻りできないという、身の毛もよだつ、予感。

 

 

『ここまで言えば、もう分かるでしょう。そのT型CHARMは……ナラナリは、アガートラームから得た情報を元に、リバースエンジニアリングされた物なのです』

 

 

 俺は、ただただ唖然としてしまった。

 庇ってくれる江戸川と、少年との戦闘音が、やけに遠く聞こえる。

 だというのに、手の中にあるアガートラームは、どうしてだろう。脈動でもしているように、熱く。

 

 

『T型とは、タントリズム型の略称。雑に言うと、男女の合一、性愛の力を信奉するのがタントリズムです。

 元となったマギ保有者が女性なら男性のみが、男性なら女性のみが契約を成立させられる事から名付けられました。同性だと過剰共感してしまいますから』

 

 

 得意げな解説が、耳を通り過ぎる。

 いや、違う。得意げなんかじゃない。

 あの女は、誇っているんだ。

 生命への冒涜を、自らの所業を、微塵も後悔していない。

 

 

『アルダ・ナーリーシュヴァラ。またの名を、アルダ・ナーラーナーリー。

 ヒンドゥー教の主神シヴァが、妃であるパールヴァティー、もしくはシャクティと融合した状態を現す呼び名。

 その名を冠したCHARMを使い、我等は人知を超えた“力”を得て、ヒュージを殲滅する。

 ですが……量産するには、様々な方面での支援が必要。世界に向けた、デモンストレーションが必要』

 

 

 両腕を広げ、“彼女”は嗤う。

 

 

『さぁ。我等が人である事を諦めるため(超えるため)に、死んでください』

 

 






 いやー、無駄に長いネタばらし回でしたねー。次話、決着予定。
 そんな事よりラスバレ初コラボイベント! リリなの! コラボ先がまともな原作で良かった! 本当に良かった!
 メインキャラ三人は確実にプレイアブルで来るだろうし、なんならアインとかフローリエン姉妹とかユーリちゃんとかも来てくれて良いのよ? けど淫獣と未来の提督はいらん。ちなみに、PSPのGODで作者のリリなの時間は止まってます。
 何はともあれ、溜めに溜めたメモリアメダル3,100枚と4,8,000ジュエルを使ってフルコンプしたるでぇ!
 完凸? エンジョイ勢なのでそういうのは興味ないです。こういうのは楽しんだもん勝ちですぜヒャッハー!
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