アサルトリリィPARABELLUM   作:苗陽さんガチ恋勢

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乙女の恋


28 サンショクスミレ── Garden pansy ── 目覚めの時

 

 

「おじ様……ああ、そんな……っ」

 

 

 強化アクリルガラスを通して見える光景に、伊紀は思わず息を詰まらせる。

 ベッドに寝かせられた、歪なシルエットの体。そこから伸びるコードの数々は、恐らくは“彼”の命を繋ぎ止めるための物。

 計器類が様々なデータを表示しているのだが、それが何を意味するのか、容体が安定しているのかすら、分からない。

 

 

「見ない方がいい、と言った意味が分かったかい。きっと“彼”も見られたくなかっただろうに」

 

 

 背後から冷たく声を投げるのは、川添 美鈴。隣には真島 百由の姿も。

 あの事件から……伊紀が狙撃され、“彼”の力で救われてから、もう3日が過ぎている。

 対外的にどうなるかは分からないが、少なくともその間、伊紀は再びの軟禁状態にあった。

 地下の病室に閉じ込められ、起きている時は常に検査が行われて、作業をするリリィとの会話も許されなかった。正確には、鎮痛な表情で無言を貫かれた。

 時間ばかりが、もどかしく過ぎていった。

 

 そして、3日目の朝。

 軟禁されてから初めての面会者として、上記の二人が現れた。

 伊紀は一も二もなく“彼”の容態を尋ね、口を濁す美鈴に縋り付くようにして懇願した結果が、今の状況だ。

 

 

「目を覚ますんですよね……?」

「……どうかしら。こんな状態だもの、誰にも正確な事は分からないのが実情よ」

 

 

 答えたのは百由だった。

 声は淡々としており、無表情の奥に隠された感情を、窺い知る事はできない。

 

 

「気が済んだのなら帰ろう。正直、僕もあまり見ていたくない」

「……はい……」

 

 

 先んじて歩き出す背中に、肩を落として続く。

 覚悟、していた。していたつもりだった。

 あの時……。“彼”のZによる摘出を受けている時の事を、伊紀は克明に覚えている。

 痛みに悶え苦しみながら、しかし、触れ合うマギの温かさと、耳に届けられる言葉に支えられ、どうにか耐え抜く事ができたのだ。

 

 だが、あんな奇跡を起こして、なんの代償も払わずに済むほど、この世界は優しくない。

 きっとまた、酷い迷惑をかけた。辛い思いを強いてしまった。謝って済む問題ではない。

 ならばせめて、起こってしまった事実を、その結果をしっかりと受け止めなければ、またしても命をかけてくれた“彼”に、失礼だ。

 それでもやはり、実際に目の当たりにすると、胸が引き裂かれるようで。

 

 

「既に察しはついているだろうけど、改めて確認しよう。君はこれから、百合ヶ丘にある研究施設で、更なる精密検査という名の、実験を受ける」

 

 

 よほど動転していたらしく、気がついた時には病室へ戻っていた。

 ベッドに腰掛ける伊紀に対し、美鈴が腕組みしつつ告げる。

 

 

「ガーデンの理念のもと、君の身柄は表向きには保護されている。しかし今回の件は、明らかに百合ヶ丘女学院を狙ったテロ行為だ。

 君の意志の寄るところに関わらず、G.E.H.E.N.Aの実験台であり、人間爆弾だったという事実の方が優先される。被害がたったの一名でも、ね」

 

 

 ただでさえ切れ長の美鈴の目が、更に鋭く細められる。

 怒気を孕む視線は、けれど伊紀だけに向けられてはいないと、感じさせた。

 

 

「酷く屈辱的な扱いを受けるだろうし、実験が終わっても解放されるとは思わないで欲しい。言うなれば……備品になったんだよ。君は」

 

 

 吐き捨てるような。いや、唾棄するような物言い。

 顔に乗せられている表情(かめん)は、冷笑という他になく。

 この人は、このような物言いをする人……なのだろうか。

 

 

(ああ。そうなのですね。貴方も、おじ様と同じ)

 

 

 不意に、気付いた。美鈴は憎まれようとしている。

 彼女の言っていることは、恐らく事実。

 伊紀の一生は百合ヶ丘に縛られ、今後の自由も保障されない。

 他のリリィを守るためとはいえ、それでも心は疲弊するだろうから。

 だから憎まれ役になって、負の感情を引き受けようと。

 

 

「……もっと」

「ん……?」

「もっと効率的に、私を使える場面があったと、思うんです」

 

 

 口をついて出たのは、ここ数日、ずっと考え続けていた事だった。

 

 

「本当にG.E.H.E.N.Aの狙いがガーデンだったなら、もっと大きな被害を出せた場所……。

 建物の近くや、他のリリィの方々と一同に会する場面の方が、相応しかったはず。

 それなのに、あの場所、あの場面を選んだという事は、G.E.H.E.N.Aには他の狙いがあったのではないでしょうか」

「……というと?」

「例えば……おじ様のCHARMの、複合スキルとか。それを扱えるおじ様の素養、だとか」

 

 

 ぴくり、と美鈴の片眉が上がる。

 伊紀は“彼”のユニークスキルに関して、全く知識がない。

 判断材料はあの時の、痛みに霞む思考が拾い上げた、言葉の数々である。

 

 インビジブルワンとホールオーダー、二つのサブスキルの効果を同時に得られるレアスキル、ゼノンパラドキサ。

 これも複合スキルと呼べるもので、相手の行動を読み、かつ自分の速度を上げられるという単純明快な効果は、その相乗効果により、攻撃用レアスキルの花形の一つとされている。

 

 察するに、“彼”の言う複合スキルとはアガートラームと呼ばれたCHARMに由来するもの。

 T型CHARMの性質──被験者だった為ある程度は知っている──を考えると、CHARM自体にレアスキルを保有、運用させるという事の、正に実証存在と言える。G.E.H.E.N.Aであれば強い関心を持つはず。

 となれば、あの一件は百合ヶ丘女学院を狙ったのではなく、“彼”からなんらかのデータを引き出すためだったとも考えられる。

 

 加えて、デモンストレーションという可能性も捨て切れない。

 いつでも、反G.E.H.E.N.A派閥である百合ヶ丘女学院に攻撃を仕掛けられるという、示威行為。

 一応は企業である以上、表立って動いてこなかったG.E.H.E.N.Aが、ここに来て実力行使に出たという事実は、きっと内外に大きな影響を与える。

 百合ヶ丘の威信を傷付けるという側面では、確かに大成功だった。

 

 伊紀が“使われた”のは…………都合が良かったから?

 恐らく、G.E.H.E.N.Aにとって最適な立場・物理的位置にあり、良い成果を得られると予想されたから選ばれたのだろう。

 

 

「驚いた。よくそこまで考えが及んだね。それとも、G.E.H.E.N.Aの連中に何か吹き込まれていたのかな」

「この数日間、考える事しか出来ませんでしたから。それに、G.E.H.E.N.Aの人達とは会話なんてありませんでした。

 立て、座れ、横になれ。そんな指示語だけで、こんな風にお喋りしてはくれませんでしたよ。まるで動物みたいに」

 

 

 苦笑いで返すと、美鈴は意外にも、気不味そうに視線を逸らす。

 心根が優しいからか、非道に徹しきれないのかも知れない。

 だから伊紀は、その優しさにつけ込むと決めた。

 

 

「私の体に残された痕跡が……G.E.H.E.N.Aの技術が、おじ様の為になるのなら、なんだってします。耐えてみせます。だからどうか、おじ様を見捨てないでください。どうか、どうか……っ」

 

 

 ベッドから降り、深々と、深々と頭を下げる。

 今の百合ヶ丘に、“彼”という爆弾を抱える理由はない。金銭的・人的資源的にも、再度の暴走の危険性を鑑みても、庇い続ける事のデメリットが優に勝っている。

 たとえ倫理にもとるとして、多くのリリィを守る為ならば、親G.E.H.E.N.A派閥のガーデンにでも預けてしまう方が確実だ。

 

 それを理解してなお、伊紀は頭を下げている。

 美鈴や百由にそれだけの権限があるかも知らないまま、ただ、生きていて欲しいという一心で。

 

 

「よしましょう、美鈴様。伊紀ちゃん、もう覚悟決めちゃってるみたいですし、無理して悪役を演じる意味、もうないんじゃ?」

「……そのようだね。全く、これじゃあ三文役者にすらなれやしない」

 

 

 憎んでくれた方が楽なのに。

 

 そう呟き、美鈴が苦笑いを浮かべた。

 続いて百由も、朗らかかつ不敵な笑みで、伊紀の肩を叩く。

 

 

「誰も見捨てる気なんて無いって事よ。おじ様も、貴方も。嫌な仕事させられた分、きっちり言質取ってきたわ! あ、もちろん実験動物扱いも絶対にさせないから!」

 

 

 ふんす、と鼻息も荒く胸を張る百由の背後に、高松理事長代行の疲れた顔が浮かんだ気がした。

 事件前に一度だけ面会したのだが、その時から一気に老け込んだような。

 きっと気のせいですよね……? と、伊紀は目を背ける事にする。

 

 

「あの、お尋ねして良いのか、分からない事なのですが……」

「何?」

「碧乙お姉様達は、どうしていらっしゃいますか」

 

 

 “彼”と同じように自分を慈しんでくれた、二人の少女。

 伊紀が知る彼女達であれば、今回の件にまた心を痛めているだろうから。どうしても様子が気になっていた。

 しかし、この問いかけに対しては、思いもよらない返答がなされた。

 

 

「石上君は、隔離房に入ってもらっている。いささか、冷静さを欠いている様子だったからね」

「えっ……?」

 

 

 碧乙お姉様が、隔離房に?

 

 伊紀は目を丸く、思わず首を傾げてしまう。

 何故そんな事になっているのか、てんで分からなかった。

 美鈴の説明によると、経緯は以下の通りらしい。

 

 美鈴と夢結が倒れた“彼”を搬送した直後、碧乙は犯人を追跡しようと、単独で飛び出したのだという。

 ロザリンデも慌てて後を追い、戻るよう説得を試みるが、犯人が誘引したと思しきヒュージの群れと、先遣隊との戦闘に遭遇する。

 この場は共闘を……というのが定石であろうが、あろう事か碧乙は単騎で突撃。傷を負いながらも、並居るヒュージを切り捨ててしまった。

 

 ヒュージを片付けたのち、碧乙はまた追跡を再開しようとする。

 その横顔に危うさを感じ取ったロザリンデは、彼女の前に立ち塞がり、押し問答の末…………リリィ同士で戦うはめに。

 結果、碧乙はロザリンデに叩き伏せられ、戦闘中に負った傷の治療と、付着したヒュージ由来の汚染物質の除去、独断専行の懲罰を兼ねて、隔離房へと運ばれた。

 

 

「ロザリンデさんも、その付き添いとして房に入ってるわ。……心配なのよ、碧乙さんの事が」

「そう、ですか……」

 

 

 説明を受けてもまだ、実感が湧かない。あの二人が戦うだなんて、想像すら。

 ……けれど。

 恐らく碧乙にとっても、あの一件は大きな衝撃だったのだ。

 目の前で大切な誰かが傷付けられて、我を忘れない人間なんて、きっと存在しない。

 伊紀自身、碧乙と立場が逆だったなら、犯人をどこまでも追い立てていただろうと思う。

 たとえ、返り討ちに遭う可能性があったとしても。“彼”がそれを望まないとしても。

 

 

(強く、なりたい)

 

 

 襲い来る不幸を跳ね除け、大切なもの全てを守り抜くだけの、力が欲しい。

 それは、子供じみた願いごと。

 叶うはずがないと分かっていながら、なおも願わずにはいられない。

 

 ……いや。願うだけではダメなのだ。

 本気で“何か”を守りたいなら、それこそ命懸けで挑まなくては。伊紀自身がそうしてもらったように。

 

 

(強く、なるんだ)

 

 

 胸元で両手を握り、静かに目を閉じる姿は、まるで祈りを捧げるようにも見えて。

 その想いはきっと、誓いと呼ばれるものに似ているのだろう。

 彼女の誓いが果たされる日は、そう遠くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同刻。百合ヶ丘女学院、隔離房。

 純白の入院着に袖を通すロザリンデが、だらしなーく、ソファでグダッていた。

 テーブルのクッキーをつまみ、ペットボトルの紅茶で喉を潤す姿は、しかしその美貌のおかげか、傍目には優雅に見えてしまい、耽美な雰囲気すら醸し出している。

 この雰囲気に騙される事なく、「お腹がプニプニしちゃいますよ?」とツッコんでくれるのが、愛らしい後輩の碧乙であるのだが……彼女は隣で俯いたまま。

 会話らしい会話もなかった。

 

 

(重症ね。本当なら堂々とダラけられるのを喜ぶ所だけど……)

 

 

 あの日以来、碧乙は一度たりとも笑っていない。

 “彼”が意識不明なのだから、笑えるはずもないのは当たり前だけれど、全身から放たれる重苦しい空気は、ただ落ち込んでいるだけではないと、如実に物語る。

 一体どうしたものか……。

 

 

「……あの」

「っ、うん? どうしたの」

 

 

 ──と、予想外にも碧乙の方から声が掛けられた。

 驚いて一瞬どもりかけるも、ロザリンデは平静を装う事に成功する。

 

 

「ここを出たら、わたしに本格的な戦闘訓練をつけてくださいませんか」

「……訓練? デュエルの、という事かしら」

「全部です。敵を倒すために必要な事の、全部」

 

 

 ゾクリ。

 背筋が粟立つのを感じた。

 それは、碧乙の言葉が本気であると悟ったからではなく……。

 

 

「わたし、強くなりたいです。……強く、ならなくちゃ。強くないと、何も、できない」

 

 

 虚空を見つめる碧乙の瞳に、今までにない剣呑な光を見たからである。

 元々、暴走しがちな性格ではあった。が、止めようと思えば止められる範囲であり、後で笑い話にできる、可愛らしい個性だった。

 ところがである。今の碧乙から感じられるのは、止められない、止めてはいけないという危うさだけ。

 無理やり止めても、いつか必ず炸裂するであろう、爆弾。

 

 

(本当に、罪な人ですね。起きたら恨み言、たっぷり聞いてもらいますから)

 

 

 妹分の手を握りながら、今も眠っているはずの“彼”に向け、心の中で呟くロザリンデ。

 その妹分は、奇しくも伊紀と同じような想いを抱きつつ、しかしボタンを掛け違えたかの如く、どこかズレた方向を向いてしまっている。

 だが、たとえ違う方向を向いていたとしても、隣で誰かが手を引いていれば、道を踏み外すことはない。そのためにシュッツエンゲル制度があるのだから。

 

 こうして、LGロスヴァイセの未来を担う主要メンバー達は、それぞれに己が道を進む覚悟を決めた。

 特務LGという性質上、誰にも知られてはいけないけれど。

 この密やかな誓いは、確かに立てられていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴様!」

 

 

 病院のロビーへと、息も絶え絶えに駆け込んでくる少女。

 薄桃色の髪が、汗で顔に張り付くのも厭わない彼女──北河原伊紀は、知らせをくれた恩人に駆け寄っていく。

 

 

「はぁっ、はぁっ、みっ、美鈴、様っ、ぉ、お……っ……!」

「……まずは落ち着こうか。ほら、深呼吸」

「は、はい……っ」

 

 

 呆れ顔の美鈴に促され、伊紀が息を整える。

 あの当時から一年以上経過しているだけあって、身長が少し伸び、全体的に女性らしいふくよかさが増していた。

 端的に言って、美しさに磨きが掛かっていた。

 

 

「おじ様がお目覚めになられたというのは本当ですか!?」

「本当さ。今は色々と検査しているところだよ」

「そ、そうですか。あのっ」

「面会なら、しばらくは無理だそうだ」

「そんなっ!」

 

 

 そして、そんな少女が頬を赤らめ、場を弁えずに声を張っているのだから、周囲から送られる視線の量もひとしおである。

 一応、公表はせずに伏しておく予定だったのだが、これでは今日中にでも学園中に広まるだろう。

 仏心を出すんじゃなかった……と、後悔する美鈴であった。

 

 

「よく考えてごらん。“彼”にとっては少し長く寝ていただけでも、実際には一年近く経過しているんだから。事実を受け入れるにも、現状に適応するにも、時間が必要だ」

「…………そう、ですね。少し……いえ、過分に焦っていたみたいです」

 

 

 静かに諭され、伊紀もようやく落ち着きを取り戻す。

 髪や衣服の乱れにも気づき、今度は恥ずかしさに赤くなりつつ、それらを正していった。

 その間にも考えを巡らせていたらしく、楚々とした佇まいで代案を提示する。

 

 

「面会が無理なのでしたら……。そう、お花! お花を送るくらいは、よろしいでしょうか?」

「まぁ、大丈夫だとは思うけど……量は控えめにすること。きっと他にも、同じ事を考える子が居るだろうしね」

「良かった……。ああ、何にしましょう、お姉様方とも相談しないと!」

 

 

 美鈴が頷くと、表情は一転。無邪気に喜ぶ、子供らしい一面が覗く。

 お姉様方とは言わずもがな、ロザリンデと碧乙の事だ。

 この二人は既にシュッツエンゲルとなっており、碧乙と伊紀も、伊紀が高等部に入学するのを待っている状態である。

 いずれは百合ヶ丘でも珍しい、正式なノルン──三姉妹のシュッツエンゲルとなるだろう。

 彼女達の仲睦まじさが、今は眩しい。

 

 

「君は、本当に“彼”の事が好きだね」

「はい! 敬愛しています!」

 

 

 思わず目を細める美鈴の前で、笑顔の花が咲いた。

 一切の躊躇いなく、むしろ誇るように、伊紀は笑う。

 “彼”と再び顔を合わせる瞬間を、夢想しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一年、か)

 

 

 ジッと天井を見つめたまま、ただただ思考する。

 当たり前だが、実感はない。

 いつものように寝て起きたら、いつの間にか一年も経っていた……なんて。

 

 

「…………」

 

 

 ほんの少し川添と話しただけなのに、疲労感が強い。

 これが精神的なものなのか、それとも体が弱っているからなのかも、定かではない。

 

 現実感の欠如。

 

 甲州撤退線から生還した直後の、あの頃の感覚に似ている。

 ……嫌な感じだ。

 

 それをどうにか払拭したくて、川添が生けてくれた花を見やる。

 名前もわからないけれど、ただそこにあるだけで、目を癒してくれる…………はずだったのに。

 

 

「……?」

 

 

 ふと違和感に気づき、花ではなく花瓶に目を凝らす。

 備え付けなのだろう、ステンレス製らしき安物のそれは、四角い側面に周囲を映り込ませている。

 もちろん、目を凝らしている“俺”の顔も。

 だが。だが、その顔は。

 

 

「若返ってる……?」

 

 

 “俺”が“俺”と認識する姿よりも、数年……いや十年近くは、若返って見えたのだ。

 

 

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