アサルトリリィPARABELLUM 作:苗陽さんガチ恋勢
「──はああああっ!!」
羽虫のようなスモール級に向けて、美鈴がブリューナクを振り抜く。
薙ぎ払う軌道は、一振りで数体を撃退せしめるが、空いた空間に新たなスモール級が雪崩れ込む。
「全く、数で押してくるだけなんて、芸のないラージ級だ。自分では攻撃すらしないとは、とんだ怠け者だね」
「ですが、お姉様。この数は流石に厄介です。常に囲まれているようなものですから、背中に気をつけないと」
背中合わせに戦う夢結も、ダインスレイフでスモール級を切り続けているのだが、一向に数は減らない。
それというのも、ラージ級の背にある柱から、スモールが湧き出ているからだ。
自分よりサイズの小さいヒュージを生み出す、大型のヒュージ。珍しい相手ではないけれど、戦い辛い事は確か。
「僕の背中は夢結が守ってくれる。そして、夢結の背中は僕が守る。だろう?」
「……はい!」
それでも、美鈴と夢結の闘志はくじけない。
周囲で戦っている無数のリリィ達も同様に、互いを背中を守りつつ、発生源であるラージ級の背の柱──以降、ピラーと呼称──を破壊しようと、皆、奮起している。
後方の部隊が防衛軍に連絡しているため、迫撃砲による火力支援が行われるのも近いだろう。
タイミングを合わせ、通常火器でも倒せるスモール級を一掃したら、残るはラージ級だけ。
しかし……。
(……でも。この嫌な感覚は、なんだろう。まるで……)
美鈴の心からは、どうしても嫌な予感が消えなかった。
上手く行っている。
突発的なラージ級の襲撃に対し、出撃したリリィも危なげなく対応できている。
だからこそ、引っかかる。
あれだけ特異な形状をしているラージ級が、ただスモール級を生み出すだけしかしない?
何か、隠し玉を持っていたりするのでは──そう、美鈴が考えた時だった。
「お姉様! ヒュージに動きが!」
唐突に、夢結がラージ級の方角を示す。
ゆっくりと進行を続けていたそれ等が、歩みを止めた。
背中から生えたピラーのうち、何本かが大きく震えだし、ルーンを纏う。
そして、電柱を何本もまとめたような大質量が、射出された。
無数のスモール級を生み出すピラーが、複数。
「後衛のリリィ! “アレ”を全力で撃ち落とせぇぇえええっ!!」
考える暇もなく、美鈴は自分の“力”を全力で使った。
その途端、戦場の後方で支援射撃をしていたリリィ達が、上空を飛ぶピラーに向けて、全力での射撃を敢行する。
先程までの支援射撃と比べて、非常に大きな火力が出ている。ミドル級程度なら一撃で屠れそうな手応えに、撃った当人達も、驚いているような表情を見せていた。
幾条もの光弾が突き刺さり、中に居たであろうスモール級共々、射出されたピラーを粉微塵にする。
みるみる内に、空を行くピラーは数を減らし、後方部隊の更に後ろへ墜落していった。
予想だにしないヒュージの行動だったが、上手く凌げた。夢結はホッと胸を撫で下ろす。
「なんとかなりましたね……」
「……いや、ダメだ! 一つ撃ち漏らした!」
ところが、美鈴の指し示す方向に、包囲網を抜けて突き進むピラーが、たった一つだけ存在した。
諦めきれない後衛のリリィが射撃を続けるけれど、距離減衰によって威力は低下し、破壊するには至らない。
しかも……。
「あの方向は、もしかして、おじ様と百由さんが逃げた方向じゃ……!?」
ピラーの向かう先には、先んじて戦場を離れたはずの、“彼”と百由が居るかも知れなかった。
余程の事がなければ一直線に学院へ向かうはずなので、可能性は高い。
ラージ級の進みは遅く、実質的な敵戦力はスモール級のみ。
前線を他のリリィに任せ、救援に向かおうかと夢結は考えた。が、まさにその瞬間、撃墜したはずのピラーから、新たなスモール級が湧き出る。
このままでは、挟み撃ちになる。後衛を務めていたリリィ達も白兵戦をせねばならず、支援射撃を行えない。
とても、百由達の救援には向かえない。
「くそっ、この場に釘付けにするつもりかっ!」
「これではまるで、遅滞戦術……ヒュージがっ?」
毒づく美鈴と、戦慄する夢結。
最悪の事態が、二人の頭を過ぎった。
周囲をスモール級に取り囲まれながら、俺はみっともなく喚き散らしていた。
「くそ、くそ、くそ! 動けっ、動けよっ、動けぇ!」
震えてCHARMの柄も握れない右手。動きの鈍い両脚。
逃げる事すら出来ない有り様が、どうしようもなく歯痒くて、自然と大声になってしまう。
「おじ様、焦らないで! くっ、その義肢は精神に強い影響を受けるんです! よっ、落ち着いて、“自分の体”を信じて下さい! せやっ」
紙一重でスモール級の攻撃を避けつつ、真島さんはCHARMを振るう。
この義肢を作った張本人だ。その言う事に間違いなんてある筈もない。
けれど、それが出来れば苦労はないのだ。
(信じろ? 自分を? 無理だ、そんなの)
さっきからずっと、自分の意思を裏切って、全く動こうとしないこの手脚を、どうやって信じろというんだ。
いや、真島さんの義肢に問題はない。
問題なのは、俺自身の心。精神の弱さ。
ヒュージへの無意識の恐怖が、義肢の動きを妨げている。なんて情けない。
それに比べて、俺を守ろうと戦っている安藤さんの動きは、凄まじかった。
まるで舞うように華麗で、無駄がなく、一切の被弾を許していない。
「なんなんだ、あの動き。まるで、どんな攻撃が来るのか分かってるみたいな……」
スモール級の攻撃方法は、おそらく鋭い牙を使った突撃のみ。
だからこそ読み易くはあるが、押し寄せる数が多過ぎる。飴玉にアリの群がるが如く、避ける隙間もない。
それを彼女は、CHARMで切り開いた空間に体を滑り込ませたり、背後から襲い掛かるスモール級を見もせずに撃ち抜いたり、武芸の達人のような立ち回りで、数の暴力を跳ね除けていた。
被弾していないのは真島さんも同様だが、なんというか、身のこなしの精彩さが違うというか……。
「ファンタズム……」
「え?」
「近い未来を予知し、周囲にテレパスする事ができる、希少スキルです。今、私も恩恵を受けてます。じゃなきゃ、もうとっくに……」
俺の疑問に、肩で息をする真島さんが答える。
聞いた事がある。スキラー数値が高いリリィでも滅多に発現せず、使いこなせば、文字通り戦場を支配できる、レアスキル中のレアスキル。
中等部なのに出撃要請される訳だ。
棚からぼた餅で強くなった、俺とは違う。
と、劣等感に苛まれている所に、当の安藤さんが回避ついでに側へやって来る。
「おじさん、何者?」
「は? どういう意味……」
「さっきから見えるヒュージの動きがおかしい。明らかに、おじさんだけを狙ってるんだ」
「や、やっぱりそうなのっ? さっきからそうじゃないかなーって思ってたんだけど、外れてて欲しかった、わっ!」
俺だけを、狙っている?
言われて、よくよくスモール級の挙動を観察すれば、一目瞭然だ。
確かに奴等は、俺を中心にして大きなドームを作っていた。
獲物を逃さんとする、群れによる包囲網。
「分からない……。分からない! なんで俺が!?」
自分でも、呼吸が浅く、早くなっている……酷く動揺しているのが分かる。
ヒュージは人間を襲う。それが当たり前の行動だが、特定の個人を狙って攻撃するだなんて、特型ヒュージでもない限りは……。
そんな俺を見て、安藤さんが呟く。
「まさか、ヒュージ誘引体質……」
「誘引、体質……?」
「極稀に居るんだ。G.E.H.E.N.A.の強化を受けた人間の中に、ヒュージを引き寄せてしまうヤツが」
G.E.H.E.N.A.の強化。
思いもよらない言葉だったが、思い当たる節はあった。甲州撤退戦だ。
俺がギガント級と戦い、救助されるまでの、空白の数分間。
もしもあの数分間に、俺を実験体にしようとしたG.E.H.E.N.A.の連中が、現場に現れていたら。
もしもあの連中が、ほんの数分間で施せる“何か”を発明していたら。
荒唐無稽かも知れないが、絶対に無いと、誰が言える?
(この襲撃は、俺のせい、なのか。信じられない。……信じたくない)
喉の渇きを覚えた。
周囲では二人とも戦い続けているのに、異様なまでの喉の渇きに気を取られてしまう。
が、頬に生暖かい飛沫が飛び、鉄錆の臭いで正気へと戻された。
安藤さんが、また俺を庇ったのだ。
「う、ぐ……っ!」
「お、おい! なんで庇う!?」
今度は腕に裂傷が生じ、しかし瞬く間に消えていく。
ダインスレイフを一振り。安藤さんは、俺の周囲からスモール級を一掃する。
「私の言ったことが、事実とは限らない。それに、人を守るのが、リリィの仕事でしょ……。だからおじさんは、動けないなら大人しくしてて」
「でも!」
「私なら、大丈夫だから」
ほんの一瞬、こちらを振り向いた彼女が見せたのは、罪悪感を抱えているような、痛みを堪えているかのような、切実さが滲む表情。
返事も待たず、小さな背中はそのまま走り出す。
左手で、頬を拭う。
真っ赤な鮮血が、こびり付く。
(俺は、また、戦えないのか。また、守られるだけなのか)
何故だろう。周囲の動きが緩慢になったように感じ、脳裏には過去の記憶が蘇る。
防衛軍に居た頃の記憶だ。
名も知らぬリリィ達の背中を、見送る日々。
誰かを守り、助けるために戦うはずが、逆に、自分より小さな背中に守られ、助けられる日々。
自分の無力さを嘆き、けれど、何も出来なかった日々。
(──ふざけるな)
無意識に、奥歯を噛み締めていた。
どうしようもない怒りが、腹の底から湧き上がってくる。
他の誰でもない、自分自身への激しい怒りが。
(言い訳なんて沢山だ! もうそんな自分に戻るのは嫌だ!)
弱いんだから仕方ないと、言い訳して、諦めて。
そんな自分が本当は嫌で、だけどあの夜、川添達を助けられた事で、俺は逆に救われたのだ。
自分でも誰かを助けられた。守る事ができた。ようやく俺も、彼女達と──リリィ達と肩を並べられる、誰かを救える人間に、なれた気がしたから。
もう、あの頃に戻るのは、嫌だ。
自分を呪うような日々に戻るのは、絶対に、嫌だ。
今ここで戦えない俺なんか──もう俺じゃない!
(ようは動ければいいんだ。移動さえ出来れば、CHARMは片腕でも無理やり振れる)
煮え滾る怒りと裏腹に、思考は冷静に、研ぎ澄まされていく。
まだ義肢の動きは鈍いし、全く正確とは言えない。激情で恐怖を塗つぶせても、それだけ。
ただ我武者羅に戦うのでは、みんなを悲しませる結果に終わるだろう。
きっかけが必要だ。
現状を打破するには、今までにない要素が。
そんな時、ふと別の事を思い出した。
戦闘訓練前に真島さんから聞かされた、新型アガートラームの注意点についての話を。
『変形機構をオミットしたのは良いんですけど、実はまだ調整が甘くて、うっかり操作を間違えちゃったりしたら、切りながら射撃しちゃうような場合もあるので、注意して下さいね?』
切りながら射つ。
射ちながら切る。
そんな事になったら、反動でCHARMの軌道がずれ、当たるかどうかも怪しくなる。
だが、その反動を利用できたなら? 反動で無理やり移動できたら。
インビジブルワンを使えば…………駄目だ、足りない。もっと、もっと身軽に、それこそ羽のように軽くなければ。
なら、どうやって実現する。
サブスキルをレアスキル並みにするには、何が必要だ?
(……なんだ、簡単じゃないか)
答えは、俺の手の中にある。そう、最初から握っていた。
アガートラームの、スキルプロトコル。
これをインビジブルワンと同時に使ったら、一体どうなる?
相乗効果が生まれるか、逆に反発するか。不思議と、失敗するイメージが湧かない。
アガートラームのおかげで、俺は過去の戦いを生き残ってきた。
必ず上手くいくという、確信めいた直感があった。信頼と言ってもいい。
未だ動きの鈍い世界では、しかし確実に時が動き続け、今も戦いの真っ最中。
危なげなく立ち回る安藤さんと、疲れが見え始めている真島さん。
不意に、安藤さんが微妙に立ち位置をずらした。
頭上から襲い来るスモール級から、真島さんを守ろうとしているように見えた。
防御する素振りは……ない。また、自分自身を盾にしようとしている。
(skill-protocol:invisible-one:charge)
いつかと同じく、考えるより先にスキルプロトコルが発動する。
が、これまでと違うのは、その音が不協和音ではなく、高く澄んだ音だったこと。
左手で握ったアガートラームを肩に担ぎ、グリップに据えられたトリガーを引く。
──炸裂。
「伏せろぉおおっ!」
「──え?──」
宙を舞う体をどうにか制御し、身を低くした安藤さんの頭上のスモール級を薙ぎ払う。
無理やりに動いたせいか、着地は当然のように失敗し、彼女のすぐ側へと、不恰好に落ちる。
俺を見るその眼には、多分な驚きが込められていた。
「な……なんで!? 大人しく──」
「あんな顔で!」
アガートラームを支えに体を起こしながら、思わず、安藤さんの声を遮ってしまう。
そんな事するつもり、なかったのに。
「あんな顔で、大丈夫だなんて、言うなよ。見ている方のが、痛かったくらいだ」
激情に任せて口をついたのは、あの表情のこと。
痛いのにそれを我慢して、身を挺して。大丈夫だと、自分自身を誤魔化す。
そうさせたのは俺で、だからこそ、痛みを背負わせた事が苦しかった。
あんな顔をさせたくない。
今の俺を動かしている原動力は、この思いだ。
だって、もっと彼女に似合う表情を、知っているから。
「な、何を言ってるの。だからって、動けないんじゃ……いや、どうやって今……なんで私、見えな……?」
「俺なら動ける。たとえ脚が動かなくても、俺には“コイツ”とスキルがある。君と真島さんでフォローしてくれ。ヒュージを掻き回す!」
「お、おじ様っ? 正気なの!?」
困惑する安藤さんと、驚く真島さん。
無理もないが、やらなければならない。
先程から、スモール級の包囲網が狭まっているからだ。
いくら未来を予知できても、このまま二人だけで戦線を維持しようとすれば、確実に詰む。
その前に、動かなければならない!
「無茶言わないで! そんな自棄っぱちな事されたら、こっちが動けなくなるっ」
「だが、このままじゃジリ貧だ。俺はこの様だし、攻撃しか出来ない。
だから、背中を預ける。一緒に戦ってくれ。
頼りにしてるぞ、猫好き少女! そんでもって発明家少女!」
「ちょっと!? ……あああもうっ、世話の焼けるっ」
「なんかオマケ扱いされちゃってる気もするけど……やるっきゃないわね!」
話している間にも、スモール級は迫って来る。
二人の返事も待たず、俺はまたアガートラームを担ぎ、射撃移動を敢行した。
「ぅおらあっ! ──うぐっ」
アガートラームを振り回し、地面に落ちる。
殺到するスモール級を、射撃の反動で跳んで躱し、また空中で射撃。姿勢制御をしつつ落下攻撃。
こんな行動を続ければ、あっという間に訓練弾も尽きるが……。
「おじ様っ、替えの弾倉!」
「ああ!」
ちょうど一息つけるタイミングで、真島さんが駆け寄り、まだ右腕が本調子ではない俺に代わって、弾倉を替えてくれる。
こんな連携が出来るのも、安藤さんのファンタズムのおかげだろう。
どこで何が起きるのか、完璧に把握してしまえる。絶対的優位に立つ事を可能にする、まさにチートスキルだ。
どうやら俺も恩恵にあやかっているらしく、スモール級の動きがなんとなく理解できる。
その“流れ”は、やはり俺を中心にして動いていた。
(やっぱり、明らかに狙われてる)
どうして、という気持ちはあるが、もう動揺なんてしない。
俺を狙っているというのなら、俺自身を囮に出来るということ。
スモール級の動きを俺が制御し、安藤さんと真島さんに仕留めてもらう。これが現状の最適解だと思われる。
射撃移動しては切り、切っては射撃移動する。
俺を追うスモール級を、二人が逆に追い立て、蹴散らす。
弾倉の交換時には、安藤さんが獅子奮迅の活躍で凌ぐ。
即席とは思えない滑らかな連携に、良い意味で震えが来る。
「今度は、私がコーヒー、奢ってもらうから」
「ああ、お安い御用だ」
「喫茶店の、高いやつだからね。普段は絶対に頼まないくらいの」
「……お、お安い御用だ!」
少し前の、追い詰められたような空気感は、もうどこにも無い。
軽口を叩き合い、互いの背中を守り合う。
確かな信頼関係が、そこにあった。
「んもうっ、キリがないわっ! 発生源を潰さないと、先にこっちが潰される、ってぇの!」
「でも、私達に“アレ”を破壊できるような攻撃力、無いですよ。先輩」
「それが問題なのよねぇ~っと! くぅぅ、実験中のあれやこれやを持って来れば良かったわ!」
「なんでだろうな? 今、真島さんがその“あれやこれや”を持って来てなくて良かった、って思った」
「奇遇だね、おじさん。私も」
「どういう意味っ!?」
しかし、真島さんの懸念も、もっともだ。
負ける気はしないけれど、状況を打破するにはあと一手足りない。
爆発的な破壊力を生み出すスキル……。
ルナティックトランサーに並ぶ花形レアスキルである、フェイズトランセンデンスの使い手でも居れば、話は簡単なのだが、無い物ねだりをしても──
「……ん?」
ゾクリ。
と背筋に悪寒が走った。
何か、とてつもない“気配”が、近づいて来ているような。
漠然とした不安を振り払いたくて、俺はファンタズムを持つ安藤さんの様子を確かめるのだが、彼女もまた青い顔をしており……。
「──やばい! 二人とも伏せてっ!」
「うおっ」
「きゃあ!」
安藤さんは、俺と真島さんを押し倒すように覆いかぶさり、地面に伏せさせる。
もちろん、スモール級は無防備な俺達に襲い掛かろうとするが、それは叶わなかった。
何故ならば。
「────やぁぁあああぁあぁぁああっ!!」
空から、白い隕石が降って来たからだ。
マギの光の尾を引くそれは、スモール級を吐き出し続けていた柱に衝突。
凄まじい衝撃波と土煙を撒き散らす。
息が出来ない。
体の表面が、飛んでくる砂粒で削られるようだった。
「……ごほっ、ごほっ! す、砂が口に……っ」
「んもう……なんなのぉ……?」
「す、スモール級が……全部、吹き飛んでるぞ……」
数十秒が経ち、ようやく衝撃の余波が収まった頃、俺達はやっと起き上がる。
周囲を見回しても、スモール級の姿は見えない。
はたと気付き、発生源である柱の方を確認すると、その形は大きく変わっていた。
四分の一ほどの根元だけを残し、完全に、破壊されていた。
そして、残骸の上に立つ、両刃の斧のようなCHARMを構える人影。
(お)
風が吹き、人影の着る服……百合ヶ丘女学院、中等部の制服のスカートが、大きくはためく。
しかし、もう少しで見える──という所で、安藤さんと真島さんに半分ずつ目隠しされてしまった。
大急ぎで取り払いたいけど、けれど、けれども、俺は断腸の思いでジッと我慢する。
そうこうしている内に、ザッ、と砂利を踏む音が聞こえ、人影が残骸から降り立ったのが分かった。
「大丈夫ですかぁ? なんだか大変そうだったから手を出しちゃいましたけど、お邪魔だったかしらぁ?」
どこか、高飛車な雰囲気を漂わせる声。
そこでようやく目隠しが外され、声の主の姿が確認できた。
太陽の光を反射して、艶めく長い髪。
猫耳のようにも見える髪飾りと、自信たっぷりな微笑み。
小柄でありながら、メリハリのついたボディラインを、挑発的に見せつけている。
………………誰?
「誰だ、アンタ」
「あら。不躾ねぇ、命の恩人に対して」
「おかげさまで、こっちは土塗れなんだけど」
「その程度で済んで良かったじゃないの。あ、もしかして、お風呂で洗って欲しいっていうアピールぅ? だったら隅々まで洗ってあげるわよぉ?」
「…………っ、ち、近寄るな」
俺と同じ疑問を口にした安藤さんに対し、なんとも……こんな表現していいのか分からないが、いやらしい顔付きと手付きで応じる少女。
間違いない。彼女は“そっち系”の人だ。
こんなにあからさまなのは、初めて見た。安藤さんがドン引きするのも、無理からぬ事だろう。
……しっかし、なんだろう。どっかで見た事があるような……? 思い出せない……。
「とにかく、おかげで助かったわ。貴方も中等部の子よね? 私は真島百由。お礼に、後でCHARMをいじってあげる! もう徹底的に!」
「あら、それはどうも。ご挨拶が遅れました。私、遠藤亜羅椰と申します。どうぞお見知りおきを」
優雅に一礼する姿は、とても様になっていた。華がある。
これだけ存在感があるなら、一目見ただけで覚えそうなものだが……。
頭がモヤモヤする……。なんだか、気持ち悪い……。
「ところで……そちらの方は大丈夫ですか? 随分と顔色が悪いようですけど」
「……え?」
華やかな少女──遠藤さんに言われ、ようやく自分でも気がつく。
かつてない程の疲労感が、全身を覆っていた。
アガートラームが重くて、仕方ない。
(あれ? なんだ、急に……めまい、が……)
そうこうしている内に、足元まで覚束なくなってくる。
立っている事すら辛く、アガートラームを取り落とし、膝から崩れるようにして突っ伏してしまった。
顔を地面に打ち付けたのに、痛いのかどうかも、分からない。
……ねむい……。
「おじさん、おじさん! しっかり! 一体何が!?」
「この反応……マズい、マギが完全枯渇してるんだわ! この方、フェイズトランセンデンス持ちだったりします?」
「そんなはずないわ! おじ様のスキルは──」
女の子達の慌てる声が、どんどん遠ざかって行く。
肩を揺すられる感覚を覚えながら、しかし強烈な睡魔に勝てず、意識が沈み始める。
深く。深く。深く……。
読み易さを考慮し、二話同時更新しています。
引き続きお楽しみ下さい。