「ここが私達の家…?」
「そうだ千秋」
天津垓、私のお父さんの車に乗せられて揺れること十数分、辿り着いた場所は都心から離れた高級住宅街の一つの家。コンクリートの土台の上に建てられた二階建ての家。狭すぎず広すぎずの間取。二人暮らしには十分な広さだった。
雑に言うと黒の四角いボックス型の家が新しい私の住処だった。
「…ヨイショ」
車から降りて家に歩み行く。階段を上がり、ドアの前へと立つがその後の行動が出来ない。当然防犯の都合で施錠しているからである。
追いついてきた父がドアののぞきあな兼網膜認証装置に目を向け、指紋認証の取っ手を掴む。玄関を開けてもらい千秋は中へと足を踏み入れた。
「おぉー」
圧倒だ。千秋は圧倒された。初めての自分の家は想像より上であった。豪邸と呼べなくても狭い空間に何年も居た千秋にとっては、この家は自分にはもったいないほどの作りをしていた。
「…クラウドの実家かどう森の3段階目の家みたい」
「その例えは分かりにくいが気に入ってくれたなら良かった」
千秋の感想に苦笑しながら天津は家の中へと入る。履いてきた靴はどうするべきかと悩んだがキチンと揃えて着いていく。トテトテと歩く様子は誰が見ても和まされる程可愛い。
キッチン、リビング、お風呂に鮮やかな芝生を備えた庭などを紹介された。二階は何部屋かは空はあるが使っているのは今は二部屋だと言う。
一つは天津の書斎。入った時に分かったがどうもこの父は自己掲示欲が高いらしい。会った時の1,000%と言うセリフ、更にこの部屋を見た千秋は自分を棚に上げて少し自分の父は変わり者だと思った。
部屋の印象は社長室、もしくは秘密結社の親分の部屋であった。左右に供えられた本棚は国外問わずに集められた書籍。中央にこれ見よがしに置かれたゲームでしか見てなかった社長の机。
「…社長、なの?」
「ここが職場ではないが私は概ね社長だ」
社長ではあるらしい、概ねと言う言葉は引っかかったが。
「そしてここが君の部屋だ。どうだい千秋?気に入ってくれたかい?」
「‥‥…」
最後に自分の部屋を紹介してもらった。
瞬間、千秋は目を疑う。眠気なまこの目をカッと開く。
千秋はゲーマーだ。あの養育場のような場所での娯楽は全てゲームへと結びつく。彼女にとってゲームは生きる上で必要不可欠。
人間の三大欲求、性欲、食欲、睡眠欲に加えゲーム欲を加えることが彼女を形作ることに必須なぐらいにゲームを愛する子。
そんな彼女の目に飛び込む光景。ここは天国か、いや現実だ。しかし彼女の眼にはまぎれもない物が移っている。
トトトと駆け寄り、目をキラつかせて次々と手に取り確認していく。
「最新鋭のゲーム機+高解像度のテレビ。コントローラーは新品で傷一つ無しの滑らかな操作性。しかも長持ちバッテリー搭載の携帯型ゲーム機‥‥!全部もらっていい!?」
「あ、ああ。ここにある物は全て君の物だ。好きなように使いたまえ千秋」
「うん‼」
娘の熱狂に押された天津は少し後ずさってしまう。そうこうしている間に千秋は周りを気にせずゲームをやりだす。手に取ったのは「ギャラクシーオメガ」であった。
「…千秋、私はこれから仕事に戻らねばならない。ヘルパー用のヒュ…ロボットがいるから何か困ったら彼女に言ってくれ」
「うん」
こうして天津は仕事に。千秋はゲームで無双の時間を過ごす。
二人の関係は親子としてはどうかとは思うが、人付き合いが苦手な千秋に心を理解しにくい天津。二人の関係、その最初はこんな感じで進みつつあった。
「ZAIA日本支部まで」
「承知しました」
千秋に仕事に出ると伝え、私は会社に向かうため運転手に行き先を告げて車に乗り込む。到着までに仕事のメールを確認し業務を1000%の速度で進めるために相手方との商談の予定を組み上げていく。
「ご息女の方には?」
「遅くなると伝えておいた。あれなら当分は帰らなくとも世話係の手に任せられる」
「左様ですか…」
あの子を引き取ったことは正解だった。新たな事業の参考にと試しに遊び半分で提供してしまった細胞から生まれた子が才能を持つとは。人生とは予測不能なことばかり―――とまで言わないがやはり興味深い。自分の血肉を分けた子供が才能を持つとは。
好きなことにのめり込む姿勢。ゲームが関われば常人の何倍ものの速さで情報を処理しゲームをクリアする。
何よりあの目がいい。あの子のような熱を灯した眼を持つ人間は誰よりも勝る可能性を持っていた。
それが昔から苦手だったことを除くことが出来れば、私は素直に喜ぶことができただろうか。
認めたくないが
「しかし私は1000%屈しなどしない」
「はい?」
「独り言だ気にするな」
「失礼しました」
私の独り言に運転手が聞き返すが気には留めず一蹴する。しかし滅多に独り言など言わないのだが。
やはり千秋を引き取り、その才能を感じ取ったことが珍しく私の気を昂らせているのか。気分はいいがどうにも腹ただしい。これでは霧切と同じということに全くもって腹ただしい。思い出すだけで苛つかせる。昔から気にくわない一人であったからだ。
奥方が死んでからというもの霧切仁は心に余裕を失くしたようだった。ここに来てまた父親と言い争いを始めていると聞く。昔とは考えられないほどあいつは『才能』に憑りつかれる様になり、父のみならず娘とも距離を置くようになったと噂が持ちきりだ。それを伝えてきた黄桜は随分と呆れているようだった。
それを聞かせられるこちらとしては余計なストレスを吹き込んでくるなと跳ね除けてやった。
しかしこのままストレスを溜めることは良くない。美容にも仕事にもストレスが原因で悪影響が出かねない。
目頭をもみほぐし窓の外を眺める。変わらない空。立ち並ぶビル群。
あの頃と何も変わらない
目を離し目の前の仕事に打ち込む。
ここ暫くは働きずめでコンディションが整っていなかった。生活リズムを整えるのにいい機会だ。千秋との時間を計算に入れて一日のスケジュールを組みなおそう。あの子と触れ合うことで私の健康改善、また新たな商品のインスピレーションを得ることも出来るだろう。
才能、道具は使いようによっては何者にも化ける。千秋もまた私の道具として役に立ってもらう。
ひいてはそれがZAIAエンタープライズ。天津垓の利益となることを願おう。
そしていずれ、
「しかし父親としてもう少し接するべきだったろうか?あんな短時間であの子を一人にすべきでなかったか?しかし意外と賢いに加え行動力がある。ヘルパーも念のために警備員システムをラーニングしておいた。しかしこれからどう接するべきか。あの年頃は反抗期の一つくらいあるだろうしな。霧切にそれとなく聞くか?…無理だな。あの娘関連頑固おやじのあいつが私の相談に有益なものをもたらさないのは1000%確定だ。なら黄桜は‥‥飲んだくれも除外だな。独身のアイツに子供の相談など馬鹿馬鹿しい。しかしそれならどうする‥…そうだゲームだ!千秋と一緒にゲームをすることで親しみを覚えさせ…」
(親バカだなぁ天津さん)
何も天津は千秋を単なる道具として見ていません。
ただ自身の経験から子供とどう接するのが正しいのか分からないのです。
千秋はとりあえず外に出る夢は達成したので、これからゆっくりと(ゲームをしながら)天津と外について知っていこうとマイペースに考えています。