ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
魔法って物は属性に目覚めた時から常に共に在る物だ。魔力の大小は有るけれど、使えて当然の物。大体十歳前後で属性が判明して、今までの基礎魔力操作訓練が応用に変わる。
「御自慢の”時”を奪われた気分はどうだ? 貴様は今から何も出来ずに共に殺されるのだぞ」
「……お前の性格と同じで最悪かな?」
テュラに操られたアンリは普段浮かべない嫌な笑みを浮かべながら真横に腕を伸ばす。氷のナイフに冷気が絡み付いて刀身を伸ばし、同時に周囲の気温も下げてしまった。
ナイフは既に通常の片手剣サイズにまで大きくなり、感じる冷気もナイフの時とは段違いだ。
……不味い、不味いぞ。
周囲の木々に霜が付着しているし、池の表面だって氷が張りそうになっている。吐く息だって白くなって凄く寒い!
僕、寒がりだからこんな真冬の雪国みたいな所には居たくないんだけれど、本当に面倒な女神だよ!
息をすれば肺まで凍りそうな寒さの中、僕は腰の刀の柄を握りながら後退りをした。僕が一歩下がればアンリは一歩進み出て、ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべて下唇を舌の先で舐める。……あれ? こんな状況であの舐め方って何処かで……。
「隙を見せたな!」
アンリの口元に意識を向けた瞬間、声を上げて飛び掛かって来たのをギリギリ避けたけれど刃の軌道に沿って冷気が発生していた。袖の一部が凍り付き動かしにくい。アンリの魔法には此処までの出力は無かった筈だけれど、どれだけ無理に力を引き出しているんだ?
「……おい。そんな力を使ってアンリは大丈夫なの?」
テュラは封印された身だ。幾ら体を操っているだけと言っても長時間は無理だろう。だから焦っている筈だし、だからこそ今の出力での攻撃だ。つまり時間経過は僕に有利な筈。
ゲームでもその関係で利用する兄妹への接触はそれ程多くはなかったしさ。
「時間稼ぎか? 小賢しい事だ。貴様、どうやら見抜いているらしい。まあ、誉めてやろう。馬鹿な妹とは違うとな」
正直言って答えてくれるとは思わないけれどテュラは動きを止め、剣の切っ先を地面に刺して動きを止める。その体に繋がる闇の魔力の糸は僅かだけれど綻びを感じるし、時間稼ぎが目的なのは否定しないよ。
「安心しろ。この男……いや、女か? この女、貴様にとって何だ!? まさか浮気相手ではあるまいな!?」
「……えぇ、何言ってるのさ。アンリは騎獣レースのライバルで友人だよ。大体、浮気って……」
「だって貴様には婚約者が居るだろう! それなのにこんな姿の女とこんな場所に居るだなんて!」
ビシッと僕を指差すアンリ。此奴、僕に関する情報をどれだけ手に入れているんだ? 別にクヴァイル家は徹底的な秘密主義って訳じゃないし、寧ろ大々的に力を使わせてくるから能力に関する情報は漏れてるだろうし、人間関係だって調べられるだろう。
……浮気ってのはパンドラが居るのにって事かな? まあ、僕だって貴族じゃなかったら婚約者が居るのに他の女の子と仲良くしているのは憚られるだろうし、女神に貴族の都合とか理解しろって方が無理か。
でもさ……。
「いや、服を脱がしたのは治療の為だよ。その辺に転がっているだろ? ”未確認のモンスター”がさ」
モンスターの名前を知ってはいるけれど口には出さない。相手が僕の情報を何処まで握っているのかは分からないけれど、知らない筈の情報迄知っているって悟らせるメリットは少ないからね。精々が揺さぶりに使える程度なら伏せておいた方が良いでしょ。
アンリが大丈夫って情報が何処まで信用出来るのかは疑問だけれど、今は魔力の乱れを感じないし一旦は安心するしかないよね。その安心が何時までなのかは疑問だけれど、今僕がすべきなのは一つだけだ。
「ねぇ、リアスが馬鹿だってのは取り消してくれないかな? 身内のじゃれ合いで言うのとは話が違うんだ。お前があの子の何を知っている!」
「ふんっ。怒ったか、シスコンめ。馬鹿は馬鹿だろうに。……それで時間稼ぎはお終いか? 私もお終いだ」
バレてるっ!?
そう、僕がすべきなのは会話による時間稼ぎだ。正直言ってリアスの事を馬鹿だって言われても否定出来ないし、敵の挑発としてはお粗末だから怒っていても僕に不利益だ。それより優先すべきなのは時間を稼ぎ、アンリの体でこれ以上の無理はさせない事。
大体、操られている時の記憶が彼女に残った時、これ以上僕やタマが怪我を負えば何って思うのか。タマは軽いけれど怪我を負ったし、僕だって袖の下が軽度の凍傷になりかけているのを感じる。長引かせれば僕の勝利だけれど、その長引いた時の内容も重要だ。
何もさせずに時間を稼ぐのが理想的。……でも、それは読まれていたみたいだ。
「時間稼ぎをしたいのは貴様だけだとでも? 甘いな。私も時間が欲しかった。草間の動きを封じる為のな」
声がアンリ以外の物に代わり、それは傲慢そうな、それでもって何処か無理をしているみたいな感じだった。
突然の勝利宣言に僕は向こうも何かを狙って居たのを悟る。ああ、本当に油断していたよ。
足下から冷気が噴き出して周囲一体を凍り付かせる。僕の膝から下も氷に覆われて動かせず、ポチやタマも同じく動きを封じられた。
「キュイ!?」
「ピッ!?」
「……ヤバいな」
只話に付き合う為に剣を地面に刺したんじゃなく、これを狙っていたのか。僕は自分の為に時間稼ぎをしているつもりだったのに、本当は向こうの為に時間を稼いでしまってたんだ。
ポチは風の刃で氷を削り、タマは雷で砕こうとするけれど表面ばかりで全然効果が無い。二匹とも寒さに格段強い種族じゃないし、急激な体温の低下で本調子が出ないんだ。
特にタマなんて温暖な気候の地帯に生息するドラゴンだ。見た目はペンギンでも寒さは堪える筈。……ペンギン自体が寒冷地に住むけれど寒さに強くはない生物だっけ? それにドラゴンって変温動物なのかな?
いや、そんな事を気にしている場合じゃないな。絶賛大ピンチだ。
……本当に失態だ。今の状況だけじゃなく、この状況に至る事になった経緯を含めて失敗を認めるしかない。
テュラが僕達を利用しようと近付いても騙されない、だって? ああ、確かに僕達はゲームのロノスとリアスじゃないさ。ゲームの知識として未来を知っているんだから対処可能だっただろうさ。……あくまでもゲーム通りの展開だったらね。
ゲームでは主人公の行動で細かい所は変わっても大まかな流れは変わらないけれど、現実は違う。何か大きな事が違えば、関係者の行動も大きく変わって来るのが当然なのに、矢っ張りこの世界をゲームのままと認識して油断していた。
でも、テュラに何処で影響を与えた? 何処まで情報を持っている?
此処まで違う行動に出た理由は僕が邪魔だかららしいけれど、どんな風に情報をどれだけ得てから判断したんだ? 少なくてもテュラが外を観察する為に使っているモンスターの目撃情報は今まで無かった筈。
つまりはゲームとは違う情報源が有るって事だ。それがどれ程の物なのか知っておきたいな。……何処まで手の内を見せるべきかに関わって来るしね。
「僕について詳しいみたいだけれど何処で知ったのかな?」
「答える義務は無い。時間は稼がせん」
おっと、読まれてるな。さて、どうすべきか。
只でさえ今後の事への知識が全く役に立ちそうにないのに、情報を与え過ぎて余計に面倒な行動に出られたら厄介だ。
この場を切り抜けるのが最優先。後は何処まで情報を持っているのかを探り、持っていない情報を与えない。それを念頭に……。
「では、死ね。安心しろ。縦ロールの婚約者もお前を見下す妹も用が済めば同じ所に送ってやる」
……え?
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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ポチ
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レキア
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夜鶴
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ネーシャ
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ハティ
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レナ
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パンドラ
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サマエル
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シロノ
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アリア