ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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ギヌスの民 ②

「うわっ。本物のバニーガーあ痛っ!」

 

 出迎えの大人達に混じっていたウサギの獣人の女の子を見た瞬間、その胸の大きさに悪態を付いたリアスは続いての呟きの途中でレナスのチョップを脳天に喰らって悶える。普段ならあの程度で手は出さない……事も無いんだけれど、今はマオ・ニュが居るからね。

 

「……まあ、今回は見逃しましょうか」

 

 既にこれで罰を受けたって事でリアスの発言の直後に細めていた目を元に戻しながら呟くマオ・ニュだけれど、今のチョップが無かったらどうなっていた事か。本当にリアスは困るよ。

 

「リアス、発言には気を付けなくちゃ。ほら、最近王国の方で起きた問題が結構な騒ぎになったでしょ?」

 

「うん、覚えているわ。エロ貴族がメイドにバニーガールの格好をさせて侍らせていたけれど、王国に住む獣人達がそれに抗議行動を起こしたって奴でしょう? 元々自分達の仮装をそんな感じに扱う奴に不満を持ってたとかで」

 

「覚えてるんなら言うんじゃないよ、馬鹿娘が」

 

「覚えてるから口から出ちゃったの。次は気を付けるわよ」

 

 リアスって元気で可愛いんだけれど、こんな風に単純な所が困るんだよね。最近増えてきた聖女としてのお仕事の時はキチンと役を演じているのに、仕事の後はまるでバネが上から押されたら反発するみたいに反動が出ちゃう。ストレスでも溜まっているのかも。どうにかしてあげたいんだけれど……。

 

「ロノス、アンタも平気なのかい? 最近じゃ旦那から随分と仕事が回って来ているんだろう?」

 

「……うん。まあ、平気かな。多分……」

 

「多分じゃないよ、多分じゃ。ったく、最近の餓鬼は妙な所で我慢強いんだから」

 

 ……色々と見抜かれているし、流石はレナスだ。本当に母親みたいな人だよ。僕がリアスを心配した事も、次期当主としてお祖父様から裏の仕事、それもリアスに任される筈だった分も引き受けているんだけれど、それすら見抜いているだなんてさ。

 

 この人には暫くは敵わない、そんな風に考える僕とリアスの頭が交互に撫でられる。リアスは素直に喜んでいたけれど、僕は少し気恥ずかしい想いをしていた。

 

 

「さて、それでは二人共、旦那様に恥じぬ振る舞いをなさって下さいね?」

 

 レナスによって何となく弛んだ空気がマオ・ニュによって一瞬で引き締められる中、僕達は船の上に降り立つ。その寸前、何となく海の上を見た僕が発見したのは少し離れた海面の一部に発生していた奇妙な淀みだった。

 まるで油でも浮いているみたいに濁った色になっていて、波の動きによって揺れている。その部分だけは海藻も浮いていないから変だなって思ったら……目が合った。

 まるでその部分が顔の表面だったみたいに小さな目が瞼を開けて僕の方を見て、僕も思わずそっちを見続けるって所でレナスの手が僕の視界を遮る。

 

「余所見するんじゃないよ。……あんまり見てると興味を持たれるよ。気を付けな」

 

 忠告と共に手が外されると淀みは最初から無かったみたいに消え失せて居て、不思議に思いながらもギヌスの民の出迎えに視線を戻したんだけれど、今のは何だったんだろう?

 

 

 

 

「よく来てくれた。宰相殿には世話になっている。歓迎しよう」

 

 最初に口を開いたのはナギ族の族長さん。褐色の肌に白い髪の色というウサギの子と同じ特徴だし、親子かなって感じの女の人だ。そう思えば少し似ている気もするな。何処かの民族衣装なのか肌の露出が多くって装飾品は綺麗な羽根飾りや貝殻だけで露出が多く、晒した肌には引き締まった筋肉が付いている。膨らました見せ掛けのじゃなく戦う為の物だね。

 

「久し振りだね、二人共。それにしても……大きくなった」

 

 そして次は年老いたナミ族の先代族長こと僕とリアスのお祖母様。こっちは日焼けを気にしてか露出は控えめだけれど腰は曲がっていないし、服の上からでも逞しいって伝わってくる。相変わらずだし、リアスはお祖母様の血を強く引いたって会う度に思わされるよ。しかもこの人、鬼族じゃなくってヒューマンなのに族長になった実力者だしさ。

 

 

 あれ? 先代族長のお祖母様が居るのは良いけれど、今の族長は? 三人以外は後ろに控えているし、まさかレナスと同じノリで常時戦場の心構えがどうとか言って不意を打って僕達を試して来るとか? いや、まさかね。

 

「ねぇ、ナミ族の今の族長はどうしたの、お祖母様? 私達を試す為に隠れてるとか?」

 

 リアスも僕と同じ結論か。それに素直に訊ける所は君の長所だよね。それは微笑ましくって可愛いけれども素直に教えたら意味が無いじゃないか。

 

「おや、リアスちゃんはこっち側に寄ってるみたいだね。貴族令嬢なのにレナスの弟子になってハルバートを振り回してるって言ってたけれど、思った通りだ」

 

「貴族令嬢としてはどうかと思いますけれどね」

 

「……ふん」

 

 お祖母様が嬉しそうに微笑み、後ろではマオ・ニュが苦笑した時だった。今まで黙って話を聞いていた少女が詰まらなさそうに鼻を鳴らしたのは。あっ、不味い。マオ・ニュの琴線に触れちゃったよ、あの子。

 

「……シロノ、無礼だぞ。娘が済まない。どうもギヌスの民以外を弱者と思っているのだ。母として娘の非礼を詫びよう」

 

 ナギ族の族長さんはシロノと呼んだ彼女の頭を掴んで無理に下げさせるけれど、本人は不満を隠そうともしていない。どうやら向こうの第一印象は最悪みたいだね。

 

 

「……やな感じ。私が弱いと思うんだったら試してあげようかしら?」

 

「駄目ですよ、リアスちゃん。御館様の命令で此処に来ているのですし、今日此処で力を示すのは貴女の仕事ではありません」

 

「……分かった」

 

 あーあ、リアスの方も印象最悪か。マオ・ニュが止めなかったら殴り合いになっていたかもね。似た者同士っぽいし、仲良くして欲しいんだけれどね。

 

「そういやイナバの姐さん。ロノスとシロノは初対面だし、此処は握手でもさせて仲直りって事にしないかい?」

 

「……だな」

 

 どうやらナギ族の族長さんはイナバさんって名前でレナスとは仲が良いみたいだけれど、母親に促されたからかシロノは全くの無表情で僕の方に手を差し出して来た。

 

「宜しくね」

 

 どうせだったら無表情じゃなくて笑顔を浮かべて欲しかったけれど、今後も付き合いがあるんだから仲良くなるのは今後で良いかな? 今は形式だけでも仲良くしよう。

 

 せめて僕の方だけでもと笑顔を浮かべて差し出された手を掴もうとするけれど、僕がシロノの手を掴むよりも前に向こうの手が伸びて僕の腕の肘辺りをガッシリと掴み取る。爪が食い込む位に強く握られているし、鍛えていない人なら骨が砕けるんじゃって力が籠もったかと思うとシロは右足を半歩下げた。

 

「所詮この程度。……認めない」

 

 そのまま繰り出されるのは頭を砕かんばかりの勢いで放たれたハイキック。右手を掴まれていて逃げられないし、防御にも使えない。咄嗟に出そうとした左腕も掴まれた。

 

 ……速度だけなら素の僕より上か。

 

「雑魚め」

 

 鞭を思わせるしなやかさを持つ長く力強い足から繰り出される蹴りは彼女が出せる最速で最大威力なんだろう。なすがままにそれを受ける僕に向かい、命中の寸前に勝ち誇った笑みと侮蔑の言葉を向けて来る。

 

 続いて聞こえたのは肉を打つ乾いた音と、それに僅かに遅れて肉と骨が軋む音。そしてシロノの驚愕と苦悶の声だった。

 

「ぬぅ……」

 

 蹴りは確かに僕に命中した。でも僕は微動だにせず、反動でシロノの足に痛みが走る。それでも隙が生じたのは一瞬で、僕の手を離すなり俊敏な動きでのバックステップを見せた。

 

 流石は戦闘民族、切り替わりが早い。口には出さないけれど僕を侮るのを止めたのは伝わって来るよ。

 

「レナス、こうなる事が分かってた?」

 

 介入が無い時点でこの戦いは予定されていたって予想出来るし、レナスならシロノの力と頑丈さの不足を知っていた筈だ。返事は無いけれどニヤニヤしてるから肯定したも同然だよ。

 

「一つ言っておくよ。リアスの蹴りならダメージを受けたのは僕だった。……”アクセル”」

 

 さっきまでの僕とシロノなら速度の軍配は彼女に上がるけれど、魔法で加速した今の僕なら圧勝だ。姿を一瞬で消した僕に驚き身構えるまで流石の速度のシロノだけれど、完全に身構える前に僕は背後に回って腹部を抱いて持ち上げる。

 

 

「離せ。何をする!」

 

「何って……リアス、この技名ってなんだっけ?」

 

 暴れて逃れようとするシロノを無視して勢い良く仰け反りながら問い掛ける。答えは直ぐに来た。

 

 

 

 

 

 

「ジャーマンスープレックスよ、お兄様」

 

 その返答が聞こえた瞬間、シロノは頭から床に突き刺さった。流石、リアス。君は頼りになる最高に可愛い妹だよ。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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