ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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他の私が余りにもアレで困ってます

「……下郎が。貴様程度が主の命を狙うなど烏滸がましい。貴様が生涯掛けて刃を磨こうとも掠り傷すら付けられぬわ」

 

 路地裏に身を潜め、懐に忍ばせたナイフを抜いて人混みに紛れて襲い掛かる。その様な計画を立てていたであろう男の胸を背後から貫く。……ちっ! 口を塞いだ時に汚い唾液が手に付着してしまったな。

 一瞬男の服で拭き取ろうと思ったがどうも臭う。此奴、浮浪者に紛れる為に何日も路地裏で生活していたのか体も服も随分と汚いな。正直言って触りたくない。

 

「そっちの首尾はどうだ?」

 

「本命を気絶させた。これより尋問に入る。……主の余暇を邪魔しようなど腹立たしい事だ。その罪、”死なせてくれ”と懇願する程の罰で償えば良い」

 

 気配を周囲と同化し、広範囲に散らばって主と本体を見守りながら警護を続ける。それこそが我々”夜"に課せられた使命。我らは道具、我らは忍ぶ者。主の為に働く事こそ本望であり存在理由。

 

 我らが主は敵が多い。ご本人も手を汚す事を受け入れてはいるが、この程度の刺客ならば後から知らせれば良いだけ。安らぐ時間に無粋な情報をお伝えする必要は無い。

 

「しかし何時来るかも分からぬのに我らの打ち手の子孫の家周辺を張っているとはな」

 

「貴族を暗殺するとはそういう物なのだろう。……今始末したのも囮やも知れん。引き続き警戒を怠るな」

 

 最初に主を狙う四流を囮に二流の刺客が控えていたが、本命は別に居るやも知れない。気が弛みつつある他の私を叱咤し、護衛対象の警護に集中させる。例えどんな事が有ろうとも我等の役目は全うしよう。

 

 

 

 

「ほら、口にクリームが付いてるよ。クレープ食べるの下手だね。まあ、僕はホイップクリームの方も食べたかったから良かったけれどさ」

 

「ひゃっ!?」

 

 視線の先にはクレープを屋台で購入して並んで食べる主と本体。普段食べ慣れぬ物だからか本体口の周りにクリームをベタベタと付け、主はそれを指で拭って嘗めとる。

 

「……感覚共有。記憶想起」

 

 私達”夜”は本体である夜鶴から分裂した存在。故に記憶や五感の共有は可能であり、本体の見聞きした物を追体験可能だ。長期に及ぶ分裂した状態での行動の課程の影響か余計な個性が生まれつつあり主はそれを良しとしているが、私は不要な物だと断じる。故にこれは本体の目線で情報を得るための物。

 

 ……それ以外の意図は存在しない。

 

「きゃー! 本体ったら羨ましい」

 

「矢っ張り私達も追体験じゃなくって直に体験したいわよね」

 

 激しく同意……いや、違う。本当に情報収集以外の動機など存在しない。あっ、露天に買い物に行った。新しい髪留め? 私は赤が……いや、あれは本体に贈るものか。ならば私には無関係……。

 

 

 そもそも私達は道具であり、主に特別な感情など向けるべきでは無い。

 

 

 

「他の子の分も買おうか。色の好みは分からないから取り敢えず全色買って……」

 

 

 あー、もう! 本体はさっさと押し倒せば良いのに! 押し倒されるのでも可能! 

 

「……はっ!? 糞っ。余計な影響が現れたか……」

 

 一瞬だが私の頭に浮かんだ主への不敬に口から悪態を零す。本体が不抜けているせいか他の分体同様に私にまで余計な欲求が生まれつつあるらしい。

 

 この身は女の体であり、人格も女な我々だが、その本体は所詮刀、人切り包丁、道具の類。配下が主に恋慕の情を抱く事が不忠であり、私達ならば尚更だ。子を宿せぬ身故に主に求められれば相手をするが、自ら望むのは論外。

 

「なのにあの馬鹿共は……」

 

 心底呆れかえる事なのだが夜の中には本体と主がそんな関係に発展するのを望む者や、どうせなら混じりたいとまで言い出す救えぬ大馬鹿まで存在する。寧ろ私みたいなのが少数派であり、我等の数少ない欠点と言えよう。

 

 馬鹿が多いと真面目な者は損と苦労が耐えないと聞くが、これ程までとは思いもしなかった。ああ、叶うならば個性が生まれず完全に群にして個という状態だった頃に戻りたい。主が今を好ましいと願っても、それが私の願いだ。

 

「没個性万ざ……ぬっ?」

 

 気苦労が蓄積した為か少し変な方向に思考が進んだ私は本体と主の逢い引きの様子を見て歓声を上げる他の私を見るのが嫌で、一瞬だけ視線を逸らしてしまう。本当だったら有り得ない行為だ。職務放棄など後で悔やむ怠慢なのだからな。

 だが、これはその怠惰な行為故に気が付けた事だ。此度の任務、不敬な態度に見える者達も仕事はこなしている。少なくとも配置を間違う者や途中で抜け出す程の愚か者は存在しない。

 

 ならば離れた建物の屋上に潜んだ奴は何者だ? 元は一つであるが故に私達は互いを識別出来る。あれは間違い無く夜鶴より分かれた者の一人だと力が告げているが、私の心が告げている。あれは同じ分体ではないと。

 

「……全員警戒」

 

「御意」

 

「即座に本体に伝える」

 

「相手は此方の識別を誤魔化す。注意せよ」

 

 恐らく主に仇なす敵。個を持った我等が元に戻るには十分な理由だ。浮かれていた者達は即座に感情を消し、偽物を警戒する。いや、警戒すべきはあれだけでないな。何をして我等を騙そうとしたのかは知らないが、同じ方法で潜んでいる仲間も居るだろう。この街の住民全員を疑え。隣に立つ者すら完全に信用するな。

 

 我等は剣。我等は道具。己の全てを主に捧げよ。

 

 私達が警戒した時、偽物もそれに気が付いた。酷く慌てた様子で大きな隙を見せると異変が現れた。何らかの魔法で姿を変えていたのか、水面に映る像が石を投げ込まれて大きく歪むかの様に姿が歪み、泥を塗りたくった石像の如き姿に変わる。そのまま逃げようと飛び降りるが、既に一番場所にいた他の私回り込んでいる。

 

「死ね」

 

 奴は危険だ。何者か調べるよりも始末すべし。そう認識したのならば容赦は無用。クナイや手裏剣を投げつけ、怯んだ所を鎖付き分銅で動きを封じ、四方から刀を突き刺す。……ちっ!

 

 手応えは無い。本物の泥人形の如く形を変えて排水溝の中に逃げられた。鎖で縛った時には確かに感じた手応えだが、刀を刺す時には糠に釘を打ち込んだ時に似た感覚。何らかの能力だろうが不覚をとった。力を使う前に始末するのが最善であるのに……

 

 グッと奥歯を噛みしめ拳を握る。本来ならば道具には不要だと切って捨てていた感情。だが、今回だけは別だ。他の私達もそれは同じ。この失敗を、この屈辱を教訓としよう。

 

 

 

 

 

 

「情けない話だ……主の手を煩わせてしまったのだから」

 

 偽物が逃げ込んだ排水溝の分厚く重い石の蓋。それがガタガタと激しく揺れ、真下からの暴風によって飛び上がる。逃げ込んだ偽物も同じく、粘りけのある液体に近い状態のまま宙に浮かぶ。無理やり風から抜け出そうとしているが……。

 

 

「愚か者め。その程度で抜け出す事など叶わぬ。その風、主のペットであるポチの物だぞ」

 

 今風が吹き出している所以外の全ての排水溝の穴に風が入り込み、内部が耐えられるギリギリの風圧で突き進む。当然、その風の勢いや凄まじく、同時に自在に流れを変えて堅牢な檻になっている。脱出したくば一流の中でも上位の風使いになってから試みるのだな。

 

「キューイ!」

 

「ギキィ!?」

 

 風は自由自在に動きを変え偽物を中心に密集、巨大な竜巻から球体へと形を変えてやがて圧縮は偽物を内包可能な限度に達する。その風が黒く染まり、停まった。光すら通さぬ時の監獄。私達が複数で取り逃がした相手をこうもあっさりと。

 

 

「ああ、矢張り我が主は……」

 

 

 

 

 

「よーしよしよし! ポチは頑張りまちたねー! 帰ったらご褒美にお肉を沢山あげまちゅからねー!」

 

「キュイキュイ!」

 

 ……ふう。本当にこの方は……。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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