ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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閑話 幸福の門

 幸福の門の噂を耳にした時、多くの者は疑う事から入った。理想の世界が広がり、中の物を自由に持ち出せるだなどと誰が信じるのか。神話や子供騙しのお伽話の類いと思うのが関の山だ。

 

「そもそも門を潜った最初の方の奴はどうして潜ったんだよ。門を通るまで先は真っ暗で見えないって話じゃないか」

 

「遭遇したら全員死ぬタイプの怪談に似ているよね。僕だったら本当でも黙って居るかな。順番待ちしなくて良いしさ」

 

 噂によれば他にも制約があり、”一日に入れる回数は決まっており、同じ者が何度も出入りすれば他の者が入れる回数が減る”や”荷車は持ち込めず、門の中から何かを持ち出せば中に残っていても一回にカウントされる”等々。

 

 仮に本当だとして、それを広めれば先に入った者にはデメリットしかないだろう。それに夜の間しか現れないが、朝が来ても中に留まっていれば取り残されるとも噂されている。

 

「昔話じゃ似たようなケースで忠告を聞かなかった欲張りが取り残されるんだよな」

 

「ありがちだよな。本気にしている奴ってこの中にどれだけ居るのやら」

 

 そんな如何にも胡散臭い話を笑い飛ばす彼等が向かっているのも幸福の門が現れるという場所。手元の灯りは先頭の男が持つランタン一つだが、雲一つ無い夜空から満月の光が大地を照らして明るい程だ。

 進む道も舗装こそされていないが緩やかな丘を幾つか越えた所で、振り返れば遠くに街の明かりが見える。目指す場所は後二つ丘を越えた先の開けた場所であり、この辺りには厄介な獣もモンスターも出現しない事から子供だって足を延ばして遊びに行く候補になっている。

 

「にしても酒の勢いって凄いよな。誰だよ、”噂を確かめに行こう”って言い出したのは?」

 

「お前だろ。ついでに言うなら酒の勢いで女を買って女房に叱られたのもな。今日は出掛けているから平気だが、禁酒の約束を破ったらどうなるか分からないぞ」

 

 

 とある商会から門が次に出現する場所の噂を聞き、笑い話にする為に酔った勢いで向かっているのだ。歩きながら傾ける酒の瓶に入っているのは庶民には到底手が届かない筈の桃幻郷の酒。未だに険悪な他の大陸の国であり、正規ルートでは入らないその酒を彼等は安値で手に入れていた。

 

「あの商会の連中も話半分に聞けって態度だったし、絶対無いだろうけれどよ。もし存在したらどうする?」

 

「おいおい、ジャンケンだろ。実際、隣の隣の領地じゃ働かなくても贅沢な暮らしをしている連中が居るらしいし」

 

「先代王妃みたいにか? あの頃は酷かったよな。この領地は大公様がしっかりしてくれていたけれどよ。三日に一度は水で誤魔化すのがマシな暮らしだって感じだからな。未だ王族を恨んでる連中も居るだろうさ」

 

「おいおい、他の連中の前では言うなよ? 万が一ルクス殿下の耳に入ったら警備兵の職を追われるぞ。あの馬鹿王子、母親大好きだからな。前も陰口を叩いていたメイドを独断で追い出したとか。んで現王妃様が直ぐに撤回したってさ」

 

「いや、お前も言葉には注意しろよ。馬鹿王子って、そっちの方がヤバいだろ」

 

 アース王国の歴史において最大最低最悪の汚点とされる先代王妃。その暴政の被害は大きく、今の王妃が改革を進め回復を始めた王国でも各地に深い爪痕が未だに残る。口にした隣の隣の領地もそんな場所の一つであり、そんな土地で働かず贅沢に暮らしている者達の噂が彼等の心の奥にもしかして本当に存在するのかもと言う期待を抱かせていた。

 

 無かったら無かったで月見酒でもする気の彼等だが、このペースで酒を飲んでいては目的地までに飲み干してしまいそうだ。

 

 

「おい、酒が減ってきた」

 

「望む世界に繋がってるなら酒の泉位有るだろ。無かったら酔い醒ましに歩いて帰るぞ。泥酔して帰ったら母ちゃんが怒る」

 

「……殺されるかもな。っと、着いたぞ」

 

「無いな。所詮は噂か。じゃあ月見酒を……おい、チーズを食べ尽くしたのは誰だ?」

 

「さっきから自分がバクバク食べてただろうが、酔っ払い!」

 

「何だと、酔いどれ!」

 

「喧嘩するなよ。酒を飲もう、酒を!」

 

 酒が入ったことでの陽気さも何処へやら、少しだけ深刻な感じになった彼等は漸く最後の丘の上に辿り着く。噂では月の光を浴びて輝く門が現れるそうだが、信じていない彼等は適当に探すなり座り込んで酒盛りを開始した。速攻で陽気さを取り戻した一行は噛み合っているようで噛み合っていない酔っぱらい特有の会話を続け、道中で既に半分以上飲み干した酒を消費して行った。

 

「おいおい、宴は此処からだろ。あっ、もう一人分だけだ。俺が貰おうっと」

 

 結局最後の方には一人を除いて酔いつぶれ、その一人は仲間のイビキを聞きながら最後の一杯をチビチビと飲みながらピクルスを齧る。

 

「ちょっとだけ期待していたんだがな。まあ、そんな都合の良い話が存在する…訳……が」

 

 最後の一口をグイッと飲み干しコップを地面に置く。目の前から視線を外したのは僅かそれだけの間。時間にして僅か数秒の間に金色に輝く門が出現していた。

 言葉を失い、酒のせいで幻覚でも見たのかと目を擦り、頬を引っ張って確かめるも門は消えない。

 

「お、おい……いや、待てよ……」

 

 仲間を揺り動かして起こそうと伸ばした手を引っ込めた彼は足音を忍ばせて門へと向かう。目の前の門が噂通りならば宝が手に入るだろうが、どうせ持って帰っていれば仲間に見付かる。懐に隠せる量には限りがあるが酔っぱらいにはその考えには至れない。

 

「凄いな。神々しいと言うべきか何というか……兎に角凄い」

 

 近寄れば門の表面に刻まれた彫刻の繊細さに目を奪われた。神話の一場面を描いた物で、光の女神リュキが人々を守りながら戦うシーンだ。一目見れば心を奪われ、酔いはすっかり醒め、気が付けば門に触れていた。そのまま押せば不自然な程に軽く開き、原っぱの中央に存在するにも関わらず門の中は漆黒の闇。この時点で少し怖じ気付き、それでも恐る恐る一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 その姿を酔いつぶれた筈の仲間の一人が楽しそうに眺めて呟いていた。その声は先程までとは別物だ。

 

「おやおや、本日最初のお客様ですねぇ。どうぞどうぞ。奥にはお客様の欲望を叶えてくれる全てが存在します。ええ、お金は一切頂きません。但しお分かりですか? この世の中は等価交換。生涯遊んで暮らせる程の財産の対価は……アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 一頻り嗤った後でその男は消える。姿だけでなく、共に出掛けた仲間の記憶からさえも……。

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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