ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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妖精姫の思惑

 ……てしまった。認めてしまった。ロノスを軽い気持ちでデートに誘った私だが、足を挫いた勢いでお姫様抱っこまで要求して、その上で民の前でオベロン候補だと……。

 

「……いや、これで良かったのか? いや、しかし済し崩し的に進めるのもロマンが足りない気が……」

 

「何が良かったって?」

 

「な、何でもないから気にするな……」

 

 今のサイズの私達でも座れる大きさとクッション同様の座り心地を持つ花に腰掛けてジュースを飲んでいた妾だが、どうも先程の会話を思い出して自分の席に入り込んでいたらしい。思考が口から出るとは情けない話だ。ロノスが不思議そうにしているのを誤魔化して顔を背ける。……今は満足に顔を見る勇気が湧かん。

 

 民が口にし、そもそもそんな設定だと言い聞かせていたオベロン。そのオベロンとは妖精の姫が祝福を与えた者の中でも特別な一人……女王に選ばれた際の伴侶の事だ。運良くロノスは忘れていたみたいだが、思い出していれば今直ぐ逃げ帰っていた所だぞ。

 

 う、うん。もう民の前で婚約者だと告げたのとおなじであるし? 確かに歴代の姫も何度かオベロンを変えるのは珍しい話でも無かったが、妾が祝福を与えるに相応しい男はロノスしか居ないけれど? ま、まあ、クヴァイル家と妖精族の関係を考えれば政略結婚としても……。

 

「いや、いい加減素直になる機会なのかもな。この決断をしたのも妾の祝福の結果の可能性も否定出来ないし、与えた者として責任が……いや、この思考は素直と呼べるのか?」

 

「何か知らないけれど悩みなら相談に乗るよ? 僕に言える事なら何でも言ってよ」

 

「言えるかっ!」

 

「ええ……。まあ、言いにくい悩みって在るよね。それなら仕方無いけれど、僕が力を貸せる悩みの時は遠慮無く言ってよ。僕は君の力になれたら嬉しいからさ」

 

 ……悪いが言えん。ロノス、貴様にだけはな。そんな優しい言葉をくれて、本当に友だからと力を貸してくれる貴様でも、貴様だからこそ言えんのだ。だってそうだろう?

 

 ”貴様が好きだが、その好きという気持ちに素直になるべきかどうかに悩んでいる”、そんな相談が出来るならとっくの昔に好きだと伝え、母上に相談して正式に婚約を申し込んでいる。友としてではなく、婚約者として隣に居るのだろうから。

 妾は妖精の姫、誇り高くあらねばならぬ。故に己の恋心さえも見ない振りをしていたのだが、最近になってそれが間違っているのではと疑問を有するようになった。己の間違いを認められぬ者に成長は無く、民を導く王になれる筈も無い。

 

 だから少しは素直になろうと思ったのだが……。

 

「それにしても二人分を頼んだのにこんなのが来るだなんて。運んできたと思ったら直ぐに帰っちゃったから取り替えて貰うタイミングを失ったしさ。どうする? 今から持って行って取り替えて貰う?」

 

 その恋を民が応援してくれるのは嬉しい。妾が少しは慕われていると思えるからだ。だが、これは流石に無いだろう。ロノスだって困っているぞ。妾も当然困っている。

 ロノスの手の中には妾のお気に入りの店で注文し、此処まで持ってこさせた二人分のジュースが有るのだが、容器は一つでストローは二つ。いや、よく見れば途中で繋がっている上にハートマークの形をしているだと!?

 

 幾ら何でも段階を飛ばし過ぎだっ!

 

「……妾は構わぬ。そもそも貴様と妾の関係を偽って伝えた結果の心遣いだ。それに不平不満を付けるのは王族として恥ずべき行為。貴様は妾に恥を掻かせる気か?」

 

 まあ、こうは言ったものの流石にロノスは恥ずかしがって拒否するだろう。寂しい気もするが、未だ想いを伝えてもいない癖に期待する方が間違っている。

 恋をした相手との進展を期待するのなら、想いを伝える努力をするのは最低限の事だ。事実、ロノスの周りではストレートに伝える者が多いし、妾も何時かはな。……その”何時か”は己で決めねば”何時までも”やって来ないのだろうが。

 

 さて、そろそろ妾は一人で飲む提案を……おい、どうして片方のストローを咥えている?

 

「いや、何故貴様が飲もうとしている?」

 

「喉乾いていたし、嘘には僕も協力したからね。まあ、量が量だから共犯として付き合うよ。付き合うと云えば今の僕と君は恋人って設定だったし、それを続けないと中途半端な所で露見するのも駄目だろう?」

 

「そうか。……そうか」

 

 此方もストローを咥えてジュースを飲む。甘いジュースが普段よりも甘く感じられたのは気のせいだったのだろうか?

 

 

 

「うん、美味しかった。レキアがお気に入りって言ってたのも納得だよ。妖精の国でしか売っていないのが残念だけどさ」

 

「ならば次の機会が有れば連れて来てやる。ああ、その時に演技をするのを忘れるなよ? 此度と同じ茶番を行うのも暇潰しには悪くない」

 

 喉の渇きを潤し、冷たい飲み物で体を冷やした筈が火照って仕方が無い。だが、不思議と不快では無い。この火照りをもっと感じて居たいと思う程度にはな。

 だから少しだけ勇気を出し、ロノスにもたれかかって目を閉じる。肩に頭を乗せれば存在を強く感じられた。

 

「暫し眠る。そのまま動くな」

 

「はいはい。了解したよ、愛しのお姫様。なんちゃって」

 

「詰まらん冗談だな。センスを磨け」

 

 どうせならば冗談ではなく本心で言って貰いたい物だ。その為には妾も素直になるべきか。もう少し勇気が有ればな。……切っ掛けだ。次に切っ掛けが有れば必ず伝える。……多分。

 

 こうしていると安心するのか睡魔が襲って来る。ああ、心地良い。惚れた男の肩を枕にうたた寝をするなど少し前の妾からすれば信じられぬし、勝手に嫌っていない事を伝えた母上には感謝をせねば……。

 

「お休み、レキア」

 

「ああ、お休み。次は膝枕を……」

 

 ”妾が貴様にしてやる”、と伝える前に意識が飛んでしまう。少し惜しいが、今日は随分と勇気を出せた気がするから良しとしよ…う……。

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなっている? おい、説明しろ」

 

「いや、だってレキアが……」

 

 目を開けた時、妾の頭が乗っていたのは肩ではなく膝だった。確かに次は膝枕だと言ったが、違う、そうじゃない。しかも仰向けだから顔をのぞき込むロノスの顔が間近に見えてドキドキする。

 

「……今か?」

 

 理不尽な文句を言った後のようだが、これは絶好の機会なのかも知れぬ。このまま想いを伝え、じゅ、順序が間違っているから唇に……いや、頬……額にキスをする。切っ掛けが有ればすると決めたのだから、一度決めた事ならば……。

 

「おい、どうして妾の頭を撫でている? いや、止める必要は無い。幼き頃を思い出すからな」

 

 まるで慈しむようにロノスの手が妾の頭を撫でる。幼子でもあるまいし頭を撫でられても不愉快でしかないと思って居たのだが、これは予想外だったか。不思議と安堵感が訪れ、妾はそっと瞳を閉じる。今暫くは堪能させて貰おうか。

 

 ああ、此度のお返しに次は妾が膝枕をしつつ撫でてやるのの一興か。寧ろそのタイミングの方が想いを伝えやすい。そうなるに至る口実は貰った事だしな。

 

 ”貴様が好きだ”、この短い言葉が容易には言えん。色恋のなんと複雑な事か。同時に面白くもあるものだが。

 

「本当に大丈夫? 続けて良いの?」

 

「構わんと言っている。続けよ」

 

 無粋な言葉を吐くな、馬鹿者め。嫌なわけが有るものか。少々不機嫌さを声で表した後は今の時間を堪能すべく意識を頭に触れる手にのみ向ける。

 

 

 

 

「えっと、あの、あ、姉上もお帰りでした…のですね……」

 

 どうやら無粋な者は一人ではないらしい。声を掛けられ目を向ければ相も変わらず気弱そうな末の妹が立っていた。

 

 それも、隣に見慣れぬ男を立たせて……。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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