ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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王と忍びと黒い噂

 大昔、大陸を襲った厄災から人々を守り抜いた聖女が建国したリュボス聖王国の王城にて一人の青年が黙々と書類作業を続けていた。

 

 彼の名は”クレス・リュボス”。この国を統べる若き王であり、周辺諸国の口さが無い者達からは”傀儡王”と嘲られる。

 

 その全てが国に関わる事であり、形式上回されてくる様な重要性の低い物は混じっていない。

 だが、その一枚一枚に関する事項は当然ながら大勢の会議で決められて彼の承認印を待つだけであるが、会議の中心となったのは彼ではない。

 

「……おい」

 

 何百枚目かになる書類に印を押した頃、如何にも憂鬱だといった表情のクレスが気怠そうな声で呼び掛けるも室内に人の姿は存在しない。

 

 

 

 

「お呼びでしょうか? 陛下」

 

 だからこそ、その人物が音も無く床に降り立つ姿はまるで瞬間移動の類に見えた事だろう。

 何処からともなく現れ、床に跪いて頭を垂れる彼女の姿を一言で言い表すならば”忍者”であった。

 

 首に巻いた布は床に着く程に長く、口元を覆面で隠しているので顔の作りは分からないが、胸の膨らみと声からして若い女である事は判断出来る。

 髪は水色で毛量が多いのを後ろで束ねていた。

 服装も忍装束ではあるのだが、所々が網タイツで無駄にセクシーである。

 

 だが、それは彼女が腰に差す刀の違和感からすれば些細な物。

 刀身おおよそ300センチメートルと軽快に動くには些か邪魔になる大太刀であり、鞘こそ立派な黒塗りではあるが、柄には古ぼけた布を少々乱雑に巻いている。

 

 忍びと呼ぶには忍ぶつもりが一切感じられない彼女だが、その姿を見れば何かが妙だと気が付くだろう。

 この女、まるで絵か何かの様であり、生きた人間特有の気配が一切しないのだ。

 

「……陛下か。この国を実質動かしているのは我が祖父である宰相だ。誰かの目がある訳でも無し、我々の流儀に合わせる必要も有るまい?」

 

 クレスが一切動じず誰も呼び寄せない姿や現れた時の態度からして侵入者の類ではなく、寧ろ臣下寄りの立場を伺わせるが、彼が向けるのは自嘲の言葉である。

 

 四カ国が隣り合わせで存在し、同盟こそ結んでいるが移ろい行く人の心次第では情勢は瞬く間に変わる。

 その時、国を守る為に最も必要なのは自分ではないとクレスは思っているのだ。

 

 同意か否定か、彼が彼女に求めたのがどちらなのかは本人のみぞ知るが、彼女が口にしたのはどちらでもない言葉だった。

 

 

「いえ、この国の実権を誰が握ろうと、誰が重要だろうと、最終的に決めるべきなのは王であり、全責任は王が負うべき事。それ以外の者はそれに従うだけかと」

 

「……相変わらず厳しい奴だ。もう少し何とかならんのか?」

 

「人の心の機微は私にとって理解の範疇外であり、主より命じられたのは陛下の護衛。それ以上は致しかねます。……お忘れ無きよう。私は只の道具に過ぎません。芸術品として愛でるも、消耗品として使い潰すも所有者の意思次第。それに変更を加える自由は道具には不要かと」

 

「確かに床を掃除するモップが”自分を武器にしろ”等と叫んでも困るだけか」

 

 女と話す最中、クレスの表情は自虐的な物が中心なれど一人で鬱々と仕事を続ける最中に比べれば明るく、反対に女の方は眉一つ動かさない。

 

 その表情に変化が起きたのはクレスから告げられた言葉を聞いた瞬間だ。

 

 

「ああ、そうだ。今朝聞いたのだが、我が従兄弟のアホの方が王国の貴族と決闘をする事になったらしくてな」

 

「……して、介添え人は?」

 

「どうも闇の使い手らしいが……気になるか?」

 

「いえ。主が何を思い、何を成されても私がすべき事は道具としての存在意義を全うする事だけですので」

 

 声には殆ど抑揚が無い彼女だが、細腕で柄をしっかりと握り締めた刀だけはガチガチと鞘の中で震えている。

 クレスは”一本取った”とでも言いたそうな笑みを一瞬だけ浮かべると再び書類作業に戻った。

 

 

 

「……それと陛下。この前宰相殿に刺客が放たれましたが、モップで全員叩き潰したそうですよ、文字通り。ミンチ状にしたその後で焼いて始末したらしいです」

 

「おい、夕餉のメニューは何だとシェフが言っていた?」

 

「確かハンバーグでしたが、それが何か?」

 

 ”此奴、絶対わざとだろう”、一切表情を変えない彼女にクレスはそんな感情を抱くのであった。

 

 

「しかし、だ。流石に主の手元に居なくても良いのか?」

 

「所有物を所有者が誰に貸そうが道具には無関係です。但し、お呼びとあらば馳せ参じるでしょう。……そろそろお二人の片方が牽制から戻って来るそうなので戻るのも時間の問題かと」

 

「……そうか。話が通じなくもない方だと良いのだが」

 

「どちらも通じるのでは?」

 

「お前、本当に人の心が分からないな。……仕方の無い話だが」

 

 大きく溜め息を吐いた彼は一瞬だけ彼女の腰に視線を送り、再び判子を押す作業に戻る。

 まだまだ仕事は終わりそうにない……。

 

 

 

 決闘が決まった日の翌日、噂は既に学園に広がっており、ヒソヒソ話が否が応でも耳に入って来た。

 僕達兄妹やアリアさんの近くにはフリートやチェルシーも固まり、全員の耳に届いている最中だ。

 

 曰く、アリアさんは僕達に媚びて利用している。

 

 曰く、僕に体を使って取り入った。

 

 曰く、魔女の力で操って……まあ、聞くに堪えない内容ばかりだ。

 

 噂が本当なら手を出せば僕達が黙っていないと思っているのか危害を加える気は無いらしいけど、こうも鬱陶しいと腹が立って来る。

 

 

 ”友達の悪口を言われたから”なんて理由で家の力を使う気は無いし、喧嘩を代わりに買うのも話が違う。

 此処からどうするかはアリアさんの問題だし、僕達はその手伝いをするだけだ。

 

「……こうもあからさまなのは癪に障るわね。私達に媚びたい連中が思惑外れて八つ当たり、あわよくば……かしら?」

 

「おい、ロノス。お前の妹が賢そうな事を言ってるぞ。今日は槍でも降るのか?」

 

「アンタの上に光の槍を降らせてあげようかしら!?」

 

「こらこら、駄目だって。喧嘩しないの」

 

 でもリアスは気が短いからなぁ。

 妹が馬鹿をやらかせば尻拭いを手伝うのも、馬鹿をやらかす前に止めるのも兄の仕事だから仕方無いんだけどね……。

 

「あの、私のせいで皆様にご迷惑をお掛けします。だから……」

 

「だから?」

 

「あの眼鏡の人を決闘で……た、叩きのめします!」

 

 一瞬心配したけれど杞憂だったか。

 未だ少し頼り無いけれどアリアさんは拳を握り締めて決意を口にしてくれたしさ。

 

「……そりゃ結構。俺様のダチの妹と組むんだ。半端な真似をするんじゃねぇぞ? んじゃ、俺は一旦婚約者様を偶には構ってやらねえとな」

 

「きゃっ!? ちょっとフリート! レディの腰に手を回すなら許可取りなさい!」

 

 

 フリートはチェルシーの腰を抱え、アリアさんを軽く睨んで言葉を掛けると去って行く。

 どうやら友達である僕達と少し一緒に行動した程度じゃアリアさんへの好感度は大して変わらないらしい。

 チェルシーはチェルシーでリアスに付き合うなとか言っても無駄だから諦めているみたいだし、一緒に居るだけなら問題は無いだろう。

 

「あの二人ならその内何とかなるだろうけれど……」

 

 まっ、関わる人全員と仲良くしなくちゃならない訳でも無いだろうしさ。

 ……あ~、でも敵だらけなら婿探しも卒業後の統治も上手く行かないのか。

 その辺り、僕達が過度に手を出すのもクヴァイル家の長男として問題が有るんだよね。

 

 

「そろそろ授業だね。アリアさん、最初の授業は何だっけ?」

 

「確か校庭で魔法実技だったかと。担当は……誰でしたっけ? えっと……マナフ・アカー先生ですね」

 

 ゲームではチュートリアルを兼ねたイベントで、成績次第で好感度が変化するキャラも居た筈だし、そうでなくとも実力を認めさせれば影口も減るだろう。

 

 

「アリアさん、頑張ろうか」

 

「はい! ロノスさんが応援してくれるなら百人力ですね!」

 

 ……昨日一日で随分と仲良くなれたなあ。

 明るい笑顔を向ける彼女に僕は感心さえしていたんだ。

 

 

 ああ、昨日と言えばレキアから名前を聞いた商会だけど、リアスもうろ覚えだったから……。

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、これは都合が良い。これだけ闇の残滓が有るならば……私の封印が解けそうですねぇ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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