ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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閑話 神獣の戯れ

 この世界で最も神聖であり、同時に最も人に仇なす者達の拠点である聖地。人々が畏れ敬まい近付く事すら憚られる場所にて今日も邪悪な者達が集まっていた。

 

「スリーカード! むふふ。今回は勝たせて貰ったっすよ」

 

「あっ、フラッシュですね」

 

「またっすか!? 五連続で交換無しでそれとかアンタの幸運どうなってるんっすか!? リュキ様の恩恵がシアバーンに全振りしてない!?」

 

 部屋には山盛りのアップルパイにリンゴ酒、その他諸々のリンゴやそれを使った食べ物。テーブルを挟んでカードゲームに興じるのはシアバーンと、一度は拠点から出て行ったが戻って来たらしいラドゥーン

 

 覆面スーツの男と水着コートの女という両者共に変な格好ではあるが、勝負の腕前は明らかに差があるらしく、賭けの景品らしい物達は全部シアバーンの元に集まっていた。

 

 だが、どうも勝負の結果には明らかに不自然な事が有るらしく、ラドゥーンは不信感を滲ませた視線を送っていた。それに本人が明らかに煽っている。なので創造主の贔屓を疑うラドゥーンだが、その問い掛けにシアバーンは首を横に振った。

 

「いやいや、恩恵の偏りなど存在しませんよぉ! では、お先にいただきます。あっ、全部私が貰ったので”お先”とは妙な話ですねぇ。アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 両手で賭けの景品を持ち上げ、背中を反らす事で真上を向けた首の口に近付け、一気に飲み干す。首が一瞬で膨れ上がり、直ぐに元の大きさへと戻った所で姿勢を正すシアバーン。ニマニマと笑い、ラドゥーンを煽っていた。

 

 

「まあ、イカサマはしていますけれどね」

 

 手袋から溢れ出すトランプ。それをラドゥーンは暫く呆然として見つめ、先程まで大量の景品が有った場所を眺めて震えだした。

 

「もうこんな同僚嫌っす……」

 

「仕方無いでしょう。私って生まれつきこんな感じですもの」

 

「あーもー! せめて直す努力をしろー!」

 

「嫌です」

 

「な! お! せ!」

 

「嫌です」

 

 今にも殴りかかりたいのか拳を振るわせるラドゥーンだが、見えない糸にでも縛られているかのように動けない。せめてもの抵抗として歯をむき出しにして睨むも目の前の相手は嗤うだけ。

 

 結果、諦めたラドゥーンは机に突っ伏した。

 

「……サマエルは? サマエルは何処っすか? もうシアバーンとは遊んでやらないっす。ルールすらろくに理解していないあの子となら勝負になるっすから」

 

「そんな相手と勝負しようとか性格悪いですねぇ」

 

「おまいう!」

 

 この世でトップレベルの性悪から放たれた”性格悪い”。ラドゥーンはその言葉の意味を理解するのに十秒の時間を要し、再び殴り掛かろうとするも見えない力に邪魔されて出来ない。諦めて座るも不満は残ったままだ。

 

 

「将同士のじゃれ合い以外での戦いは禁止ですのに其処まで仲間を攻撃したいので? よよよよ、悲しいです」

 

 泣き声と共に覆面の目玉の部分を手で覆うも棒読みだ。明らかな演技、それも大根役者であった。わざとなのは明白だ。

 

「シアバーンが言うっすか。性格悪いってアンタにだけは言われたくないっすけれど……。てか、嘘泣きするなら騙す工夫位しろ。バレバレっすよ」

 

「私、正直者でして。サマエルの方は騙す気でもバレバレですが、私は騙す気にならないのでバレバレなのですよ」

 

「そのサマエルの姿がずっと見えないけれど何処っす? まさか出掛けた先で迷子になったんじゃ……」

 

「何処かの誰かじゃあるまいし、迷子にはならないでしょう。お馬鹿ですが帰巣本能は強い子ですしね」

 

「じ、自分だって迷子にはなってないっす! アンタ達が嫌だから出て行っただけっすよ!」

 

「誰もラドゥーンの事とは言ってませんよ? やれやれ、仲間の言葉を疑って有りもしない侮辱に反応するとは。神獣将としての誇りを持ちなさい。うちの紅一点ならお仕事ですよ。不安ですが。あの子一人にさせるのは不安ですが。とっても不安ですが」

 

 大事な事だから三度言うシアバーン。ラドゥーンもサマエル一人での仕事と聞いて不安そうだ。

 

「てか、紅一点とか酷くない? 自分だって一応は神獣将の一人っすよ? まあ、違うと言えば違うんっすけれど。解除方法分からないからだし」

 

 神獣将は三人であり、シアバーン以外は女の筈だ。それをサマエルに対して紅一点だとシアバーンが口にしてもラドゥーンは微妙そうな顔と共に言いにくそうに口を開くのみ。

 

 

 そんなラドゥーンの前に大きく切り分けられたアップルパイとアップルティーがシアバーンによって差し出された。

 

 

「大丈夫。貴女も神獣将の一部には変わりないから自信をお持ちなさい。今までだって立派にこなしてきたでしょう?」

 

「シアバーン……」

 

「ツッコミを」

 

「そっちっすか!? 他にも有るでしょう、他にも!」

 

「え?」

 

「え?」

 

 ラドゥーンは押し黙り、アップルパイをフォークに刺すと一口で食べ、アップルティーで流し込む。口元にはバッチリ食べかすが残っているが気が付いた様子は無かった。

 

 

 

「それでサマエルったらどんなお仕事っすか? 自分も手伝いに行くっすよ」

 

「いや、ラドゥーンには無理でしょう。だって恋愛に関する相談ですし」

 

「無理っすね! アップルパイお代わり!」

 

 即答と共に差し出した皿には再び大きいアップルパイが二個も三個も置かれて行って、それを見るだけでラドゥーンはご満悦の表情だ。

 

 

 

 この時、ラドゥーンは未だ知らない。その中の一つに練りわさびを圧縮した塊が存在する事を。紅茶には粘り気を僅かに加えており、辛さをどうにかしようと口に入れれば辛さが口の中全体に広がって更に悶え苦しむのを。

 

 

 

 そう。未だ知らないで居た……。

 

 

 

「あっ! 言い忘れてたけれど、今回の聖女と争ったっすよ。まあ、そこそこやるっすね」

 

「いや、そんな重要な事はもっと先に言って下さいって」

 

「今言ったから良いじゃないっすか。さて、じゃあいっただきまーす! 矢っ張り甘い物は味が口に広がる一口で行くのに限るっすね!」

 

 今選んだアップルパイに何が仕込まれているのか、それをラドゥーンは知らないで居た。匂う事での発覚は対処されているらしく、今にも丸飲みにしそうな彼女に気が付く様子は見られない。

 

「これ食べたら自分もお仕事の計画練るっすよ。人間を地獄に叩き落としてやるっすから。シアバーンより活躍するから見てるっす」

 

「ええ、じっくりと見させていただきます」

 

 今から地獄に叩き落とされる仲間を見ながらシアバーンは静かに頷くのであった……。

 

 

 

「しかし大丈夫っすかね? サマエル、アホの子だし」

 

「アホですからね、サマエル」

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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