ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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家族

 ……前世の記憶は僕に多くの物を齎してくれた。強くなろうという意志を僕とリアスに与えてくれ、記憶が蘇る事が無ければゲームの通りに多くを失い、リアスとの関係も今とは大違いだったと思わされる時が多くある。

 

 でも、弊害だって存在する。この世界で平和に見えて裏ではかなり殺伐とした国の有力貴族であるクヴァイル家の次期当主としてのみ生きていたら平気だっただろう他人の命を奪うって行為は、平和な現代日本の倫理観を学びながら育った八歳までの前世の記憶によって平気な物ではなくなった。

 

 前世の人生が八歳で幕を閉じ、記憶が戻ったのも同じく八歳の時。これでどちらかがもっと長い間生きていたなら倫理観とかの感覚の違いに大きく戸惑い、自らの行為に心を病んだかも知れない。

 幸い……とは口が裂けても言えないけれど、国の為、家の為、大切な人達の為、そんな言い訳を自分にすれば人や、見た目は人でなくても言葉が通じる相手、そんな日本人なら攻撃するにも躊躇する相手の命を奪える。

 勿論、リアルな映像のゲームで攻撃するのとは五感から入って来る情報が段違いで最初は鬱屈とした気分になり、何も知らなくて良いから何も知らないリアスには心配をさせて時には泣かせた事も。

 

「何かあったなら話してよ、お兄ちゃん!」

 

 うん、本当にあの時は傷付けちゃったな。涙をボロボロこぼすリアスを誤魔化そうとするんだけれど、何時もと違って全然誤魔化せなくってさ。

 

 そして、そんな想いをしたくないから僕が意識しているのは戦いの中だからこそ普段通りに振る舞うって事だ。相手の命を奪う際に軽口を叩くなんて不謹慎で異常な行為だけれど、それが僕の心を保ってくれる。その点、夜鶴には感謝しなくちゃね。彼女には事務的に相手を始末する指示が出せる。誰かを挟む事で何処か他人事みたいに思えるんだ。命令している時点で僕が殺すのと同じなんだけれどさ……。

 

 

 

「終わりだよ、ユニコーン。君の相手はもう飽きた。さっさと死んでくれるかい?」

 

「戦闘中に余裕だな、貴様は。無理はするな……」

 

 そして今日も顔と名前を知っている相手の体を乗っ取って復活した神獣の命を奪う時に軽口を叩く。ああ、でもレキアには無理して見えるんだ。そっか、だったらリアスにも分かるだろうし、あの子が居なくて良かったよ。

 リアスは単純で……素直だからレナスの影響を強く受けて強い敵と戦うのが好きになっちゃったけれど、戦いをいやがったり人を攻撃するのが怖いって気持ちが分からない子ではないんだ。だから僕の内心を知られれば心配されるだろう。

 

「確かに君の再生は厄介だし、結合の邪魔も困難だ。でも、一から作り直すのを邪魔するのは別だよね。それに回復に必要な魔力って何時まで持つんだい?」

 

 既にユニコーンは頭の半分まで再生が済んでいて、神獣が生まれ持つ人への憎悪から僕を睨む。でも、僕の言葉に何をされるのか悟ったんだろうね。……ほら、恐怖が目に宿った。

 

「”時の檻(タイム・プリズン)”」

 

 魔法の詠唱ってのは本来必要ない場合が多い。まあ、力を磨けば無くっても使えるんだけれど、動く時の掛け声みたいな物かな? 気合いを入れたい時には口にする。今回もそう。頭一個が入りきらない大きさの空気の箱にユニコーンの頭を閉じ込めた。

 

「自動再生にも魔力は必要だよね? それに重傷でも一瞬で再生するのと不死身は別物だ。何時まで頭だけの状態で生きていられる? さあ! 根比べと行こうじゃないか」

 

 内側からの圧迫と魔力による妨害で空気を停止させて作った箱にヒビが入るけれど、即座に修復、更に外側から補強する。ユニコーンの命と魔力が尽きるのが先か、僕の魔力が尽きるのが先か勝負だ。まあ、勝つのは僕だけれどね。

 

 檻の中から感じるユニコーンの再生と妨害による抵抗、それは暫くの間続き、やがて感じなくなる。真っ黒の箱だから中身は見えないんだけれど、僕の魔法で構築しているから中から魔力を感じなくなったのを感じたよ。

 

「終わったのか?」

 

「多分ね。でも、罠の可能性もあるし暫くは様子見をするよ。多分大丈夫だとは思うんだけれど、万が一出した途端に復活されたら大変だからさ」

 

 謁見の間を見渡せばユニコーンが走り回ったせいで床には蹄の跡が刻まれて、所々に戦いの影響が出ている。先に相手をしていた騎士達は大怪我している人は居ないみたいだけれど、壁も床も調度品も傷だらけ。特に謁見の間なんて血で絨毯がドロドロに汚れてる上に大きく床が割れている所まで。

 

 結構疲れているんだけれど、これを直すのか。ちょっと骨が折れそうだな……。

 

「あーあ。……痛っ!」

 

 大きく溜め息を吐いた時、腕に痛みが走る。ああ、ユニコーンの突進を受け止めた上に持ち上げて床に叩きつけた時に痛めたのか。帰ったらリアスに回復魔法を使って貰おうかな? でも、心配掛けそうで嫌だし……。

 

「何だ。腕を痛めたのか? ……仕方の無い奴め。ほら、見せて見ろ。妾とて回復魔法は使える」

 

「そうかい? じゃあ、お願いするよ」

 

 腕を差し出すとレキアの手元に瑞々しい切り花が現れて、それから零れ落ちる雫が腕を濡らしたかと思うと痛みが嘘みたいに消えていた。

 

「助かったよ、レキア」

 

「……ふっ。友の為なら造作もない。それよりもそろそろではないのか?」

 

 レキアにも言われたし、直ぐに対応する為に警戒しながら檻を消せば中には角だけで肉片一つや血の一滴も入っていない。角の魔力を全部使い切ったから消えたのか。回りを見ればさっきまで悪臭さえ感じさせたユニコーンの血さえ消え失せている。そう、まるで最初から存在しなかったみたいにだ。

 

「……これでヴァールが存在した痕跡は消えちゃったね。家族もそうだけれど、あの子、最後のお別れも出来なかっただなんて……」

 

 サマエルがどうやってターニアに侵入したのかは分からないけれど、ヴァールが生け贄にされたのは唐突な事だった筈だ。心の準備をする前に大切な人を失うなんて幾らでも聞く話だけれど、だからと言って悲しみが減る訳も無い。ニーアはどれだけ落ち込むんだろうか……。

 

 それにヴァールの家の事も有るし、僕に何が出来るんだろう?

 

「……余計な気は回すなよ。あの小僧の死に関する後始末も、ニーアを慰めるのも余の役目だ。女王であり、母である余のな。まあ、今日だけは女王の立場を忘れ母として泣くあの子を慰めてやるさ」

 

「妾も今日は姉として彼奴に接する事にするか。おい、悪いが婚約に関しては今度にして貰うぞ」

 

 ……何だかんだ言ってもレキア達はちゃんとした家族なんだ。なら、僕が口出しする事じゃない。後は任せて帰ろうか。

 

 

「じゃあ、僕は此処を直したら帰らせて貰うよ」

 

「それは助かるが……その前にちょっと待て。目を瞑った状態でな」

 

「ん? まあ、良いけれど……」

 

 戸惑いながらも言われるがままにすれば首に手が回され、唇に柔らかい物が触れる。これってもしかして……。

 

 目を開ければ人間サイズになったレキアの顔が直ぐ近くにあって、少し怒った顔だ。

 

「祝福を重ね掛けしておいた。妾の祝福は”幸運”。運命の分岐点で都合の良い物が現れやすくなる。……目を瞑っていろと言っただろう」

 

 えっ、今のってキスされた? じゃあ、怒ってるんじゃなくって照れてるのか。うわっ、僕まで恥ずかしくなった来た。

 

 

 

「くくく。馬鹿娘が照れて言えないのなら余が教えよう。祝福を重複して与えた場合、その相手以外には二度と与えられなくなる。妖精にとって祝福とはそれ程迄に重要な物だ。心しておけ。……まあ、要するに”生涯貴方をあ……”」

 

「は、母上! そんな事よりもニーアの所にお向かい下さい! ロノスも母上の冗談を真に受けるな! 妾にとって貴様は大切な友人でしかないのだからな!」

 

「……お前、それは婚期が遅れる原因になるぞ? まあ、確かに余は一旦失礼させて貰おうか。では、未来の夫婦に後を任せよう」

 

「母上! いい加減になさって下さい!」

 

 おっと、また慌ただしくなった。家族って良いよなあ。

 

 

 僕にも血の繋がりの有無は関係無く家族と呼べる人達が居る。さあ、早く家族の待つ家に帰ろうか。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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