ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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汚い仕事、するする詐欺にならない為に


続・ポンコツくノー夜鶴ちゃん

 天網恢々何とやら、世の中に悪の栄えた例無しとは言うけれど、同時に悪の根も絶えた事が無いのが辛い現実だ。

 

「ひ、ひぃっ! 命だけは! 命だけはお助けを!」

 

 夜の闇が広がって、月の光も厚い雲に遮られた村の中、命乞いをする肥満体の男に刃を振り落とす。切れ味が鋭いからか手には殆ど感触を感じさせず骨まで切り裂いたけれど、それでも命を奪ったって感触は残る。

 

「……もう終わりか」

 

 村の周囲は時間を停めた空気の壁でグルリと囲み、抜け穴は途中で潰している。振り返れば村中に危険を知らせる為に半鐘を設置した見張り台が倒壊していて、直ぐ側の建物の陰ではさっき殺した男が視線で合図を送り僕を襲う筈だった男達が背中から刺し貫かれて死んでいた。

 

「主、掃討が完了致しました」

 

「そう。ご苦労様」

 

 僕の周囲に集まって跪いた”夜”達。ずらりと並んだ同じ姿の彼女達は皆揃って機械的な感情を見せない表情を浮かべ、村一つ皆殺しにしたのに返り血を浴びた様子は一切ない。当然だ。この程度の相手に返り血を浴びる筈が無いんだから。

 

 報告を受け、労いの言葉を掛けた所で僕は表情を緩める。ふぅ。こういった仕事中は心が死ぬから辛いんだよね。だからって僕がしないとリアスに回って来るしさ。ゲームでは”聖女の裁きよ”って言って盗賊の村に魔法を降り注がせていたっけな。

 

「それにしてもどれだけ片付けても次から次へとしつこいし、台所の油汚れを掃除する気分だよ。まあ、僕は台所の掃除とかしていないけれどさ」

 

 この日、僕は戦争中の敵国に攻め行った訳じゃなく、この村はリュボス聖王国の領土内の村だ。でも、僕は此処の連中を国民とは認めない。国を蝕む害悪だ。

 

「違法薬物の密売組織か何かは知らないけれど、共和国で活動中なら共和国だけで行動して欲しいとは思わない? こんな連中に舐められたって事実だけで国の名前に傷が付く」

 

 今日は偶に依頼される”汚いお仕事”。何でも開拓事業の一環で新しい村や町を作っているんだけれど、共和国で活動している悪党共が地方の役人に賄賂を渡して商品の原材料の生産拠点を作ってしまった。

 

 当然潰すんだけれど、舐められたって広まれば他の連中にも侮られる。だから闇に紛れてこっそり始末するんだ。……大勢を殺してでもね。魔法で遠くから攻撃すれば感じる物は違うんだろうけれど、それは逃げだと思う。僕は命を奪っている自覚を忘れちゃ駄目なんだ。

 

 ちょっと昔、未だ慣れていなかった頃の僕は酷いもので仕事後には気分が最悪で体調崩していた。それを見かねて夜鶴が提案して来たよ。

 

 

「主、人の命を奪うのは私にお任せ下さい」

 

 僕の事を思っての提案だけれど、受け入れる訳には行かなかった。だってさ、命令して殺させるのと自分で殺すの、この二つの何処が違うんだい? 人に任せれば目を逸らす言い訳が出来るってだけだ。

 

 

 

「じゃあ、帰ろうか。……ポチに乗って来られたら楽だったんだけどね」

 

 体力的にはほぼ万全で、精神的にはクタクタだ。それでも笑顔を浮かべながら明烏の柄に手を添える。僕が村の外に向かって歩く度に村の中心からひび割れる音と一緒に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、壁を消して村の外に止めてあった馬車に乗り込むと轟音と共に崩落。明日には災害で村が全滅したって発表されるだろう。

 

「捕らえて先に連れて行ったボスは何時まで持つかな? 事故が起きた時の為に幹部数人も一緒に連れて行ったけれどさ」

 

 フードで顔を隠して進んだ先には馬車で待つ顔を隠した御者の姿。そのまま乗り込んだ馬車に揺られながら呟き、備え付けのソファーに身を任せる。一般的には不幸な事故として、横の繋がりで村について知っていた連中からすれば関係各所に頻発する災害に見せしめだって分かるだろう。

 

 恐れて遠ざかるなら良し。報復に出るなら叩き潰す。……ああ、それにしても前世で好きだった魔法の世界も世知辛い。

 

「現実は結局現実だって事だね。さてと、今夜の宿までどうやって時間を潰そうか」

 

 ポチは目立って警戒されるから馬車で来たんだけれど、お陰で今夜中に帰れないからクヴァイル家の別荘に宿泊するんだけれど、村から別荘まで結構な距離がある。こんな仕事の場合は互いに顔を隠していて御者には関わらないのが暗黙の了解だし、だとしたら……。

 

「退屈だし話でもしよう。出ておいで」

 

「……はっ!」

 

 壁があるけれど一応声を殺し、御者からは死角になる位置に夜鶴が現れる。さっきまでの機械的な無表情は仕事用、今は少し緩んでる上に何かを期待している顔だ。

 

 あー、成る程。僕も分からないでもないんだけれど……。

 

「あ、主。退屈なのでしたらトランプでもしましょう。私、分体相手にポーカーで最近連戦連勝なので強いですよ」

 

 違ったか。いや、少しは期待したんだけれど、違ったなら仕方が無いね。夜鶴は胸元に手を突っ込んで谷間からトランプを取り出すんだけれど、まさか仕事中にずっとそんな所に仕込んでたの? 馬車に置いておけば良かったのに。

 

 得意そうに胸を張り、フンスって感じで鼻息をする彼女だけれど、谷間に仕込んだトランプを無理に取ったせいか胸に巻いたサラシが少し緩んで右側は少しピンクが見えている気がするけれどマジマジとは見ないでおこう。それが礼儀だ。気が付いたら直しちゃうし。

 

「所で何か賭けての勝負?」

 

「ええ! 何かあった方が盛り上がりますし、次に夜伽の機会があった時に参加する権…利……いえ、何でもありません。自分相手ですから賭事はしていませんよ」

 

 ドヤ顔だった癖に途中でトーンダウン、それで誤魔化せると思ったのとか、勝手に何を決めているんだとか、これってお仕置きが必要な案件だよね? うわっ、何とか誤魔化せたって顔だよ、あのポンコツくノ一。

 

「まあ、良いよ。早速始めよう」

 

「手加減はしませんよ!」

 

 ちょっと呆れそうになるけれど夜鶴は気が付いていないのか得意そうにシャッフルしている。でも、連戦連勝については詳細を分体である”夜”達から聞いてるよ?

 

「所でその勝負って一方的に視界情報を共有して手札見ているんだって? 幾ら自分の一部相手でも卑怯じゃない?」

 

「にゃっ!? 何でその事をっ!?」

 

「相談されたんだよ。本体が汚いって」

 

「ふぁっ!?」

 

 畳み掛けるように次々に指摘すれば動揺からかトランプを落とす。ドヤ顔を向けた相手からイカサマ指摘されたら恥ずかしいよね。でも、この程度じゃ終わらない。

 

「記憶の共有をする日まで間があるから分からなかったんだね。まあ、暇だから相手をするけれど……君が負けたら今夜泊まる宿での服装は全裸ね」

 

「んなっ!?」

 

 これで夜鶴は思考能力が激減、僕の勝利だ。最後の提案で限界まで達したのか固まってしまったし、勝負自体が無かった事になりそうだけれどお仕置きの意味も有ったから別に良いや。ちょっと惜しい気もするけれどね。

 

 あー、でもセクハラかな? 一晩中肉体関係結んだばかりだから調子に乗っちゃった。後で謝るとして、本当に罰ゲームをする事になっても全裸は無しにしよう。

 

 僕的には下半身だけ露出とか濡れて張り付いた服が透けてるとかの方がエッチな気がするんだよね。

 

 

「あ、あの、主。私はそれで構いませんので……えっと、護衛は密着して行った方が? ベッドでもお風呂でも……」

 

「いや、密着し過ぎると護衛が難しいよ?」

 

 この期待した顔、まさかわざと負けて、その後の事を期待しているな。

 

お仕事の後で気が高ぶっちゃった?」

 

 目を逸らしモジモジしている夜鶴は顔を真っ赤にして可愛らしいし、色気だって感じる。ちょっと前、肉体関係を持ってしまってから偶にこんな風になっちゃうのは仕様なんだろうか?

 

 前の世界じゃ柄頭から刃先までで三メートルもある太刀が記録に残っているらしいけれど、夜鶴は刃だけで三メートルの太刀……それが自分自身を使う為に作り出した肉体。昔はもっと無感情っぽかったのに、どんどん人間臭くなるのは良いんだけれどさ……。

 

 

 

 

「流石に戻って来てから毎日誘われるのは身と心が持たないから。……自重しようね?」

 

「は……い……」

 

 うーん、本当に夜鶴の扱いをちゃんと考えなくちゃな。しにくいけれどパンドラに相談しよう。

 

 

 

「あっ、お帰りなさいませ」

 

 そんな風に悩む僕を別荘で出迎えたのは手を使わず足と首だけでブリッジしているプルートだった。……はい?




絵、発注 次は誰でしょうねえ

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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  • 夜鶴
  • ネーシャ
  • ハティ
  • レナ
  • パンドラ
  • サマエル
  • シロノ
  • アリア

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