ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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少女は恋に浮かれる

「……ぷっ! ははは、あははははははっ!」

 

 私は手紙を貰った事そのものが少ないけれど、これ程までに笑えた手紙を貰ったのは初めてだ。表面だけ取り繕った”明るい少女”の演技の時に笑い声を上げたとしても、それは勿論演技で心の中は冷め切っている。

 

 ……だからこそ、ロノスさんとその周囲のごく少数と一緒に居る時に感じる楽しさや幸福が愛しいのだろう。

 

「この言葉、有名なお話の台詞そのままじゃないですか。私が知らないとでも思ったのでしょうか? 本当に浅知恵なんですから、あの二人は。……あっ、誤字発見。いえ、これは誤字というよりも……」

 

 手紙の送り主は実の祖父母であり、私からすれば他人同然の二人。向こうだって父親が分からない不義の子の上に忌み子の象徴である黒髪黒眼、その上で闇属性なんて判明してからの態度といったら。

 

 直接殺せば外聞が悪いから食事も衣服も禄に与えず(まあ、元から貧乏な上に、クヴァイル家の新しい街作りの影響で更に貧しくなったんだけれど)、”領地の為に働いた結果の名誉の死”を与える為に危険な仕事も振って来た。死ねば良しで、仕事をこなせば余所に依頼する金が浮く、そんな浅知恵の悪知恵を働かせる二人からの手紙は読んでいて笑いを堪えきれない。

 

「愛しの孫? 心から大切に想っている? ふふふ、変な人達。”娘が遺した”って所が”息子が遺した”ってなってますし、本を読みながら写す時に間違えたんですね。ほら、此処だって私の名前が登場人物の名前になっている」

 

 急にこんな手紙を送って来るだなんて私を笑い死にさせたいのかと勘ぐりながら読み進めていれば本題に入った。まあ、要約すれば”何が何でもロノスさんの寵愛を得ろ”だ。恐らく私と彼が仲良くしているのを噂で耳にしたのだろうが、一緒に届いた小包には”元気になる薬”やら向こう側が透けて見える下着等々、手紙の最後に”万が一学生の身で妊娠しても責めはしない”という文章に隠された本音が伝わって来るみたいだ。

 

「……誘惑するのは私の意志であって、貴方達の命令は関係有りませんよ。鬱陶しいのでこんな物を送って来ないで下さい」

 

 最後の最後で笑える手紙から不愉快な手紙に変わったのを魔法で跡形も無く消し飛ばす。私が彼と仲良くしたいのは私の意志で、家の利害なんて無関係だ。口出しするな、煩わしい。第一、学生の身で子供を作るなんてロノスさんの外聞に関わるだろう。

 

 続いて小包にも魔法を放とうとして手を止める。今度一緒に出掛ける……要するにデートだ。そのまま家にまで送って貰う? いや、恐らく遅くなるし、ちょっと何処かで休憩やら宿泊する可能性も捨て切れ無い。

 

「まあ、家族からの贈り物を消し去るのも悪いですよ。それなりに高価な物みたいだし、貧乏人が物を粗末に扱うべきじゃないし。貰っておきましょう」

 

 いよいよデートは明日、何時も心は冷めている心が踊るようだ。既に胸元が少しだけ開いた可愛い服も用意した。私と親子になれると勘違いしていた男から貰った物を売りさばいた金は結構残っているけれど、もう少し大切に使おう。……幸せが何時までも続くはずがないのだから。

 

「まだ数ヶ月しか経っていないのに遠い昔みたい。あの人達に出会えて私は本当に救われたんですね」

 

 もし階段から滑り落ちた時、ロノスさんが側に居なかったらどうなっていただろう? 大怪我をして、黒髪黒眼だからって助けてくれる人なんて一人も居ないまま道に倒れていた結果、一生残る怪我を負ったと思う。

 

 もし現在付きまとって来ている眼鏡に絡まれた時にリアスさんが助けてくれなかったらどうなっていただろう? あの男は正直言ってアホだ。校則の”生徒は平等”だなんて学校外の事を考えれば建て前でしかないとはいえ、初日から堂々と絡んで来た。アレでも良家の子息だし、そんなのに敵視されている忌み子の私なんて教師でさえ関わりたく無いだろうし、もしかしたら追い出す事であの眼鏡にすり寄ろうとするのも居た可能性も。

 

「……そう言えば上の人は最近静かですね」

 

 ちょっと前まではドタバタと五月蠅い足音で嫌がらせをして来ていた上の部屋の豚みたいな奴だけれど、最近は随分と大人しい。確か”アンダイン様を誘惑するな”とか事実無根の言い掛かりを受けたし、吐き気がするから止めて欲しい。

 

「……おぇ」

 

 想像しただけで気持ちが悪くなった私はベッドに寝転がり眼を閉じる。そうすれば自然と浮かぶのは愛しのロノスさんの顔。唇に触れた彼の唇の感触も蘇って来るし、あんな眼鏡を誘惑するだなんて有り得ない。

 

「だいたい、こんな風に寮住まいな時点で彼と彼女がくっつくのは無理なのに。だって学園近辺に住む場所を用意出来ない貴族が住む場所ですよ? 彼が未だに正式な婚約者が決まって居ないからって、自分が恋仲から玉の輿に乗れるとでもおもったのでしょうか?」

 

 あの眼鏡も豚も勘違いしているみたいだけれど、婚約者が決まっていないのと恋を自由にしても良いのとは全くの別物で、同様に兄弟が居るからって自由な立場と勘違いする連中にも困った物である。”立場が弱い”や”どうなるか未定”なのと”何をしても良い”は全くの別物。

 

 立場が不安定で権限が低くても、何かあれば実家に迷惑が掛かり、それが領民や関係する他の家にまで及ぶのは変わらない。……最近、私の実家と少し関わりのある家の先輩が妖精相手に何かやらかしたと耳にした。内々に処理したから詳細は知らないし興味も無いけれど、その先輩も自分には兄弟が居るから気楽だのと友達に話していたとか。その友達が馬鹿にした口調で広めているのだから笑える。それこそその先輩の影響からか先程笑った手紙が来た程だ。

 

 

「まあ、どうでも良いですね。今はデートの準備、デートの準備。……もう少し露出の高い方が良いでしょうか? いや、でも……」

 

 ロノスさんの屋敷にお邪魔した時に出会ったメイド……確かレナさんだった筈だが、どう見てもロノスさんを性的に狙っていた。あの色気は強烈だ。私が読み齧った知識で中途半端な真似をしても二番煎じ。……既に告白しているし、その上でデートを受けて貰った……脈はある筈。

 

「……んっ」

 

 布団を被り、一応声を押し殺してデートのイメージトレーニング。経験は無いけれど本で勉強はしているし、やっておいて損は無い筈。指先を色々な部分に持って行き、アレコレしていると時間が過ぎて行く。ああ、少しお腹が減ったから何か食べに行こう。

 

 火照った体を起こして部屋から出て、向かった先は食堂。談話室も兼ねていて、誰彼の取り巻き毎にグループに分かれて集まっているのを見かけるが今は少し遅いからか同級生が数人だけ集まって談笑していたが、私の姿を見た途端に固まった。

 

 

「あれ? 皆さん、どうかしましたか?」

 

 この時も私は普段の通りの仮面を被り、ニコニコと笑顔を向ける。ちょっと前までは聞こえる声で陰口を叩いたり、手が滑ったとか言いながら水をかけて来たのに、今じゃ恐怖で顔が引きつって……馬鹿みたいだ。

 

 

 ……夏休み前の試験、筆記はギリギリだった私だけれど実技の方は当然だけれど上手く行って、その結果がこの反応。見事な手の平返し。ああ、なんて馬鹿馬鹿しい連中だ。

 

 ……まあ、私だって幸運で今の力を手にした訳で、それがなければ何をされても黙って耐え、相手が飽きるのを待つしか無かったのだけれど。

 

 にしても最初の魔法実技の授業の時に力は示したのに今こうやって怯えているのは試験の時からだったのだから首を傾げたくなる。

 

 

 どの試験だが数人毎に分かれてのバトルロイヤル形式だった……。

 

 

 




絵は表情差分ありです

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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