ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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罪と罰

「……うぅ。主、少し長かったのでは?」

 

 一晩続いた生殺しの状態、一度互いを貪りあった仲である主に抱き枕にされるもそれ以上は何も無く、私を拘束するのは主の私物な上に拘束したのは私の分体。端からでは分かりにくいが縄抜けの要領で脱出は無理で、ましてや力業で拘束をはかいしてなど論外。朝日が射し込む中、未だに寝息を立てる主の顔を間近で見るのが恥ずかしく、ふと窓を見ればカーテン閉めていなかった。

 

「……」

 

「……」

 

 警護任務中の分体と目が合う。”アホ組に言いくるめられて何をやっているんだ”と言葉にせずとも伝わって来るようだ。……心を無にしろ。一切の感情を捨て、道具に戻れ。所詮私は意思を持つだけの人斬り包丁、”お疲れの時こそ殿方は漲りますし、鬱屈とした気分を別の何かで上書きするのも臣下の務め”と言いくるめられ、今みたいにまな板の上の鯉状態で主に犯されるのを待っていたなど……気のせいだ。

 

「私は主の道具として仇なす者と戦うのみ。それ以外の事など行うはずも無い。故にこれは泡沫の夢に過ぎない……」

 

「いえ、今は現実と戦って下さい、本体。いえ、ポンコツマゾ忍者夜鶴さん」

 

 

 自己暗示ならず。現実逃避を現実逃避と指摘した分体は窓を開けると(鍵していなかったのか)私に呆れかえったって感じの目を向けた後で鍵とカーテンを閉め、足音を忍ばせて部屋から出て行く。静かに扉を閉めたのに、僅かな音が私にはハッキリと聞こえ、何時までも耳に残るようだった。

 

 

「マゾって……。ポンコツマゾって……。私達、基本的に同一人物の筈なのに……ひゃっ!?」

 

 分体が消えた方に意識を向けていた私の首筋に触れる柔らかい物。それが主の唇だと理解した時にはベッドの中で服が剥ぎ取られ、最後にサラシが解かれる。つまりは主が目を覚まし、昨晩口にした通りに……。

 

 良し、此処は覚悟を決めて……。

 

 

 

 

「くっ! 外道め。何をされても私は情報を吐かん! 殺せ!」

 

 拘束されたくノ一というシチュエーションを存分に発揮して尋問プレイをお楽しみして頂くのみ! 最初は抵抗を見せるものの徐々に与えられる快感に身も心も支配され、最後に完全に支配下に堕ちる! 主の秘蔵の本にそんな感じの女スパイ物があったし、これで問題無いはず。

 

 

 最後に裏切った仲間の所に送り返されるシチュエーションは分体に協力して貰うべきだろうか? いや、蔑んだ目を向けそうなのがいるな。ならば既に仲間が裏切っていて、尋問役と共に捕らえたくノ一を責め立てるという展開で……。

 

 まさか自分が道具だと言い聞かせた後に好き放題されるというシチュエーションを楽しむ事になろうとは。まあ、勿論主限定ではあるが……あれ?

 

「……」

 

「ふふふ、怖じ気づいたか? ならば私を解き放て。それとも下郎らしく嬲る気……」

 

 主、引いてる? いや、確かにお好みの小説の展開の筈! ならば引かれる筈が……。

 

 主の顔を無遠慮に眺めれば困惑の表情を浮かべ、私の演技に乗って”捕らえた密偵の女を尋問と称して陵辱する男”の演技をするでもなく固まっている。……しくじったっ!

 

「えっと、あのですね……」

 

「う、うん。ま、まあ、そんな風なシチュエーションが良かった……んだね。わ、分からなかったや。はははは……。拘束解かない方が良かったかな?」

 

 不味い不味い不味いっ! 当初の予定ではノリノリの主に乱暴に扱って貰う予定だったのが、拘束に使っていたスカーフを解いて貰っていて、今から普通に楽しもうって主の前でとんだ醜態を晒した事に。

 

 尚、主は眼を泳がせている。気を使われているらしい。

 

 こんな筈では無かったのに、一体何処でしくじった? このままでは、このままでは主からの認識が本当にポンコツマゾくノ一になってしまう!

 

 私は思考を巡らせるが、此処から上手く逆転、”暗殺も警護も夜伽も完璧な凄腕くノ一”という認識に塗り替える為の策を練り、三秒で諦めた。

 

 いや、だってどうすれば良い? 手遅れだ、手遅れ。もう、どうしようもない。

 

 

 

「主! 好き!」

 

 こうなれば全部有耶無耶にするだけだ。何か言われる前に主に飛び付いて押し倒しながら唇を奪う。さて、密着した状態で主の服を脱がして……あれ? 

 

「体が…動かない? これは主の魔法……」

 

 起き上がって主に抱き付いたまでは良かったけれど、それ以上は体に絡んだ黒い鎖で動けない。ベッドの上で膝立ちになり、前に傾いた姿勢で時間を止めた空気の鎖で動きを止められていた。

 

「さてと、ちょっとお仕置きが必要かな? お望み通りにするのはお仕置きになるか分からないけれど……」

 

 少し怒った感じの表情を主に向けられ、拘束された状態なのに少し興奮した私に対し、主は先程のスカーフを猿轡にして口を塞ぐ。これから何が……。

 

 

「じゃあ、君のごっこ遊びに付き合ってあげようか。時間が許す限りね。……ポンコツマゾくノ一に相応しい扱いをしよう」

 

 あっ、もうそんな認識なんですね。まあ、良いか!

 

「次の機会があれば呼ぶように希望されていたし、夜からも何人か呼ぶね? 君が嫌なら別に良いんだけれど……」

 

 主の提案に静かに頷く。うん、ちょっと体験してみたいシチュエ……いえ、道具である私が主の提案に異など唱える筈もない。だから私の嗜好は一切無関係だった。

 

 

 だから私は興奮などしていないし、罰として甘んじて受け入れる所存である。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう。たまの休日にこうして読書をしながらお茶を飲むのは良いですが、矢張り仕事が恋しいですね」

 

 安楽椅子に座り、最近話題になっているという本に目を通す。正直言って人の考えは不合理で理解不能な部分も有りますが、それも楽しいとさえ感じてしまう。ああ、人生とは、人として生きる事とはなんと楽しいのでしょうか。

 

 最初は自らへの戒めとして始めた仕事も、それを行う日々は楽しくて時間が経つのを忘れてしまいそうになります。もう数千年……いえ、数十年でしたね。大して変わらないので間違ってしまいますが、もし同僚に知られれば面白くもないジョークを言ったと笑われるでしょう。私、ジョークを口にするタイプでは有りませんから。

 

「さて、ちょっと空気の入れ換えを……」

 

 私にあてがわれたのは指揮下の子達よりも些か広い部屋で、本棚とベッド以外は少々の服を入れた衣装ダンスがあるだけ。化粧鏡? いえいえ、私には不要な物です。化粧品で整える必要は有りませんからね。

 

 一旦本に栞を挟んで机に置き、わざわざ歩いて窓を開けるという少し非効率な方法で空気を入れ替えようとした時、上の階から誰かが……いえ、一人しか有り得ない子が飛び降りる。少し屋敷が揺れたと感じる衝撃音が響き、地面を見れば陥没した地面と私の罪の象徴であり、償いの途中である少女の姿。

 

「……これはお仕置きですね。お説教をしなくては」

 

 たった一人の協力者、それも自力で私の正体に辿り着いた子以外にとって私は普通の人間でしかないですが、彼女を叱るのは私の役目。ならば役目を果たしましょう。

 

「それにしても少し前までの私ならば想像も出来ませんでした。偶々読んだ本の彼が参考になりましたが、確か名前は……」

 

 おっと、私が考え事をしている間に少女は兄である少年を連れて離れて行く。きっと今から他の者には知られたくない話をするのでしょうが……。

 

 既に接触すべき彼女とは接触し、互いの状態を把握した以上はどう、展開は大きく変わるでしょう。あの様な無残な物ではなく、少しでも幸あらん事をと願う。私が願うのも変な話ですがね。

 

 それにしても、私が似ていると思った相手は誰でしたっけ?

 

 

「ああ、思い出しました。ギリシャ神話の太陽神アポロンでしたね。彼の場合は我が子を殺された怒りを敵本人にぶつけられない故の行為でしたが、私の方は愚行の後始末。比べ物にはならないでしょうね」

 

 まあ、地球とこの世界では常識も文化も別で、実在する私達と人によって考え出された神では別物。……しかし、私や彼女もギリシャ神話の神と同じく愚かな神というのは全く同じですが。

 

 国の名前もそうですが、本当に地球の神話とこの世界は名前が似ていたりしていますね。だから受け入れられたのでしょうね。あの作品、”魔女の楽園”が。

 

 

 

「しかし名前といえば、”人に仕えている間は名前を失う”という制約は面倒ですね。役職名を名前だと錯覚してしまいそうで困りますし……」

 

 それも罰の内なのですが、変な罰だとも思う私でした……。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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