ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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評価 ……頑張ろう


二つの顔

「らぁっ!」

 

 強烈な蹴りが炸裂し、地中の金属を混ぜ込んだ巨大なゴーレムが崩壊する。

 リアスのテストが始まってから制限時間が半分ほど経過した頃、マナフ先生曰く一番強いゴーレムすら秒殺されて、手刀での両断やラリアットでの粉砕と、最早最低限度の技名すら叫ばない攻撃で次々に終わって行く。

 

「えっと、先生。あれはもう止めないのですか?」

 

「う~ん。出来れば限界まで見ていたいので……」

 

 それがリアスが制限時間内に何処まで倒せるのかを見たいのか、それとも既に魔法の使い過ぎで息が上がっている自分の限界なのかは分からないけれど、心配した生徒が終了を訴える程だ。

 

 

「さてと……厄介そうなのは数人か。いや、万が一も考えないと……」

 

 リアスが旋回バックドロップでゴーレムを破壊する時の音に紛れて呟きながら他の生徒に視線を向ける。

 驚いているだけの連中は放置で良いとして、警戒している奴や剣呑な空気を出しているのは気に止めないと駄目だけれど、悟られている時点で二流だ。

 

 問題は表にも出していない連中であり、そういうのを読み取る訓練を受けた僕は数人の顔を覚えておく事にした。

 後は僕が読みとれていない奴と、ワザと表に出している奴の可能性を考慮するとして……リアスの太ももに不躾な視線を送ってる奴の顔だけは忘れないからな!

 

 不逞の輩が可愛い妹に変な真似したら僕は容赦しないだろう。

 それこそ個人的な事には極力使いたくない家の力を使ってでも。

 

 

「そ、其処まで! も、文句無しの満点です。リアスさんはSランク……です」

 

「やった! お兄様、見ていてくれた? 満点よ、満点!」

 

 すっかり疲れ切って息も絶え絶えなマナフ先生とは裏腹にリアスは元気一杯に飛び跳ねて、その度にスカートがめくれてしまっている。

 

「落ち着きなよ、リアス。取り敢えずスカートで飛び跳ねちゃ駄目だって」

 

 僕は慌てて柵に近付いてリアスを叱ったけれど、本人は叱られた理由が分かっていないって顔だ。

 ……仕方の無い子だなぁ、君は

 

「え? ちゃんとパンツは見せてないわよ?」

 

「いや、だからさ……」

 

「おい、次は俺の番だ。邪魔をするな」

 

 リアスを注意している時に横から割って入った声。

 マザコン王子ことルクスは僕達への敵意を隠そうともせず冷たい声で柵の中から出ろとリアスに告げて来る。

 こうまで堂々と敵意を向けられたら流石に嫌になって来るけれど、今はリアスが苛立って馬鹿をやらかさない為にも離れようか。

 

「ほら、行くよ。頑張ったし、後でご褒美をあげようか」

 

「やったわ! 絶対だからね、お兄様!」

 

 何か言う前にリアスと手を繋いで気を逸らせば向けられた敵意なんてすっかり忘れて上機嫌だ。

 リアスの素直さにホッと一安心するけれど、未だ睨んでいるルクスの姿に今後が憂鬱になって来たよ……。

 

 

 

「……来い。ソードクリエイト!」

 

 開始の合図と共にルクスが地面に触れれば地中の金属が無骨な剣の形になって現れる。

 長身な彼が持つのに相応しい大きさで、それを振るってゴーレムを倒す姿に女子生徒の一部から黄色い歓声が上がる。

 

 

「道場剣法って感じね。綺麗すぎるわよ」

 

 だけれど全員がそうでなくて、武門の一族やらリアスみたいに実戦の経験がある生徒からすれば丁寧というか実戦慣れしていないのが伝わって来るというか……。

 

「王子だから実戦経験は足りなくて当然じゃないかな? 寧ろ王族が実戦経験豊富だったら危ない国って事だよ」

 

「うちの陛下は多いわよ?」

 

「うちと普通の国を一緒にしちゃいけません。最高戦力二人があんなので、指導役でもあるんだから」

 

「……そうね」

 

 ちょっとだけ昔を思い出して二人で震える中、ルクスの剣が折れ、新しいのを出している最中に攻撃を食らって吹き飛ぶ。

 受け身は取ったけれど今ので利き腕を痛めたから終わりだね。

 

「結局注目すべき相手は居なかったか……」

 

 この学園に入学した目的は優秀な人材の引き込みだけれど、”後継者じゃなくて優秀”だなんて条件に当てはまるのが居なかったのは少し残念だ。

 既に養子縁組みや縁談の受け入れ準備は整えている家は実家と関係する家だけでも幾つか用意しているし、後は発見次第交渉する予定だった。

 何せ跡継ぎでもないのに能力が高いなら現状に不満を持っていてもおかしくはないからね。

 

「次。ロノス・クヴァイル君!」

 

 さて、僕は妹が頼りにしている”お兄ちゃん”だし、満点以外に取るべき点数は存在しないから……あれを使おうか。

 名前を呼ばれた僕は首の後ろを掻きながら柵の中へと進み、指先で”もう戻れ”と潜ませていた者達に指示を出す。

 物陰から一切の痕跡を残さず消えて行ったのを確認した時、開始の合図と共にゴーレムが出現して、即座に土に戻った。

 

「……失敗か?」

 

「折角”聖騎士”の魔法を見られると思ったのに……」

 

 ……うへぇ、その名前で呼ぶのは止めて欲しいんだけどさ。

 ”聖女”として名を広める為に大量発生したモンスターやら盗賊の討伐を任されているリアスだけれど、その横に当然僕が居た結果、付いた恥ずかしい呼び名が”聖騎士”だ。

 

 お兄ちゃんが妹を護るだなんて特別な事じゃないってのにさ。

 

「……まさか」

 

「先生、次のをお願いします。どうせ即座に元に戻すけれど」

 

 生徒の殆どはマナフ先生が疲労から魔法を失敗させたって認識した様子で、実際に僕が何をしたのか察したのはゴーレムを出した本人を含めて極僅か。

 

「分かっていない人の為に僕から説明しよう。魔法の時間を戻した、それだけさ」

 

「はぁ!? た、他人の魔法に干渉するだって!? そんなの出来る訳が無いじゃないか!」

 

 あっ、ヘタレ皇弟が皆の意見を代表して叫んでいるや。

 皆って言っても最初の時点で察していなかった連中だけれど。

 

「じゃあ、ついでに誰か魔法を放ってご覧。じゃないと”叔母である学園長の威光で成績を上げて貰っている”だなんて言われかねないからね」

 

 理解していなかった連中の為に説明したのもこれが理由だ。

 家の名誉、鬱陶しい影口を防ぐ、色々と理由は有るけれど、僕はリアスの自慢のお兄ちゃんじゃないと駄目だし、くっだらない事は避けたいんだよ。

 

「そうか。なら……」

 

 流石に魔法を人に放つのに躊躇いが有るのか次々にゴーレムが土に戻る間も魔法が向かって来る事が無かったけれど、”マザコン王子”が最初に動いて、彼に促される様に取り巻きの生徒も動き出す。

 

 威力は殺す程じゃないけれど、此処で怪我をすれば随分と赤っ恥だし、ゴーレムが土に戻ったのも学園長の甥っ子のパフォーマンスの為だと主張出来るだろう。

 

「ロノスさんっ!」

 

 アリアさんが心配してか真っ青な顔で叫ぶけれど、彼女には少し悪い事をしたかな?

 今のでルクスに僕の味方……要するに嫌いな継母を支持する派閥だって認識されただろうし、先に何をするか教えておくべきだったかな?

 

 これでルクスのルートは消えたけれど別に良いか。

 いや、元々貧乏子爵家の一人娘が王子と仲良くなるだなんて偶然に偶然が重なった結果だろうし、元から無理だったよね。

 

「大丈夫だよ。……ほらね」

 

 勢い良く飛んで来る鉱石の槍や火の玉、風の刃、その全てが一瞬で霧散して鉱石だけが残って散らばる。

 元々細かい粒を寄せ集めた物だから僕に届くより前に風に邪魔されたらしい。

 

 都合良く風が吹いたのかは黙秘しておこうか。

 

「えっと、このまま続けます? 僕、既に君は満点で良いと思うんですが……」

 

「いや、短時間しか使えないと思われても癪だからお願い出来ます?」

 

「……はい」

 

 疲れている先生には悪いと思うけれど負け惜しみを吐きかける余地すら与えたくないんだ、僕は。

 マナフ先生も教師としての責任感からか最後までゴーレムを創り続け、僕にSランクを言い渡した後でヘナヘナと崩れ落ちる。

 

 

「お兄様!」

 

 嬉しそうに駆け寄って来たリアスに手の平を向けてハイタッチを交わす。

 さてと、成果は上々、十分な牽制になった様子だし……後は上手いこと動いてくれれば良いのにな。

 

「馬鹿が多くて助かるよ。……本人の近くで間抜けだなあ」

 

 何やら僕達の方を見ながら囁く連中を横目で見て、これは上手く行きそうだと確信する僕であった……。

 

 

 

「アリアさん、今日はレキアの所まで行く時間は無いから僕の屋敷の庭での訓練にしようか。戦う相手はポチの餌を分けて貰おうか」

 

 授業が全て終わって帰る最中、僕はアリアさんに決闘に向けての事を話し掛けていた。

 リアスは……うん。

 マナフ先生の所にちゃんと怒られに行ったよ。

 って言うかチェルシーに連れて行かれた。

 

「問題は相手側のもう一人だよね。学園の生徒とは決めてないしさ。……傭兵とか雇うかも」

 

 あの”眼鏡が本体”の取り巻きは完全にビビっていたし、誰を連れて来るのやら。

 

「えっと、ポチちゃんの餌って事は……」

 

「馬とか牛のモンスターだよ」

 

「……ですよね」

 

 何かを諦めた様子のアリアさんは肩を落とす。

 それに合わせて胸が揺れるのを横目で見てしまったけれど……男の子だから見逃して欲しい。

 特にアリアさんは背が小さいのに胸は大きいから制服の胸の辺りが強調されてさ……。

 

「あっ、ちょっとゴメンね」

 

 アリアさんと別れた僕はトイレに向かう。

 中には誰も居ないけれど、何処からか声が聞こえた。

 

 

「……主殿、早速動きが有りました」

 

 何時の間にか僕の背後には跪いた忍び装束達の姿があって、鏡に映る僕の顔はロノス個人じゃなくてクヴァイル家の次期当主の物に変わっている。

 

「差し向けた連中は……言わなくて良いや。こんなに早く動く連中程度、監視だけ続けておいて」

 

「はっ! それで刺客の処分は如何に?」

 

「依頼主に寝起きドッキリかな? 起きたら死体を腕枕とかホラーだよね。……ああ、そうそう。君達の本体に伝えておいて。”戻って来たら体の隅々まで隈無く手入れしてあげる”ってさ。陛下の護衛を頑張ってくれているからね」

 

 さて、人を待たせているから急ごう。

 

 

「所でトイレの床に跪くのって不潔……もう居ないか」

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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