ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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神の気苦労 人の悩み

 時間は少し……但し、神にとっての基準だが遡り、ゲームの開始時期から二十年程前の頃、主人公と敵対して悲惨な最期を迎えるラスボスとなる兄妹が生まれるよりも前の事、神々が住まう世界にて、光を司る女神リュキの屋敷で交わされた会話だ。

 

 

「……はぁっ!? リュキ様、正気なのですか!?」

 

 光の女神の屋敷の一室、天蓋付きのベッドが設置され、甘い香りのするピンクの煙を吐き出すお香が焚かれた室内にて一人の女神が呆れと驚愕の籠もった声を上げる。

 それは銀色の髪を持つ美しき少女の姿をした女神だった。何故か燕尾服を着ているが彼女の美しさによって優雅さと高貴さを見る者に印象付け、前髪を伸ばして片目を隠した髪型もミステリアスだと言えるだろう。

 

 だが、その美しい顔に浮かべたのは声同様に呆れと驚きであり、苦労人的な印象を与えてしまう。そんな彼女の表情の理由であり、この屋敷の主である女神は相反して楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「あら、悪くないと思うわよ、クノロ」

 

「悪いです。悪いですって。大体、”人間を一度滅ぼして一から新しいのを育てましょう”って頭に蛆でもダース単位でわいてる案を出して相談より前に実行した時も同じ事を言っていましたよね? 音の時間を戻して聞かせましょうか?」

 

「怖いわねえ。あの時の事は私だって反省しているし、だから悪い心をテュラ共々封印したじゃない。神獣達を一緒に封印した時は悲しかったのよ?」

 

「……あー、はいはい。そうですね」

 

 会話からしてこの銀髪の女神”クノロ”の方が神としての格が下のようだが、どうも普段から苦労させられているのか態度に不満と疲労が出ている。だが、それさえも仕方無いとさえ思わせる何かがリュキにはあった。

 

 その髪は太陽の光を思わせる眩い程の金髪であり、その肉体は豊満にて淫靡。胸に布を巻いただけの露出度の高い服装であり、光以外にも娼婦の守護神や美の女神も兼任していそうだ。

 その上、真面目そうなクノロと違って気紛れで行動する楽観的な雰囲気も感じさせ、今も同性でさえ見惚れてしまう色気を発しながらクスクスと笑っている。

 

「ええ、ええ、途中までは構いませんよ? 光の使い手と闇の使い手を再び誕生させ、封印が解けそうな神獣達と戦わせるのは良いでしょう。封印解除直後ならテュラさえも倒して再封印の可能性も認めますが……私が司る”時”を与えるのはどうかと思います!」

 

「そう? 貴女の力は格の差で私には通じないけれど、人同士なら問題無く効果があるでしょうし、前に恋心から闇属性の子が裏切ったみたいな事が起きれば処分可能でしょう?」

 

「確かにそうですが、その者が裏切ったらどうするのですか? それで世界に大きな影響が出たら? ご承知でしょうが、世界そのものの時を戻すには大きな代償、それもリュキ様クラスの神が支払う必要が有るのですが分かってますよね?」

 

「……え? そうだったの? それに時属性の子が裏切るのは考えてなかったわ。ほら、神から与えられた粛正の役割を果たしてくれるって思いこんでいて。……早まったかしら?」

 

「早まった? え? いや、冗談……ですよね?」

 

 ”このアホ女神、まさか既にやらかしたのか?”、そんな考えが頭に浮かんだ彼女は数歩後退りながら冷や汗を流し、リュキはそんな考えをお見通しとばかりに少し舌を出して誤魔化しの笑みを浮かべる。

 

「てへっ! もう数年後に生まれるようにしちゃった」

 

「何やってるんですか、このアホ女神! 報告連絡相談、略してホウレンソウをしっかりしろ、アホ女神! 色ボケが過ぎて遂に頭がやられたんですねっ!」

 

「クノロったら大袈裟ね。大丈夫大丈夫。私の勘が全部上手く行くって告げているし、何かあれば私がどんな代償を払ってでもどうにかするわ。私だって反省すれば真面目になるの」

 

「……これは言っても無駄ですね。本当に知りませんから。てか、今は不真面目な自覚があったのに驚きです。そして貴女が真面目にとか想像不可能ですし、実現したら裸踊りを披露しますよ」

 

「あらあら、でも反省する事にはならないだろうし見せて貰えないわね。……今度の宴で披露して貰えない?」

 

「断固拒否します。……はぁ」

 

 口元に指を当てて脳天気に笑うリュキに対してクノロは額に手を当てて深い溜め息を吐き出す。普段から積み重なった苦労がその顔に滲み出ていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 ……そして、その嫌な予感は的中する。光属性だから聖女の再来だと甘やかされて傲慢に育ち、リュキの口車に乗せられたリアスはリュキの悪心を取り込んで最期に彼女を止められなかった兄と共に全てを失い死を迎える事となった。その事はリュキでさえもショックが大きく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~、ちょっと窓開けて風を入れ替えようか。ほら、僕の魔法なら直ぐに終わるしさ」

 

 最近、少し悩みが多過ぎない? モンスターなんて危険生物が存在していて、輸送とか医療とかインフラとかが日本とか程じゃないこの世界じゃ貴族の僕なんて悩みが少ない方だって理解しているつもりでも思ってしまう。本当に悩むべき事が多いと。

 

 人が変わってしまったみたいと言うよりは悪神に変わってしまったらしいお姉ちゃんの事とか、夜鶴から届けられたあの人からの手紙の事とか、次期当主への宿題としてパンドラから出されている領地運営の素案の事とか他諸々は忘れては駄目なんだけれど、今は個人的な悩みを優先させて欲しい。

 

「こ、この時間は未だ騒がしいですね。ほら、サーカスの方から歓声が聞こえますし」

 

「う、うん。防音設備はバッチリだから窓を閉めていたら気が付かなかったけど、随分と人気だったみたいだし、なんかゴメンね? アリアさんも楽しみにしていただろうに」

 

 この状況、凄く気まずい! 今まで気まずい状況に陥った事は数度あったけれど、これってプライベートでお祖父様と二人きりになった(色々な意味で奇跡の)時間の次に入るレベルだよ。いや、本当に奇跡に奇跡が重なってオフの日に二人になったけれど、あの人は次期当主の僕にしか興味が無いから祖父として孫に接するとか……はい、現実逃避終了! 今は彼女に集中するんだ、ロノス!

 

 普段から体を密着させている女友達(自覚はあるっぽい)に最近告白されて(裸で抱き付かれキスまでされて)、その子とのデートの最中に連れ込み宿にて事故から裸の彼女の胸を顔に押しつけられ尻を掴んでしまった。状況確認完了! 何処の官能小説の一場面だよ、現実なんですね、分かってますよ。

 

「さてと、そろそろ窓を閉めるよ?」

 

 何時もの態度と違って羞恥心たっぷりの表情を見せたアリアさんに感じる物が無いとは言えないよ、僕だって男だし。こんな状況をどう打破するか、ちょっと悩む。こんな時に誰か居ればアドバイス貰えたかな?

 

 いや、冷静になれ。ベッドの上で裸の女の子の尻を掴む姿をアドバイスくれるような親しい相手に見られるとか最悪だろっ!? でも、ちょっとだけ想像してみよう。見たらショックが大きそうなのは除外するとして、母親同然のレナスも却下。

 

 

 レナは……。

 

『そのままガバッと迫りましょう! 先程以上の事をすれば解決です!』

 

 却下。何一つ解決にならないし、問題が増えてるよ。

 

 フリートなら!

 

『いや、想像の中でもダチでも相談する内容は考えろや。答えにくいんだからよ』

 

 確かに僕も相談されたら気まずい!

 

 ポ、ポチ……。

 

『お尻触るの駄目なの~?』

 

 うーん、ポチには早かったでちゅね~。

 

 

 ……ネーシャ?

 

『……はぁ。しっとさせたいのですか? まあ、起きた事は仕方在りませんし、真摯に向き合って下さいませ。それでこそ私の愛したロノス様なのですから。……ですが、程々に』

 

 う、うん。分かったよ。矢っ張り君はたよりになるね。それとこんな事になって……あれ? あれれ? 僕、どうして彼女を思い浮かべたんだ? ネーシャと過ごした時間は短いし、打算的理由で積極的に迫られはしたけれど、この僕はゲームの僕とは別物だから彼女とは心を通わせた婚約者じゃないんだぞ? 知っている設定を混同するにしても……。

 

 僕はチラッと見ていただけのゲームに酷似した世界に転生した前世日本人、それは間違い無い。なのに、どうしてゲームでのロノスみたいな事を思う? ……時属性の知らない力に平行世界の未来を見る力でも在るんだろうか? 実際、プルートみたいな予知能力者が実在するんだし可能性は……。

 

 

 

「急げ! 若様を助けるんだ!」

 

「援軍を早く集めなくては!」

 

 ……ああ、世の中ってのは何時もやるべき事に必要な時間を余裕を持って与えてはくれないらしい。窓を閉めようとした時に下から聞こえて来た慌てた声に目をやれば武装した屈強な男達が何やら急いでいる。あの鎧は丈夫で軽い魔法金属製に見えるし、レイム家の家紋が刻まれている。つまりは……。

 

「アリアさん、ちょっと待ってて!」

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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