ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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感想が……


俺様フラフープの冒険②

 魔法とは四つの行程に分けられる。弓に例えるとしよう。

 

① 魔力という矢を肉体という矢筒から取る

 

② 魔法の構築という方法で矢を弦につがえる

 

③ 狙いを付ける

 

④ 放つ

 

 呪文の詠唱は第二行程に必要なイメージの補助であり、慣れているなら不要である。基本的に新しく魔法を使うには第一行程から始める必要が有るのだが、何事でも例外は存在していて……。

 

 

 

 

「たぁっ!!」

 

 掛け声と共にミノタウロスが地面を踏みしめる。彼女の足を中心に激しく地面がひび割れ、地中から逆向きの杭の姿をした岩が次々と隆起しながらフリートへと向かって行く。同時にパフォメットも無言で右手を振るっており、彼の頭上に現れた巨大な炎の狼が巨大な口を開いて空中を駆け出した。

 

 地面からは岩の杭、空中は炎の狼が迫り、フリートが横に走れば岩の杭は軌道を変えて追い掛ける。

 

「ちっ! 追尾性能持ちかよ、面倒だな! ……だがっ!」

 

 スッと目を細めたフリートが見詰めるのはミノタウロスの姿であり、正確には魔法を発動中の彼女の肉体を覆う魔力。現在発動を続ける魔法を使用した時から体を覆い、時間経過と共に目減りして行く。

 

「どうしたっ! 得意なのは逃げる事だけかっ!」

 

「安い挑発だな、おい。まあ、逃げるのは此処までだ。大体分かったからな」

 

 ミノタウロスの挑発に対し、愚かにも乗ってしまったかのように足を止める彼だが、その顔に浮かべたのは余裕の笑み。反対にミノタウロスは不愉快そうに眉間に皺を寄せ、激しく隆起していた地面はフリートを目前にして崩れ落ちる。彼女を覆っていた魔力は全て消え去っていた。

 

「おや、練った魔力の消耗速度から魔法の継続時間を読まれましたか。大変ですね、ミノタウロスさん」

 

「黙れ。その頭蓋、叩き壊されたいか?」

 

「おやおや、怖い怖い。では、不愉快の元をさっさと始末しましょう」

 

 ニタニタと山羊の顔でも分かる嘲笑を浮かべたパフォメットは殺気を飛ばされても態度を変えず、炎の狼の速度を更に上げる。口は狼の構造上の限界を超えて大きく開き、パフォメットを覆う魔力量からして持続時間には問題が無い。例え逃げ切れたとして、既にミノタウロスが次の魔法の準備を進めていた。猶予は僅か数秒、彼女の魔法を再び逃げ切ったとして、その頃にはパフォメットの準備が済んでいる。

 

 二人の神獣による波状攻撃を前にして、フリートには何も出来ない……かに思えた。

 

 

 

「俺様がさっさと終わる雑魚かどうか、此奴で判断しやがれっ!」

 

 フリートの叫びと共に放たれたのは逃走中の二人を射抜いた物よりも幾分か小さい炎の矢。感じられる魔力の量は到底狼には及ばず、そのまま口の中に吸い込まれるように消える。

 

「弾けろっ!」

 

 再び響くフリートの叫び声、同時に狼の内部に吸い込まれた炎の矢が内包した力を外側に向かって解き放った。破壊するには至らず、破裂した風船人形を無理に膨らましたかの様に穴だらけの大きく破損した姿ながらも狼は一切衰えぬ勢いで彼へと迫る。そして、既にミノタウロスも次の魔法の準備を終えていた。

 

 

「雑魚でしたね」

 

「雑魚だったな」

 

 意志を持つかのように宙を駆ける狼と、追尾性能に割く力を強度と貫通力に注ぎ込んだ無骨な形の岩の槍。狼をギリギリ防いだとして岩に貫かれ、岩を避ければ崩れた体勢に狼が襲い掛かる。ミノタウロスは無駄な足掻きだと呆れ、パフォメットはフリートの死に様を想像してか嗤う。

 

 呆れと嘲笑、違いはあっても根本は圧倒的強者としてフリートを見下した結果。フリートはそれを仕方無いと実力差から受け入れ、それと同時に彼も自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。

 

「はっ! 雑魚はテメェらだよ、バーカ!」

 

 フリートの腰回りの炎の輪が激しく燃え上がり、炎の矢を放つと同時に真下に向かって噴射、真上に向かって急速で飛んだフリートの真下を岩の槍が通り過ぎ、炎の矢は先程と同様に狼の内部で破裂して今度こそ完全に破壊した。

 

「じゃあな、雑魚共!」

 

 同時に放たれた二種類の魔法に対して動きの止まる二人に目掛け炎の飛礫が雨霰と降り注ぐ。一つ一つは小さくても絶え間無く飛来する炎が合わさって巨大な炎と化し、二人を包み込んだ。

 

 

「……成る程ね。”炎を出す”って段階までを輪っか状に予め用意しておく魔法だと思ったっすけれど、どうやら”複数の魔法を凝縮した炎の輪”を作り出す魔法だったっすか。第二行程を更に三つに分けた時の”属性・形状・付与能力”を決定する工程を既に済ましているから違う魔法の連射が可能だと……」

 

 一時的とはいえ部下が炎に包まれた状況でも未だにぶら下がったままのラドゥーンは慌てる事無くフリートの魔法を分析する。魔法とはイメージの具現化であり、何処まで精巧にイメージを再現するかで効果に差が出る。

 

「結構複雑な魔法みたいだし、代々独自の鍛錬方で身に付けて来たって所っすね。へぇ、凄い凄い」

 

 本心から感心した様子で拍手をする彼女だが、パチパチという音はフリートからすれば罵倒にしか聞こえない。この様な状況での拍手など見下しているとしか彼には感じられなかった。

 

「おぅおぅ、そーかよ。俺様を雑魚とか散々馬鹿にしといて前言撤回か? 随分と言葉が軽いな、おい」

 

「いやいや、認める所は認めるべきっすからね。それで前言撤回についてっすけれど……」

 

 挑発と感じた行為に挑発で返すフリートだが、内心では焦っていた。初見殺しのお陰で隙を付いて二人に魔法を当てたが、あの程度で終わるとは思っておらず、目の前の相手には初見殺しでさえ通じないだろうと本能で感じ取っている。

 

(……多少はダメージがあったら良いんだが。こりゃ増援呼んだのは失敗だったか? 纏めて死ぬ未来しか浮かばねぇ)

 

 周囲を覆う土のドームは未だに健在、逃げるにはラドゥーンの正面を通り過ぎるしか無いが、正直言って厳しいだろう。つまり取るべき手段は逃げの一択。個人としては屈辱だが、彼は自分が大公の跡取りだという自覚を忘れていなかった。

 

 彼一人で戦っている時点で配下の不手際であり、これで戦死すれば命で償う事になる者も出るだろう。

 

 そして、そのチャンスは今だ。

 

「テメェも食らっとけや、痴女!」

 

「だーれが痴女っすか! 何奴も此奴も自分の事を痴女痴女って! 自分は薄着なだけっすよ!」

 

 この言葉を聞けば大体の者がこう答えるだろう。”水着コートだの下着エプロンだの露出狂のお前だよ”と。そんなラドゥーンの顔面に向かって放たれた炎の矢。どうせ効かないだろうと防ぐ気もない彼女だが、それこそが致命的な油断であった。

 

 炎の矢は確かに炸裂する。但しパフォメットの放った炎の狼を破壊した物とは違い、激しい閃光を前方に放つ形でだ。

 

「くっ!」

 

 特に警戒せずに漠然と前を見ていた彼女はもろに見ていた事によって目が眩む。だが、彼女とてサマエル(馬鹿)ではない。この隙に自分の近くをすり抜ける気だろうと目が見えない中で気配を探る。フリートの気配は後方の岩壁に向かって急加速していた。

 

「唯一の穴が通れないってんなら新しい穴を開けりゃ良いだけだろう!」

 

 この時、フリートは逃走用の噴射に使う用の魔力を除き残りの全てを注ぎ込んだ貫通性能重視の炎の槍を放っていた。何をするか喋ってしまうのは実戦経験の拙さを感じさせるも他の判断は悪くは無い。事実、彼の放った炎の槍は分厚い岩盤に穴を開け、加速したままの突撃で無理にこじ開ける。

 

 

 

 

「ああ、言い掛けていた事っすけれど……前言撤回するって程じゃ無いっすね。……その程度の速度で逃げ切れる筈が無いっすよ」

 

 岩のドームから脱出したと思った時、フリートの耳にそんな言葉が届き、褐色の腕が彼の襟首を掴む。

 

 

「一矢報いたな。喜べ、雑魚の中ではマシな方だ。雑魚にしてはな」

 

 振り向いた時、彼の目に映ったのは僅かに煤が付いただけで一切傷の無いミノタウロスの姿。振り解くよりも前に後方に向けて放り投げられた。

 

 

 

 

「……所でラドゥーン様。ずっと思っていたのだが……飛べなかったか、貴女って?」

 

「あっ!」

 

 その言葉によってハッとした彼女は空を飛び、コートの引っかかりを直して着地する。何とも締まらない展開だが、フリートの危機的状況は悪化した。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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