ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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俺様フラフープの冒険③

 急加速中の強制停止は俺様の肉体に負荷を掛け、その状態で投げ出されたまま受け身も取れずに地面が迫る。いや、地面だけじゃねぇ。パフォメットの放った炎の鮫が空中を泳ぎながら迫っていた。時々角度を変えればヒレが地面を擦り削る。どうも物理的な威力も付与されてるっぽいな。つまりは大口開けている鮫に食い付かれたら肉を食い千切られるって事だ。

 

「ちっ! こうなったら……」

 

 迫る地面と鮫のアギト。今は後先考えてる場合じゃないつーか、今どうにかしないと後が無いって奴だ。殺気の脱出に使った魔法で実は殆ど魔法が残っちゃいない。ギリギリ逃走用に足りれば良いなって程度だ。

 

「まあ、足りるかどうかも分からなかったし、実際に捕まったしな。……”フレイムバースト”!」

 

 後一秒も残っていないタイミングで残り全ての魔力を注ぎ込んで魔法を放つ。俺様の腰回りに展開した炎の輪が消え去り、その代わりに俺様を中心にして狭い範囲に威力を凝縮した爆発が起こった。鮫の頭を吹き飛ばし、地面に激突する衝撃を殺した瞬間に転がって鮫の突撃を避ける。俺様が居た場所に激突した瞬間、地面が抉れて火柱が上がる。周囲に一気に熱が広がり、肺の中まで燃えそうな熱さだ。

 

 あー、畜生。雑魚だのなんだの散々言われる訳だな。実力が……いや、そもそも種族としての格が違うのか。神獣だっけか? 混乱招くとかで一部にしか情報が回って来ないが、こりゃ大々的な討伐部隊が必要なレベルだろ。

 

「ったく、俺様も焼きが回ったな」

 

「それは炎を食らったからとからっすか?」

 

「違うっ!」

 

 一人でこんな連中の相手をする事になるなんざ判断を誤ったとかそんな感じだが、痴女にはギャグ的な勘違いをされる。おいおい、妹が関わった時のロノスじゃあるまいし、俺様が戦闘中にギャグに走るかよ。そんな馬鹿じゃねぇし、そんな余裕が有る程に強くも無い。

 

「それでどうします? 無惨な死体を晒せば絶望が広がって幸福の門を求める者が増えそうですがね。手足を生きたまま引っこ抜き、目玉を潰してしまいましょう」

 

「相変わらず悪趣味な奴だ。貴様には誇りが無いのか? ああ、情けない」

 

「……はぁ」

 

「おい、その溜め息はどんな意味だ?」

 

「あーもー! 仕事中に喧嘩するなっす!」

 

 

 俺様は目立った怪我を負ってないってのに向こうさんは随分と呑気にやり取りしてやがる。緊張感無いつーか、緊張する必要を俺様に感じて無いって事だ。

 

 ……魔力は既に空っ欠、そして向こうが格上で多勢に無勢。俺様が向こうでも勝ったも当然、緊張する方が間違ってるって話だ。

 

「おい、幸福の門ってのは一体何なんだ? 理想の世界が広がっていて、中の財宝持ち出せるなんて都合が良いにも程が有るだろ」

 

 諦め半分に問い掛ける。答えてくれるとは思っちゃいねぇし、禄でもない狙いが有るなら情報を何とかして残すのも無理だろう。今は少しでも時間を稼ぎ、魔力が僅かにでも回復するのを待つ。チェルシーの奴が待ってるんだ。こんな所で死ねないんだよ、俺様は!

 

「さて、死出の旅立ちに教えて差し上げても宜しいのですが。その方が死ぬ時に絶望が大きいでしょう? 実に楽しいと思うのですが、ラドゥーン様、どうなさいますか? 貴女の(メェ)に従いましょう」

 

「おい、何をふざけている、パフォメット。彼奴は敵であり、敵であるなら遊ぶな。わざわざ絶望を与える必要は無い。敵は殺す、それだけだ」

 

「相変わらず頭がお固い。その様な事だから恋人に振られたのです、よっ!?」

 

 どうも本当に禄なもんじゃなかったらしい。死ったら絶望を与えられるって、要するに関わったら駄目な奴だって事じゃねぇか。粗方予想はしていたが確信へと変わる中、俺様から仲間へと矛先を変えたパフォメットの横面にミノタウロスの拳が叩き込まれた。俺様じゃ完全には見切れなかった速く重い一撃。殴り飛ばされた彼奴は俺様が力の殆どを注ぎ込んだ魔法よりも大きな穴が開く程の威力で岩壁に叩き付けられた。

 

「んなっ!? 味方同士で争ったら駄目だって言ったっすよね!?」

 

 おいおい、魔法が厄介だから魅せ筋かと思いきや、さっき捕まえられた時と言い、戦士寄りじゃねぇか。死んではないが完全に気絶した様子のパフォメットにラドゥーンが慌てて駆け寄る中、ミノタウロスは拳で地面を叩く。広がった衝撃で地面がグラリと揺れて、周囲の地面がまた隆起する。

 

「あっ? こりゃ何のつもりだ?」

 

 だが、それはさっきの攻撃の為の逆杭じゃなくて岩製の多種多様な武器。身の丈程の大剣や斧、はたまたダガーまで幅広く揃っているが、俺様の近くにまで用意する理由は何だ?

 

「好きなのを使え。貴様の筋肉は武器を使い慣れた者の物だ。武器と武器、力と力、技と技のぶつかり合いだっ!」

 

「はっ! 上等だ! だが、良いのか? 露出狂の上司に怒られるからって急に話を変えるんじゃねぇかよ?」

 

「……舐めるな。今は諸事情で配属が変わっているが、私の本来の上司であるサマエル様は楽しむ事を否定はしない。それはパフォメットの上司であるシアバーン様もな。私にとっての楽しみは対等な状況での一騎打ち。貴様は雑魚だが、私と一騎打ちする資格は認めてやろう!」

 

 ミノタウロスは既にパフォメットから視線を外し、突起物だらけの棍棒を持ち上げて肩に背負う。ありゃ掠っただけで挽き肉になりそうだな。

 

「そりゃどうも。認めて貰えて嬉しい限りだぜ。俺様も雑魚だからって遊び感覚で多勢相手に弄ばれるのは勘弁だからな」

 

 ピンチなのは変わらないが、同時にこれはチャンス到来だ。三対一なら遊びながらでも瞬殺されて、それが二対一でもそんなに変わらない。だが、今からするのは遊び心無しの本気の殺し合い。チラッと見りゃラドゥーンはパフォメットの解放をしながら深い溜め息を吐いちゃいるが手の動きで許可を出している。

 

「首の皮一枚、いや、半分で繋がったか。良いぜ、殺し合おう。互いの得意武器を使ってな! でもよ、俺様は此処から武器は選ばねぇ。勘違いするなよ? テメェがナマクラだの戦いの途中で消すだの疑ってる訳じゃ無い。持ってるんだろ、俺様の獲物よ」

 

 わざわざ敵に武器を用意するなんざ普通は罠か、それとも余程の武人気質だ。そして目の前の女は後者で間違い無いのは今までの遣り取りで十分分かった。俺の得意な獲物が何か分からないからこそのこの種類だ。此処は心意気を勝ってこの中から選ぶのが男だが、生憎得意な獲物はこの中には存在しねぇ。そして俺は常に持ち歩いているんだ、特注の武器をよ!

 

「見せてやるぜ。此奴が俺様の相棒だっ!」

 

 何時も開いている胸元に手を突っ込み、腹に巻いた武器の柄をひっ掴む。そのまま引っ張り上げれば姿を現したのは白銀に輝く鞭。魔法の力を持つ金属糸を編んで造った特注品。細くて長くてしなやかで、そして硬い。その名も……。

 

「此奴の名は”スルト”! 魔法鞭スルトだ!」

 

 大きく振り上げたスルトで地面を叩けば地面深くまで食い込む。周囲に威力の拡散は無く、一点に集中されていた。これがスルトの力だ。手の内開かすのは馬鹿みたいだが、結構お膳立てして貰った以上は礼儀って奴だろ。俺様が地面からスルトを抜いて構えればミノタウロスは無言で笑い、向こうも武器を大上段に構えていた。もう言葉は不要、存分に殺し合おうって感じだな。

 

「こうなったらとことんやってやるよ! それで生き残ってさっさと帰る! 遅くなったら五月蠅いのが居るからなっ!」

 

 あの膂力であんな武器を振り回すんだ。掠っただけでぶっ飛ばされ、直撃すれば挽き肉だろうよ。だがな、そんなの掠りもしなけりゃ良いだけ……っ!?

 

 踏み出そうとした足の違和感。目を向ければ炎の蛇が足に絡み付き、熱が一気に押し寄せる。まさかパフォメットの奴、一騎打ちに手を出しやがったのかっ!

 

 

 この怒りは俺様個人だけの物じゃない。俺様に対し、格下の雑魚と認識しながらも敬意を払っていたミノタウロスの誇りをも侮辱する行為に腸が煮えくり返る気分になり……その顔が笑っているのに気が付いた。

 

 

 

 

 

「何だ、貴様如きに敬意を払うという戯れ言を本気にしたのか? 残念だったな、雑魚が」

 

 嘲笑と共にミノタウロスが作り出した武器が一斉に飛んで来た……。畜生がっ!

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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