ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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閑話 とある婚約者達

「……あー、畜生。暇だ」

 

 幸福の門の調査中に発生した神獣を名乗る連中の襲撃から二日後、俺様はベッドの中で暇を持て余していた。回復魔法つーったって”どんな傷でも瞬時に回復!”って訳じゃなく、傷や骨が変な風に結合しないように固定したり、体内に異物が入り込んで居ないか、奥の方の重要な血管が傷付いていないか、等々の検査が必要って事だ。

 

「検査を怠った奴が後で急死したとか事例があるのは知ってるし、異物を体内に残したまま回復魔法を使うって拷問が在るのは知ってるけどよ、暇なもんは暇だぜ」

 

 頭の組んだ手を枕と頭の間に挟んで天井を眺める。シミを数えてる間に検査が終われば良いんだが、生憎大公家の次期当主が療養する部屋だ、シミが天井にあってたまるか。……所で拷問ってどんな奴だっけな? 肉が盛り上がって押し出されないように両側がフックになってる棒やら剣を突き刺して突き出た方を固定するんだっけか? だったら鍔が有るからどっち側だろうと抜けねぇし、塞がった瞬間には再び切れて……。

 

「いや、拷問の方法とかどうでも良いな。んな事よりも何か暇潰しを……仕方無いか」

 

 枕元にはロノスがクヴァイル家からとは別に持って来た非公式の品。暇潰し用の本だが、俺様って読書は嫌いなんだよな。官能小説だったら読んでやっても良いんだが、暇よりはマシかと思い表紙すら見ずに紙袋に入れっぱなしだった本の一冊を取り出す。

 

「”病院で本当に起きた怪奇現象 貴方にも起きる恐怖体験”……アホかっ!」

 

 あのボケ、俺様が幽霊とか苦手……嫌いだって知ってて差し入れしやがって。いや、怖いとかじゃなくて、馬鹿馬鹿しいから関わりになりたくないっつーか、そんな感じのアレだ。

 

 怖いけれど、じゃなくてアホみたいだから読みたくないが、それでもちょっとだけ気になった俺様は怖い物見たさでちょっとだけページを途中から読むんだが、どうも妙だ。これ、表紙と最初と最後と真ん中辺り以外は別物だぞ。

 

「ったく、妹やペットが関わっていなくてもアホの時が……いや、違うな。あの野郎、気を使いやがって。くくく、感謝してやるよ。これは悪くねぇ品だ」

 

 なんと中身は俺様でも読んでやっても良いと思う内容、しかも中々手に入らない人気作家のだ。貴族の子息だからこそこの手の物は簡単には手に入らないってのに、彼奴はこんな偽装工作ありの品を何処で買って来るんだ? 今度聞き出すか。

 

 

「さてと、暇潰しにじっくりと楽しませて貰おうかね」

 

 流石に俺様だって外聞を気にするし、検査中のベッドでエロい物を読んでるとか身内に知られるのもなあ、ロノスの奴なんか内容まで把握されてる上に中身を入れ替えられていた事もあったとか。……うげぇ、俺だったら耐えられる気がしねぇ。彼奴、女が近くに多いし、その気が無いんだろうが口説き文句を口にするよな、あの馬鹿。

 

「その内刺されるんじゃねぇの? 月夜ばかりじゃないんだぜ?」

 

「何ばかりじゃないって?」

 

 おっと、見舞い客のお出ましか。俺様は内心慌てて表面は冷静に振る舞って本を袋に仕舞い込む。俺様が怪談に興味が無いって知ってる数少ない奴だからな。……内容知られたらヤバい。

 

「あら? 読書なんて珍しいわね」

 

 ドアが開き、体の動きにあわせて揺れるポニーテールが目に入る。見舞いの品らしい果物の籠を手にしたチェルシーは俺様の読書に驚いている様子だった。

 

「お、おう。それよか見舞いに来てくれてありがとうな。家の用事は良いのか?」

 

「用事って言っても祭りの打ち合わせだし、家の誰かが関わるのだって名目上だけで良いのよ。お兄様が風邪を引いて、下のはチビだけだし私が参加するしかなかっただけで退屈な話し合いだったわ。はい、これお見舞いの果物。特産品だから持って来たわ」

 

 ふぅ、どうやら本から興味を逸らせたらしいな。このまま意識を向けさせまいと紙袋を床に起き、チェルシーが持って来た果物をテーブルに置く。そのままベッドの横に置いた椅子に座ったんだが、こうして見ると相変わらず美人だよな、此奴。

 

 顔の作りはチョイと地味だがオレンジの髪が派手だし、気が強くって気が利く。弟や妹が多いからか世話焼きだしな。

 

「ん? どうかした?」

 

「いや、お前って美人だなって思ってよ」

 

「あら、それは嬉しいわね。アンタも美形よ。少しガラが悪くって、一人称が”俺様”ってどうなのかって思うけれど」

 

「誉められて嬉しいと思った直後にそれかよ。相変わらず容赦無い奴……」

 

「容赦とか必要?」

 

 そして気が強くって俺様相手に物怖じせずに言って来る。それも此奴の魅力なんだよなあ今まで何度かした見合いじゃ下からペコペコしながら媚び売って来るのばっかだし、出会って五分で気に入ったのを覚えている。

 

「いーや? 俺様とお前の関係はこれで良いだろ? 公式の場では取り繕う必要があるだろうけどよ」

 

「大丈夫大丈夫。姫様だって聖女のお仕事の時はそれらしく振る舞うのよ、普段はブラコンゴリラなあの子が。見てたら笑えるけれど、笑っちゃ駄目だから無表情でいるのが拷問じみてるわ」

 

「……ああ、俺様も見た事があるんだが、偽物だって思ったぜ。笑えるってよりは不気味だろ、アレ」

 

「あのねぇ、私って姫様の幼なじみで側近っぽいポジションなのよ? そりゃフリートと結婚したらリュボス聖王国の貴族からレイム大公家の一員になるんだろうけれど、友達なんだからあまり変に言わないでよ」

 

「ゴリラは良いのか?」

 

「ゴリラは良いのよ。言うの私だし」

 

「清々しいな、おい」

 

 ああ、本当に此奴は最高の女だよな。振り回されてるだろうに其奴の為に文句が言えるんだからよ。腕を組んで不満そうに憤る姿に見惚れてしまう。思わず腕を掴んで引き寄せて頭を撫でれば驚いた風にしながらも抵抗はしなかった。

 

「……ったく。相変わらず強引ね、アンタ」

 

「駄目か?」

 

「別に駄目じゃないわ」

 

 にしし、可愛い奴だよ、お前は。そのまま頭に置いてない手を腰に回して抱き寄せ、下の方に持って行く。よっしゃ! このまま尻を撫で回して……あ痛っ!

 

「調子に乗るなっての。怪我人が盛ってるんじゃないわよ」

 

 唸る鉄拳、轟く打音。俺様の脳天にチェルシーの拳骨が叩き込まれる。かなり痛いし結構な音がしたってのに誰も慌てて入って来やしねぇ。さては俺様達の関係性を把握してやがるな。

 

「相変わらず馬鹿力だな、おい。俺の十倍は腕力あるだろ」

 

「そこまで無いっての。もう一発喰らっとく? そうすれば十倍は無いって分かるでしょ」

 

「いや、良いです」

 

 半目になって拳を見せるチェルシーから離れて両手を上げるb降参ポーズの俺様。空気が震える程の威力で頭が割れそうだぜ。あーあ、涙が滲んで来た。

 

「本当にいい加減にしなさいよ? こんな所で盛るだなんて。ほら、本を読んで大人しくしてなさいよ。ほら、さっき読んでたのってこれでしょう? ……珍しいわね。お化けが苦手なアンタがこんなの読むなんて」

 

「ま、まあな……。じゃあ、続き読むから……」

 

 表紙をチラッと見たのか取り出された本はよりにもよって官能小説。此奴は俺様が怪談が嫌いだって知っているし驚いている。ヤバい! さっさと取り戻さなくちゃ……。

 

「ふーん。確かに面白そうね。ちょっと読ませてよ。私がこの手の大好きだって知ってるでしょ? お尻触ったお詫びって事で」

 

 そうなんだ。チェルシーは怪談話が大好きで、読んだ事が無い話に強く興味を引かれたのか椅子に座って本を読み始める。大丈夫、最初の方は普通に怪談話だから誤魔化せる。

 

「”医師の耳に届いたズリッズリッという何かが這いずる音。それは直ぐ後ろから聞こえ、振り向いた時、其処には……”」

 

「……あの~、そろそろ」

 

 無駄に上手いんだよ、お前の朗読わよっ! もう今の時点で血塗れナースやら夢に出るの確定だわっ!」

 

「後少し後少し。一話だけ。……あれ? 此処から先って別物よね? メイドが組み敷かれて陵辱されているシーンが生々しく描写されてるし」

 

「おおぅ……」

 

 あっ、終わった。俺様が諦めの境地に至る中、チェルシーは無言で立ち上がる。覚悟を決めて次の一撃を待った俺だが、来たのは本による軽すぎる一撃。背表紙すら使わない拍子抜けな一撃に面食らう中、チェルシーは呆れた時の眼差しを向けていた。

 

 

 

「いや、本に嫉妬する器の小さい女だとでも思った? ったく、この位気にならない程度にはアンタが好きだっての。まあ、入院中なんだから程々になさい」

 

 あー、何度も言うが此奴は最高の女だわ。

 

 

 

 

「それは別として、反応が可愛いから続きね。”医師がヒッと悲鳴を上げて腰を抜かせば内臓を引きずりながら這っていた上半身だけの老婆はニタァと笑い……”」

 

「本当に止めてくれや、お願いします!」

 

 ああ、それと俺様が尻に敷かれているってのも再確認だな、畜生。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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