ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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求められる自分

 この世の中が平等じゃ無いって事は幼い子供でも知っているだろう。貴族と平民、富豪と貧者、賢者と愚者。骨と皮だけになった我が子の心配をする親も居れば、豚の如く肥え太った子を心配する親も居る。平凡な人生を捨てざるを得ない程に苛烈な血の滲む努力で千の力を手に入れた者を、殆ど努力せずにほぼ才能だけで五千の力を得た者が圧倒する。

 

「見て。竜騎士様よ!」

 

「素敵ね。あの凛々しい顔立ち。男の中の男。憧れちゃうわ」

 

「あの旗はヒージャ家の家紋よね」

 

 期末テストが終わり、臨海学校まで少しの期間を利用してエワーダ共和国の実家に戻っていた僕は町周辺に出没する盗賊達を連行して凱旋をしていた。ミケの背中に乗り、ヒージャ家の家紋が描かれた旗を風になびかせて町を練り歩けば聞こえて来るのは賞賛の声。盗賊退治への感謝や賞賛、騎士に憧れる子供達の声援。そして僕を見て顔を赤らめる少女達。

 

 

 ……羨ましい。彼女達は思い思いの衣装で着飾り美しさや可愛らしさに磨きを掛ける。同年代の女の子達と恋やお洒落の話題に花を咲かせ、可愛い雑貨や人形を見て回って甘いお菓子を食べるんだろう。

 

 ”代々軍属の一族が信仰するのは戦いの女神。故に女児は成人するまでは男児として振る舞うべし”、それが僕の一族の掟。だから胸をサラシで潰し、喉元をチョーカーで隠して男装しなくちゃならない。

 

 僕だって女の子だし、女の子らしい事がしたい。大体、男装如きに騙される女神って信用出来るのか? 僕が女神なら馬鹿にするなと怒りそうなものなのだが。

 

 だが、掟は掟だ。僕は男らしいキリッとした表情を崩さず手を振って声援に応える。感極まって失神する女の子が数名。多分僕に恋しているのだろうが、僕が女だと知ったらどうなるのだろう? うん、僕は悪くないのに少し悪い気がして来たな。

 

「……恋か」

 

「ピッ?」

 

「いや、何でもない」

 

 僕の呟きが届いたのは幼い頃からの相棒であるサンダードラゴンのミケだけ。年頃の女の子達の注目と初恋を次々に奪っている僕がこんな事を呟いたなんて広まったら大騒ぎだな。……いや、男達は何をしているんだ? 男装しているだけの女に女性人気で負けるとか情けない。まさかこの国には同性愛に目覚めそうで必死に抑えている女の子が多いとかないだろうし。

 

「いや、本当に無いだろうな? まあ、良いさ。成人するまでの我慢だし、それからでも取り返せる。それにもう直ぐ屋敷だしな」

 

「ピッピッピピピー!」

 

 僕が楽しみにしているのが伝わったのかミケが楽しそうに鳴きながら軽快なステップで進む。おっと、ちゃんと進ませろとでも言わんばかりに叔父上に睨まれた。怒らせると後から面倒だし、此処は大人しくしていようか。

 

 このまま気を弛ませていたら説教を食らって貴重な楽しみの時間が削られかねない。口笛の音でミケに指示を出して大人しくさせる。道すがら目を引くのは似た色の可愛い服の女の子達。そうか、今のブームはピンクか。うん、僕の一番好きな色だな。なのに男らしい色じゃないって普段は使えないのが残念だ……。

 

 

 

「若様、お帰りなさいませ。武の女神の祝福によりご武運が御座いました事、お喜び申し上げます」

 

「ああ、出迎えご苦労」

 

 叔父上と別れ屋敷に戻った僕を老執事が出迎える。彼は僕の性別を知ってはいるが、屋敷に幼き頃から仕える身だ。瞳に懺悔と悲痛さが籠もってはいるものの僕を男として扱う。悪いな、巻き込んでしまって。

 

 彼と同様に相手に対する謝罪の念を感じながら自分の部屋へと戻っていった。

 

「……ふぅ」

 

 使用人によって念入りに掃除された僕の部屋は軍属の男児に相応しい少々無骨な感じのする内装。僕が初めて死に掛けた戦いで討ち取ったアイスドラゴンの剥製、愛用の武具防具、可愛らしさの欠片も見られない質実剛健な机。本棚には兵法書や教科書、歴史書が納められ、クローゼットの中の服もお洒落とは程遠い。ああ、パーティー用の礼服はお洒落か。このタキシードとか質が良い物だったか。

 

「……さて、メイド達には入らないように言ってあるし、夕食前までは大丈夫か」

 

 懐から小さな鍵を取り出してクローゼットの床の模様に紛れた鍵穴に入れて回す。カチッという音が僅かに聞こえ、僕は続いて本棚の前まで移動した。一段目から順番に本を押し込み、再下段の本を入れると床の一部が盛り上がった。そのまま飛び出た取っ手を掴んで持ち上げれば隠し階段が現れた。

 

 

 

 

 

「……暑い! 夏場は地獄だな。水風呂にでも入りたい」

 

 心を弾ませ階段を降り始めた僕だけれど、ムワッと来る湿気と熱気に汗が滲む。そういえば凱旋のパレードから屋敷に戻って部屋に直行したせいで汗を流してなかったな。ベタベタする汗が気持ち悪いし、潰した胸の谷間に汗が溜まって最悪の気分だ。

 

「急がば回れ……は違うか。幾ら楽しみでも楽しみ方考えるべきだったな。僕とした事が失態だ。まだまだ未熟者、心のコントロールが出来ていない」

 

 この熱気と湿気のせいで気分が落ち込んで来るが、階段の一番下が見えて来た事で再び心が弾む。待っていたのは熱気を放つ壁に囲まれた部屋。更なる熱気が僕を襲うが心はウキウキしたままだ。近付きたくないなら近付かずに居れば良い。壁が見える距離から魔法で冷気を発生させれば熱気が一気に消え、前方の壁が左右に開く。

 

 その先にも通路が続いていて……。

 

 

 

「わあ! 流行のドレスだ! それに新しいパンダのヌイグルミだってあるし、壁紙だって可愛い!」

 

 通路の先のドアを開けば見えて来たのはピンクの花柄の壁紙やフリル付きのドレス、沢山のヌイグルミが飾られた女の子の部屋。そう、此処は僕が女の子として過ごす事を許された第二の部屋なんだ。

 

 男性用の軍服なんて脱ぎ捨てて、苦しいサラシも外せば年相応の大きさの胸が解放される。

 

「苦しかったな。もう、これなら平らな方が良かったんじゃないか? リアスが羨ましいよ」

 

 この部屋の事を知っている数少ない使用人が用意してくれていた水の入ったタライとタオルで汗を拭き、女用の下着を身に着けたらお洒落の時間だ。

 

 先ずはピンクのドレス。鏡の前でスカートを摘まんで優雅にお辞儀。うん、僕なら社交界の華になれるな。じゃあ、次はワンピースにしよう。新しい服は沢山用意してくれているし、どれを先に着るのかは嬉しい困り事だ。

 

「あはっ! ……いや、流石にないな」

 

 今度はスカートを摘まんでクルッて一回転、そして可愛らしく声を出してみたんだけれど後悔だ。いや、女の子らしいのには憧れるけれど、流石にちょっとな。うん、忘れるとして、次は女生徒の制服だ。

 

 お洒落を楽しむ夢のような時間、女の子に戻れる至福の時。次々に新しい服を選び、最後に残ったのは水着だった。臨海学校には肌が殆ど隠れるタイプのを持って行くんだけれど、今の僕の手には髪と同じ水色のビキニタイプの水着。ちょっとドキドキしながらも着てみた後で鏡に向かって谷間を強調しながらのウインク。女の子らしい姿が映っていた。

 

「……早く成人しないかな。そうすれば普段からお洒落して、こんな風に……風に……」

 

 ちょっと恥ずかしくなって身を起こしながらも将来に夢を馳せる。今まで抑え込んでいた分、女としての楽しみを満喫するんだ。そんな風にウキウキしながら見た鏡には傷跡だらけの体が映っていた。

 

「……」

 

 右脇腹には砕けた岩の破片が刺さった傷跡が、左には出血を止める為に焼いて塞いだ跡、見えないけれど背中にだって切られた傷跡が存在するし、大小様々な古傷が僕の体には存在する。筋肉だってそれなりにあるし、とても女の子らしいとは言えない。

 

「女らしい人生か。僕には無理なのかなあ……」

 

 水着のままベッドに倒れ込み、枕に顔を押し当てて呟く。考えてみれば男として戦いと訓練で傷付く日々。許されたとして、今更女に戻れるか不安だ。それに僕って女扱いに全く慣れていないしさ……。

 

 

「家族も使用人も僕を男として扱う。女神が男にだけ加護を与えるだなんて直接聞いた訳でもないし、男装で騙せる筈もないのに。……ああ、ロノスに会いたいな」

 

 ライバルであり親友であり、僕が女だと知っていて二人だけの時は女として気を使ってくれる彼奴と最後に会ったのは数日前だ。でも、今は無性に顔が見たくなった。

 

 ……二人きりになって女の子扱いされたいんだろうな、僕は。

 

 

 

「僕がちゃんと女の子として過ごせる、そんな”理想の世界”に行けたら良いのだけれど……」

 

 皆、男としての僕を必要としている。でも、僕はちゃんと女の子として過ごしたいんだ。それは許されない願いなのだろうか……。

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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