ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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今回誰の台詞か少しわかりにくいです 相手は教師 敬語を使うさ


ミミズと毛玉

 数多くのログハウスが立ち並ぶ入江。少し建物から離れた水辺に極彩色の毛玉が蠢いていた。モッフモフのフッサフサで水を弾く毛艶の良い妙な物体。それらは並んで跳ね続け、まるで高さを競っているかの様だ。

 

「アレは”マリモス”。大人しい草食のモンスターでしたね、先生」

 

 本当の性別を知っているロノスと短期間とはいえ同衾生活。ルールを決めるにしても準備が必要な可能性も考えた僕達は臨海学校先の下見に同行していた。

 

 下見と言っても貴族が通う学園が利用する施設、普段から管理はされているんだが、現地に入ってこそ分かる事もある。後は”外部の者に任せきりなのか!”と五月蠅いのも居るとか。理事長も王妃様を兼任しているから学園長に普段は任せているし、責任だって誰が取るのかって言われれば……。

 

 まあ、年度ごとに問題児の種類も数も違うからな。今年は特に初日から決闘騒ぎ起こす王子とか居るし。

 

「ええ、近付いても逃げたりせず警戒心も弱いのですが、仲間を縄張りから連れ出そうとしたり傷付けたりすると凶暴化する面倒な連中です。ちゃんと事前に説明をしているのですが、それでも毎年のように……」

 

「ああ……」

 

 そんな理由で下見を任された学年主任のマナフ・アカー先生だが、何度見ても子供にしか見えない。成長が他の種族と違って遅く、寿命も長いエルフ族。その血を半分受け継いでいる彼だがエルフ側に天秤が傾いているらしく、見た目は十歳前後。小さな男の子が好きな女子連中がファンクラブを作り色々な意味で狙っている彼だが、こうやって話を聞いていると苦労が滲み出して見えた。

 

「僕も従兄弟が三年生に居るから聞いているけれど、”あの程度のモンスターに怯むものか!”って舐め腐った蛮勇持ちとか”可愛いからペットにする”って話を聞いていない脳内お花畑が毎年一定数居るとか。……マリモスって凶暴化したら本当にヤバいのにさ」

 

「おや? クヴァイル君もマリモスを怒らせた事が?」

 

「怒らせたって言うよりも、怒らさせらせたって言うべきで……。十二歳の時、修行の一環としてマリモスの異常発生の現場に連れて行かれたんですよ」

 

「四年前くらいですね。確か聖王国の方で通常の数十倍の数になった群れが居る上に、縄張りに入りきれずに少し凶暴化していたとか。……あれ? 今、怒らさせらせたって言いました?」

 

「ええ、その駆除の為、リアスと僕だけで群れに投げ入れられて地面スレスレを飛行した挙げ句に何体ものマリモスを跳ね飛ばして、止まった頃には怒ったマリモスの群れの中央。それをヒントにしたのが任された街から広まったボウリングです」

 

「ああ、あのスポーツは私も子供達も好きですよ。って、無茶な特訓ですね。君達兄妹の強さの秘密が分かった気がします」

 

 マリモスは”ペットにしたいモンスターランキング一位”にして”甘く見るんじゃなかったモンスターランキング一位”(共和国内部調べ)。二人の乳母であり師匠には会った事は一度だけだけれど、本当の母親みたいに見えた豪快で慈愛に満ちた感じの人だったのに意外だ。人は見掛けに……いや、しそうな見た目だけれど。

 

「……あれ? 先生ってお子さんが?」

 

「これでも四十路ですから」

 

 うん、この人は見掛けによらないな。……奥さんはどんな人なんだろう? 少し気になった僕だが敢えて尋ねはしない。だってほら、種族によっては並んだ時の見た目がさ……。いや、法的には問題無いのだろうが。

 

「どうかしましたか? 悩みが有れば先生が相談に乗りますよ!」

 

「いえ、大丈夫です……」

 

 この見た目は子供なベテラン教師は間違い無く善人で頼れる人だ。だから僕が疑問によって悩んだ事に心配したのだろうが、”貴方の奥さん次第では犯罪に見えます”だなんて口が裂けても言えないだろ!?

 

「……まあ、今は無理でも気が向いたらどうぞ」

 

 いえ、確かに話し辛い内容ですが、勇気を振り絞って口にすべき内容じゃ無くって……どうしよう。先生は凄く僕を心配してくれている。この気まずい空気を誰かどうにかして欲しい!

 

 

「おっと、これは予想外のお客さんですね。来て良かった」

 

 助かったと相手に感謝すべきなのか先生の意識は僕から海の方へと移る。砂浜と波打ち際で戯れるマリモス。あの動きは求愛とか順位争いじゃなく本当に遊びらしいのだが、その音を頼りに沖からゆっくりと近付く大きな影。マリモス達は一切気が付かずに相変わらず水辺での遊びに夢中だ。

 

『ムキュムキュ!』

 

 聞こえて来る楽しそうな鳴き声。うん、確かにあの見た目であの鳴き声は反則だ。危険だとは聞いていても、危険から遠ざけられて生きて来た世間知らずのお嬢様なら手を出してしまうかも。実際、僕も危険性は身を持って知っているのに飼いたいと思っているのだから。

 

「先生、それで彼奴はどうします?」

 

「いえ、少し待ちましょう。討伐対象同士で潰し合ってくれたなら都合が良いですからね。楽が可能なら楽をした方が良いでしょう? 要領良く行きましょう」

 

「は、はあ……」

 

 指示が出れば今直ぐにでも出る意思を宙を舞う氷の剣で示すけれど、先生は笑顔で顔を横に振る。子供らしい無邪気な笑顔にさえ見えたんだけれど、この場ではそれが恐ろしい。いや、軍属の身からしてもそっちの方が賢いと分かっているし、僕も同じ手を使った事も有るし……。

 

 

『モキュ?』

 

 最初に気が付いたのは一番沖に近い場所でプカプカと浮いていた一匹。早々に勝負に負けて拗ねていた奴だ。この辺りは潮の流れが緩やかだし、元々海に住むモンスターのマリモスは嵐でも来ない限りは流されたりはしない。それが徐々にだけれど確実に沖の方に現れた穴に引き寄せられていた。

 

『モッキュ!』

 

『モキュモキュ!!』

 

 それに気が付いたマリモス達が途端に騒がしくなるけれど遅い。海面に開いた穴に海水と共に一番近かったマリモスが落ちて行き、巨大なミミズが姿を現した。人の二、三人程度なら軽く丸呑みに出来る程の巨体。”ジャイアントシーワーム”、本来はこの辺に生息しない筈のモンスターだが……。

 

「随分と傷だらけですね。余所から逃げて来たのでしょうか?」

 

「……あ~、最近大規模なモンスターの討伐が近海で行われたそうですし、その時の生き残りでしょうね。おっと、そろそろ動きますよ。深い海底に住んで時々浮上するジャイアントシーワームと水辺を中心に海水淡水の違いなく生息するマリモスは本来なら出会わない。全く、無知とは恐ろしいですね」

 

 ああ、確かにな。人であってもモンスターであっても未知数の相手との戦いは避けるのが基本だ。見慣れぬ獲物にはモンスターであっても警戒するが、あれだけの傷を負って少しでも早く消耗をどうにかしたいのか手頃な獲物を狙ったのだろうが、それは早計だったとジャイアントシーワームは身を持って知る事になる。

 

 

 

『モッキュゥウウウウウ!!』

 

 

 マリモス達は仲間が食べられた事で異常な興奮を始め、より激しく飛び跳ねる。そんな姿を見てもジャイアントシーワームは一切気にした様子は無い。そもそもマリモスは幼い子供の両手に何とか乗るサイズだし、人を数人丸飲みに出来る大きさなら一切驚異に感じないのも無理は無いが、マリモスと生息域を重ねるモンスターならば積極的に襲いはしない。

 

 口を大きく開け、体の表面から吸い込んだ海水を吹き出しながらマリモスの群れを吸引しようとし、周囲の海水がジャイアントシーワームの口に向かって流れ込み、それが急に止まった。

 

『?』

 

 ジャイアントシーワームが何が起きたのか分からず動きを止める中、今度はマリモス達に向かって周囲の海水が引き寄せられていた。

 

「……あれ? 先生、砂浜が次々に盛り上がっていませんか?」

 

「砂に潜ってお昼寝でもしていたのでしょうね。……これはちょっと不味い事態です」

 

 

 砂の中から飛び出したマリモスも仲間に加わり、既に波打ち際は干上がっている。これは予想以上の規模だ。

 

「見通しが甘かった。……嫌な予感がするが、僕だけか、ロノス?」

 

「いや、僕もだ」

 

「先生もです……」

 

 

 海水があった場所では逃げ遅れた魚が何匹か跳ねている。乾いて萎んだスポンジに水を吸わせた時みたいにマリモス達の体は膨らみ、何時しかジャイアントシーワームに匹敵する程になっていた。

 

「”敵と判断した相手と同じ大きさにまで水を吸って膨らむ”、それがマリモスの特性ですが、ちょっと今度は相手が悪かったですね。……私達にとって」

 

 ジャイアントシーワームは凄く大きい。それこそ塔みたいに。そんな巨体に対抗して吸い込んだマリモスは結構な数に及んで、それが急速に海水を吸い込めば周囲は一気に干上がる。事実、ジャイアントシーワームは全長の半分程が露出していて、海水が干上がった部分には当然の如く周囲から水が流れ込んでしまったんだ。嫌な予感、的中だ!

 

 

 その結果、何が発生するのかというと……。

 

 

 

 

 

「……津波だ」

 

 流れ込んだ勢いのまま海水は陸地に向かって突き進もうとしていた。あっ、これって僕達の方にも届く奴だ……。

 




昨日七割書いて熱っぽいので休みました

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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