ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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苦労人の日常

 私の名前はジョセフ・クローニン、何の因果か名前の通りの苦労人になりつつある十八歳だ。因みに”聖騎士”ロノス・クヴァイルと”聖女”リアス・クヴァイルの従兄弟である。……いや、本当に何であんな風に呼ばれているんだ、あの二人は?

 

 

 私の目の前には屍の山……いや、死んではいないが似たような感じだ。机の上に山脈のように積み重なって、終わりが見える度に神々が創造なさりやがったみたいに新しい山が出来上がった書類は消え失せて、今手元にある書類に判を押せば終わる。そう、漸く終わるんだ。

 

「皆、よく頑張ってくれた。この戦いは我々の勝利だ。犠牲は多かったが、それでも平穏な夏休み(明るい未来)は訪れる。これで……最後だっ!」

 

 最後の最後で印の押し損じなど手抜かりは許されない。朱肉を念入りに付け、スレが生じる事が無いように押せばミリ単位の狂いもなく僅かな掠れも存在しない印が私の目に映った。ああ、やったぞ……。

 

 血の気が失せて蒼白になり、目元にはクッキリとクマが見える生徒会役員達。私も鏡を見れば似た感じなのだろう。長かった。本っ当に長かった!

 

 

「大体、これを生徒に回すなと言いたい内容の物が多かったぞ。前年までは此処まで忙しくは無かった。なのに私の代になった途端にこれだ。情けなくて歴代の生徒会役員に顔向け出来ないが……この三ヶ月少しで去年一年間の書類より量が多いのは流石に私のせいじゃないよな? うん、そうに決まっている」

 

 王子や大公、大公の婚約者、そして闇属性やら我が従兄弟達。今年度は歴代の中でも立場の高い家の生徒が多い。その何奴も此奴も問題児と来たのだ。

 

「”闇属性の魔女をどうにかしてくれ”って声も多かったですね、会長。要するに退学にしろって事ですよ」

 

 

「……またか。いい加減にして欲しいのだがな。これで何件目だ?」

 

「四十九件目ですね」

 

「いや、答えなくても良い。生まれ持った属性だけで追い出せる筈が無いだろう。それにこの嘆願書は二年生からだ。少なくても今は殆ど関わりが無いだろうに、後釜狙いの業突く張り共が」

 

 闇属性に関しての嫌悪や恐怖は幼い頃に読み聞かされる物語において悪役として登場するのだから刷り込まれた物として仕方無いとは思う。だが、校則には生徒間の平等と尊重を重要な物とするとの記述が存在するのだ。

 

 まあ、それは建前だし、実際は闇属性の魔女への恐怖からではなく、クヴァイル家の兄妹と仲良くしているからだ。故に彼女が居なくなればチャンスが生まれると思っているのだろうな。私が考えるにロノスの奴は卒業後に一切関わる事が無い相手だからこそ家同士の事を考えずに仲良くしているのだろう。妹の方? アレに深い考えが出来る筈が無い。

 

「家同士の繋がり目当てで近寄っている時点で彼奴と交友を深めるのは難しいというのに。……あー、どうして私より三歳下じゃないんだ。そうだったら在校期間が重なったりしないのに」

 

 片付けをしながら愚痴れば自然と溜め息が漏れる。同じく苦労を共にする仲間達が肩を叩いて慰めてはくれるのだがキリキリと胃が痛むのは治りそうにないな。

 

「卒業さえすれば……」

 

 卒業さえすれば少なくても二人に振り回される事がなくなる。私の家もクヴァイル家には劣るもののそれなりの家だし、領地や領民など背負う物だって大きい。忙しいのは間違いないだろうが、今みたいに二人に関わる事は……。

 

「え? でも会長ってあの二人の従兄弟ですし、今後も付き合いがあるんじゃ……あっ!」

 

 そう、僕の呟きは現実逃避だ。流石は一年生の時から共に生徒会で活動する現副会長、最後まで口にせずとも言わんとしている事を察するなんてな。だが、どうせ察するなら今だけでも現実逃避をさせて欲しかった。

 

「……さて、帰ろうか。生徒会室に残っていては次の仕事が来るやも知れん。居れば受けるしかないが、居なければ知った事ではない」

 

「総員、急いで片付け開始! 即座に退避するぞ!」

 

 我ながら縁起でもない発言だとは思うが、同時に現実的に有り得る内容……いや、実際に去年起きた事だ。まあ、それでも仕事の総量は今期の方が多いのだが。

 

 

「もしもーし! ちょっと手伝って欲しい仕事が……あれ? もう居ないのか」

 

 ギリギリセーフ! そう、既に私達は不在だ。

 

 

「にしても新しい優秀な生徒が入らないですかね」

 

 急いで後片づけを終え、曲がり角を曲がった後で新しい仕事を持って来たらしい教師の声に胸をなで下ろす。後少し遅ければ見つかっていたが、どうやら諦めて戻ったらしい。漸く休めると安心する中、人手不足を一番愚痴る事の多い副会長が呟いた。

 

 ああ、それは皆が思っている事だ。見れば他の役員も頷いているしな。だが、賛同はするがそれは禁句だぞ。

 

「言うな。少なくても今期は難しい。上から数えた方が早い家柄の生徒が多い以上、生徒会役員の原則である平等性が保てない。……その王子達が入るのは構わないが、色々と問題が多いからな」

 

 幾ら将来国を背負う立場であっても初日から一方的な物言いで決闘騒ぎを起こしたりする奴に生徒の代表の座は相応しくないと私は思う。

 

 今期は何度も言うように家柄の良い生徒が多く、それ故に生徒会に入りたがる生徒は多いのだが、どうも地位を利用して媚びを売る魂胆が明け透けだ。入るならちゃんとした奴だが思い当たらない。

 

「ロノス・クヴァイルなんてどうですか? 学園での態度もちゃんとしているって噂ですよ」

 

「却下だ。彼奴には任せられん」

 

 言い触らすのも問題だから口にはしないが妹とペットが関わった途端にポンコツになる奴は流石にな。いや、それでもクヴァイル家次期当主としての教育を受けて身に付いた能力は惜しいが、心配事項が大きいんだ。

 

「え? どうしてですか?」

 

「妹まで一緒に来るぞ。拒否しても入り浸るだろうな。すると王子も彼奴に惚れているから理由を付け、時に権威のごり押しで……」

 

「あっ、今のは忘れて下さい」

 

 だって妹の方も兄への愛情が過剰だからな。しかし妹が来ると聞いた途端に無かった事にされるだなんて、ちゃんとしてくれリアス。お前、聖女だろう、一応、確か、そうだった……筈、だと思う気がしないでもない。

 

 あれだ。普段の姿と聖女の称号が恐ろしく噛み合わないぞ。

 

 

「……うん。仕方無いな。そんな理由なら行かなくては」

 

 だから生徒会長+従兄弟として少し注意しに向かおう。うん、目的は断じてそれだけだ。他に下心と言うか目的は無い。……本当だぞ。

 

 

 

「会長、途端に鼻歌なんて歌い出して、何か良い事でも待っているのかな?」

 

「ああ、惚れた相手が居るんだよ。名前は言えないけれど、巨乳眼鏡。そして清楚な感じだとか」

 

 

 

 

 

「お茶が入りました。姫様は只今参りますので暫しお待ちを。私がお話相手にでもなれたら宜しいのですが」

 

「いえ! 私がアポ無しで来たのが原因ですのでお気になさらずに。それに貴女との会話は実に楽しい物となるでしょう。是非お願いしたいです」

 

 幾ら従兄弟とはいえ急に来訪は無礼の筈だ。にも関わらず丁重に接してくれる彼女は相変わらず美しい。メイド服でさえ彼女が着れば一流のドレス。微笑む姿は女神を思わせる清楚な美しさ。知性と品性を併せ持った彼女は同時に妖しい色気も感じさせて……胸が大きい。

 

 

「ふふふふ、レディの胸を凝視しては駄目ですよ?」

 

「こ、これは失礼しました!」

 

 私は何をやっている!? 確かに彼女の胸は魅力的だが、だからと凝視するなど。だが、彼女は優しく微笑むだけで怒りもしない。ああ、本当に彼女は……。

 

 

 

 

 

 

「レナー! お待たせー!」

 

 そう。レナさんこそ私が知る中で身も心も最も美しく清楚な女性である。

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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