ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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ゴリラの皮を……

 降り注ぐ陽射しを浴び、ながら庭の中心で私はハルバートを構え襲い掛かる敵を想定する。相手になるのは先日戦った水着マントの痴女こと神獣将ラドゥーン。強化魔法であるアドウ゛ェントを使った私と正面から殴り合えた相手。それなりにレベルアップ、この世界の認識じゃ互角以上のモンスターを大勢倒した事で魔力っぽいエネルギーを吸収して肉体の質を上げてる私でも素の力じゃ敵わない相手。

 

「・・・・・・駄目ね。心が! 血が! 高ぶって来ちゃった」

 

 今は勝てないなら今よりも強くなる。頭の中に作り出した敵の動きに合わせてステップ、しゃがみ、ハルバートを振るう。当然だけれど全力で! 向こうだって呑気に過ごさずに鍛えるんだろうけれど、私はそれ以上に強くなる。なら次は私の勝ちで決定じゃない?

 

 何故か知らないけれど前世や前世の記憶を取り戻す前の私と違って今の私は戦うのが大好き。鍛えてくれたレナスの影響だと思ってたけれど、それだけじゃない気もするのよね。まあ、別に良いけれど。だって考えても分からないし。考えても分からない事って考えるだけ無駄でしょ。

 

「ポチに手伝って貰いましょうか? 風の刃とか放って貰ったりして」

 

 言葉が理解出来るのはお兄ちゃんだけだけれどジェスチャーと単純な言葉なら通じるし。時々欠伸をして通じてないって時も有るんだけれど。あの子、実は私を馬鹿にしていない?

 

「まあ、良いか。そんな事よりも今は特訓ね。技を磨き、肉体を鍛え上げ、強い敵を倒して質そのものを上げる! もっと上に! 更に上に! 人を超えた存在を超える為に!」

 

 実際に敵が居なくても居ると仮定した相手に向かって殺気を放ち、闘志を燃やす。一切加減せず同時に正確無比に刃を振るい戦い続ける。一歩踏み込む度に地面が爆ぜ、刃先が掠った地面には摩擦熱で焦げ目が出来ていた。元々私は努力を殆どしなくても強くなれる才能の持ち主。じゃあ鍛えなかったら損よね。

 

「優れているなら更に研ぎ澄まし、装備を整え、頼れる仲間を集める。敵は強大だけれど、私達の勝利は揺るがないわ」

 

 向かって来た想像のラドゥーンを両断した所で息を吐けば身体中を流れる汗を感じて気持ち悪い。気を抜いたのを見計らって飛び出す新手の幻影に拳を突き出せば拳の圧力で庭木の枝が揺れた。

 

「惜しい。どうせならへし折りたいわ。レナスなら出来るもの。少なくても彼女くらいは強くならないと。つまり世界二位。更に磨いて二位で有りつづけるのも当然よね」

 

 一位は勿論お兄ちゃん! ・・・・・・って、お姉ちゃんも来てたんだし、三位で良いのかしら? まあ、強くならないと駄目なのは変わらないけれど。だって”レベルを此処まで上げれば此処までは楽勝で進める”なんて敵の強さが不動のゲームだけだもの。

 

 

 ・・・・・・この世界、正確にはこの世界に酷似したゲームでは私は悪役で、何も悪くない人達を苦しめて、それでもそれが結果的に主人公であるアリアを成長させて世界を救うのに繋がって、私は・・・・・・ゲームのリアス・クヴァイルは自業自得で全部失って死ぬ。一緒に居てあげたいからって本当は大好きなままだった兄まで道連れにして。

 

 

「さて、さっさと続き続き。馬鹿な考えは動けば忘れるし」

 

 この世界はゲームじゃない。好きなだけ強くなる準備をする猶予を敵が与えてはくれないし、こっちの行動に合わせて向こうだって行動を変えて来る。ハッピーエンドだって約束されてない。・・・・・・でも、それって逆に言えばバッドエンドだって決まってないって事でしょう? レベルカンストだろうと間に合わず防げない鬱イベントだってゲームじゃないなら防げるって事よ。

 

 ゲームと似た流れだったこの世界はとっくの昔にゲームとは変わって来ているし、あーだこーだ考えてもお腹は膨れない。お腹は膨れないといえば小腹が減ったし厨房に忍び込んで何か食べようかしら。

 

 

「メイド長にさえ居なければいける! ちょっと思い付いた魔法だって有るし・・・・・・」

 

 魔法って本当に便利。だってイメージと才能次第で大抵の事は可能だもの。お兄ちゃんは火は火属性の領域だってイメージがあるせいか何か強くなっても火に干渉して火力を上げるとか出来ないらしいけれど。

 

 

「おや、私が居なければ何をする気ですか、姫様?」

 

「うぉっほっ!?」

 

「その驚き方からして御自身の立場を忘れた内容らしいですね。嘆かわしい。後でお話をすべきでしょうか? 偉大なる聖女と同じ光の力を何やら妙な事に使う魂胆が見て取れますし」

 

 剣呑な瞳を向けるメイド長が何時の間にか私の後ろに立っていた。本当に何者なのかしら? 分かるのは長い間クヴァイル家に仕えているって事だけで、本名も年齢も知らないし、メイド長だから仕方無いとは思うんだけれど。

 

 あれ? どうしてメイド長だから仕方無いのかしら? 普通に考えてクヴァイル家位の家に仕えているメイド長が謎だらけって変よね? そりゃあ極秘部隊とかなら分かるんだけれど。マオ・ニュなら何か知って……聞いても答えてくれる気がしないし、苦手なのよね。

 

 

「マオ・ニュ様に尋ねても”知らない”と答えられるだけですよ。そんな事よりもお客様です。姫様がゴリラの皮を被ったゴリラ……失礼、言い間違えました。姫様がお転婆だと知っている身内の方ですが、流石に今の状態は見過ごせません」

 

「ゴリラの皮を被ったゴリラって何!?」

 

「言い間違いです」

 

 

 しれっと言い放つメイド長を前にしたらこれ以上何も言う気が無くなる。もう彼女について考えるのは止めましょうか。メイド長だから仕方無い、それで良いじゃない。少し不自然に納得した私だけれど、それにしても客って誰かしら? 私が少しヤンチャって知ってる相手で身内……まさかっ!

 

「もしかしてマオ・ニュじゃないわよね? だったら居留守使いたいんだけれど……」

 

 マオ・ニュは私の知っている中で一番怖い相手。クヴァイル家が有する裏の仕事をする部隊のトップで、その強さはレナスと並んで聖王国現最強。その戦い方は正面からよりも暗殺者とかそっち系だから厄介なのよね。

 

「聖王国にずっと居るって話だから油断してたけれど、まさか来ちゃった?」

 

 お祖父様への忠義が天元突破しているあの人は本当に苦手だから会いたくない。ゲームでは私達を殺そうとしてレナスと相討ちになった相手だし、多分私の両親を事故に見せかけて始末したんだもん。もう今から脱走しようかしら? メイド長が見逃してくれたら……あれ? そもそもメイド長がどうして此処に居るの?

 

「ねぇ、パンドラと一緒に仕事で出てたんじゃ……居ない。本当に神出鬼没ね、メイド長って」

 

 ちょっと考え事をしている間にメイド長の姿は消え去っていて、仕方無いのでさっさと汗を流して客に応対しましょう。それにしてもアポも無しに来るだなんて何処の誰かしら? その辺が平気な関係で、私に用が有りそうなのは……あー、うん。何となーく思い当たった。

 

「どうせ私に会いに来たって口実で目当ては別なんでしょうし、少し待たせても良いわよね? 寧ろ気を使ってやるんだから感謝して貰わなくっちゃ」

 

 足元を見れば汗で小さな水溜まりが出来ているし、偶には一人でのんびりとお風呂に入るのも悪くないわね。此処数年の間、私はメイド達に世話されるから一人でゆっくりと入浴した記憶が無い。身体の隅々まで勝手に綺麗にしてくれるのは楽で良いんだけれど、心の安らぎには程遠いもの。

 

「お風呂、おっ風呂、一人でおっ風呂!」

 

 ハルバートを肩に担ぎ、鼻歌交じりに屋敷の中に向かう。今日は花の香りの石鹸でも使おうかしら? でも、後で修行の続きをする時に気になるのよね。ちょっと悩みながらもバラの香りの石鹸を使おうと心に決めた私。

 

「うふふふ。お転婆とかゴリラとか色々言われている私だけれど、実に女の子らしい考えね。後からハルバート振り回して体術の稽古や筋トレで汗をかく事も想定するだなんて正にお嬢様って感じだわ」

 

 さーて、メイド達に感づかれる前にお風呂に向かいましょうか。じゃないと一人で入れないものね。

 

 

 

 

「……何で既に居るの?」

 

「メイド長より事前に指示を受けて待っていました。さぁ、私達がお世話いたします」

 

 脱衣所には準備を整えたメイド達の姿。流石はメイド長。……本当に何者なのかしら?

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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