ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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肉体による変化

 この世に存在した瞬間から我には己以外に大切な物など存在しなかった。闇の女神としての責務だけが我を動かし、その果てに人の子に存在価値は無いと判断した故にリュキと組んで滅ぼそうとした。

 

 何故滅ぼすまでに思考が至ったか、それについては殆ど覚えてはいない。どの時代でも争いが耐えぬからか、優劣を付け合い些細な事で憎み合うからか、最早どうでも良い話だ。何せリュキの心変わりによって計画は破綻、我は我の領域である闇の中を漂い続けるだけだったのだから。

 

「……その筈だったのだがな」

 

 偶に顔を見せる忌々しい裏切り者、妙な格好をしている奴が顔を見せた後で回想を止めた我は静かに呟く。突如思い出した前世とやらの記憶。此処ではない世界で人として生きた僅かな期間。そして意志を持ってから初めて知った”愛しい”という感情。

 

「我の……私の可愛い二人。貴方達は私が絶対に守る。私には二人しか居ないから……」

 

 誰かを求めるなど本来の我ならば考えられぬ事。それ程までに二人の存在は大きく、実際に会うと”我”から”私”へと変わってしまう。

 

 

「もー! お姉ちゃんったら滅多に干渉出来ないのに私の方にばかり来てどうするのよ。しかも私に変な事しちゃってるし」

 

「ゴメンね。でも、こうしてたら落ち着いて相談出来るから……」

 

 だ、だから妹に叱られてしょげちゃっても、前世の姿に戻して抱っこしながら座っても仕方無いわ。神の肉体である私の姿までは変えられないけれど、他人に干渉するのなら簡単。ちょっと力の消費が多いから頻繁に使えないし、次に外に干渉するまでの期間が開いちゃうけれど、こうやって可愛い妹を抱っこするだけで癒されたわ。

 

 私がゲームの隠しボスだった闇の女神に転生するのは良いし、妹達がラスボス兄妹になっちゃっていたのも見つけるのが楽だったから良いだろう。……もし干渉した際に殺しちゃった相手に混じっていたかと思うと寒気がするから。そうなったら私は生きていけない。死ぬって事は全部失うって事で、テュラとしての私には大切な物が何一つ無い。

 

「それにしてもお肌プニプニね。ほーら、高い高い」

 

「お姉ちゃん! 私、十六歳!」

 

「……そっか。そうだよね」

 

 前世のお別れしちゃった時の姿に変えた妹を高く掲げれば頬を膨らませて怒られた。……そうだよね。もう二人共私が知ってる小さい子供の二人じゃないんだ。胸にチクチクと刺さるトゲ。漸く会えた可愛い二人が遠くに行ってしまった気がして寂しくって、気が付いたら妹を抱き締めてた。

 

「お姉ちゃん? ……仕方無いなあ」

 

 ちょっと驚いたみたいだけれど腕の中の妹は抵抗しない。ああ、良かった。確かに成長して変わっちゃった風に思えたけれど、転生してもこの子はこの子、可愛い妹のままなんだ。

 

「それでお兄ちゃんには何時会うの?」

 

「うっ!? つ、次に干渉するだけの力が貯まったらかな? ほら、お姉ちゃんって封印された状態でしょう? リュキの悪心の封印を解除した上で滅ぼさないと封印が解けないし……」

 

 私じゃなく我として排除しようとしたのがまさかの弟。妹と同じく命に代えても守りたい宝物。だから会いたいけれど会うのが怖かった。拒絶されるのが、怖がられるのが、敵として扱われるのが心の底から恐ろしい。我としての私なら愛しいという感情も恐怖も感じないのに、二人が関わって私が強く出れば途端に感じるその二つ。

 

「あのね、お姉ちゃんがテュラなのは言ったよね? あの子、何て言ってた? 今すぐ会いたいとか、妹ばかりずるいとか、そんな事を言ってくれていた?」

 

 そんな訳は無いと思っているけれど無駄な希望に縋り付く。愚かな行為だとは思うんだけれど、可愛い弟の反応が少しでも良い物の方が嬉しいと強く願った。

 

「……うーん、言いにくいんだけれど半信半疑? ほら、お姉ちゃん……じゃなくってゲームのテュラって私達を操ってたでしょ? 認識を操作したり記憶を読んだりしたんじゃないかって疑ってるの。で、でも、気にしないで。お兄ちゃんは私を守りたいからだから」

 

「うん、分かってる。私が貴女達を守りたいのと同じで、あの子もお兄ちゃんとして妹を守りたいと思ってる優しい子だから」

 

 ちょっと寂しいと思えたけれど、あの子が相変わらずお兄ちゃんだって知れて安心したな。あの子も変わってないんだ。そっか、妹思いの優しい子のままなんだ。

 

 そっか。……会いたいな。会えば良かった。会って抱き締めれば良かったのに。

 

「何かお姉ちゃんが裏で全ての糸を引いてる可能性もき、き……」

 

「危惧?」

 

「そう、危惧! 危惧してるみたいなの。裁縫は下手だったお姉ちゃんが引ける糸って納豆の糸が精々なのに」

 

「お姉ちゃん、これでも今は闇の女神だからね? 黒幕とか可能だから」

 

 うーん、この子って少しお転婆だったけれど此処までアホな感じだったかしら? アホだった気もするけれどリアスになった影響だと思いたい私は現実に目を向けない。うん、アホでも可愛い妹よね。

 

「それでお友達とかのお話を聞きたいな。お姉ちゃん、二人がどんな風に過ごしているのか気になるの」

 

「良いわよ。じゃあ、先ずはレナだけれど……」

 

 楽しそうに喋る妹の姿は可愛いけれど、実は友達については興味が湧かない。だって大切な二人じゃないから。

 

 

 

 いや、寧ろ煩わしい存在だな。我にとって宝に変な影響を与える害虫、駆除すべき相手。故に話を聞く。友が一人も居ないと悲しむだろう。保護者は私以外不要だが、友の数人は残しても良い。他の人間を滅ぼし、二人に世界をあげよう。

 

 

「ねぇ、今は無理だけれど二人に誕生日プレゼントをあげるね。何かは今は秘密だけれど」

 

「えー。お姉ちゃんって意地悪になってない?」

 

 少し拗ねた様子の妹の頭をクシャクシャと撫でていると一緒に居られる時間が終わるのに気が付いた。もう少し一緒に過ごしたいけれど、また会えるから我慢しよう。

 

「じゃあ、またね。お姉ちゃん、次は二人に会いに行くから」

 

 ずっと繋いで居たかった手は一度離れて、また繋ぎ直した。だからもう離さない。

 

 我が……

 

 私が……

 

 お姉ちゃんが……

 

 

 二人が絶対に傷付かず、何も奪われない楽園のような世界をあげる。だから其処で仲良く暮らそう。家族三人で一緒に……。

 

 

 

 

 ああ、その為なら神も人も幾らでも滅ぼし、世界だって一度壊して作り直そう。少しでも良い世界を、思い付く限り幸せに溢れた世界を大切な二人に与える為に。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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