ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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新章


六章
弱肉強食 


 満天の月が夜の闇を払い大地を照らす中でも深い海の底には一筋の光さえ差す事は無い。光が存在して当然の世界で生きている者が不用意に足を踏み入れれ海流に身を任せれば、忽ち上下の感覚さえも失い闇の世界で孤独を味わう事になるだろう。

 

 だが、闇の世界に生きる者にとってはこの世界は生まれた時から過ごして来た場所、光が一切無いのなら視覚ではなく嗅覚で獲物を探し、本能で上下左右の方向を察知する。今も海底付近に生息するカニや大型の貝類に向かって直進する怪魚の姿が在った。

 

 ”ランスフィッシュ”の名の通り、カジキマグロやダツよりも鋭利で頑強な長い口先を有するモンスターであり、時に金属に匹敵する甲殻を持つモンスターさえも襲い肉や血を啜る性質を持っている。人にとって幸いな事に滅多な事では海上付近に姿を見せないので人が襲われるケースは珍しいのだが、その滅多な事に繋がる原因が姿を見せた。

 

 海の底を平たい小島が……いや、海底に身を潜め獲物が通りかかるのを今か今かと待っていた巨大なエイの姿をしたモンスターが姿を現した。背に乗せた砂をふるい落とせば暗い海に紛れる漆黒の体が露わになる。その大きさは人が優に数人手を広げて並べる程であり、大型の鯨にさえ匹敵する巨体。それが口を開けば海流さえも変化し、ランスフィッシュ達が次々に飲み込まれる。そして口に入る瞬間、巨大な口から吐き出された無数の小さい泡に触れたランスフィッシュの体が溶かされ、ドロドロになって先端が刺さる事がなくなった状態で飲み込まれた。

 

 

 

 吐き出された強力な酸の泡によってランスフィッシュが溶かされた事によって周囲に広がる刺激臭。嗅覚で周囲の状況を把握している暗闇の住人には即座に危険が伝わり、吸い込みに巻き込まれなかった者達はパニックになって逃げ出した。

 

 このモンスターの名は”バブルレイザー”。極めて狭い生息域を持つが、活動範囲が僅かでも重なる生物の本能に危険性が刻み込まれる程の強さを持っている。

 

 本来は海底付近から離れないランスフィッシュだが今だけは上方向にすら向かう個体も見られ、巨体故に更なる獲物を求めるバブルレイザーが見詰めるのは群れの中で一際大きいリーダーだった。他の魚、特にモンスターではない相手には目もくれず、進路上を泳ぐ者のみを吸い込みながら迫るバブルレイザー。両者の距離は着実に狭まりつつあった。

 

 そもそもモンスターと普通の動物の違いは何かというと、それは魔力の有無である。人間以外の生物は基本的には魔力を持たず、何らかの要因で魔力を得て姿形が変わったり何らかの能力を得た者をモンスターと呼ぶ。そしてモンスターの性質なのだが、獲物を選べる時は魔力が多い相手を好む傾向にある。

 

 人が互角以上の相手を倒し続ける事で肉体の質を上げる、ゲームでのレベルアップを果たすのと同じで魔力を得る事で力の上昇を狙っているとされているが真実は未だに不明だ。只言えるのは強き者は更なる強き者に狙われるという事。バブルレイザーの巨大な口がランスフィッシュのリーダーを飲み込むべく開かれ、強酸性の泡が吐き出される。

 

 

 

 

 そしてランスフィッシュのリーダーがバブルレイザーに狙われたのと同じく、このバブルレイザーも更なる強者に狙われるという事であり、獲物をしとめる瞬間こそが最大の隙となる。バブルレイザーが小島ほどの巨体を砂を被って隠れていたのと同じく、海底の砂深くで潜んでいた存在が飛び出した。

 

 

「!」

 

 その勢いは凄まじく、移動の際に周囲の海流が乱れる程だ。バブルレイザーは己を狙う捕食者に即座に気が付くが、その姿を視認する前に切り裂かれ息耐えた。

 

 姿を現したのは異形が多いモンスターの中でも際立って異様な姿を有する存在。バブルレイザーよりも一回り大きいサメの頭は古代に滅びた巨大サメを連想させるが、その胴体は全長の半分ほどの長さのハサミを持つ赤黒い甲殻類であり、尾の部分は吸盤の付いた無数の触手、表面が常に泡だって瘴気を放ち続ける小豆色であり、鋭く尖った先端で周囲のモンスターを貫いて口元に運んでいた。

 

 このモンスターの名は”シャーロス”。この世界に酷似した”魔女の楽園”において臨海学校でのイベントボスであり、バランス調整を間違えたと批評される程の強力なボスだった。毒や麻痺を発生させる触手での全体攻撃や魔法も物理も効きが悪い強靭な防御力。ハサミや食い付きによる攻撃は防御バフ無しではタフなキャラでも一撃でやられる程。イベントでは一定ターン戦って体力を削るというのをダンジョンを歩き回って行う必要があり、ゲーム中でも屈指の難所とされていた。

 

 尚、戦闘が発生するダンジョン限定で特殊な条件(最初のイベントで助けてくれる相手や好感度チェックでは見られない好感度、隠しイベント等々)を満たした時のみロノスがNPCとして戦闘に参加、それを前提としているかのように戦闘の難易度が激減する。逆を言えば条件を満たせない場合は異常な難易度に挑む事となり、ゲーム動画の投稿では何十回何百回とやり直してでも主人公による単独撃破に挑戦するプレイヤーも見られた。

 

 シャーロスの設定としても学者の研究で分かっている事でもあるのだが、百年単位で休眠を行い、本能のまま生態系を荒らしては再び休眠するという悪夢の如き存在。シャーロスは周囲一体の生物、それこそ海草すら食い尽くすも獰猛な瞳を動かして次の獲物を狙い、鼻先を海上に向けた。

 

 光は届かずとも届いた強力な臭い。嗅ぎ慣れない陸の生物が海上を泳ぐのを感じ、臭いに混じって自分より高い魔力を察して本能を刺激される。これが相手が水性の生物なら戦闘を避けたが、陸の生物である事が補食本能を刺激した。本能だけでなく慣れない水中戦によって己に敗れた格上を何度も喰らったシャーロスは巨大な口を開き、一直線に獲物へと向かう。

 

 

 

 次の瞬間、海上から海底に向かって一直線に金色の光が落ちて行くのを遠くの生物達が目にする事となり、数分後、シャーロスの無残な死体が海中を漂い多くの生き物の糧となった。その肉体に刻まれたのは巨大な爪痕、そして巨大な牙で食い破られた傷口であった。

 

 

 こうして本来ならば臨海学校をしている所に現れた筈のボスモンスターは無関係な所で生存競争に負け、本来ならば一飲みで終わる雑魚の餌となる。その身体に刻まれた傷跡は肉食の四足獣による物。本来ならば起きなかった筈のこの戦いは今後の運命にも大きな影響を与える。

 

 

 それが吉と出るか凶と出るのかは不明ではあるのだが……。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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