ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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嫉妬

 欲しい物が手に入らない事を不満に思う人は羨ましいと思う。手に入らないのが当たり前だと思わない人生を送れているから。

 

 誰かに嫉妬するという事は、その誰かに自分は勝っている筈だと心の何処かで思っているから。嫉妬というのは恵まれた事があるから。

 

 

 

「……知らない天井です」

 

 カーテンの隙間から入る日差しで目を覚ました私は少しだけネタに走る。前に読んだ小説で酔いつぶれた女性が目を覚ませば見知らぬ天井の下で、しかも全裸な上に見覚えのない男とベッドの中で一緒。まあ、私は酒なんて飲んでないから昨夜の記憶は有るんだけど。

 

 ……因みに既婚者だった女性は男性に脅されて関係を続け、その内に快楽にズルズルと嵌まって行く。私も許されるなら意中の相手であるロノスさんと快楽に溺れたい。

 

 じゃあ、そろそろ起きようか。このベッドの寝心地は悪魔的だけれど、欲望に負けて何時までも惰眠を貪っていたらだらしがないと思われてしまう。メイドが起こしに来る前にベッドから出て着替えをしているとノックの音。招き入れれば紅茶の用意を済ませたティーセットをカートに乗せたメイドが入って来た。

 

「ルメス様、朝のお茶の準備が出来ました。目覚めの一杯に如何でしょうか?」

 

「はい。良い匂いですし、是非頂きます」

 

 ベッドの寝心地もそうだけれど、紅茶も匂いが良いし余程の高級品、ルメス家では購入出来ないし、出来たとしても私の口には出涸らしでさえ一度も入らないだろう一杯を味わって飲む。生憎私には紅茶の善し悪しは分からないので適当に味の感想を伝えておいた。

 

「それでロノスさん達は?」

 

「若様と姫様ならば朝の鍛錬の時間です。若様は庭で刀の型の稽古を、姫様は街を出て野山を走り込んでいらっしゃいます」

 

 朝から野山を駆け回る。それを平然と口にする辺り、もうこの家では当たり前になっているらしい。……うん。

 

「そうですか。臨海学校当日なのにお二人共張り切ってるんですね」

 

 本音を言えば私は惰眠を貪りたいし、睡眠欲に溺れた次はロノスさんとの性欲に溺れたいけれど、そんな話を聞いた後では”未だ早いのでもう少し寝ます”なんて口に出せない。凄くフッカフカで寝転がるだけで幸せな気分になれるけれど。だって私が居るのはクヴァイル家の屋敷の客間。上の部屋で嫌がらせのタップダンス擬きを激しく踊る豚みたいな女も居なければ私が困っているのに気が付かず待ち伏せして送り迎えを提案する眼鏡男が玄関近くで待ってもいない。気が抜けそうだけれど、気を抜いたら駄目な場所なのだから。

 

 それにしても私の実家のメイドとは違ってクヴァイル家のメイドは流石だと思う。闇属性の私に対する嫌悪を隠せていなかったのがルメス家程度に仕えるしかなかった連中で、実際は嫌悪しているだろうに一切表には出さず客人として扱っている一流の人達が彼女達。ちゃんと教育されているし、本当に家柄や財力による格差は凄い。

 

 ……アース王国の王族? さて、何の事やら? マザコン王子とか先代王妃とか……。

 

「あの、ロノスさんの稽古の見学ってしちゃ迷惑でしょうか?」

 

「いえ、大丈夫かと。終わり次第タオルや飲み物を渡せるように控えているメイドが居ますし、他に見学なさっている方も居ますので」

 

 朝食まで少し時間があるし、無駄に使うのなら彼の姿を眺めていたい。見学が邪魔になるのなら好感度に関わりそうだけれど、端から見るだけなら大丈夫みたいだし……。

 

「じゃあ、見学させて貰いますね。あっ! お仕事お疲れさまです!」

 

「恐縮です」

 

 私の目標はロノスさんのお嫁さん……立場から考えて側室だろうが、兎に角彼の側に居て良い公的な立場を手に入れる事。妥協しても別宅で通いに来るのを待つ非公式な愛人の立場。だから使用人に愛想や礼儀を向けておいて損は無い。ルメス家って下級も下級で凄い貧乏だから元から相手の方が上な気もするけれど、頭を下げて労えば向こうも一礼で返す。

 

 

「……本当に全然違うなぁ」

 

 客室から出ながら呟く。先程の彼女以外にも屋敷の中を動き回る使用人の姿は目に付き、そのどれもが優雅かつ無駄の無い動き。下手な貴族よりも気品を感じられる姿に少し落ち込んでしまいそうだ。何せこんな姿の人達を小さい頃から見て来たのだから。

 

 所でこの家の長女はどうして……うん、考えないでおこうか。世の中には触れない方が良い事が有る。

 

 

 

 

 

「なんだ、貴様も来たのか、ヘンテコ女……いや、アリア・ルメスだったか」

 

「お早う御座います、レキアさん! ……あっ、お姫様ですしレキア様の方が良かったですよね?」

 

 先程のメイドの言葉に出て来た既に見学している人、庭に来た私はその姿を発見出来ず、トイレにでも行ったのか飽きて去ったのかと思ったが、向こうから声を掛けて来た事で存在に気が付く。亜麻色の髪を風で揺らしながら宙に浮く椅子に座る小さな姿。妖精族のお姫様にしてロノスさんの正室候補のレキアだ。

 

 つまりは敵対しては駄目な相手なのでヘンテコ女と呼ばれても相手が言い換えたからには指摘せずにいよう。横から見ていて好意が明らかなのに素直になれない面倒な相手だし、刺激しない方が良い。まあ、心の中では”空回りツンデレチビ”と罵倒するのだが。嫌われていると思われているのは笑えそうだ。

 

「様は不要だ。今は一々畏まるべき場でもあるまいしな。……それよりも静かにせよ。妾の友の鍛錬中だ」

 

 彼女はそういうと私から目を離し、一度だけ軽く指を鳴らす。すると地面から芽が飛び出し、それが急成長して蔦が絡み合った。そうして出来上がったのは植物の椅子。もう私から目を離し、ロノスさんを愛おしそうに見ているが椅子を私に用意してくれたのだろう。……嫌われていなくて安心だ。何せ相手の立場が立場、味方に出来ずとも敵対だけは避けなければ私の望む幸福は手に入らないのだから。

 

 一礼し、静かに椅子に座る。私達の遣り取りに気が付いているだろうにロノスさんは一切反応を見せず、只ひたすら刀を振るい続けていた。振り下ろし、突き、払い。それを順番を変え、角度を変え、様々な型で振るい続ける。でも、余りの速さに私の目では追いきれず、その良し悪しは判別出来ないが、ロノスさんの事だから大丈夫だろう。

 

「……あの馬鹿者が。刃先が乱れているぞ」

 

「え? 分かるんですか?」

 

「僅かだが目で追えたし、表情も普段と微妙に違う。……思い当たる節はあるが、情けない奴だ。政略結婚で側室候補を一人決めるだけのくしぇ(・・・)に」

 

 あっ、最後噛んだ。私じゃ分からなかった事を二つも理解した事に羨ましさと悔しさを覚えたけれど、最後の最後で彼女も動揺しているのだろう。

 

 

 ……政略結婚か。まあ、仕方がない。私が唯一無二になれないのは当然なのだから最初から諦めている。だからだろう、嫉妬らしき感情は殆ど存在しなかった。

 

「……むぅ」

 

 反対にレキアは理解しながらも納得はしていない様子だが、望みは叶わないのが当然だった私と違い、望みは叶って当然だっただろう彼女故の苛立ちだ。

 

 貴族、特に上位の家なんてそんな物。私からすれば友人を得るのを通り越して好いた相手と結ばれるだけで幸福だ。

 

「妾も臨海学校とやらの見学に……いや、流石に自重しよう。迷惑だろうしな」

 

 少ししか接点が無い彼女だが、こうして相手の都合も考えて思い直す辺り成長しているらしい。……初対面の時に魔法で出したモンスターをけしかけられた事は未だ忘れていないのだ。

 

 さて、そもそも私がロノスさんの屋敷で過ごしているのか、それは恋の邪魔者である眼鏡男と臨海学校に関係していた……。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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