ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
「確かに何処に行っちゃったんだろう? 遠泳でもしているのかな?
「いや、それは流石に無いんじゃないかしら? リアス様ちゃんでも……多分無いわ。きっと、恐らく」
……ふぅ。これが聖王国流のジョークなのでしょうか? 確かに”聖女”が国境近くまで走り込んでいたとかを聞いた時には自らの正気を疑いましたが、流石に隣の大陸まで泳いで行くのは無理があるでしょうに。ああ、いけないいけない。どうせ見抜かれるにしても取り繕う必要はありますものね。
互いに相手の腹の中をさぐり合い、表面と中身が違っても素知らぬ振りをするのが貴族同士の付き合いというもの。長年商人として学んで生きてきた私ですが、その辺は同じで助かったと愛想笑いを浮かべる。ロノス様と拷問貴族の次期当主には見抜かれていますが、先程から遠巻きに見ているだけだった連中は騙せているみたいですわね。瞬時に周囲の貴族の顔と事前に入手した資料を頭の中で参照した私は彼等彼女等の価値を算出する。
まあ、ルクス殿下の派閥の下の方の連中とクヴァイル家次期当主の争いに介入するのに躊躇する程度の時点で点数はお察し。価値判断に使った労力と時間は無駄でしたわね。
「……あら? 何かが海から飛び出して来ましたわ。あれは……モンスター! こっちに来ますわ!」
「アレは……不味い」
「キュィィ……」
急に沖の方から聞こえた音。釣られて目を向ければ建物数階層分に達するであろう大きさの水柱が上がり、遠目に何とかモンスターと判断できる巨体が飛び出して来ました。この距離でも分かる大きさからモンスターだと判断した私ですが、ロノス様達はその正体さえも理解している様子。……グリフォンなら兎も角、どんな目をしているのでしょうか? 此方に向かって来る速度が速すぎて私には姿が捉えきれないというのに。
「不味いっ!? ロノス様でさえそんな事をいう相手ですのっ!?」
彼の力は間近で目にし、助けて頂いた私が知っている。そんなロノス様が一目で不味い相手と判断したモンスターが向かって来ると分かった瞬間、その場の貴族達が一斉に逃げ出した。周りの事など気にした様子もなく一心不乱に逃げ出し、残ったのは私達三人と一匹……ああ、縛られた貴族が一人残って居ましたわね。
「うーん、相手というか、何というか……」
「直ぐに分かるわよ、皇女様。本当に酷いから……」
何だか妙な反応ですわね。危険な相手なら逃げるべきですし、ロノス様ならば私を連れて逃げ出して下さいそうなものですのに。まあ、彼の勇姿を間近で目に出来るのは悪くないですけれど? 助けて貰ったからと心酔する程にチョロい私では有りませんが、価値の高い存在には心を惹かれますの。
……時属性という唯一無二の希少価値に加えてグリフォンを飼い慣らして接近戦でも強い。そんな存在が価値を示すだなんて心が踊るでしょう?
「……ロノス様、守って下さいますわよね?」
「うん、それは約束するよ。君は巻き込まないって」
……ふぅ。私は別に簡単に惚れる程に安い女ではありませんが、こうやって上の相手から守られるのは悪い気はしませんの。母に捨てられ、自分を守るのは私が上の存在だからって者達ばかりでしたし、多少の損得勘定はあってもこうして守ってくれる相手には心惹かれる。
彼の背に隠れるように服を掴んだ時、砂浜にその巨体が姿を表しました。では、反応をしましょうか。
「きゃあ!? な、何ですの、この醜悪なモンスターはっ!?」
その姿を目にした瞬間、私は迷わず叫んでいた。目の前に現れたのは巨大なタコの姿をしたモンスター。その頭は手を広げた大の男が三人掛かりで担げる程に大きく、八本の脚も頭の大きさに比例して太く長い。
「”ウツボダコ”、醜悪なモンスターは何だって問われれば候補に挙がる奴だよ。毒とかは持っていないけれど凄く不味い」
ですが、それだけならば大きいだけのタコであり、帝国ではゲテモノとされて忌避される食材でも私にとっては大好物。趣味を疑われる程に嫌われているので堂々とは口にしていませんけれど。その姿を一層不気味にしているのは脚の姿。頭と同じく茹でダコみたいに真っ赤で無数の吸盤が有りますが、鋭利な牙を持つウツボでした。ウツボもタコと同様に趣味を疑われるレベルでゲテモノとされているけれど私の大好物。
「ネーシャ、大丈夫?」
「え、ええ、不気味な姿だったもので……」
最近食べていないのでバター焼きにして食べたいという欲求を抑え込み、不気味な姿に怯える少女を演じる。醜悪なモンスターに怯えるか弱い少女って殿方の保護欲を刺激するでしょう? 姫を守るナイトって大勢の憧れだそうですもの。
「さて、トアラスはどうする? 僕としては逃げ出したい気分なんだけれどさ」
「そうねぇ。脱兎の如く逃げ出したい気分なんだけれど、時既に遅しって所かしらん」
「そうだね。……ポチ、君だけでも逃げて」
「キュ、キュイ!」
ですが奴相手では思った通りには行きそうにない様子。あんな巨大な蛇に臆さず立ち向かったロノス様達がウツボダコを前にして及び腰になり、ポチは少し迷うも首を横に振って逃げるのを拒否する。此処までグリフォンと絆を結べるだなんて予想以上ですわ。力関係で従えているだけと思っていましたのに……。
自分が嫁ぐ相手の価値を上方修正しつつも、今まで集めた情報から相当な実力と判断した彼が戦うのを躊躇うモンスターの危険度に少し怯える。ですが彼は言いました。
私を守る、と。その言葉を私は信じます。だから怯える必要なんて有りませんわ!
「動きませんわね……。それにしても本当に奇妙な姿ですこと」
モンスターは他の動物と比べて変な姿をしている事は確かに多いのですがウツボダコは今まで目にした中で頭一つ抜きん出た感じ。タコの部分とウツボの部分全てに口が有りますが内臓とかどうなっているのかしら?
それに頭の部分が中央辺りまで陥没している上にグッタリした感じで動いていませんが、本当にどうなって……。
「まあ、既に死んでいるからね」
「頭があんな事になってたらねぇ」
「……はい?」
し、死んでる!? だって凄い勢いで海から飛び出して来ましたし、まさかそれが理由で死にましたの? じゃあ、焦っていた理由は一体……まさか!
「寄生虫みたいなモンスターが居ますのね!」
「え? なんで?」
「此奴には居ないわよ。普通のはいるかも知れないけれど」
「じゃ、じゃあ”不味い”って一体何が?」
一体全体どうなっているのか混乱しそうな中、海から誰かが姿を現す。両手には海底に生息する巨大なロブスターや貝を山のように持っている。アレは”オーガロブスター”!? それに”黄金ホタテ”までっ! 海のモンスターが好むから漁の危険性が高く、希少価値が出ているせいで私でさえ数える程しか食べた事が無いというか、あれだけの量が有れば売る所によっては一ヶ月は遊んで暮らせますわよっ!
彼女は一体何者……。
「お兄様ー! 沢山採れたから一緒に食べましょー! 未だ来てないアリアも誘って、チェルシーも呼んで、ついでにトアラスも一緒に食べて良いわよ」
「あらあら、私はついでなの? 少しショックねぇ。でも、折角のお誘いだから……ああっ! ちょっと監督補佐の仕事を思い出したわあ!」
あら、逃げる気ですわね。トアラス様は慌てた様子で一気にまくし立てるとアーサーを担いで猛ダッシュ、この場から逃げ出しましたわ。
「ご飯は後だから楽しみにねー! 迎えに行くからー!」
そして逃げられない。……結局お二人は何を怯えていたのでしょう? それはそうと大好物の二つが合わさるだなんて楽しみですわ。こんなモンスターが存在したなんて。
この驚きは方向こそ違いますが、幼い頃に商用で向かった吸血鬼の国で愛人契約を持ちかけられた時に匹敵しますわ。……あのお姫様、諦めているのかしら?
「……さて」
この臨海学校中、果たすべき目標がある。その為にもロノス様と二人きりにならなくては……。
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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