ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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親愛? 恋愛?

「……何と言うべきか君も色々大変だな。あのヴァティ商会のお嬢様を皇帝の娘として嫁に迎えるのだからな」

 

 持ち込んだ釣り竿の糸を垂らし魚が掛かるのを待っていた僕の所に戻って来たのは精神的にくたびれた親友の姿であった。何があったのかと尋ねてみれば次のお見合い相手である編入生と一緒に現地にまで来たというのだが、その相手がよりにもよって……。

 

「彼女の事、知ってたの? アンリの家なら共和国内の商人と取り引きしていると思ってたのにさ」

 

「……まあ、会った事は無いけれど噂は耳にしていてな。随分とやり手だと取引のある商人が恐れていたんだ。調べる限りでは警戒に値する相手だとは思っているさ」

 

 未だ僕と同じ年頃の女の子だって言うのに物騒な情報は結構手に入ってくる。物騒な連中やら経験が段違いの相手と渡り合ったとか、戦闘力ではそれ程の噂は聞かないが頭と舌は危険視している。

 

「ヒージャ家が警戒するって余程何だね。まあ、確かに厄介な相手ではあるんだけれどさ」

 

 成る程、クヴァイル家でも彼女の厄介度合いは把握しているって事か。そんな相手が見合い相手の一人……いや、調べた限りでは皇帝の後押しが段違いだという事だし、娶るのは彼女で間違い無いだろう。そんな厄介そうな相手を身内に加えてやっていけるのか?

 

 僕の親友は随分と甘い。敵には容赦が無いくせに身内と判断した相手に対しては余計な甘さが出る程にな。そして調べる限りでは現在ロノスと結婚しそうなのはクヴァイル家傘下か強固な繋がりがある相手。だが、ネーシャは違う。帝国の娘として嫁ぐのだし……。

 

「いや、僕が心配する事ではないか」

 

 あの少女を嫁として迎え入れた場合、クヴァイル家が得るメリットは大きい。帝国との繋がりもそうだが、彼女の実家であるヴァティ商会の人脈は帝国だけに留まらない。聖王国が妖精や獣人、鬼族と友好関係にあるように帝国が親密にしている吸血鬼族と諍いがあった際も彼女が仲介の役目を果たすだろう。

 

 ……噂では以前までは小規模な商取引しかなかった帝国と吸血鬼族の間の取引が活発になったのはヴァティ商会の一員として向かった彼女の働きが大きいとか。吸血鬼族の姫と仲良くなり、それを切っ掛けに王との交渉を加速、見事に貿易に関わる税や規制の緩和を引き出したとか。

 

 未だ十代の娘が其処までの活躍をするだなんて嘘臭いが、そんな噂が立つ程の評価を受けているのは間違い無い。なら、そんな彼女が家に入る事で受けるデメリットはその影響力の大きさだが、所詮はロノスの親友でしかない僕が何を考えても無駄な事だ。国が違うし、成人したら女として生きる僕が何時までも近くでウロチョロするのも互いの立場的に問題がある。

 

 まあ、僕が悩むだけ無駄な話だし、心の中で応援だけしていようか。

 

「……それも僕が同じ様にすれば話は変わるが」

 

 自分にしか聞こえない大きさの呟きは波の音に打ち消され、背後で何かを悩んでいるロノスには届かなかった。

 

 そう、僕の家は王族でこそ無い者の名門の軍人一族、その影響力は強い。父上なんてドラゴンを従え乗りこなす竜騎士団の団長だし、親戚の多くが軍の重鎮。その血筋故に一族の者が婚姻関係を結んだ相手の家の格も高く、見劣りする程ではない。

 

 ”僕が彼奴に嫁げば今の関係のまま一緒に居られるし、手助けだってしてやれる”、そんな事を考えていた自分に驚いた。……駄目だな。どうも最近は色々とドキドキさせられる事が多いし、気を許せると同時に、同年代の男の中で僕を女の子扱いしてくれる唯一の存在だ。思春期特有のアレもあってそんな風に思考が持って行かれているのだろうが、それは恋じゃない。

 

 僕にとってロノスは大切な親友で、その親友との関係を壊しかねないのが今の僕の中に存在する一時的な感情だ。……でも、少しだけ考える。駄目だと分かっていても、憧れている普通の女としての人生の妄想に相手役としてロノスを選んでしまうんだ。他に誰も居ないからだけれど。

 

 

 好きだって言って貰えて、綺麗に着飾ってデートをして、良いムードの中でキスをして、ベッドの中で抱き締められながら甘えて、そのまま……。

 

「ねぇ、アンリ」

 

「ま、未だ早い!」

 

 ぼ、僕は何を考えているんだ。エッチな事だな、分かっているさ。年頃だからそんな風な事に興味を持つのは悪くないが、親友が近くに居るのに親友を相手役に選んで処女を捧げる光景を妄想するだなんて。しかも昼前に! 

 

 ロノスを使うのはギリギリセーフだとして、妄想の中で一気に話を進めていたのが災いしたのか思わず声に出ちゃった僕だが、変な風に思われてはいないだろうな? ロノスだって妹やペットが関わると変だし、妄想がバレなければセーフだ。

 

「え? ウキが沈んだのに引き上げないから声を掛けたんだけれど早かった?」

 

「そ、そうか。すまない、考え事をしていた」

 

 言われてみれば確かに釣り竿が大きくしなって獲物が掛かった事を知らせてくれる。慌てて引き上げれば口から針が外れ掛けているも大物を釣り上げられた。……うむ。だが、これは駄目な奴だ。

 

 

「ウツボダコの子供か」

 

「ピー! ピー!」

 

 餌を脚の一本の口に飲み込ませた子犬サイズのモンスターの姿に思わず顔が引きつり、タマは最大限の警戒を鳴き声で示していた。分かっているさ、相棒。君と僕とで挑んだ無人島サバイバルの時の悪夢は忘れない。

 

 そう、僕とタマは此奴の味を知っている。”味”と表現する事自体が食べる事への侮辱となる程に悍ましい。初めて一人と一匹だけで挑んだサバイバル訓練。一切の道具を持たされず、知識だけではどうにもならずお腹を減らしていた時に波で打ち上げられたウツボダコを発見した。口に出すのも嫌だとして噂にすらならない故に僕とタマは油断して口に入れ、その時の自分に強い殺意を覚える事となった。

 

「……うっぷ」

 

 エグい訳でも苦い訳でも生臭さが酷い訳でもなく、食感だって普通だ。……”これを食べる位なら飢えて死ぬ”と多くの者が口にする、それがウツボダコ、好んで食べる者は舌だけでなく頭がポンコツだと断言出来る味だ。あっ、少し口の中に蘇った。

 

「……ほれ、行け」

 

 当然僕はキャッチアンドリリース、見ているだけで口の中に地獄が広がるから戦うのも嫌だ。二度と釣り餌を狙うなと心の中で願い、新しい餌を付ける。さて、今のは忘れよう。じゃないと心が死ぬ。

 

 

「……実はさっきリアスが海に潜って黄金ホタテとか色々と穫って来たんだ。お昼ご飯はそれさ」

 

「高級食材じゃないか。この辺に生息しているんだ」

 

 まあ、僕じゃ潜水からの漁は無理だがな。しかし、何を悩んでいるのだ? 多過ぎで勿体ないなら皆で分ければ良いし、足らないなら他で補うだけだろうに。何故か嫌な予感がするな。本能が今直ぐ逃げろと警鐘を鳴らすが、流石に親友を見捨てては行けない。残るとするか。

 

「それでリアスの大好物だけれど滅多に手に入らないって事にして食卓には出さない奴に遭遇したからって海底から浜辺まで蹴り飛ばしたんだ」

 

「……凄いパワーだな。水中じゃ威力が下がるだろうに」

 

「うん、流石だよね。可愛いだけじゃなくって素直な上に戦闘も陸水空全部大丈夫なんだよ。あの子をゴリラって呼ぶ人も居るけれど、そんな甘いもんじゃない。グランドゴリラさ」

 

「おい、お前の妹が絡もうとゴリラは誉め言葉にならないぞ。ひとまず落ち着け、馬鹿者が」

 

 本当に此奴は妹関連だとポンコツになる。矢張り僕が親友として側で支えるべきなのか? いや、しかし……。

 

 

 

「その大好物ってのがウツボダコなんだよ。しかも成体、つまりは味が凝縮されてる奴」

 

 ……はい? いやいや、そんな事は有り得ない。あの様な”不味い”と評する事すら不可能な物が大好物? だが、此奴が妹を貶める冗談を言う筈もない。つまりは……。

 

 

 

「さっき君に抱かれる想像をしている最中に話し掛けられて驚かされたが、これはそれ以上の……あっ」

 

 妄想が少し頭の端に残って居たんだろう。その状態で受けたショックの余りに僕は口を滑らせてしまった。どうしよう……。




絵の新しいの欲しい

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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