ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
この日、僕は悪魔に魂を売ろうとしていた。具体的に言うと妹が大好物の”不味い”という言葉さえ生温い別次元の何かな味を持つウツボダコ。それを海鮮バーベキューで食べるのに友達を誘おうというのだからさ。
「……逃げられた。いや、僕だって逃げるだろうしさ。ポチ、君は来なくて良いよ。アンリを誘ったのも気の迷いだったんだ」
「キュ……キュイ!」
自然な流れでログハウスに戻り、僕が引き留める寸前に性癖を暴露して余裕を奪う。そんな風になってから冷静になった僕は可愛いポチまで地獄に引きずり込むのを避けたいと願い、そっと首筋を撫でてやる。だけれどポチは一瞬迷った後で悲壮な覚悟を決めて僕と一緒に来てくれるってさ。
「アンリ、ごめん。そしてポチ、ありがとう」
さて、次は彼女か。近付いて来るのは馬車の様な乗り物。”様な”ってのは正式には馬車じゃないって事。ガラスみたいに透明で形はカボチャみたいで絵本の挿し絵に描かれてそうな可愛らしい物。だけれど引く馬も居ないのに車輪が動いてる上に日差しを受けてキラキラと輝く姿は水晶みたいだ。でも、水晶じゃない。
「氷の車か。この気温じゃ快適そうで良いな。ああ、でも中は少し寒いのかな?」
そんな氷の車内、窓から見える座席には純白の虎の毛皮、雪山に生息する”ブリザードタイガー”の物が敷かれ、その上から水着姿のネーシャが座っていた。空の色に似た青いハイレグで、車内は涼しいのか優雅に微笑んで居る。やがて車が僕の前で停止すると車輪が小さくなって行き、最終的に出入り口が地面と水平になった。
「凄いな……」
彼女の使う氷属性は水の変異属性で、元々使い手が少ないからか魔法の訓練は難しい。ありふれた属性ならノウハウが有るんだけれど、複合属性なら二種類の特訓をすれば良いけれど、氷属性の扱いは水とは別物だからね。だから兎に角実践有るのみ。先人が残した僅かな資料を頼りに自分にあった使い方を探るしかないんだ。
アンリの場合は家が家だから戦いの機会は多いし、訓練設備だって整っている。元々才能も有ったのか魔力量はネーシャよりもずっと多い。だから戦いの面において攻撃の規模も持続性もアンリの方が上だろう。だけれど繊細なコントロールの面においては別になる。
「あらあら、誉めて戴けるなんて光栄ですわね。嬉しさで胸が張り裂けそうですわ」
「うん、造形だって繊細だし造形物の形を変える速度も賞賛に値するよ。車体を降ろす時も殆ど揺れなかったよね。これは努力でどうにかなる範囲を超えているよ」
嬉しそうに笑う彼女に素直に賞賛の言葉を贈る。土属性の使い手が岩や鉱物を魔法で加工して芸術品を造るのは見た事が有るけれど、ネーシャが操っていた氷の車程に繊細な造形は初めて目にする。正直言って……。
「美しいな……」
そっと手を振れればヒンヤリとした感触が伝わって来て、それで体温で溶けた様子は無い。結構な暑さなのに車の近くだけ別世界だ。
「お乗りになります? と言うより、お誘いに来ましたの。リアス様が集めた食材を食べるのにお誘いいただいたでしょう? だからせめてものお礼に……とは口実で、私がロノス様とデートがしてみたくって、きゃっ!?」
自然な動きで彼女は僕の手を取って引っ張るけれど、波飛沫で濡れた石を踏んでしまったのか足を滑らせる。転んだら大変だと受け止めたんだけれど、咄嗟の事だから抱き締めるようになっていた。
「大丈夫かい? 足を挫いたりしてない?」
……あ~、何か凄く恥ずかしい。でも、不思議と心地が良いな。
何時もなら直ぐに離すのに、この時の僕は彼女を抱き留めたまま腕の力を少し強める。
「あ、あの……」
「あっ、ごめんね」
不思議とこうすべきだと感じた僕に対し、ネーシャは戸惑った様子だ。こんな事を僕がするのが予想外だったのだろう。相手の鼓動が高鳴るのが伝わって来た。少し俯いて顔を赤らめ、チラリチラリと僕の方を見ている。籠絡する気で色々アピールして来る彼女だけれど、今の僕がこうするのは予想外で不意を付かれたのだろう。でも、不愉快に感じている様子は無かった。……何時もこうなら普通に可愛いだけの子なんだけれどなあ。
「どうですか? 私が編み出した魔法は。名前は未だ決めてませんの」
「へぇ、どうしてだい? 夏場とかは行楽に使えそうだし、自慢するにも噂して貰うにしても名前はあった方が良いだろう?」
「じ、実はロノス様とこうしてデートをする為に編み出して、始めに乗って貰いたいと、安全性を確かめたりするのに夢中になっていまして。実に情けない話ですわね」
照れたように告げる彼女の姿に絶賛したい気分だ。さっきは不意打ちだったから慌てていたけれど、今は落ち着いてそれらしい理由を照れた演技で口にするんだから。しかも僕でもギリギリ演技だって気が付く自然さなんだからね。
二人で肩を寄せ合って座るのに丁度良い大きさの毛皮の上に並んで座る車内は外の熱気なんて嘘みたいに涼しく、それでも水着のネーシャが寒いとは思わない程度に快適な温度だ。内部の冷気まで調整するなんて……。
「ふふふ、これはデートと考えて宜しいですわね? 他の候補には悪いですが、同級生の役得とさせて貰いますわ」
「うん、そうだよ。これはデートだ。折角だし楽しもうか。……近くに観光スポットが無いのが残念だね。綺麗な景色が見られるのは立ち入り禁止エリアだしさ」
もう彼女と色々見て回るのは決定事項だから、出来るだけ楽しみたいんだけれど、そうは行かないらしい。
確か初めて二人きりで海に行った時もこんな感じだったっけ。リアスってば普段は”嫌い”だの”情け無い”だの言いはするけれど、僕が他の誰かを優先したら拗ねるからデートだって滅多に出来なくって、あの日は僕が仕事で向かった先で偶々会ったから夜の浜辺で並んで星を……。
「……まただ」
「ロノス様、どうかされまして? もしや私が無礼な真似でも……」
「いや、大丈夫。ちょっと変な事を思い出しちゃってさ。君とのデートなら君の事だけを考えなくちゃいけないのにごめんよ」
ネーシャに謝りつつも僕は有り得ない記憶について考える。時系列の問題もそうだし、前世の記憶が戻るって本来有り得ない出来事によって僕とリアスが変化し、それによって有り得なくなった未来の記憶。つまりは記憶が戻って行動を変えなければ訪れていた未来、ゲーム通りの展開って事だ。
……リアスが因縁を付けない代わりにアンダイン・フルブラントがアリアさんに絡み、決闘に勝利したら奴がアリアさんに好意を持った。まるでゲームで彼奴が庇い、共に戦った事で攻略キャラが主人公への好感度を高めるって展開に近付いたみたいに。
”修正力”、そんな言葉が頭に浮かぶ。こうして実体験のように有り得たけれど今は有り得ない記憶が蘇る事で僕はネーシャが気になっている。今は警戒が強いけれど、このまま押し付けられた好意が蓄積されて行くなら……。
「いや、それはそれで構わないのか」
もう彼女と結婚するのは決められた事と同じ様子だし、それなら好意があった方が良い。まあ、それ以外は僕とリアス、周囲の助けでどうにかするだけだ。幾ら知らない記憶が蘇ったとしても、その結果行動を決めるのは本人なんだから。
「ロノス様、何か悩みでも?」
「ごめんね。さっき謝ったばかりなのにさ。まあ、婚姻を結んだ後の帝国との関係について考えていて……ん?」
窓の外で繰り広げられる珍妙な光景に思わず声が出てしまう。夏の日差しの中、十人程度の男女がスクワットを必死にする中、それを監督しながら声を張り上げるマッチョの姿が見えたのだから。
「よーし! まだまだ行けるな! 五百回追加だ! 転ぶ度に五十回全員に追加するから注意しろ! 全身の筋肉でバランスを取るんだ!」
普通に喋れないのかって感じの叫び声の連発と顔が引きつった男女の姿。思わず声が漏れる。
「……よし、去ろう」
彼の事は知っている。ゲームでは攻略キャラの一人であり物理重視のパワーファイター。そしてアース王国の貴族の一員であり、先代王妃を拉致監禁して取り潰し寸前まで行った一族だと。
……関わりたくないなあ。
次の絵、誰にすべきだろうか
それはそうとして感想待ってます
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
-
ポチ
-
レキア
-
夜鶴
-
ネーシャ
-
ハティ
-
レナ
-
パンドラ
-
サマエル
-
シロノ
-
アリア