ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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やっば! 短編楽しい


考える事

「ちょっと大胆……かな?」

 

 クヴァイル家の客間の鏡に水着姿を映す。始めての水着は胸元が大きく開いた白のビキニ。私の肌は少し白いから遠目に見れば……まあ、それは良いとして、少し小さい気がするのは食い込みのせいと思いたい。だって私の栄養状態は学園に来てから改善している。

 

 雨漏りも隙間風も耐えないボロ屋敷の中でも一番酷くジメジメした隅の部屋が私の自室で、メイド達だって偶にしか掃除すらしてくれない。”魔女の部屋に入って呪われるのが怖い”と近くで私が床に座って残飯を食べている時に話すのを見た。

 

 大雨の日、掃除をするからと部屋だけでなく屋敷自体から追い出されて裏の山にある大木のウロに入り込んで酸っぱい木の実で空腹を誤魔化していた頃は知らなかった”満腹”。それを学園では毎日のように感じているし、ちょっと食べ過ぎなのも認めよう。……おかしい。人間は動けば食べた分はチャラになるのではなかったのだろうか。

 

「わき腹は……うん、この程度なら大丈夫な筈」

 

 昔から何故か胸にだけは贅肉が付いたけれど他の部分は少し肉が足りない程度だった。それが今では人並みに少し足りない程度。今は大丈夫だけれど、その内少し多くなるのでは? いや、大丈夫な筈。もっと、もっと動けば何一つ問題は無い筈だ。

 

「この水着でウロウロするのは少し抵抗が。いや、でも……あっ、そうだ」

 

別にロノスさん以外に見られても何も感じない。他の友人だと思えるのは同性だし、そっちは胸が貧相だけれど身体が締まっているので私が少し太って見える気がしないでもあるが、気にしなければ良いだけだ。……多分。

 

 思考が逸れていたので慌てて目当ての物を取り出す。何せ時間は有限だ。楽しい楽しい臨海学校だけれども、学校行事という事で自由時間ばかりではない。

 

「”最低限の荷物だけ用意して後は現地調達で”って言っていましたし、あまり遅くなると迷惑ですからね」

 

 手に取ったのは少しブカブカのシャツ。一山幾らの叩き売りで購入した服の中に混じっていたサイズ違い。本当は一サイズだけ大きめのを着れば胸が苦しく無いけれど、これはこれで着ていて楽だから寝間着にしようと思っていた奴だ。水着の上から着てみれば余計な肉が付き始めた体をちゃんと隠してくれる。激しく動かなければ下の布地が見える事も無いだろう。

 

「じゃあ、そろそろ行きましょう。リアスさんが乗る馬車で一緒に送ってくれる筈ですが……今頃皇女様と過ごしているんですよね」

 

 元々の予定では今の時間まで屋敷で一緒に過ごし、その後でポチに乗って二人で楽しい空の旅の予定だったのに、急に現れたお見合い相手の横槍のせいで中止になった。いや、それだけじゃない。私じゃなくて彼女がポチの背に乗ってロノスさんと現地に向かった。

 

 ……他人に此処まで不愉快にされたのは何時以来だろう? 泥棒猫だの言う気は無いけれど、想い人との幸せな時間を横取りされれば不満に思う。そして、今もこうして居る間にもロノスさんと一緒に居るのだと思うだけで胸が締め付けられた。

 

 

「姫様、馬車を用意して居ますので其方にお乗り下さい!」

 

「良いじゃない。走って向かった方が早いわよ。じゃあ、行ってきま~す!」

 

 窓の外では荷物を抱えたリアスさんが制止も聞かずに走り出し、あっという間にグングン進んで行く。強化魔法も飛行魔法も使わないで馬車より速いって、本当にどんな鍛え方をしているんだろう? 常人には耐えられない鍛え方には間違い無い。

 

「……私も自力で行きましょう。”ダークウイング”!」

 

 広げるのは魔法で生み出した漆黒の翼。まるで堕天使みたいな姿になった私は荷物を押し込んだ鞄を手に提げて窓から飛び出した。

 

「私だけ馬車に乗せて頂くのも何か言われそうですし、このまま飛んで行きまーす!」

 

 一応馬車を用意してくれた人に伝え、私も制止を聞かずに現地に自力で向かう。飛ぶ事で最短距離を進んでいる筈なのに遙か彼方のリアスさんには追い付けず、逆に離されて行くばかり。

 

「あっ、水着にシャツのままでした……」

 

 どうせ向こうに行ったら直ぐに着替えるのだから構わない気もするけれど、少し浮かれていると思われる気がしないでもない。だが、別に良いのではないだろうか……。

 

 この臨海学校で私はロノスさんと更に関係を進める。確かにクヴァイル家は私を嫁の一人として迎え入れる可能性が有るけれど、正式に選択肢に入る時に椅子が幾つ残って居るかは分からない。クヴァイル家はそれ程の家で、ルメス家はその程度の家だという事。それでも王の庶子では無理だった事だ。

 

「矢っ張り岩陰に誘い込んでお尻を突き出して”ロノスさんが欲しいです……”と恥ずかしそうにとか、いっそ夜の浜辺に誘い出した後で押し倒して”ロノスさんを食べちゃいますね”と妖艶な感じで? ……ど、どっちが良いでしょう?」

 

 その光景を思い浮かべて唾を飲み込む。出来れば押し倒されてラブラブな雰囲気の中でってのも憧れるけれど、海に行くなら海ならではのシチュエーションが……。

 

 

「所で本当にリアスさんはどれだけの速度を出しているんでしょう……」

 

 色々と妄想しながら飛んでいる間に街はとっくに遠ざかり、海が僅かに見えている。なのにリアスさんの姿は全然見えない。……まあ、良い。今は一刻も早く海に入りたいのが一番の感想なのだから。

 

「もう……。ロノスさんのせいで濡れちゃったじゃないですか……」

 

 この言葉、ロノスさんとイチャイチャしている時に言いたい。その時の姿を思い浮かべながら進んでいると海中からタコみたいなモンスターが飛び出した。あっ、リアスさんだ。浜辺に向かって考えなしに落とす辺り、そうとしか考えられない。

 

「先ずはログハウスに行きましょうか?」

 

 浜辺を見ればロノスさんが居たけれど、横にはポチと例の女。

 

「……ちっ」

 

 おっと、思わず本性が表に出てしまった。あくまでも私は”辛い境遇に耐える健気で明るい少女”でなければならない。舌打ちなんて以ての外。

 

 今此処で彼の所に行くのは少し不味い。あの女の前で冷静でいられるかどうか。相手は他国にも影響力を持つ大商人の娘で現在は皇女様。下手すれば縁を切った筈の王家が顔を出すかも知れないのなら喧嘩を売る真似は避けたい。

 

 

 

「でも、絶対に邪魔してやる。……あの女だけは気に入らない」

 

 本当に何故かは分からないけれど、あの女……ネーシャだけは仲良く出来る気がしないのだ。まるで好きな人の元カノを前にした様な、そんな複雑な心境で……。

 

 

「あっ、アリアさん!」

 

「えっと、今急いでいるのでごめんなさい!」

 

 地面に降りてログハウスに入ろうとした時、声が掛かる。色々と用意しなくてはいけない立場ではないし、男子なので女子である私の所とはログハウスが離れている筈のアンダイン。……待ち伏せでもしていたのだろう。随分と暇で余裕があって夜の事を考えてないのだろう。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 慌てて扉を閉めれば誰も居ないし、誰かが居た痕跡もない。だって女子の人数は奇数、魔女の私と一緒になるのは嫌だと生徒と保護者が騒ぐのを考えれば妥当な線だろう。

 

「ロノスさんをどうやって連れ込もう……」

 

 

 

 ソファーに座り込んで考えるのはそれだけだった……。

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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