ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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× 笑わない ○笑えない

「やりました! 大勝利です!」

 

 正直言って本当の私の柄ではなく、私が演じている”前向きなアリア・ルメス”ならやるであろうブイサインをしながらの勝利宣言、だけれどもポイズンドラゴンという少し前の私なら苦痛が少ない死を願うしか……いや、願っても神は私を救わないと諦めていただけの敵。

 それを倒した時、久々に自分の力が上昇するのを感じ取り、珍しくロノスさん以外の事で高揚感を覚えている自分に驚かされた。

 

 強いモンスターを倒し続ける事で起きる”肉体の質の上昇”が嬉しい……だけでなく、それによって夢に一歩近付いた事への歓喜だ。

 宰相の孫で国王の従兄弟であるロノスさんと皇帝の養女となったお邪魔虫の恋敵、ネーシャを襲った刺客が引き連れていたドラゴンの撃破は間違い無く功績として認められる物で、一部以外からの評価は基本興味が無い私でもクヴァイル家の当主の妻の座に末席であっても座る事に繋がる。

 

 ああ、何と素晴らしい事だろうか。

 正直言って闇属性の私が誰に認められようが良いのだけれど、ロノスさんがそれを望むのなら目指そう。

 

 魔女と私を蔑み忌み嫌った連中が手の平を返して称えて来た場合、もしかしたら笑えるかも知れない…‥いや、無理か。

 うん、だって私にとってそんな連中は一切合切無価値なのだから。

 

 

「ロノスさん! 今直ぐお手伝いをします!」

 

 さて、だったら私は彼の為に功績を稼がせて貰おうか。まるで生きて居るみたいに動き迫る大きな鎌。目玉があるし鳴いている……気持ち悪いな。

 芋虫以外で嫌悪感を覚えさせられたのは久し振りだ。

 幼い頃、ご飯が少なくて仕方無く自分で食べ物を探した時も芋虫だけは食べる気になれなかった程に苦手な生き物だし……おっと、いけないいけない。

 

 考え事をする時間なんて無駄だったと察した私は慌てて加勢をすべく魔力を練り上げ、ちょっとだけ”あの女を少し巻き込めないか”と割と本気で思ったけれど、そんな事をすればロノスさんに迷惑が掛かるし、任されたのだから仕事は全うしないと期待を裏切る事になるのだから。

 

 彼なら速攻で倒してしまいそうだし、本当に急がないと…‥本当にちょっとだけでも巻き込んだら駄目かな?

 何故だか彼女にはロノスさんが何かを向けているって嫌な予感がするのだから……。

 

 嫉妬か憎悪か今までの私には無縁だった何かに気を取られて一瞬動きが止まった時、私はチャンスを逃したと気が付く。

 

 私が何かをする前に先端が鋭利で巨大な岩が飛んで来て鎌を粉砕、私より先にロノスさん達を助けてしまう。

 いや、それだけでは終わらない。次々と飛来する岩は仮面の男へと向かい、避けようと動くけれど急に進行方向を変えて後を追う。

 

「……風?」

 

 そう。岩が宙を動く際に砂を舞い上げている事から私は風が岩を運んでいると気が付いた。

 だが、ロノスさんは勿論、ネーシャでも無いのなら一体誰が?

 島に居るのは私達三人を除けば襲撃者だけで、流石にリアス級の馬鹿だとしても自分を狙ったりはしないだろう。

 まさかと思い陸の方に視線を向ければ岩を舞い上げ削りながら飛ばす竜巻。

 

 ポチ……では無い筈。岩は恐らく地中の土砂を凝縮て量産した物で、土属性でなければそんな芸当は不可能だけれどもグリフォンに土属性の魔法、それもかなり上位の物が使える筈が無い。

 

「チェルシーだよ。彼女、魔法の射程と精密コントロールでは天才的だからさ」

 

「えぇっ!? あの人がですか!?」

 

 そんな私の疑問を見事に察し、優しく教えてくれるロノスさんは矢張り素敵だ。

 でも、普段はリアスの行動を窘める役で、ちょっと苦労していそうな彼女が此処までするだなんて。

 ……いや、此処までの事が可能だからこそリアスの窘め役を任されているのか。

 

 私に対しても最初は面倒事の種と見つつも嫌悪感を見せずに接して来た彼女だけれど、これは評価を改め……他人の評価に興味が無い私が他人を評価しようなんて笑える話だ。

 ……笑わないけれど。

 いや、”笑わない“ではなく”笑えない”の方が正しいだろう。心の底から笑った記憶など私には存在しない。

 

「……」

 

 次々に迫る岩をバックステップで回避しつつ、当たりそうな物だけ魔法で打ち落として行く襲撃者は相変わらず無口で、仮面もあってか体格から性別を察する事しか出来ない。

 

 それにしても妙だ……。

 

「あの人、尋常じゃない魔法の腕前……なのでしょうか?」

 

 思わず口から疑問が出る程に妙な点が男には存在する。

 

 地面を隆起させる土属性に風を正面からぶつけて勢いを殺す風属性、炎の矢を真横からぶつけたり水流の壁を周囲に展開もして見せた。

 四属性全てを網羅した複合属性、担任であるマナフ・アカーも同じだけれど、極めて希で扱いこなすには一種類の時の四倍の努力じゃ足りないとされている。

 それに加えて少し動きを見ただけでも普通の身体能力じゃなく、こんな人が居れば有名になっていた筈。

 

 でも、凄く魔力のコントロールが雑だった。

 隆起した地面は飛んで来た岩と少しずれた場所に出現したり、炎の矢はあらぬ方向に飛んで行き、水流の壁に自分を巻き込んで内部でグルグルと回される等々、魔力の高さや魔法をちゃんと発動可能な癖にコントロールが出来ていない。

 それは動きも同じでジャンプの距離を見誤って背中を岩にぶつけたり、足下を強く踏みしめ過ぎて軽く陥没して脚が引っかかったり、どうも”扱いきれない程に一気に肉体の質を上昇させられた”、そんな有り得ない想像をしてしまう程だけれど……。

 

 

「どうも力に振り回されているみたいだね。魔力だって無駄に注ぎ込んで大半が無駄で、全体的に見て歩き始めた頃の小さい子が急に鍛えた大人並の力を得たって感じだ。……無理に引き上げられたのか」

 

 ロノスさんが言うなら多分正解だろう。

 だってリアスだって身体能力に対する強化魔法を使えるし、私だって……。

 

 

「ちょっとアリアさん、ネーシャをお願い。僕は奴をさっさと片付ける」

 

 確かに飛んでくる岩は仮面の男に絶え間なく襲いかかるけれど一向に当たる気配は見られない。

 あんな雑な動きと魔力のコントロールでも能力が高いから凌げているからだけれど、ロノスさんが動くなら勝負は着いたも当然だろう。

 

 

「お任せ下さい。ロノスさんの頼みなら何でも聞いちゃいます」

 

 実は心底嫌だけれど、彼に頼られる喜びがそれを遙かに凌駕する。

 私はロノスさんの腕の中から降りたネーシャを支えるようにしながら立って彼の活躍を楽しみにしていた……のに。

 

 

 

 

 

「不審者発見っ! この一撃で沈むが良い!」

 

 何か水柱を上げながら海面を走って来た筋肉の跳び蹴りが仮面の男を吹っ飛ばした。

 海面を何度も跳ねながら遙か遠くまで飛んでいき、最後に海の中に沈んで行く襲撃者の姿に私やネーシャは勿論、ロノスさん迄もが唖然として見ているだけしか出来ない。

 

 

「君達、怪我は無いかっ! 無いみたいだな、結構! 後輩が無事で俺も嬉しいし、俺の筋肉も喜んでいるぞ! ……しかし、さっきの感触からして奴の筋肉は余りにも未熟! 機会があれば心と筋肉を鍛えてやりたいものだ」

 

 ……いや、誰? え? 先輩……つまりは彼も貴族。えぇ……。

 

 こんなに驚いたのは……いや、どん引きしたのは生まれて初めてな気がする。

 それほど迄に目の前の筋肉は濃い人だった……。

 

 

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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