ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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巨狼

「むっ! どうやら肉体の筋肉は兎も角、心の筋肉は鍛え上げられているようだな!」

 

「心の筋肉って何っ!?」

 

 襲撃者である仮面の男に不意打ちで飛び蹴りが叩き込まれて水平線の彼方へ飛んで行く。

 それを行った筋肉の塊ことニョル先輩は何故か上半身裸で二の腕と胸筋をピクピク動かしながら男を飛んでいった方を眺めているんだけれど、色々言いたい。

 いや、捕まえる気だったから吹っ飛ばされると困るとは言え、明らかに僕達と戦っている不審者だから攻撃するのは別に良いんだけれど……何で裸?

 

「そして先輩はどうやって水の上を走っていたんですか? まさか右足が沈む前に左足を出すとか?」

 

「そんな行為は無理だな! 俺は魔法で足場になる物を生成し、それが沈む前にもう片足を出すというのを繰り返しているが……足裏の面積を広げれば可能なのか?」

 

「意外と力業じゃ無いのですね。どう見ても脳味噌まで……」

 

 ……あっ、こんな事を話ている場合じゃない。

 仮面の男が沈んだ方を見れば水面が膨らみ、何かが水中から飛び出そうとしているのを感じる。

 

 ああ、成る程。手応えがあったのに出てこようとしているから精神力を誉めた……のか?

 何か僕まで彼の筋肉思考に染まりそうで理解したくはないけれど……。

 

 

「……リアスさんの同類?」

 

 アリアさん、それ言っちゃ駄目だから! 確かにリアスはゴリラだけれど、それは野性的な逞しさを持っているって誉め言葉になる位に可愛い妹だからで、あんな”力こそパワー”って感じの人と一緒にしないで!?

 

 おっと、今はそんな事を気にしている場合じゃないし気を引き締めよう。

 相手がどんな力を持っているのか把握しきれていない今、(戦闘面では)頼りになる先輩も……っ!?

 

 「月? いや、違うっ!」

 

 海中から飛び出したその姿が見えた時、僕は一瞬月が昇ったのだと思ってしまった。一目見ただけで美しいと見取れてしまいそうな黄金は日の光を浴びて眩い程に輝いている。

 

「狼っ! それも異常な程に巨大なっ!」

 

 そう、姿を見せたのは黄金の毛並みを持つ巨狼。どういう理屈なのか水面に立つけれど、魔法が存在する世界で物理法則を気にするのは徒労だろう。

 その狼は小型の鯨程の体格を持ち、その口にはグッタリとした仮面の男を咥えているけれど、かみ殺す気はなくても牙が余程鋭利なのか血が流れ出していた。

 

「あの男の味方だな! 野生によって鍛え上げられた素晴らしい筋肉をしているが……ふむ、まさかフェンリルか? 文献で目にした覚えがある。水面をも走り抜く巨大な狼の姿をした神獣とあったが毛色は違うな」

 

「フェンリル……。それにしても先輩はよくご存じですね」

 

「それは勿論だ! 頭の筋肉も鍛え上げねばならん! 俺の趣味は読書だ!」

 

「筋トレは?」

 

「それは俺にとって食事と変わらん! まあ、生活の一部であり必要不可欠な行為だな!

 

 ……あ~、近くで大声を出されてると耳がキンキンして来るよ。

 それにしてもフェンリル……ゲームとは見た目が違うし、一匹しか居ないな。別物か、それとも何か策があっての事なのか……。

 

 僕の記憶に残るフェンリルはルート先輩と同様に聖女が活躍した時代でに記された神獣に関する物と、お姉ちゃんが何度もタイトル画面に戻されながら挑んでいたゲーム画面。

 

 フェンリルは狼の姿をしているだけあって、モデルになった北欧神話の怪物と違い群れで襲い掛かって来る。

 倒しても倒しても次々に現れるのを特定ターン経過と特定数撃破という勝利条件を満たす事で撤退させられ、最後にはパーティーメンバーが二手に別れて群れのリーダーとそれ以外複数をそれぞれで倒すという難易度の高い物。

 

 でも、僕の記憶にあるフェンリルの毛は黄金ではない。

 いや、待てよ? 設定だけ存在してゲームでは詳しく語られないけれど、黄金の毛並みのフェンリル……うん?

 

「黄金の毛並み? ちょっと待て。最近それを何処かで…読んだ…あっ!」

 

「どうした? 君は何か奴について知っているのか? 例えば鍛え方が足りない筋肉の部位などであれば助かる!」

 

「いや、そうじゃなくて……師匠からの手紙に……」

 

 殺気をビシビシ送っては来るけれど向かって来る様子は見せないフェンリルを警戒しつつも溜め息を吐き出したくなる。

 少し前、夜鶴達が持ち帰った矢文があった。

 

 

 

「……師匠かぁ。読みたくないなあ……」

 

 どうせマトモな内容じゃなく絶対に面倒事の始まりなので読みたくないけれど、読まなかったら余計に面倒な事に巻き込まれるのは分かっているので手紙を手にして逡巡したし、そんな手紙を持って来た彼女も申し訳無さそうだ。

 僕の為に持って来たんだし、彼女には気にしないで良いって伝えておかないとな。

 

 

 ……僕には戦いの分野における師と呼ぶべき相手が二人居る。

 一人はレナス、乳母であり基本的な肉体作りや近接戦闘全般を叩き込んでくれた相手であり、頼り守って貰える大切な家族だ。

 彼女が課す修行内容はハードであり、限界を超えればギリギリこなせるラインを見極め、取り返しが着かない瀬戸際で助けてくれる。

 まあ、二つの意味でレナスは鬼だ。

 

 もう一人の師匠は戦闘技術全体で見ればギヌスの民の双璧であるレナスとマオ・ニュには一段劣るけれど、こと刀の扱いに限っては二人の上を行く天才。

 僕も夜鶴と明烏の二振りを扱う以上は刀術をしっかり身につけようと彼女にお願いして……しまった。

 お酒と戦いが大好きな風来坊で、刀の扱いの指導の腕は高いけれど、時折気まぐれで課す試練は難易度がピンキリ、成長速度や今の力量なんて考慮しない思い付き。

 ……いや、僕だって当初は意味があると思っていたんだけれど、子育ての時期で気が立っているドラゴンの縄張りで大暴れして周囲一体のドラゴンを集めて一度に相手するとかさせられた時、ポチが呼んでも居ないのに僕の危機を察知して助けに来なかったら腕を一本失っていたかも知れない。

 あの時、レナスが完全にキレて問い質したそうだけれど、”何となく思い付いた”と答えたそうだ。

 

 ……うわぁ。

 

 まあ、そんな事もあってよく考えてから課題を出すようにって結論に達する辺り、レナスも大概なんだけれど、偶に旅先で課題を思いついたら唐突に出して来るんだ。

 

 

 

「”金ピカの綺麗なモンスターに匂いを覚えさせたから相手をしろ”、か。……あの人は本当に酷い」

 

 視線の先の巨狼が課題の内容だと悟った僕は精神的疲労に襲われる。あの人がけしかけた相手だし、絶対厄介な相手だよ。

 

 

 武器が手元に無いけれどどうしようか……。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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