ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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無力を知る者

「おーい! 大丈夫かよ?」

 

 激しく崩壊を続ける崖から離れていたらフリート奴が飛んで来たんだけれど、腰回りの炎のリングから炎を噴射しながらだから見る角度次第じゃ……。

 

「アンタ、それって屁で飛んでるみたいに見えるわよ。ブーブーブーブー臭い物出し続けてるみたいじゃない」

 

「テメェ、自分が貴族令嬢って自覚あんのかよ……」

 

 有るに決まってるのに何言ってるのかしら? 此奴。

 私に呆れ顔を向けて来たからこっちも溜め息を吐いてやったけれどさ。

 

「……って言うか、その言葉は私が貴族令嬢らしくないって言ってる風に聞こえるんだけれど?」

 

「寧ろテメェの何処が貴族令嬢らしいって話だろ。……ったく、チェルシーも苦労すんな」

 

「喧嘩売ってる? 今なら買うけれど?」

 

 前から此奴は嫌いだったし、喧嘩売って来たんなら買っても良いわよね?

 チェルシーが後で文句を言いそうだから重傷は避けるとして……って、駄目ね。

 

「今は大人しくしておいてあげるわ。先生は一応回復させたけれど、ちゃんと休める場所の方が良いでしょ」

 

「ああ、俺様の方もこの通り邪魔なのを背負っているからな」

 

 私の腕の中の先生とフリートが背負った同級生、流石に気絶しているのが居るのに喧嘩する程馬鹿じゃない。

 それにグッと堪えるのも大切だし、ちょっと気になる事があるのよね。

 

「あの時……」

 

 先生を助けようと全速力を出していた私は強く思った。

 ”目の前で誰かが助けられないのは嫌だ”と。

 その時、私の頭にはレナスの死体に泣きついている幼い自分の姿が浮かんだんだけれど、レナスはちゃんと生きている。

 

 そのモヤモヤがイライラになって売られた喧嘩を買おうとしたんだけれど、本当に起きていない悲劇の記憶が蘇るのってなんで?

 

「じゃあ、直線方向最短距離で進んで安全な場所まで運んで来るから首洗って待ってなさい」

 

「おい、一応言っておくが木をなぎ倒しながら進むのは止めろよ? 背負われてる奴にも負担が掛かるんだからよ。飛んで行けば良いだろ、飛んで行けば」

 

「……それもそうね」

 

 嫌いな奴の言葉に従うのは嫌だけれど、今優先する事は一つ。

 気を失っている先生を安全な場所に運ぶ事よ。

 

「あっ、その崩れた崖の下に先生を襲った奴が居るわ。落ちてる最中に岩をぶん投げてやったら埋まってるの」

 

 私は岩が積み重なっている場所を顎でしゃくると光の翼を広げて飛び上がる。

 

「……大丈夫か?」

 

「死んではないんじゃない? 情報は惜しいけれど死んでいても構わないんだけれど」

 

 あの程度の身のこなしで、岩をぶつけた程度で崩落に巻き込まれる脆弱な耐久性、生きていても動けないでしょうし今は放置ね。

 ……後でお兄ちゃん達と一緒に戻って囲んでボコって捕まえて色々吐かせりゃ良いわ。

 

 

「身内認定した相手には馬鹿みたいに甘いロノスのヤローもそうだが、テメェも相手が敵なら容赦無ぇな、全くよ」

 

「あら、分かってるじゃない。そう! 私とお兄ちゃ……お兄様は一緒なの! ふふふ、その誉め言葉に免じてさっきの暴言は許して上げるわ。だって私もお兄様と同じで心が広いから!」

 

「……そうか」

 

 此奴、何だかんだ言ってもお兄ちゃんの友達なだけはあるわね、嫌いなのには変わりないんだけれど。

 私は上機嫌になりながらその場を離れるけれど、彼奴は見張りなのか残るのね。

 まあ、私の後始末を任せてやるわ。

 

「それにしても本当に空が綺麗……」

 

 先生を運びながら再び空を見上げる。

 何度見ても目を奪われそうな星空の輝きは宝石箱でも眺めているみたいだった。

 

 

 

 

 

「さてと……本当に生きてりゃ良いんだがよ」

 

 崖が崩れ岩が山になって積み重なっている様子を眺めながらフリートは呟く。

 伝説上の存在である神獣と、その将を名乗る者達と行動を共にしていたという謎の男に対し、彼は警戒心を向けていた。

 

「あの馬鹿が二回も取り逃したって相手だ。妹の方は楽観視してやがったが、生憎俺は違うんでね」

 

 背負ったパートナーをやや乱雑に下ろすなり、フリートは岩山に向かって手を向け、一気に魔力を練り上げる。

 

「今度も取り逃したとして、次はチェルシーが巻き込まれる可能性が有るってるんならよ……テメェは俺様の敵だ。この状態なら延焼はしねぇよな! ……”ヒノトリ”!」

 

 体から抜け落ちた魔力の量にフリートは軽い立ち眩みを覚える。

 彼が発動しようとする魔法に注ぎ込んだのは全魔力の九割以上であり、この時点で彼はハンティングでのポイント稼ぎを捨てていた。

 ただただ彼が願うのは愛する婚約者の身の安全のみ。

 

 彼にとってリアスは子供っぽい嫉妬で突っかかってくるゴリラみたいなアホの子であり、愛する婚約者の一番の友達であり、自分の一番の友人がペット同様に盲目になる程に溺愛している妹であり、ロノスは前述の通りに一番の友人であり、当然ながら対等な存在だ。

 

 だが、関係としては対等な相手であるが、戦闘力としては対等でない事をプライドが高い彼でさえ認めている。

 彼自身もそれなりに戦うための力を重視する家の出であるし、婚約者であるチェルシーもリアスとロノスに巻き込まれてレナスによる修行を受けさせられていており、正直彼よりも強い。

 

 

 特にロノスに対してなのだが、リアスは当然気が付いておらず、彼自身は気が付いているのかいないのか分からない事だが、ロノスの持つ力の大きさは異常である。

 ゲームでラスボスになった時、確かにリアスはリュキの悪心の力を吸収して途轍もない力を手に入れた。

 だが、その時に力を得たのはリアスだけでロノスは別、にも関わらず”最強のラスボス兄妹”となるのだ。

 

 ”神殺し殺し”、シアバーンが彼に向けた呼び名が関係しているのかも知れない。

 

 故にその様なロノスから逃げおおせた相手を警戒するのは当然であり、もし三度目の逃走が成功してしまい、その時にチェルシーが遭遇し襲われたならば、そんな不安を抱き自らの力不足を自覚した彼が仕留める好機を逃す筈もない。

 

 フリートの詠唱と共に現れたのは周囲一体を照らす程に煌々と燃え上がる炎の鳥。

 ”魔女の楽園”において彼のルートに突入、特殊イベントをクリアする事で彼が父親から継承して貰う一族相伝の魔法。

 ロノス兄妹の影響でチェルシーが強くなり、その影響でゲームでは必須だったイベントを前倒しして継承したのだ。

 

 周囲の空気が一気に熱せられ、魔法の使用者である彼の肌にすら汗が滲む。

 息を吸うだけで肺が焼けそうになる熱気に驚いたのか火に誘われて寄ってきたモンスター達も逃げ出す中、フリートが人差し指と中指のみを伸ばして前方に向けると火の鳥のクチバシが仮面の男が埋まった岩の山に向けられ、勢い良く振り下ろすと同時に向かって行く。

 

 岩に火の鳥が触れた瞬間にその場所が燃え上がり融解を始め、体を崩壊させるのにも気にせず火の鳥はフリートの意志に従い突き進む。

 

 

 

 

 

「おやおや、困りますね。我が主であるシアバーン様の(メェ)によりサマエル様がポカをして暴走すれば回収しに来たのですが……またしてもお会いするとは。矢張り頭の足りないサマエルや本当の自分を忘れてしまったラドゥーン……様とは格が違う。ああ、格が違うと言えば……貴方だってご友人とは格が違いますねぇ。シアバーン様とは逆の意味で」

 

 突如岩山に降り立つ人影、フリートの耳に届く嘲笑混じりの聞き覚えのある声。

 同時に岩を融解させながら進んでいた火の鳥が消え去った。

 

 

 

「こんばんは。今宵は素晴らしい夜ですね、フリートさん」

 

「はっ! 相手が居ない時にあーだこーだ言ってる卑怯者の臆病者にさえ会わなかったらな、ビリワック」

 

 魔力の急激な消費と魔法の強制消去によって疲労感に襲われながらもフリートは自らを見下ろす相手を睨む。

 そんな彼の状態を見抜いているのかビリワックは黒山羊にも関わらず性根の悪さが伝わって来た。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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