ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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ブクマ千五百まで後少し それが遠い


黒山羊とフラフープ

 振り抜かれる拳、空気を切り裂き細い木ならば容易にへし折ってしまいそうな一撃は技も肉体も十分に鍛え上げられているものだ。

 実際、彼は強い。

 

 レベルに対する認識についてだが、レベルという名称で認識はされておらず、ステータス画面なども存在しない故に確認も不可能ではあるものの肉体の質が急に上昇する現象は確認されている。

 勿論同じだけのレベルならば個人が生まれ持った肉体の質や、鍛えあげる事によって筋肉量を増やすなどで強さは大きく変わって来るのだが、フリートは十分に肉体を鍛え上げている上に体格にも恵まれて居る部類だろう。

 更に付け加えるならば婚約者であるチェルシーが鍛えている事で広がった実力差に危機感を抱いてレベルだって同年代に比べ高い方だ。

 

 

「ふむ。毛皮が無ければ怪我をしていたかも知れませんね」

 

 そんな彼の拳でもビリワックには通用しない。

 避けられる事も防がれる事も……いや、あえて無防備に拳を受けたにも関わらずビリワックの体は微動だにしておらず、足元を見れば踏ん張った形跡も存在しない。

 

「ちっ!」

 

 鳩尾に打ち込んだ拳に伝わったのは砂鉄を詰めた袋でも殴ったかのような感触。

 一見すればゴワゴワしている程度の毛皮は並の金属製の鎧ならばへこませる拳撃を受けても毛先の乱れすら無かったのだ。

 

 これには彼も苦々しい表情を浮かべながら後ろに下がり、ビリワックの足元から伸びた炎の槍が彼の前髪を少しだけ焦がした。

 

「もうおかえりになれば如何ですか?」

 

「おいおい、前に盛大に喧嘩売ってくれた癖に何を言ってやがるんだ! 俺様が怖いならテメーが消えろや!」

 

 続いて放たれるのは顎を打ち抜く軌道で放たれる蹴り。

 挑発なのか先程と同様に一切避ける素振りを見せないビリワックだったが、直前で咄嗟に腕で顔を庇う。

 フリートの狙いは蹴りではなく、足先で掬った砂による目潰し。

 顔面に向かって放たれた砂は腕で塞がれるが、同時にその腕は視界を塞いで視野を狭める

 

「この距離だったらどうだっ! ”フレイムアロー”!」

 

 腕で死角となった顎下に持って行った手の平から放たれるのは至近距離からの炎の矢。

 

「おや、惜しいですね。狙いは良かった」

 

 それがビリワックに届くまでの時間は瞬きする程度の間。

 その僅かな瞬間にも関わらずフリートの放った炎は消え、ビリワックの服の表面が僅かに焦げただけだ。

 誉め言葉でありながら表情からあざ笑っている事を伝えるビリワックが顔を守った腕を真横に振り、フリートはバックステップで避けるも爪の先が触れたのか胸に横一文字の傷が走った。

 

 

「ああ、そうそう。貴方、勘違いしています。私は”おかえりになれば良い”とは言いましたが、帰宅という意味では無く……土に還れば良いという意味ですよ。焼き畑の為の灰におなりなさい」

 

 侮っていた相手に意表を突かれた事が不愉快だったのか焦げた上着を破り捨てたビリワックが両手を横に広げれば手の平から炎が吹き出す。

 周囲を煌々と照らす巨大な炎であり、熱気によりフリートは肌がチリ付くのを感じ、それでも彼は笑っていた。

 

 自分の死の運命を悟っての諦めの笑みなのか? 否、である。

 

 

 

「……矢っ張りな。分かったぜ、テメェの能力の弱点がっ!」

 

 直撃すれば軽傷では済まず、生き残っても追撃で命を奪われる程の炎を前にしてもフリートは一切臆した様子を見せず剣を構えて一直線に駆け出した。

 

「貴方に死んで貰った後は……あの役立たずの人形を回収してから森林火災で死ぬ人間の姿を楽しませて貰いま……がっ!?」

 

 それを無能の無謀な行動だと嘲笑い、一切の慈悲を込めない無情なる灼熱を叩き込もうとした瞬間にビリワックの後頭部、延髄の辺りに強烈な衝撃と熱気が叩き込まれた。

 発動中に術者がコントロールを失ったからか両手の炎は霧散し、意図せぬ方向から受けた攻撃に前のめりに倒れそうになり何とか踏みとどまった時、開いた口に目掛けて刺突が放たれていた。

 

「ぐぬっ!」

 

「流石に口の中には毛皮は無えだろ!」

 

 フリートの拳を無効化した毛皮は当然ながら口には無く、口の中は神獣であっても弱点となるのだろう。

 ビリワックの表情に初めて焦りが生まれ、咄嗟に後ろに跳んで避けようとするがフリートが足の甲を踏んでそれを防いだ。

 ”逃がさねぇぜ”、そんな風にフリートが目で語っているのを感じ取ったビリワックの口に迫る切っ先。

 唇の下を切っ先が通過する寸前、ビリワックは無理に体勢を変えて口内への侵入を防いだ。

 唇を切り裂き、毛皮の上をガタガタと不安定に動きながらビリワックの顔の上を滑った剣はビリワックの左目を深く切り裂いた所で遂に跳ね上げられる。

 

「ぐっ! ぐるぅああああああああああっ!!」

 

 苦痛と怒りの両方を込めた方向と共に唾液を飛ばしながら拳を繰り出すビリワック。

 咄嗟に剣を振り下ろすフリートだが力負けして再び弾かれ、大きく後ろに体を反らしてしまった彼はビリワックの腹部を蹴る事で勢いを付けて後ろに跳んで距離を開かせる。

 刃は拳を受けた部分が僅かに潰れ、ビリワックの手は毛が少々散った程度。

 

 フリートは胸部、ビリワックは左目から血を流し硬直状態に陥るかに思えた瞬間、フリートが足下の意志を蹴り飛ばした。

 避けるまでもないと受けようとするビリワック、そんな彼の右の岩影から炎の矢が飛び出した。

 

「……」

 

 視認するなり手を向ければ瞬時に消えるがビリワックがフリートを嘲笑う様子は見られない。

 無銀を貫き、俯きながらフリートを睨んでいた。

 

 

「戦っていて分かったぜ。テメェが相手の火の魔法に干渉出来るのは厄介だが認識してねぇと無理だろ。そしてわざわざ消すって事は当たれば痛いって事だ。範囲もそれ程って所だな。……教えておいてやる。俺様は周囲に幾つも炎の矢を忍ばせてテメェを狙っている。気ぃ付けて戦いなっ!!」

 

 相手の手の内を見抜いた事を伝えるのは動揺を誘う為の手だとして、此方の手の内を知らせるのは間抜けに思えるだろう。

 だが、フリートには考えがあっての事だ。

 

 確かに毛皮は鉄壁の防御を持っているが全身くまなく覆われている訳でもなく、薄かったり存在しない場所もある。

 その場所への攻撃を警戒しつつ不意に撃たれる魔法を気にしなくてはならないのだ。

 真正面から来る魔法も目眩ましにはなり、そもそも勝利条件が違う。

 

 フリートからすればこの場でビリワックを倒すのではなく、岩に埋もれた仮面の男を一応抹殺する事であり、派手に使った最初の”ヒノトリ”に気が付いた頼れる誰かが来てくれれば良い。

 最悪、ビリワックを逃してしまい仮面の男を連れ去られても敗北とまでは言い切れないのだ。

 

 

 対するビリワックだが、彼もフリートを殺す必要は存在しないものの任務達成には彼が邪魔であり、こうして時間が経過する程に敗北が近付いて来る。

 既に片目を失い戦況は彼が不利な状態。

 

 既に彼には余裕が存在しなかった。

 

「……けるな」

 

 それは時間を含む戦況的な余裕であり、肉体的な余裕であり、……精神的な余裕でもある。

 

 

 

「ふざけるなぁああああああああっ! このっ! 人間如きがぁああああああっ!!」

 

 叫び声と共にビリワックの全身は震え、そして膨れ上がる。

 両の角には青い炎が灯り、身長は倍以上、数倍に膨れ上がった四肢は人間に似た物から山羊の物へと変わり、服は肉体の膨張に耐えきれず完全に破れる。

 

「はっ! 目立ってくれたお陰で誰か直ぐに……っ!」

 

 ”やってくる”、そんな挑発の途中で咄嗟に跳んだフリートが居た場所に振り下ろされるのは巨体になったにも関わらず速度が段違いになったビリワックの腕。

 空中のフリートを押し込む程の一撃は地面を広範囲に渡って激しく割り、割れ目の底が赤く染まる。

 

 

 数瞬後、地面から火柱が噴き上がった。

 

 

 

「私を誰だと思っているっ! 頭の足りぬサマエルとも真の姿を封じられたラドゥーンとは段違いの頭脳と力を持った神獣将シアバーン様直属の配下であるビリワック・パフォメットだ! 貴様如きが舐めて良い相手じゃ無いんだよっ!」

 

「はんっ! 口調変わってるが、そっちが素かよ? それにしても誰かの何かでしかない程度の奴が俺様を舐めるんじゃねぇ!」

 

 互いに叫び、そして同時に動いた。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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