ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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本日は厄日

 私が腕力と技術だけで投げ返した岩は速かったけれど、黄金の狼、お兄ちゃん曰わく”フェンリル”の判断も速く、岩が飛んで来るなりこっちを向いて大きく息を吸い込めば、まるで風呂の栓を抜いた時みたいに空気が流れ込んで行く。

 

 ……彼処に大量の香辛料とか投げ込んだらどんな反応するのかしらね。

 

 その間にも切っ先を鋭く尖らせた岩が迫るんだけれど、フェンリルは避ける素振りもなく迎え撃とうとしていたわ。

 聞いた話じゃ結構素早いみたいだし、それなら避けた方が確実なのに避けるって選択肢を選ばない理由は足下、私が崩した崖の下敷きになって漸く掘り起こされたばっかりの仮面の男。

 流石に離れ過ぎで顔はよく見えないけれど動く様子も無いし、守っているんだから死んでもいない、要するに必死に守らなくっちゃいけない相手ね、昼間の話じゃ扱いが凄く雑だったらしいのに。

 どうしてそんな相手をって疑問が浮かぶんだけれど、考えるのはお兄ちゃんやチェルシーに任せれば良いんだから私は暴れるだけよ。

 

「アオォォォォォォン!!」

 

「うっるさっ!」

 

 私が投げてから岩が届くまで数秒、避けると思って予想した軌道上に目掛けて投げたのは無駄になるだろうけれど、避けないのなら丁度良いと次々に投げていた時、周囲一帯の木を揺らす程の咆哮が響き渡り、鳥や獣が怯えて逃げ出す中、岩にも正面から圧力が掛かったのか僅かに減速したわ。

 

 ええ、ほんの僅かだけ、ね。

 

 その咆哮って魔法を解除するんでしょうけれど、残念、岩が飛んで来るのは魔法じゃないのよね。

 

「グクッ!?」

 

 咆哮の圧力で軌道が変わった岩は頭を貫かずに右耳の端を切っ先で僅かに切り裂いただけに終わる。

 でも、それだけで、殆ど速度が落ちなかった岩に動揺した事で岩を掠らせてしまったフェンリルに後から投げた物も殺到して行く。

 

「ふっふーん! 魔法を解除させられるそうだけれど残念でした。魔法が駄目なら物理で倒せば良いだけじゃない。馬鹿ね、彼奴」

 

 昼間にお兄ちゃん達と遭遇した時の話は聞いていたし、”特性が分からない以上は全部の魔法を解除可能と考えよう”ってお兄ちゃんが言っていたんだから魔法で攻撃する訳ないじゃない。

 

 ストラ~イク! 私がぶん投げた岩は崖の所で此方を向いた狼の方に飛んで行ったけれど、その口には誰かを咥えていて、それで激しく動けないのか前足で次々に叩き落としていた。

 ふっふっふ、私が崖を崩落させたせいで生き埋めになってた奴を救出に来たんだろうけれど、そりゃボロッボロになるわよね。

 生きたまま連れて来いって命じられたんだろうけれど、その命令が命取りって奴ね

 

 

 

 連れて撤退する気なのか咥える為に後ろに跳んだ時に一つを脇腹に、怯んだ所を最初に食らった耳に受けてフェンリルからは血が流れる。

 だけれども大半は叩き落とされているし、最初の数個が当たらなかったのは結構痛いわね、残った岩の個数的に。

 見上げれば落ちて来る岩は残り五個、お兄ちゃんを二度も襲った仮面の男やチェルシーを狙ってたフェンリルは私の手で叩きのめしたいんだけれど攻撃の手を緩めたら逃げ出しそうね、逃がしたくないからどうにかしたいけれど。

 

「森の中を走って向かってたら逃げられそうだし、飛んで向かったら解除されそうよね。……最後の一個!」

 

 悩んでいる間にも岩は次々落ちて来て、次々に投げていたら最後の一個まで数を減らしちゃったのは、まるで後少し後少しって思っている間にお菓子を食べ尽くしちゃった時みたい。

 

「あっ、そうだ」

 

 強化魔法や飛行魔法で接近しても途中で解除されるんだったら、別の手段で近付けば良いだけじゃないの。

 最後の一個は指が食い込む程に強く握り、振りかぶっての投擲は精密性よりも速度を優先した物だから今のまま向かってもフェンリルには当たらないのは明らかで、そもそも私は最後の一個を当てる気なんて端から無いから問題無しよ。

 私の手を岩が放れた瞬間に私は駆け出し、岩を追い越すなり高く飛び上がって足元まで来た岩に着地、そのままフェンリルへと迫った瞬間、私は岩を足場にして飛び上がり、空中で岩を蹴り飛ばした。

 爪先が触れた瞬間に砕け、速度を更に上げて飛んで行くのは無数の石礫、勿論私だって着地するなりフェンリルへと飛び掛かる。

 

「貰ったっ!」

 

「ガウッ!」

 

 石礫程度じゃフェンリルは全身を打たれても少し怯む程度だけれど、私は違う。

 私に向かって振り下ろされた爪を宙で身を捻って避け、足を高々と振り上げて全力の踵落としを脳天に叩き込んだ。

 踵が毛皮を貫いて破るけれど肉には届いていない。

 私の踵落としが当たった時、フェンリルは後ろに跳んで直撃を避け、そのままグルッと回って一気に駆け出し逃げ出して、その際に着地する前の私に尻尾での殴打を私の顔に向かって放った。

 フサフサだったら良かったのに毛質は悪いボッサボサでポチの足下には及ばないし、掴もうと手を伸ばすけれど毛を一掴み引きちぎっただけで、血を流しながらも私から文字通りに尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 

「逃っがすもんですか! その毛皮を剥いでやるんだか、らっ!?」

 

 踏み込もうとした足場が急に陥没、地面の下にあった空洞に向かって足場がガラガラと崩れるから慌てて退避、そんな事をしている間にもフェンリルは走って走って豆粒みたいになっているし、今から強化して走れば追い付けるんだけれども、そうはさせて貰えないらしい。

 

「もー! 次から次に鬱陶しいわねっ! 次は一体誰なのよ!」

 

 追い掛けようとした私に向かって来るスイカ位の大きさの火球、しかもよく見れば中に頭蓋骨みたいなのが見えるし気持ち悪いと思いながら避けたら骸骨が顎をカタカタ鳴らして私を追い掛けて来た。

 これ、間違い無く誰かの魔法、それも結構上級だし、多分生徒じゃないから神獸の新手か変な刺客か分からないけれど、本当に今日だけでどれだけ新手が現れるのよ。

 

「ほっ! よっ! はっ!」

 

 火球は大体五個程度、速度は其れ程じゃないけれどバラけて襲って来るから鬱陶しいし、フェンリルは本当に遠くまで行っちゃってるから追い付けなくなるし、この魔法を使ってる奴をぶん殴って急がないと逃がしちゃう。

 私が激しく動けば火球も結構な軌道で動くし、それならば……って感じで最低限のステップで避けていれば狙い通りに固まって、私を追う動きから急に変わって散開しようとしたんだけれど、これって多分操作も可能なのね、判断が遅かったけれど。

 

「”ライトブラスター”!」

 

 突き出した手の平が光り、放たれたのは極太の光の奔流、其れが至近距離で火球全てを飲み込んで消し去った後、私は突き出した手の拳を強く握り締め、全力で地面を殴打、そして殴打、更に殴打。

 全力で、最速で殆どインパクトの時間差が起きないように殴った地面は広範囲に蜘蛛の巣状にヒビが入り、最後の一撃で崩落を開始、崩壊の轟音が響く中、私の耳に聞き慣れない声が届いた。

 

「きゃっ!?」

 

「其処っ!」

 

 私と同年代の女の子の声がした方に向け、手元に舞い上がった石を掴み全力投球、崩落する地面に巻き込まれて落ちて行く見慣れぬ女の子に吸い込まれるように向かって行った。

 気の強そうな栗毛のボブカット、手には何故かランタンを持っていて、服装からして学園の生徒じゃないのは間違い無いから攻撃しても良かったみたいね……セーフ!

 それじゃあこの女を一撃でシメて捕らえてチェルシー達の安全を確保してからと次の魔法を放つ準備をした時、石が栗毛の額に当たり、怯んだ瞬間に放とうとする。

 

 

 

 

 

「させない」

 

 って、二人目の新手っ!? もー! 今日は本当にどうなってるのよ!

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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