ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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今年最後! 来年も宜しくお願いします


閑話 その頃の才女

 ロノスがベッドの上で裸で眠るアンリに覆い被さり、その後に色々あってアンリがベッドを使って激しく暴れていた頃、遠く離れた聖王国にて幼き頃よりロノスの婚約者であったパンドラが一仕事を終えた所であった。

 将来的にクヴァイル家の政務を受け持つ事になるであろう才女の胸にはゼースから当主代行と認められた証である装飾品が魔力の輝きを見せる。

 

「さて、この辺り一帯の領地改革の草案はこの程度で良いでしょう。後は領民の努力と運だけですし」

 

 今回任されたのは困窮こそしていないものの目玉となる特産品も観光地も存在せず、周囲の領地の発展によってはジリ貧で貧困へと続くであろう領地の運営を如何にして進めるかの考案。

 この領地に多く自生する果物をどうにか有効活用出来ないかや古くから存在するが周辺に人家が存在せず祈りに行くには不便な教会等の幾つかに着目、草案を出した所で一旦終了だ。

 後は草案を元に立てられた計画を精査、再提出の指示や金銭的な物を中心とした支援を行うのみである。

 

「……ふう」

 

 季節別の人流の動向、周辺の領地の資金源、出入りする商人の取り扱う物、その他諸々のデータを分析し、現在の人材で可能な範囲の案を纏める、既にそれなりの年月を掛けてデータを集めていたとしても、彼女が実際に現地に赴いて領地経営に関わる人材や領地の文化やそれに伴う価値観等々に触れたのはほんの僅かな月日に過ぎない。

 未来の話になるが結論から言って今回の仕事は大成功、クヴァイル家傘下の家が保有するこの辺り一帯は栄える事となる。

 

「流石に今回は疲れましたが、御館様のご期待に応え、若様も私に感心なさって下さる事でしょう。……本当にこんな事になっているだなんて思いもしませんでした」

 

 椅子に体を預け、長い赤紫の髪が顔に掛かったのを指先で軽く払った彼女は天井を見上げながら呟く。

 普段は知的な顔に余裕さえ浮かべる才女も今回ばかりは疲れたらしく少々余裕が剥がれつつあるものの、とても領地一つという大勢の人間の人生を背負った仕事を達成したにしては疲れの色が薄くも感じられるだろう。

 長身の彼女が身を預けても軋む事が無い高性能の椅子に身を預ける姿は優雅であり……とても貧しい村から逃げて来た難民の少女だったとは誰も思えない程。

 

 

 幼い頃より頭が回ったが故に自分の未来に悲観し、行き着く先は乞食をするか体を売るか、それとも貧しい村では宝の持ち腐れな頭を活かして犯罪に手を染めるか、そんなのはどれも嫌だったから村を捨て国を捨て、辿り着いた先で魔王と恐れられる男に才能を見出された。

 彼に才知を披露する機会に恵まれた事は幸運だったのだろうが、それからは自らの努力と才能でのし上がって来たパンドラ、幼い頃に既に決まったロノスへの嫁入りも今に行き着く迄の課程次第では消え失せていただろう。

 だが、彼女は現にロノスとの婚約を確定し、その才能を信頼され、既に当主代行の地位までもを手に入れる程に成長した。

 その美貌で取り入った、等と陰口を叩く者はゼースの恐ろしさを知る者からは出る筈もなく、認めたくない者も彼女の能力を知れば何故自分が引き込める運命に生まれなかったのかと神を恨む事だろう。

 

「さてと……誰も覗き見はしていませんね」

 

 執務中、護衛が周囲を警戒してはいるが室外での話であり、今回の仕事で秘書のような役割を与えられているプルートも身の回りの世話役として同行したメイド長も席を外している今、室内にはパンドラ一人だ。

 それでも一応と魔法を使い、細かい砂粒を部屋中に這わして探りを入れ、大丈夫だと分かるなり引き出しに入れた小箱から古ぼけた紙の束を取り出すパンドラだが、これこそがプルート達が席を外した理由であり、仕事を終えた彼女のお決まりの楽しである。

 

 紙の束の正体は離れていた期間も交わしていた文通によりロノスから届いた手紙、その中でもお気に入りの物を取り出し、優しい手付きで慎重に開いた彼女の顔は強大な力を持つクヴァイル家を実質的に背負う事になった才女のそれから恋する乙女の熱っぽい表情へと変わっていた。

 

「若様……お慕いしています」

 

 初対面の時に既に一目惚れし、恋に恋したまま日に日に大きくなる恋心を支えたのは友人から”何時か刺される”と認識される無自覚の口説き文句を手紙で、そして会う度に受け、当初は結婚するのだから仲が良い方が得だと考えていた程度から直に惹かれた事によって徐々に熱烈な恋心へと変わって行く。

 ゼースがそんな性質を見抜いていたのかは本人にしか分からないが、依存とも受け取れる想いを膨らまし続け、ロノスへの想いが更に前に進む動機となっている。

 

「……んふ。うぁ……ん」

 

 残っている筈も無い残り香を嗅ぐように手紙に鼻を近付ける姿は第三者として本人が見たらドン引きするのは間違い無く、ロノスに関わる際の邪魔者だとして敵対心を向けるレナがやっていたならば毒の一つも吐いただろう。

 だが、今この時にそれを行っているのはパンドラであり、口から漏れるのは熱っぽい吐息であり、表情は艶めかしい物へと変わってしまっている。

 

「この手が若様の手であったならば……。仕事を終えた私を机に座らせたあの方は強引に迫り、服を少し乱暴に乱して唇を奪い、それから……」

 

 手紙を片手で持つと空いた手は指先を己の唇に優しく当てられ、目を閉じて浮かべた光景の中でロノスの唇に置き換わり、徐々に体の方へと表面をなぞりながら向かって行く。

 

 妄想の中ではやや乱暴にされたにと同じく執務机の上に横たわり、声だけを聞いたならば既に情事の真っ最中だと思われそうな声を出し、自らの胸を軽く触った……所で急に扉がノックも無しに開いた物だから慌てて飛び起きた彼女は慣れた動きで服を整えると何食わぬ顔になるのだが、息は未だ乱れているし汗も滲んでいる。

 

「何用ですか、プルート? 入室はノックをしてから許可を得て行えと指示した筈で…す……」

 

 瞬時に表情も仕事モードに戻したパンドラが苦言を呈しながら見詰める先には妙なポーズで開いた扉の廊下側に立つプルートの姿であった。

 右目の眼帯こそしてはいるが色褪せた上にボロボロだったローブはアリアに貸し出された物と同じく高価な白い物へと代わっており、黒髪は面倒な遣り取りを減らす為か結んでフードの内側に仕舞っている。

 前までの彼女は少し不気味で怪しい女だったが、今は怪しさが美しさを際立たせていた。

 

 尚、ポーズのせいで台無しである。

 

「急に予言が来まして、手が触れた勢いで偶々開けてしまいました」

 

 同じく何食わぬ顔で返答するプルートが取ったポーズは直立姿勢から片方の足を直角に曲げた上で軸足の膝に重ね、曲がった足側の腕を垂直に伸ばして手首を体側に曲げ、余った腕の肘を胸の前で曲げて横に伸ばした、そんな奇妙なポーズであった。

 

「貴女の予知能力は欠点こそあれど価値は計りしれませんが……その勝手に来た予知の際に妙なポーズを取るのはどうにかしたいものですね」

 

「どうにもなりません。既に占っていますので。あっ、それと受信したのは重要度の低い個人的な内容ですので」

 

「……それで何用ですか? 私の力が必要だから来たのでしょう?」

 

「はい、別室で頼まれた占いに集中した結果、若様と姫様の所に誰かを派遣する事になると出まして。パンドラ様が若様をオカズにして楽しんでいる最中だとは知っていましたが……」

 

「では、その旨を直ぐ様に屋敷の方に伝えて下さい。余計な事は書かないように」

 

 パンドラは思う、”この部下、引き込んだのは自分だけれど少し苦手だ”と。

 もう少し言葉に配慮が欲しかった、特に自分の行為について。

 

 尚、プルートは今感じ取った予知の内容を理由に顔には出さないがパンドラに同情の念を送っていた。

 ”この人、恋愛が絡むと途端にポンコツになるんだ。でも、願いは叶うのだから良いのでしょうか?”と。

 その予知の内容が実現する日は遠くない。

 




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アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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