ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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変わる物 変わらない物

 

「むっ? もう起きるのか。なら、昼食を共に……いや、僕はもう少しだけ眠ろう」

 

 アンリと共に眠っていたベッドから起き上がり着替えていると寝ぼけ眼の彼女から声を掛けられるけれど、毛布で胸を隠しながら起き上がったアンリは言葉の途中で寝直した。

ご飯か、確かに朝食を軽く腹に詰め込んで今は昼過ぎ、ずっと寝てはいたけど空腹を覚える時間帯だ。

 

「君、本当に寝るの好きだよね。不眠不休の訓練とか大変じゃない?」

 

「不眠不休も絶食での行軍も経験しているし平気だけれど、寝て良い時と食べて良い時は好きにする、君だってそうだろう?」

 

「それもそうか。じゃあ、僕はネーシャとリアスの所に行って来るよ。どうせリアスが寝相の悪さを発揮してベッドや床を破壊している頃だしさ。そうそう、泳ぎの練習はどうする? 男装のまま海でする予定だったけれど初日から流れたし、僕が戻ったら始めようか」

 

 まさか初日から徹夜で戦わされるだなんて予想外、体を休めて備えていたから約束の練習は出来なかった。

 あんな襲撃があった後だから外じゃなくてお風呂でやっても良いとは思うんだけれど、アンリの意見も聞かなくてはと問い掛けながら振り向けば今にも眠り出しそうな顔で考え込んだ。

 

「そうだな、君が戻ってから二人で決めれば良い事だし、今は婚約者候補を優先的に構ってやれ。ああ、でも僕の相手をする時間も忘れずにな。……うむ、この格好でこんな事を言うと不倫でもしている気分だな」

 

 裸のアンリと同じベッドで眠り、婚約者候補へと会いに行く時に自分にも構えと言われる、確かに浮気相手との一幕に見えない事もない。

 

 

「確かにそうだね。でも、僕と君の間にやましい事は無いし、やましい事になりそうな事をする時は正式に君に婚約を申し込んで受け入れられてからだ。アンリと僕は親友だけれど、仮に婚約してもその関係性は変わらずに楽しく過ごせそうだよね」

 

「……そういう所だぞ、ロノス。どうせ無意識の口説き文句を言っているのだろうな。まあ、君と僕が結婚しても関係が変わらないというのは同意だ。ははっ! いっその事、生半可な男に嫁ぐよりも君の所にお世話になろうか。っと、冗談は此処まで…で……すぅ」

 

 僕の冗談に笑って返していたアンリはスイッチでも切れたみたいに急に眠り始め、僕は今度は引き込まれないようにしながら毛布を掛け直す。

 そっか、自分で言って気が付いたけれど、それなら性別を公開したアンリと仲良くしていても変な勘ぐりを向けられないのか。

 僕は貴族、結婚、特に他国の相手との物は個人の意思だけではどうにか出来ない物なんだけれど、頭の片隅に留める位は良いかな?

 

 まっ、女の子として認識していても、惹かれている訳じゃないんだし、アンリにだって恋が芽生える相手が出るだろうしね。

 

「今は動くべき内容じゃないか互いに冗談で言ったんだしさ」

 

 って、僕だけで何を考え込んでるんだか。

 今は寝起きの頭での冗談だけれど、冷静になったら互いに恥ずかしいぞ、これは。

 

 僕とアンリの間柄だから気まずいのは僅かな間とはいえ、最近はその手の事に思考が寄っているのは普通ならば学園在籍中に相手を決めるか、入学前には既に決まっている、そんな年頃になったからだろう。

 

「何時までも子供ではいられないって事だよね。……まあ、僕に関しては今更だけれども」

 

 次期当主として表のも裏のも多くの仕事をこなし、女の子だって既に抱いているし、その程度で大人になった気なのかとあざ笑うか苦言を呈する大人は周囲に居るけれど、成長している、成長せざるを得ない時期や状況に一抹の寂しさを覚えた。

 前世の人生、平和で温かい兄弟三人での暮らしが遠い過去になり、大切な人達との関係も多かれ少なかれ変化が訪れるのだから……。

 

 

 

 そう、世の中には変わって行く物が多く……それでも変わらないのだと確信を持って言える物だって存在するんだ。

 それは家族の絆等の大切で掛け替えの無いもので……。

 

 

 

 

 

「キュイ! キュキューイ!」

 

「ポチ!?」

 

 そしてポチの可愛さだっ! 

 

 ドアを開けようとした僕の耳に届くのはポチの助けを求める声、それを聞いたなら黙っている筈もない。

 後で直すからとドアを体当たりで破壊する勢いで外に飛び出せば、僕の顔を見て安心と喜びの表情を見せるポチの何と愛くるしい姿、至高の芸術といっても過言ではないぞ!

 

「ポチ、大丈夫? どうしたのか言ってごらん」

 

「キュイ……」

 

 ”これ、取って”とうなだれながら差し出された右前脚の鉤爪には上下の殻でしっかりと挟み込む牛柄のホタテの姿。

 嘴でコツコツと叩くけれど前脚ごと突っついてしまうのが怖いらしく表面に小さなヒビが入る程度で、振り回す程度じゃ開きそうにもない殻の隙間からは肉食獣を思わせる牙を持った獰猛そうな牛の頭が此方を睨んでいる。

 

「”牛ホタテ”か、ポチの好物の一つだけれど、先に殻を砕かないと駄目じゃないか」

 

 見ての通り、身の一部が牛の頭部になったこのモンスター、凶暴な肉食のモンスターながら食材としての人気はそれなりだ。

 名前や殻の見た目はホタテだけれど、食感がコリコリした感じの貝で味は牛、僕はどの部位も貝の触感に牛の味ってのが少し受け入れられず嫌いじゃないけれど好きでもない、けれどポチはそれが気に入ったのか周囲には海から捕って来たらしい牛ホタテの殻が散乱していた。

 殻が開いている時は可愛らしく弱々しい子牛の見た目で油断させ、本性を現しシャコ貝の十倍の挟む力を発揮する時は凶暴な顔に戻る此奴を食べる時は事前に殻を砕くのが一番安全で、実際に散らばっている殻は片側が砕かれていた。

 

「キュイィ……」

 

「砕いたら細かくなりやすい上にツンッて染みる感じだから殻は嫌い、だって?    

 確かに細かくなりやすい上にワサビと同じ味だからね。好きな人は好きだけれど、ポチは嫌いだったか。うん、それでも我慢して食べていたのは偉いよ」

 

「キュイ!」

 

 痛くはなく鬱陶しい程度なのか、僕が頭を撫でている最中は挟まれている場所が気にはならないみたいだけれど、細かい殻を風で飛ばして僅かに残った部分は我慢するのを嫌がって横着した結果とはいえ可哀想だ、取ってあげよう。

 

「ほら、ジッとしててね」

 

 直ぐに殻の隙間に指を入れて力任せにこじ開ければ凶暴顔のまま驚いて呆ける牛ホタテ、それでも習性なのか子牛の顔になって媚びを売るように鳴くけれど、そんなのに騙される奴だと僕を馬鹿にしているのか、そんな風に怒るより先に上顎より上の部分をポチが一口で食べてしまう。

 そして一番好きな部分、僕も唯一好んで食べる舌を根元から千切り取ると僕に差し出して来た。

 

「くれるの?」

 

「キュイ!」

 

「そっかー! ポチは優しくって賢い最高に可愛い子でちゅね~! 帰ったら好きな物沢山食べさせてあげまちゅからね~!」

 

「キューイ!」

 

 舌を持ったままポチに抱き付きモフモフでフワフワの羽毛を存分に堪能すれば海に飛び込んだのか潮臭い感じはしたけれど、その程度じゃポチの魅力は揺るぎもしなかった。

 

 

 あ~、本当にポチの可愛さって世界一!

 

 翼が砂まみれになるのも気にせず腹を見せて寝転がるポチの腹の上で両手を広げて寝転がれば全身でその感触を感じられ、時間が経つのも忘れそうだ。

 

 

 

 

 

 

「……寒いと思ったらドアが破壊されているし、出掛けると言ってから三十分が経っているぞ。君は全く相変わらずだな。僕ならタマが相手でも二十五……二十分で中断出来るというのに」

 

 その後、アンリに凄く怒られた……反省! 但し後悔は無い!

 

 

 

 

 

 

「……ふぅん。あれが神殺しを殺す為の存在なのね」

 

 そんな僕達を遠くから観察する少女が一人、昼間なのに青白い炎が灯るランタンを掲げ、人外の視力で人間の認知可能範囲外から僕達を観察する彼女に僕もアンリも気が付いてはいなかった……。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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  • ネーシャ
  • ハティ
  • レナ
  • パンドラ
  • サマエル
  • シロノ
  • アリア

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