ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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大丈夫! 優秀な配偶者だよ

「……無意味だな。私が判を押す意味が何処に有るのだ……」

 

 アース王国の王城にて国王である”オーディ・アース”は山積みになった書類に判を押し続ける手を止め虚しそうに呟く。

 書類の内容を確認する様子も無く、ただ機械的に手を動かすだけの彼の表情からは無気力が見て取れた。

 もう少し気力に満ちていれば大勢の婦女子の視線を奪うであろう美貌は息子に受け継がれている物だと分かり、今でも彼が声を掛ければ親子ほど歳が離れた相手であっても顔を赤らめ瞬く間に恋の虜となってしまうのは予想に容易い。

 

 だが、今の彼から発せられる無気力感が全てを台無しにし、遂に動きを止めて背もたれに体重を預け始めた。

 

「どうせあの女に相談が行き、私には建前上の相談しか来ないだろうに。全く、どうせならば王座を明け渡してやりたいものだ」

 

 ブツブツと呟きながら引き出しから取り出したのは小瓶ながら同じ重さの金の数倍の値段がする酒。

 それを一国の王が執務の最中に煽り、酒に弱いのかたちまち心地良い陶酔状態に身を任せる。

 本来ならば滅亡への道を歩みそうな物であるが、この様な無様を晒す彼ではあるが愛国心は人並み以上に持っており、この程度でどうにかならないのを知って居るからこその無様なのだ。

 

 自分の愚行のせいで追い詰めてしまった先妻に代わって王妃になった今の妻への劣等感が彼を追い詰める中、国は滞り無く動き続ける。

 

 側近の一人がそっと耳打ちしたのは三本目に手を伸ばした時だった。

 

「……陛下、お耳に入れたい事が」

 

「あの女に報告しておけ。私よりも断然良い結果をもたらす」

 

「それが……陛下の娘らしき者を殿下が発見致しました」

 

 この瞬間、オーディの酔いは一瞬で醒め、執務室は慌ただしくなる。

 

 

 

 

「いや、本当に助かったよ。でも、こうして君に助けて貰えるのは運命じゃ……ひぃっ!?」

 

 何と言うか、人を助けて後悔する事もあるって教えて貰った私だけれど、まさか自分がそれを体験するだなんて思っても見なかったわ。

 スライムに囲まれて危ない所だったアイザックだけれど、そもそも皇帝の弟が初級とは言ってもダンジョンに潜るのに誰もお供しないのはおかしいし、護衛が居ないのに来る此奴の頭もおかしい。

 

 実際、凄く危ない目に遭う程度の力しかないのになにをやってるのよ。

 お兄ちゃんは此奴の国での立場の危うさとかを教えてくれて、あまり関わるなって言ってたけれど思いっきり関わっちゃったし、助けた事をペラペラ喋られたらお供の筈の連中にまで目を付けられちゃうんじゃ?

 

「……行くわよ、アリア」

 

「あっ、待って! 此処で会ったのも何かの縁だし、どうせだったら一緒に行かないかい? 僕だって役に立つからさ!」

 

「行かない。てか、アリアが怖いなら無理しなくて良いから。仲間にビクビクされてちゃ使い物にならないわ」

 

 そう、一番の理由は会話の途中でアリアに向けた怯えた態度よ。

 私がそれが気に入らないし、元々同行させる気なんて欠片も無いので、アリアの手を引き、引き止めようと必死なアイザックを置いてダンジョンの奥へとさっさと進んで行く。

 

「ま、待ってよ~!」

 

 背後から声が掛けられるけれど慌てて追い掛けて来ない所は評価してあげるわ、其処だけだけれど。

 

「えっと、大丈夫でしょうか?」

 

「危ない目に遭ったばかりだし、もう一人で奥に進もうとはしないでしょ。帰る位は出来るでしょうしね」

 

「はぁ……」

 

「分かっては居たんだけれど、此処まで手応えが無いのって爽快感を通り越して気持ち悪いわね」

 

 腕を軽く突き出し足を軽く振るうだけでモンスター達は布切れみたいに吹き飛んで、魔法を使えば一瞬で消滅する。

 こんな風に弱い相手に大暴れしていても楽しいのは最初なだけで、後は作業的にすら感じない。

 

「リアスさんは強いですからね。えっと、此処が決闘の場所ですよね? 思ったよりも早く着いちゃいました」

 

「今日は明日に備えての下見程度だったし、さっさと帰って昨日みたいに買い物でもしてカフェで一休みする? あのヘタレのせいで途中から気分が悪かったし」

 

 立ちふさがるモンスターは一切の障害にならないし、道しるべと地図で迷う筈が無いダンジョンじゃ最下層まで到着するのに時間なんか掛からない。

 決闘に使う開けた場所まで来た後は壁や床を殴りつけて強度を調べれば用済みだし、雑魚を倒しても強くなれないから居るだけ無駄なのよね。

 

「にしてもアリアも大変よね。あんな眼鏡に絡まれたり、あのマザコンの言う事だってよくよく考えたら実物を見比べた訳じゃ無いってのに人騒がせな奴だわ」

 

「……あっ! た、確かに殿下は私の首飾りを見て”母親に贈られた物と同じだからお前の母親は父親の愛人だ”って事を言っただけで、詳しい調査さえしていませんよね。……良かったぁ」

 

 ……本当は正解なんだけれど、決闘前に気にして気もそぞろじゃ怪我しちゃうものね。

 でも、実際どうだったのかしら?

 

 ゲームでは首飾りを調べた王が間違い無いって言っていたけれど、後から王妃の為に作らせた同じデザインのだってあくまで記憶に頼った結果だし、DNAを調べれる技術だって無いんだしさ。

 

 その辺、ゲームではぼかしていた。

 だって王子が相手の場合、腹違いの兄妹で駆け落ちする事になるんだもの。

 

「まあ、わざわざ王様が調べるって事もしないでしょう。王子に勘違いだ何だって言い含めてさ。だって余計な火種になるだけだもの。……よし! 面倒な事は忘れて楽しい話題に移りましょうか。決闘で勝ったらお兄様からご褒美が貰えるんでしょう? 何か希望が有るの?」

 

 良いわよね、私なんて自業自得ちはいえレナから小言食らったってのに。

 

「は、はい。でも、ちょっと口に出すのは恥ずかしくって……」

 

 あら? 急に照れてモジモジし始めたわね。

 最後の方なんてゴニョゴニョと言いにくそうにしているアリアが希望する物は何なのか、どうせ叶えて貰った後からお兄ちゃんに教えて貰えば分かるんだけれど気になってしょうがない私は聞き出す事にした。

 

「良いじゃないの、教えてよ」

 

「あの、その、変な意味は無いんですよ? 本当に……。私、一度で良いから……デ、デ……」

 

「デ?」

 

「途中までで良いのでデートがしてみたいんです! お母さんが読んでいた恋愛小説で憧れて……」

 

「……はい?」

 

 いや、この前だってお兄ちゃんに送って貰ってたし、其処まで照れる事なのかしらと思う。

 確かにアリアは純情だから照れるのは何となく分かるけれど、ちょっとお子様過ぎない?

 その癖背が小さくて痩せているのに胸だけは大きいのに。

 

 にしてもデートだから手を繋いだ状態で一緒に歩いて買い物して最後にご飯食べる程度よね?

 

「まあ、デートしてみたいってのは分かったけれど、どうして途中? 別に最後までで良いじゃないの」

 

「最後までっ!? 無理無理無理無理っ!?」

 

 一緒に食事するのが恥ずかしい……って事は無いか。

 ああ、どうせ恋愛小説の読み過ぎで最後はキスするとでも思っているのね。

 

 やれやれ、その誤解を口にしたら訂正してあげましょう。

 だって私は前世で読んだ少年マンガで色々と学んでるから恋愛方面の知識は下手な奴より豊富よ。

 

 少女マンガ? 過激だからって読ませて貰ってない。

 

 

「だ、だって私とロノスさんはお会いしたばかりですし、それなのに抱いて欲しいだなんてっ!?」

 

「はい? ちょっと詳しく話しなさい」

 

「え? だってデートの最後は男性のお部屋に言った後、ベッドの上でキ、キ、キスをしてから服を脱がして貰って、それから……」

 

「落ち着きなさい、アリア。それ、恋愛小説と違う。それ、多分官能小説」

 

 純情と思っていたら私よりも耳年増だった。

 謎の敗北感……。

 

 

「取り敢えず一緒に買い物でもして食事でもして、それで終わり程度だから。キスだって普通は恋人同士になってからよ」

 

「えぇっ!?」

 

 ……誰か教えてあげないと駄目ね、この世間知らずに。

 取り敢えず普通の恋愛小説でも貸してあげないと駄目だ……。

 

 

 

 

「あれ? ちょっと思ったんだけれど、お兄様とベッドでイチャイチャする事自体は嫌じゃないって口振りだったわよね?」

 

「ひゃわっ!?」

 

 うん、知識が無駄にあるだけで、アリアが純情なのには変わりないわね。

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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