ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
船乗りの仕事は過酷であり、どれほど熟練の船乗りでさえも呆気なく死を迎える時がある。
大海原で迷えば水や食料が尽きて死に、嵐にあって船が沈めば死に、海に落ちて仲間に助けられる前に鮫やモンスターの餌食になり、甲板で働いている時に鳥のモンスターに浚われて、病気になっても受けられる治療には限りがある。
遭難、沈没、モンスター、海賊、船乗りが恐れる物は数多くあれど、それでも海を愛し海で生涯を終えようとする彼等の肉体と心は逞しく、結束は強い。
海賊でさえ何かを決める時には船長も同じ立場になっての多数決で決める程だ、軟弱なままでは生きて行けず、脆い結束では立ちふさがる壁に当たって砕け散って終わりだ。
それでも海を愛し、その程度の事は承知の助だと笑い飛ばしてこそ海の男なのだろう。
そんな船乗りが口を揃えて”恐ろしい”と言うのは人魚だった
「なあ、聞いたか? この前寄った港の網元の息子が人魚に食われたってよ」
「ああ、聞いたぜ。何でも嵐にあって溺れている所を助けられたらしいな。その時に怪我をして遠くの住処に戻れなくなった人魚を匿っている内に……馬鹿が。義理だの何だのは捨てちゃならねぇ、匿うのは別に良いが、人魚との恋だけは御法度だろうがよ」
今も商船の甲板で掃除を終えた船乗り達が立ち話をしているが、人魚の話題になった途端に顔を曇らせる。
人魚は契った相手を食らうという本能を持っているのを知っていても、分かり合える頭と心、共通の言語を持っている事から心を通わせ愛を育むケースは珍しくはなかった。
その者の中には海に生きる船乗りの割合が必然的に多くなり、この二人も人魚と会った事があり、本能さえ無ければ見栄麗しい人魚達に恋をしていただろうと認めているのだ。
「テメェが勝手に死ぬと分かって死ぬのは結構だ。だがな、親とダチと惚れた女を泣かせるのは救えない馬鹿だろうがよ」
自分達ならば本能を乗り越えられる、自分達の愛は誰にも負けない、そんな風に思い上がった結果、人魚は我に返った瞬間に愛した男の亡骸を食らっている事を自覚するのだ。
そのまま悲しみの余りに自死を選ぶ事が無いのは人魚の妊娠確率の高さから、男の種に問題でも無い限りは愛の結晶をその身に宿す。
今までの恋人達の愛が自らの愛に劣るというのは思い上がりだと、本当に愛するのなら一線だけは越えずに側に居続けるべきだったと、死んだ男に怒りを覚えた時だ、潮風に混じって歌声が聞こえたのは。
「不味いっ! 鼻を潰して耳を塞げ!」
二人の男の年上の方は叫ぶなり自ら鼻が折れる威力の拳を叩き込み、即座に耳を両手で塞ぐ。
その歌は心地良く、まるで幼き日に揺りかごの中で聞いた母の子守歌の如く心に染み渡り、このまま身を任せていたいという誘惑が心の底から湧き上がる。
その匂いは甘く、まるで水飴に似た粘度を持っているかの様に纏わり付いて離れない。
それでも不愉快さは無く、歌と合わさって思考を放棄させる程に心を蕩けさせた。
母から与えられる安らぎの如き心地良い歌、愛しい相手との睦言を思わせる甘い香り、その二つが男達の乗る船に届いた時、潮の流れもゆっくりと変わり、風が止んだにも関わらず船は進む。
より強く歌と匂いを感じたいとばかりにフラフラとした足取りで次々に船員達が甲板に現れ、互いにぶつかって転んだ後も起き上がる様子も見せず、酩酊状態の様にヘラヘラとだらしない笑みを浮かべながら四肢を投げ出すばかり。
「何やってやがるんだ、馬鹿共っ!」
響く怒声、それに僅かに遅れて座り込んだ男の顎を蹴り抜いた音が甲板に響き渡る。
蹴ったのは歌と匂いに最初に気が付いて鼻を潰し耳を塞いだ年配の男だ。
「おい、片っ端からぶっ飛ばせ!」
耳を塞いだ状態の彼は鼻血も気にせず、蹴りを叩き込んだ仲間が先程までとは別の理由で四肢を投げ出しているのも構わず次々に他の仲間も抵抗が無いのを良い事に蹴り上げていた。
耳を塞いでも歌や同じく耳を塞いだ仲間に向けた叫び声を完全に遮断出来る訳は無く、聞こえにくさは有るものの指示に従った仲間と共に彼は甲板の仲間を片っ端から気絶させたかと思うと足の先で一人が腰に携えたナイフに視線を向ける。
もう一人も同じ動作を行い、次の瞬間には口を使ってナイフを引き抜くと片刃の峰の部分を咥えるなり自らの腕を傷付いた。
「ぐっ!」
決して浅くはなく、当然ながら血が流れ出し、眠っている状態なら一瞬で覚醒するであろう痛みに声を漏らしながらも転がった仲間を置いて半開きの扉から船の中へと駆け込んで行った。
二人が船内に入った後も船は潮の流れに導かれながら進み、やがて霧が周囲に立ち込め始める。
船が向かう先は鋭い先端を覗かせた岩場がある地点、普段ならば海図に記された危険地帯として避ける場所でも船は現在ご覧の有り様、このまま船底に大穴が開いて沈没するのみ。
そして歌と匂いは岩場を挟んで反対側の辺りから響き漂って来ていた。
「ふふふふふ」
「あはははは」
「素敵な殿方の気配がするわ。さぞかし鍛え上げているのでしょうね」
歌に混じって聞こえたのは愛しい恋人との逢瀬を待ち望む少女を思わせる恍惚と期待を含んだ表情を浮かべる人魚達……ウンディーネ族だ。
交わった相手を食し、その存在を取り込んで己の力を増す事で愛しい相手と生涯を共にする、それが彼女達の間に伝わる教え、この人魚達にとって今まさに向かって来る船を沈めるのは社交界で素敵な相手との出会いを待ちわびる事と似ている。
「さあ、歌を続けましょう! 次世代の子供達を宿す為に、愛しき伴侶を見付ける為に……セイレーン族を滅ぼす為に。愛しい男達を私達の下まで誘うのです」
年若き人魚達の中心に陣取ったのは高貴さを感じさせる凛とした顔付きの人魚の少女、中には彼女よりも年上らしき人魚も居るが指示される事に不平不満を感じさせずに一層大きな声で美しい歌を響かせる。
……人魚の歌には魔力が籠もり、妖精の歌が歌い手にとって聞かせたい相手に癒しをもたらし花を周囲に咲かせる様に、男と交わり子を成す為に広範囲に魅了効果を持った声と甘い匂いを届けるのだ。
長く聞けば聞く程、近ければ近い程に歌声と匂いによって心と頭を支配され、死への恐怖すら忘れて人魚達の虜となってしまう。
これこそが人魚が恐れられる理由、主に水を操る魔法を得意とする彼女達に一度魅入ってしまえば夢見心地のまま生涯を終えるのだ。
……だが、人は恐怖を乗り越えようとする物、恐怖への対処法を見出そうとする物だ。
歌声を聞いてしまえば終わりなら、何故それが伝わっているのか、その疑問の答えは諸説有り、偶々条件を満たした者の証言、人魚自ら教えてくれた等々確証を持って真実と言える物は無くも対処法が真実だとは語り継がれていた。
「さっさと馬鹿共を運べ、ビヤード! 俺は舵を切る!」
「了解だ、レック!」
年輩の男、レックの指示に従った男、ビヤードは次々に転がった仲間を船内にまで運ぶなり鼻を拳で潰し、耳に紙屑で作った耳栓をねじ込んで行く。
二人の耳にも同じ物がねじ込まれ、それによって両手が空いているのだ。
耳を塞ぐ、匂いを防ぐ、完全には遮断出来なくても”遮断している”という条件を満たすか、二人が準備の前にしたように強い痛みで一時的に気を紛らわしている間、人魚達の歌の魔力は届かない。
人魚の持つ固有の特殊な魔法なだけに防ぐ方法も特殊であった。
「根性入れろ! 絶対に生きて・・・・・・」
帰るぞ、その言葉は突如響いた轟音によって掻き消され、レックの目の前でメインマストが根本からへし折られた状態で持ち上げられていた。
「残念だったな。貴様達の航海は今この時を持って終わる。ハティ・フェンリル、我が名を死出の旅路の土産に聞かせてやろう」
鋭い犬歯を覗かせながらの笑みの後、マストは天高く放り投げられて、舟に深々と突き刺さり、衝撃で大きく揺れた後、舟は浸水によって沈み始め、気を失った船乗り達を海が飲み込んで行った。
「・・・・・・ほぅ、来たか」
海に投げ出された船乗り達に人魚が殺到する中、海の上に素足で立つハティは嬉しそうに彼方を見詰め、獰猛な光を瞳に宿らせたハティが腕を振り抜いた瞬間、五本の爪痕が海を切り裂きながら向かった先、そこに居たのは・・・・・・。
感想・・・下さい
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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