ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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物じゃない、者だ

「キューイ!」

 

 甲高いポチの鳴き声と共に僕達を風の膜が包み込む。

 吹き続ける風が海に近付くに連れて強くなる人魚の歌の力はこれで完全に避けられ、ポチにとっては手招きの音にしかなっていなかった。

 

「キュ……キュイ?」

 

「食べちゃ駄目だって。人魚は扱いとしては人間でもモンスターでもないけれど、それは本能で人間を食べるからだからね」

 

 上半身は人間な相手を攻撃するなら良いし、野生のグリフォンが人間を浚って食べるって被害は実際に出ているけれど、だからこそポチには人間の姿をした相手を食べるのは基本的に禁止している。

 それは人間の生活圏内で人間と一緒に生きる上で必要な事だからね。

 

「キュイ!」

 

「うん、良い子だね、ポチは」

 

 ちゃんと躾はしているし元々賢い子だ、渋ったり食べられない理由を尋ねる事も無く飛び続け、出発から数分で沖の方で沈没寸前の船が見える所までやって来た。

 船は操作されている様子も無いのに先端が尖った岩の小島へと吸い寄せられて激突しそうだけれど、甲板では耳と鼻を塞ぐのが間に合ったのか二人無事に動き回っている人達の姿があって、僕は人魚を止めるべく小島を挟んだ反対側の海面で歌っている人魚達の所に急ごうとした時だ、雲の上から飛び降りた銀髪の少女が甲板に降り立ったのは。

 

「人間……じゃないな。神獣か。ポチ、船まで連れて行って!」

 

「キュイィイイイイイイイイッ!!」

 

 僕の指示と同時にポチは高速の垂直下降、海面ギリギリで体勢を変えると海を割りながら船に向かって突き進む。

 少女はマストを根元からへし折ると真上に放り投げ、落ちて来たマストが船に突き刺さった。

 船が激しく揺れて二つに割れ始め、投げ出された船乗りに人魚が殺到する。

 

「僕は女を片付けるから、ポチは人魚から船乗り達を守って……っと、大人しく目論見通りにはさせてはくれないか」

 

 遠く離れた彼女と目が合い、まるで何かを引っかく様な動作を行った時だ……海底まで届く程に深い五本の爪痕が海に刻み込まれ、威力を落とす事無く巨大な爪の一撃は僕達にまで到達する。

 

「……キュッ!?」

 

 翼を折り畳んで咄嗟に爪と爪の間に入り込んだポチが上げた驚きの声、周囲を渦巻く風の一部を爪痕が通過した瞬間に霧散したからだ。

 風を操る? 今のも腕を振るって放つ巨大な風の刃なのか?

 

「いや、違うな。ポチ、風の膜を更に広げて。それで軌道が読めるから」

 

 波間を漂う船の残骸の上に体重なんて無いとばかりに平然と立つ少女は目を鋭く輝かせながら両腕を左右に大きく広げ、そして振るう。

 さっきのはほぼ垂直に振るわれた五本の爪による攻撃は子供が腕を振り回すような無茶苦茶な動きで向きも何もかも考えず、兎に角放つ事だけを考えて放たれ続けた。

 

「キュッ! キュッ! キューイ!」

 

「うん、矢っ張りね。あの姿の理由は分からないけれど……彼奴の正体と能力は大体分かった」

 

 最初の一撃を簡単に避けられたのは海に爪痕を刻みながら向かって来たかけれど、今は目測でどの様に向かって来ているのか判断する指標が足りない時もある。

 向きも爪と爪の間もバラバラ、くぐった先で次のと正面からご対面って事も。

 

 でもまあ、それなら別の探知方法を使えば良いだけだ。

 

「あの女の子の爪による攻撃、魔力を霧散させているんだ。……普段から使っているだけに凶悪だと分かるよ」

 

 生乾きの塗料で描かれた絵を引っかいたら爪が通った場所は剥がれる様に魔力が魔法の形を保てなくなっている。

 普段は僕が魔法の時間を戻して発動前の魔力にしているからこそ一度で判断出来たんだ。

 

 触れた部分の魔力を霧散させるなら、常時広範囲に張り続ければ目視が難しい攻撃の軌道を向こうから教えてくれるってね。

 ・・・・・・まあ、咆哮で前方の魔法を消し去ったらしいし完全では無いけれど。

 

「くっ、ははは、はっはっはっはっはっ! 良いな! 良いぞ! 最高だなお前達!」

 

 爪による攻撃は巨大化しながら飛び続けるけれど、それは同時に隙間も大きくなるって事で、近付けば当然の如く攻撃範囲は狭まる。

 もう彼女が腕を振るって爪の一撃を放とうとも、ポチの速度なら僅かに上下左右に移動すれば避けられる距離まで近付いた時、愉快そうな大笑いの声を響かせながらフェンリルらしい少女は腹を抱えての大爆笑、遂にその場で座り込んで腹を抱えた。

 

「随分と余裕だね、君は」

 

「いや、そうでもないさ。我は強いが貴様も強い、そうだろう? だからこそ・・・・・・楽しい!」

 

 彼女が大きく足を振り上げた瞬間、雲が切り裂かれた。

 元がフェンリルならさっきから振るっているのは手じゃなく前足、ならば後ろ足だった足でも爪による攻撃は可能だろう。

 

 

「ちっ! 読まれていたか」

 

「まあ、当然ね」

 

 その程度、勿論考慮している。

 僕達に向かって足を振るった瞬間、既に崩壊した舟は時間を戻して彼女の位置を変えていたんだ。

 

 崩壊前に戻った舟の甲板の上、起き上がった彼女は舌打ちをしながらも鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌の表情で僕とポチが正面に現れるのを待っていた。

 ご大層な事に腕組みまでしちゃって、やっぱり余裕じゃないか。

 

 

「キュイ?」

 

 そんな中、ポチは短く”良いの?”と聞いて来る。

 視線は前方を向いたままだけれど何がかは分かっているさ。

 

「うんうん、ポチは優しい子だね。でも、船員達は大丈夫さ。ほら・・・・・・頼もしい助けが来ているからさ」

 

 遥か後方、振り返らなくてもあの子が来ているのは分かっている。

 此処に来てしまった僕が言えないけれど、先生が止めようとしても話をちゃんと聞かずに来ちゃったんだろうな。

 最初はポチに救助に行ってもらう気だったけれど、リアスが来たなら大丈夫、僕は目の前の敵に集中するのみ。

 

 うん? 何かを投げた気配が・・・・・・。

 

「止めて止めて止めてぇええええええええええっ!?」

 

「ツクシッ!?」

 

 何かじゃなくって誰かだったって言うか、ウチのメイドのツクシを投げたっ!?

 

「つれないな。今は我の相手をしてくれるか?」

 

 高速で飛来するツクシの絶叫に意識を割いてしまった瞬間に彼女は僕の目前まで跳躍し両手での貫き手を至近距離から放った。

 当然爪先から魔法を消し去る力を込めた物が放たれる。

 僕の時間停止した物体による防御はあくまでも魔法の範囲、純粋な魔力による中和は効くし、多分この攻撃も有効だ。

 後ろも左右も退避は間に合わず、防ぐのも無理な命を刈り取る一撃に対し、僕はポチの背中から飛び出して相手の懐に飛び込んだ。

 

 頬を放たれた直後の爪痕が僅かに掠り血が出るが怯む程じゃない。

 

「捕まえた」

 

 右手の手首を掴み、左手は停止させた空気の鎖を使っての拘束、片腕に全力を注いで無効化される迄の時間を稼ぐ。

 これで両腕は封じ、僕の腕は一本残っている。

 だけれど相手も至近距離で咆哮を叩き込む気なのか大きく息を吸い込み、鳩落に僕の膝蹴りが叩き込まれて強制的に吐き出させた。

 

「ぬぐっ!?」

 

 相手の見た目は女の子、それが苦悶の表情を浮かべた事に迷いは生じない、僕の手は既に血で染まっているし、これからも自他の手を染めさせる。

 

 

 だから容赦は一切無しだ。

 

 首を掴んだまま甲板の板が激しく割れる威力で背中から叩き付ける。

 両腕を拘束し受け身を取れない状態での一撃、これには神獣であっても効いたのか抵抗する力が鈍り、首から手を離すなり顔面に握り拳を全力で振り下ろせば完全に床が抜けて落ちて行くけれど、咄嗟に飛び退けば真下から放たれた咆哮によって甲板の大部分が吹き飛んでしまった。

 

 

 

「・・・・・・うん、決めたよ」

 

 船内から飛び出して来た彼女は非常に嬉しそうにしながら呟く。

 口の中を切ったのか血が垂れ、服だって所々が危うい感じになっているのに気にもせず、僕の方に指先を向けた。

 

 

 

 

「我の名はハティ・スコル。”神殺し殺し”ロノス、我が下僕になれ」

 

 何かまーた面倒な相手に気に入られた気がするなあ、うわぁ・・・・・・。

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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